はじめに
医療の進歩,公衆衛生の改善,生活習慣の向上により,我が国の平均寿命は延び続けている.2023年のデータによれば,男性は81.1歳,女性は87.1歳である.また,75歳時点での平均余命は,男性で12.1年,女性で15.7年である.このような状況を踏まえ,医療の目的は単なる長寿の実現から,長くなった人生をより良く生きること,すなわち健康寿命の延伸へと大きくシフトしている.
口腔健康の維持は,生命活動に欠かせない栄養摂取を支えるだけでなく,食べる楽しみや見た目の向上,さらに歯や歯周組織の痛みへの対応といった生活の質を支える重要な要素である.口腔健康を良好に保つためには,適切なプラークコントロールと顎口腔系に生じる力への対応,すなわちフォースコントロールが不可欠である.プラークコントロールについては広く認知されているが,フォースコントロールについては十分に理解されていないのが現状である.
覚醒時や睡眠時には機能的運動以外にも一定の咀嚼筋活動がみられるが,基本的にはほとんどの時間で咀嚼筋は安静状態にあり,上下顎歯列の間には安静空隙が存在する.すなわち,歯は接触していない.しかし,さまざまな要因によって咀嚼筋活動が亢進すると下顎が挙上され,歯の接触が生じる.ブラキシズムの発生メカニズムについては多くの研究が進められ,科学的に解明されつつある.これに伴い,診断や治療に関する知見も着実に蓄積されてきた.
臨床では,こうした知見をもとにブラキシズムに対応する必要がある.その際に重要なのは,ブラキシズムは発生状況,すなわち覚醒時と睡眠時とで発症機序が明確に異なることであり,それぞれに適した対応が必要であるという点である.そこで本書では,睡眠時ブラキシズムと覚醒時ブラキシズムを明確に区別し,後者については我が国随一の臨床経験をお持ちの西山先生(東京科学大学)にご執筆いただき,それぞれを独立した章として取り上げた.これにより,両者について合理的に対応する方法を学び,包括的なフォースコントロールを習得できる構成としている.
また,小児の睡眠時ブラキシズムについては多くの問い合わせが寄せられている.このトピックに関するエビデンスは限られており,十分な答えを提供することが難しい現状であるが,当該領域の第一人者である宮脇先生(鹿児島大学)に矯正治療との関連も含めて系統的に取りまとめていただいた.
本書が,国民の健康増進に尽力する医療関係者の皆さまのお役に立つことを心より願っている.
馬場一美
医療の進歩,公衆衛生の改善,生活習慣の向上により,我が国の平均寿命は延び続けている.2023年のデータによれば,男性は81.1歳,女性は87.1歳である.また,75歳時点での平均余命は,男性で12.1年,女性で15.7年である.このような状況を踏まえ,医療の目的は単なる長寿の実現から,長くなった人生をより良く生きること,すなわち健康寿命の延伸へと大きくシフトしている.
口腔健康の維持は,生命活動に欠かせない栄養摂取を支えるだけでなく,食べる楽しみや見た目の向上,さらに歯や歯周組織の痛みへの対応といった生活の質を支える重要な要素である.口腔健康を良好に保つためには,適切なプラークコントロールと顎口腔系に生じる力への対応,すなわちフォースコントロールが不可欠である.プラークコントロールについては広く認知されているが,フォースコントロールについては十分に理解されていないのが現状である.
覚醒時や睡眠時には機能的運動以外にも一定の咀嚼筋活動がみられるが,基本的にはほとんどの時間で咀嚼筋は安静状態にあり,上下顎歯列の間には安静空隙が存在する.すなわち,歯は接触していない.しかし,さまざまな要因によって咀嚼筋活動が亢進すると下顎が挙上され,歯の接触が生じる.ブラキシズムの発生メカニズムについては多くの研究が進められ,科学的に解明されつつある.これに伴い,診断や治療に関する知見も着実に蓄積されてきた.
臨床では,こうした知見をもとにブラキシズムに対応する必要がある.その際に重要なのは,ブラキシズムは発生状況,すなわち覚醒時と睡眠時とで発症機序が明確に異なることであり,それぞれに適した対応が必要であるという点である.そこで本書では,睡眠時ブラキシズムと覚醒時ブラキシズムを明確に区別し,後者については我が国随一の臨床経験をお持ちの西山先生(東京科学大学)にご執筆いただき,それぞれを独立した章として取り上げた.これにより,両者について合理的に対応する方法を学び,包括的なフォースコントロールを習得できる構成としている.
また,小児の睡眠時ブラキシズムについては多くの問い合わせが寄せられている.このトピックに関するエビデンスは限られており,十分な答えを提供することが難しい現状であるが,当該領域の第一人者である宮脇先生(鹿児島大学)に矯正治療との関連も含めて系統的に取りまとめていただいた.
本書が,国民の健康増進に尽力する医療関係者の皆さまのお役に立つことを心より願っている.
馬場一美
はじめに
CHAPTER I ブラキシズムとは
1 プラークコントロールとフォースコントロール
2 ブラキシズムを知っていますか? 睡眠時vs覚醒時
3 なぜ,ブラキシズムが注目されるのか?
CHAPTER II 押さえておくべき基礎知識
1 病態生理とリスクファクター(1) 睡眠時ブラキシズム
1 ノンレム睡眠とレム睡眠
2 一過性の覚醒,マイクロアローザル
3 睡眠時ブラキシズムとマイクロアローザルの関係
4 睡眠時ブラキシズムのリスクファクター
Column1 睡眠時ブラキシズムと遺伝子多型
5 リスクファクターを整理する
Column2 睡眠衛生指導とは
2 病態生理とリスクファクター(2) 覚醒時ブラキシズム
1 覚醒時ブラキシズムの発生に関連する生理的メカニズム
2 覚醒時ブラキシズムに関連するリスクファクター
3 ブラキシズムの種類(1) 睡眠時ブラキシズム
1 1次性と2次性・医原性睡眠時ブラキシズム
2 グラインディングとクレンチング
4 ブラキシズムの種類(2) 覚醒時ブラキシズム
1 病態による分類
2 原因による分類
CHAPTER III 為害作用とそのメカニズム
1 睡眠時ブラキシズムに関連する顎口腔系のバイオメカニズム
1 咬頭嵌合位におけるクレンチング
2 側方咬合位におけるクレンチング
3 グラインディング
Column3 咬耗はグラインディングに対する適応か?!
2 為害作用(1) 睡眠時ブラキシズム
1 歯,歯冠修復物,歯根,歯周組織に対して
Column4 モノリシックジルコニア
2 インプラントに対して
3 欠損歯列患者
4 咀嚼筋・顎関節に対して
5 睡眠同伴者に対する影響
Column5 顎関節症と睡眠時ブラキシズム
3 為害作用(2) 覚醒時ブラキシズム
1 顎関節症への影響
2 歯周病への影響
3 歯髄への影響
4 歯根膜への影響
5 義歯床下粘膜への影響
6 歯冠・歯根および補綴装置に対する影響
7 インプラントへの影響
8 睡眠時ブラキシズムと覚醒時ブラキシズムの為害作用の違い
CHAPTER IV エビデンスに基づく診断
1 評価と診断(1) 睡眠時ブラキシズム
1 問診と診査による臨床診断
2 ウェアラブル筋電計による診断
3 リスクファクターの評価と睡眠時ブラキシズムの分類
2 評価と診断(2) 覚醒時ブラキシズム
1 Possible Awake Bruxism(Pos-AB)の診査
2 Probable Awake Bruxism(Prob-AB)の診査
3 Definite Awake Bruxism(Def-AB)の診査
4 覚醒時ブラキシズムの診断
CHAPTER V 対応・治療
1 睡眠時ブラキシズムへの対応(1) リスクファクター
1 1次性(原発性)睡眠時ブラキシズム
2 2次性・医原性睡眠時ブラキシズム
2 睡眠時ブラキシズムへの対応(2) スプリント療法
1 短期的抑制効果
Column6 スプリントの短期的抑制効果の活用
2 スプリントによる力のコントロール
3 スプリントに求められる要件
4 スプリントの種類
5 スプリントによる挙上量
6 スプリント療法を用いた睡眠時ブラキシズム管理
7 スプリント療法の注意点
Column7 新たな治療装置の開発
Column8 スプリント装着および振動フィードバック刺激による睡眠時ブラキシズム持続時間の変化
3 睡眠時ブラキシズムへの対応(3) 夜間用義歯(Night Denture)
1 夜間用義歯とは
2 夜間用義歯の形態
3 夜間用義歯使用の際の注意点
4 睡眠時ブラキシズムへの対応(4) マテリアル選択
1 支台築造(コア)材料の選択
2 セラミックスの選択
3 注意すべき点
Column9 認知行動療法は有効か?
5 覚醒時ブラキシズムへの対応
1 行動変容法
Column10 バイオフィードバックシステムを用いた覚醒時ブラキシズムのコントロールの有効性
2 歯科的対応
3 医科への対診
Column11 覚醒時ブラキシズムコントロールによる睡眠時ブラキシズム抑制効果は?
Column12 ジストニア・ジスキネジア
6 小児のブラキシズムへの対応
1 概要
2 ブラキシズムの頻度
3 ブラキシズムの関連因子
4 ブラキシズムの治療・管理の方法
5 歯科医師が押さえておくべき重要なポイント
7 矯正治療中のブラキシズムへの対応
1 不正咬合と睡眠時ブラキシズムとの関連
2 矯正装置がブラキシズムに及ぼす影響
3 矯正治療中のブラキシズム患者への対応
4 歯科医師が押さえておくべき重要なポイント
おわりに
索引
編著者一覧
CHAPTER I ブラキシズムとは
1 プラークコントロールとフォースコントロール
2 ブラキシズムを知っていますか? 睡眠時vs覚醒時
3 なぜ,ブラキシズムが注目されるのか?
CHAPTER II 押さえておくべき基礎知識
1 病態生理とリスクファクター(1) 睡眠時ブラキシズム
1 ノンレム睡眠とレム睡眠
2 一過性の覚醒,マイクロアローザル
3 睡眠時ブラキシズムとマイクロアローザルの関係
4 睡眠時ブラキシズムのリスクファクター
Column1 睡眠時ブラキシズムと遺伝子多型
5 リスクファクターを整理する
Column2 睡眠衛生指導とは
2 病態生理とリスクファクター(2) 覚醒時ブラキシズム
1 覚醒時ブラキシズムの発生に関連する生理的メカニズム
2 覚醒時ブラキシズムに関連するリスクファクター
3 ブラキシズムの種類(1) 睡眠時ブラキシズム
1 1次性と2次性・医原性睡眠時ブラキシズム
2 グラインディングとクレンチング
4 ブラキシズムの種類(2) 覚醒時ブラキシズム
1 病態による分類
2 原因による分類
CHAPTER III 為害作用とそのメカニズム
1 睡眠時ブラキシズムに関連する顎口腔系のバイオメカニズム
1 咬頭嵌合位におけるクレンチング
2 側方咬合位におけるクレンチング
3 グラインディング
Column3 咬耗はグラインディングに対する適応か?!
2 為害作用(1) 睡眠時ブラキシズム
1 歯,歯冠修復物,歯根,歯周組織に対して
Column4 モノリシックジルコニア
2 インプラントに対して
3 欠損歯列患者
4 咀嚼筋・顎関節に対して
5 睡眠同伴者に対する影響
Column5 顎関節症と睡眠時ブラキシズム
3 為害作用(2) 覚醒時ブラキシズム
1 顎関節症への影響
2 歯周病への影響
3 歯髄への影響
4 歯根膜への影響
5 義歯床下粘膜への影響
6 歯冠・歯根および補綴装置に対する影響
7 インプラントへの影響
8 睡眠時ブラキシズムと覚醒時ブラキシズムの為害作用の違い
CHAPTER IV エビデンスに基づく診断
1 評価と診断(1) 睡眠時ブラキシズム
1 問診と診査による臨床診断
2 ウェアラブル筋電計による診断
3 リスクファクターの評価と睡眠時ブラキシズムの分類
2 評価と診断(2) 覚醒時ブラキシズム
1 Possible Awake Bruxism(Pos-AB)の診査
2 Probable Awake Bruxism(Prob-AB)の診査
3 Definite Awake Bruxism(Def-AB)の診査
4 覚醒時ブラキシズムの診断
CHAPTER V 対応・治療
1 睡眠時ブラキシズムへの対応(1) リスクファクター
1 1次性(原発性)睡眠時ブラキシズム
2 2次性・医原性睡眠時ブラキシズム
2 睡眠時ブラキシズムへの対応(2) スプリント療法
1 短期的抑制効果
Column6 スプリントの短期的抑制効果の活用
2 スプリントによる力のコントロール
3 スプリントに求められる要件
4 スプリントの種類
5 スプリントによる挙上量
6 スプリント療法を用いた睡眠時ブラキシズム管理
7 スプリント療法の注意点
Column7 新たな治療装置の開発
Column8 スプリント装着および振動フィードバック刺激による睡眠時ブラキシズム持続時間の変化
3 睡眠時ブラキシズムへの対応(3) 夜間用義歯(Night Denture)
1 夜間用義歯とは
2 夜間用義歯の形態
3 夜間用義歯使用の際の注意点
4 睡眠時ブラキシズムへの対応(4) マテリアル選択
1 支台築造(コア)材料の選択
2 セラミックスの選択
3 注意すべき点
Column9 認知行動療法は有効か?
5 覚醒時ブラキシズムへの対応
1 行動変容法
Column10 バイオフィードバックシステムを用いた覚醒時ブラキシズムのコントロールの有効性
2 歯科的対応
3 医科への対診
Column11 覚醒時ブラキシズムコントロールによる睡眠時ブラキシズム抑制効果は?
Column12 ジストニア・ジスキネジア
6 小児のブラキシズムへの対応
1 概要
2 ブラキシズムの頻度
3 ブラキシズムの関連因子
4 ブラキシズムの治療・管理の方法
5 歯科医師が押さえておくべき重要なポイント
7 矯正治療中のブラキシズムへの対応
1 不正咬合と睡眠時ブラキシズムとの関連
2 矯正装置がブラキシズムに及ぼす影響
3 矯正治療中のブラキシズム患者への対応
4 歯科医師が押さえておくべき重要なポイント
おわりに
索引
編著者一覧














