はじめに
歯科医師による在宅医療に対し,いまだ奇異な印象を抱く方がいるかもしれません.歯科診療は歯科医院で行うもの,在宅医療とは無縁であると捉えられがちですが,超高齢社会の到来により,高齢者における歯科医療ニーズは急速に増大しています.誤嚥性肺炎の予防において,歯科医師や歯科衛生士による専門的口腔ケアが不可欠であることは,確立されたエビデンスが証明しています.近年では,オーラルフレイルやサルコペニアの予防においても口腔衛生の重要性が再認識され,口腔の衛生状態と認知症との関連性も指摘されています.健康寿命の延伸が喫緊の課題である超高齢社会において,歯科が果たすべき役割は増大の一途を辿っています.
しかしながら,高齢者歯科医療の重要性が高まる一方で,高齢者の歯科医療へのアクセスは依然として十分とはいえません.実際,高齢になるほど医科受診が増加するのに対し,歯科外来患者の年齢ピークは75 歳前後であり,それ以降は著しく減少する傾向にあります.これは,歯科医療を必要とする超高齢者層に,通院困難な患者が潜在的に存在することを示唆しています.
もっとも,在宅医療を必要とする高齢者は,生物学的,心理的,社会的に複雑な問題を複合的に抱えている場合が多く,口腔内のみに着目した診療では十分とはいえません.ここに本書を刊行する意義があります.本書は,歯科領域における摂食嚥下療法の第一人者であり,在宅嚥下内視鏡普及の先駆者である戸原 玄先生と,総合診療医である森川の共同編集です.戸原先生は,摂食嚥下にとどまらず,広範な医学知識と,患者を全人的かつ総合的に診療する卓越した視点をお持ちです.本書は,まさにそのような全人的な在宅歯科医療に不可欠な実践的マニュアルです.
本書の特筆すべき点は,医科と歯科の専門家による学際的な対話です.総合診療医が歯科医師のために老年医学や総合診療の重要事項を執筆するのみならず,歯科からの質問に丁寧に回答しています.さらに,戸原先生をはじめとする歯科の先生方も,長年の臨床経験に基づいた在宅歯科医療の実践的エッセンスを余すことなく伝授しています.
本書は,在宅歯科医療に従事する歯科医師はもとより,医師,看護師など,在宅医療に携わる全ての医療従事者にとって有益な内容です.本書が,日本の医科歯科連携,多職種連携を力強く推進する一助となることを確信しております.
お水取りを待つ奈良にて
森川 暢
歯科医師による在宅医療に対し,いまだ奇異な印象を抱く方がいるかもしれません.歯科診療は歯科医院で行うもの,在宅医療とは無縁であると捉えられがちですが,超高齢社会の到来により,高齢者における歯科医療ニーズは急速に増大しています.誤嚥性肺炎の予防において,歯科医師や歯科衛生士による専門的口腔ケアが不可欠であることは,確立されたエビデンスが証明しています.近年では,オーラルフレイルやサルコペニアの予防においても口腔衛生の重要性が再認識され,口腔の衛生状態と認知症との関連性も指摘されています.健康寿命の延伸が喫緊の課題である超高齢社会において,歯科が果たすべき役割は増大の一途を辿っています.
しかしながら,高齢者歯科医療の重要性が高まる一方で,高齢者の歯科医療へのアクセスは依然として十分とはいえません.実際,高齢になるほど医科受診が増加するのに対し,歯科外来患者の年齢ピークは75 歳前後であり,それ以降は著しく減少する傾向にあります.これは,歯科医療を必要とする超高齢者層に,通院困難な患者が潜在的に存在することを示唆しています.
もっとも,在宅医療を必要とする高齢者は,生物学的,心理的,社会的に複雑な問題を複合的に抱えている場合が多く,口腔内のみに着目した診療では十分とはいえません.ここに本書を刊行する意義があります.本書は,歯科領域における摂食嚥下療法の第一人者であり,在宅嚥下内視鏡普及の先駆者である戸原 玄先生と,総合診療医である森川の共同編集です.戸原先生は,摂食嚥下にとどまらず,広範な医学知識と,患者を全人的かつ総合的に診療する卓越した視点をお持ちです.本書は,まさにそのような全人的な在宅歯科医療に不可欠な実践的マニュアルです.
本書の特筆すべき点は,医科と歯科の専門家による学際的な対話です.総合診療医が歯科医師のために老年医学や総合診療の重要事項を執筆するのみならず,歯科からの質問に丁寧に回答しています.さらに,戸原先生をはじめとする歯科の先生方も,長年の臨床経験に基づいた在宅歯科医療の実践的エッセンスを余すことなく伝授しています.
本書は,在宅歯科医療に従事する歯科医師はもとより,医師,看護師など,在宅医療に携わる全ての医療従事者にとって有益な内容です.本書が,日本の医科歯科連携,多職種連携を力強く推進する一助となることを確信しております.
お水取りを待つ奈良にて
森川 暢
1部 在宅医療への理解と多職種連携の進めかた
[M]在宅医療総論―総合診療の視点から(荒 隆紀)
[D]在宅医療総論―歯科の視点から(戸原 玄)
[M]生物・心理・社会モデル(BPSモデル)(森川 暢)
[M]診療情報提供書(宮上泰樹)
[D]診療情報提供書から考える歯科治療の方向性(中根綾子)
[M]家族へのアプローチ(家族志向のケア)(藤谷直明)
[D]家族へのアプローチ(家族志向のケア)―歯科の視点から(中川量晴)
[M]多職種連携/医科歯科連携(横田雄也)
[D]歯科としてだれに何を伝えるか(萩野礼子)
[M]地域包括ケアシステム(小坂文昭)
[D]歯科が参加した地域包括ケアシステム事例(荻野礼子)
[M]在宅医療の原則と地域資源(森川 暢)
2部 高齢者の身体と生活の診かた
[M]高齢者総合機能評価(CGA)(小川まゆ)
[M]病歴・身体診察(宮上泰樹)
[D]歯科だからこそ気づきたい患者の生活機能・病歴・身体診察(中根綾子)
[M]バイタルサインとすぐに介入が必要な病態(仲西雄大)
[M]polypharmacyと薬剤性副作用による口腔機能低下(内田卓郎)
[M]認知症(水谷 肇)
[D]認知症と口腔内の状況-歯科の介入にはどれだけの効果があるか(若杉葉子)
[M]ICFにもとづいたリハビリアセスメント(森川 暢)
[D]リハビリテーションの観点から見た歯科治療の役割―在宅高齢者の生活への影響を考える(若杉葉子)
[M]転倒への対応(森川 暢)
[D]転倒による骨折と口腔状態の関連性(吉住 結)
[M]高齢者における視力低下・聴力低下への対応(森川 暢)
[D]視力・聴力が低下した患者への「伝え方」-歯科治療を進めるコツ(吉見佳那子)
[M]せん妄への対応(森川 暢)
[M]サルコペニアとリハビリテーション栄養(森川 暢)
[D]口腔とフレイル・サルコペニアの関係-歯科治療の意義とは(吉見佳那子)
[M]嚥下機能障害への対応(上羽瑠美)
[D]在宅歯科医療における補綴物の使いかた(萩野礼子)
[M]高齢者の食欲低下と低栄養(森川 暢)
[D]食欲と口腔汚染の関連性(野本亜希子)
3部 高齢者の病気の診かた
[M]褥瘡(森川 暢)
[D]歯科も患者の皮膚に注目しよう!-皮膚の状態からわかること(田頭いとゑ)
[M]誤嚥性肺炎(森川 暢)
[M]糖尿病(森川 暢)
[D]歯周治療の意義―歯周病の治療はどのような影響があるか(古屋純一・松原ちあき)
[M]抗血小板薬・抗凝固薬の注意点(森田貴英・森川 暢)
[M]発熱対応(森川 暢)
[M]神経疾患(森川 暢)
[M]心不全(森川 暢)
[M]慢性呼吸不全(入山大希)
[M]慢性腎臓病(CKD)(有川茉莉)
[M]感染症診療の基本原則と歯科感染症(古坂聖子)
[M]在宅での感染症対策(辻本絵美)
[M]歯科処置に関連した予防的抗菌薬(上村公介)
4部 在宅医療での各種医学的処置への理解
[M]経鼻胃管・胃瘻・中心静脈栄養(森川 暢)
[D]経管栄養中の口腔内について―食べていないからといって口が汚れないわけではない(田頭いとゑ)
[M]酸素療法・人工呼吸(森川 暢)
[M]脱水と輸液(森川 暢)
[M]在宅で可能な検査(粂田哲平)
[D]在宅患者に対する歯科の検査(吉田早織)
[M]小児在宅医療(児玉崇志)
[D]小児在宅医療患者へ歯科のできること(山口浩平)
5部 緩和医療学への理解
[M]緩和ケア総論(森川 暢)
[D]歯科からの緩和への貢献-なにができるか,なにをやるべきか(尾崎研一郎)
[M]Illness Trajectory(岡村知直)
[M]アドバンスケアプランニング(ACP)と意思決定支援(島 直子)
[M]緩和期における痛みへの対応(森川 暢)
[M]呼吸困難への対応(森川 暢)
[D]在宅歯科医療における歯列不正への対応-マウスピースの活用などについて(山口浩平)
[M]不眠への対応(森川 暢)
[M]終末期の輸液(森川 暢)
[M]予後予測スコアについて(吉村優里・森川 暢)
[M]=医師による執筆記事/[D]=歯科医師による執筆記事
[M]在宅医療総論―総合診療の視点から(荒 隆紀)
[D]在宅医療総論―歯科の視点から(戸原 玄)
[M]生物・心理・社会モデル(BPSモデル)(森川 暢)
[M]診療情報提供書(宮上泰樹)
[D]診療情報提供書から考える歯科治療の方向性(中根綾子)
[M]家族へのアプローチ(家族志向のケア)(藤谷直明)
[D]家族へのアプローチ(家族志向のケア)―歯科の視点から(中川量晴)
[M]多職種連携/医科歯科連携(横田雄也)
[D]歯科としてだれに何を伝えるか(萩野礼子)
[M]地域包括ケアシステム(小坂文昭)
[D]歯科が参加した地域包括ケアシステム事例(荻野礼子)
[M]在宅医療の原則と地域資源(森川 暢)
2部 高齢者の身体と生活の診かた
[M]高齢者総合機能評価(CGA)(小川まゆ)
[M]病歴・身体診察(宮上泰樹)
[D]歯科だからこそ気づきたい患者の生活機能・病歴・身体診察(中根綾子)
[M]バイタルサインとすぐに介入が必要な病態(仲西雄大)
[M]polypharmacyと薬剤性副作用による口腔機能低下(内田卓郎)
[M]認知症(水谷 肇)
[D]認知症と口腔内の状況-歯科の介入にはどれだけの効果があるか(若杉葉子)
[M]ICFにもとづいたリハビリアセスメント(森川 暢)
[D]リハビリテーションの観点から見た歯科治療の役割―在宅高齢者の生活への影響を考える(若杉葉子)
[M]転倒への対応(森川 暢)
[D]転倒による骨折と口腔状態の関連性(吉住 結)
[M]高齢者における視力低下・聴力低下への対応(森川 暢)
[D]視力・聴力が低下した患者への「伝え方」-歯科治療を進めるコツ(吉見佳那子)
[M]せん妄への対応(森川 暢)
[M]サルコペニアとリハビリテーション栄養(森川 暢)
[D]口腔とフレイル・サルコペニアの関係-歯科治療の意義とは(吉見佳那子)
[M]嚥下機能障害への対応(上羽瑠美)
[D]在宅歯科医療における補綴物の使いかた(萩野礼子)
[M]高齢者の食欲低下と低栄養(森川 暢)
[D]食欲と口腔汚染の関連性(野本亜希子)
3部 高齢者の病気の診かた
[M]褥瘡(森川 暢)
[D]歯科も患者の皮膚に注目しよう!-皮膚の状態からわかること(田頭いとゑ)
[M]誤嚥性肺炎(森川 暢)
[M]糖尿病(森川 暢)
[D]歯周治療の意義―歯周病の治療はどのような影響があるか(古屋純一・松原ちあき)
[M]抗血小板薬・抗凝固薬の注意点(森田貴英・森川 暢)
[M]発熱対応(森川 暢)
[M]神経疾患(森川 暢)
[M]心不全(森川 暢)
[M]慢性呼吸不全(入山大希)
[M]慢性腎臓病(CKD)(有川茉莉)
[M]感染症診療の基本原則と歯科感染症(古坂聖子)
[M]在宅での感染症対策(辻本絵美)
[M]歯科処置に関連した予防的抗菌薬(上村公介)
4部 在宅医療での各種医学的処置への理解
[M]経鼻胃管・胃瘻・中心静脈栄養(森川 暢)
[D]経管栄養中の口腔内について―食べていないからといって口が汚れないわけではない(田頭いとゑ)
[M]酸素療法・人工呼吸(森川 暢)
[M]脱水と輸液(森川 暢)
[M]在宅で可能な検査(粂田哲平)
[D]在宅患者に対する歯科の検査(吉田早織)
[M]小児在宅医療(児玉崇志)
[D]小児在宅医療患者へ歯科のできること(山口浩平)
5部 緩和医療学への理解
[M]緩和ケア総論(森川 暢)
[D]歯科からの緩和への貢献-なにができるか,なにをやるべきか(尾崎研一郎)
[M]Illness Trajectory(岡村知直)
[M]アドバンスケアプランニング(ACP)と意思決定支援(島 直子)
[M]緩和期における痛みへの対応(森川 暢)
[M]呼吸困難への対応(森川 暢)
[D]在宅歯科医療における歯列不正への対応-マウスピースの活用などについて(山口浩平)
[M]不眠への対応(森川 暢)
[M]終末期の輸液(森川 暢)
[M]予後予測スコアについて(吉村優里・森川 暢)
[M]=医師による執筆記事/[D]=歯科医師による執筆記事














