やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 わが国は,団塊の世代が後期高齢者となる2025年を控え,社会保障費の負担増加や人材不足などの問題がより深刻になっています.また,通院が難しい高齢者は年々増加し,われわれ地域に根差す歯科医師も訪問歯科の需要に対して柔軟に立ち向かっていかなければならず,岐路に立っているといっても過言ではありません.一方で,近年の診療報酬の改定でみられるように,国の訪問歯科,予防歯科への期待はかなり大きいものの,訪問歯科へ新規参入する歯科医院はいまだ少ないことから,医院経営面から考えてもまだまだチャンスの多い分野といえるでしょう.
 筆者が訪問歯科を始めたきっかけは,介護現場で実際に患者さんの人生と向き合い,懸命に生きる人とのつながりを感じることができたからです.また,外来診療よりさらに深く人生や昔の話を聞く機会があり,自分自身の人生に大きな影響を与えてくれました.このように,訪問歯科は医療人としてもやりがいをもって始められる分野でもあります.
 しかしながら,一般歯科医院の開業と比べると,訪問歯科は知識や経験の壁を感じやすく,始めるにはハードルが高いと考えている方も多いかもしれません.しかし本書を読み,筆者が実際に経験して得たノウハウを知るだけで,ハードルは思っていたよりもずっと低いことに気づいてもらえると思います.本書は開業したばかりの先生だけでなく,経験豊富なベテラン外来歯科医院の先生にもぜひ伝えたい訪問歯科,とりわけ経営的な知識をまとめた一冊です.訪問歯科業界のさらなる発展を願っており,本書がその一助となれば幸いです.
 2024年7月
 小柳岳大
第1章 訪問歯科はなぜ利益が出ないのか
 訪問歯科を行えるが,行っていないのが現状
 なぜ多くの歯科医院において訪問歯科事業は利益が出にくいのか
 ゼロから開業し,6年で2億円を超える歯科医院を作れた理由
 医院経営としての訪問歯科〜どのくらいの売上・利益率になるのか?〜
 スタートアップから出口戦略までの見通しを考える〜いつ始めて,いつどのようにして辞めるか〜
第2章 訪問歯科の人材・機材などへの投資を考える
 訪問歯科の規模を段階で考える
 無駄な経費と先行投資の違い
 人材へ投資する
 物に投資する
第3章 スムーズな訪問診療のための仕組みを作る
 まずは届出から始める
 書類を用意する
 訪問歯科の流れを知る
 スムーズに行うための事前準備
第4章 人材を確保して育てる
 訪問専門スタッフを雇用する
 求人方法とコツ
 スタッフ教育の必要性
 退職させないためにできること
第5章 訪問歯科で利益を上げるために
 訪問歯科の依頼は誰からもらうのか
 訪問歯科の依頼をもらう
 持続可能な仕組みを作る
第6章 訪問歯科事業を拡大する
 事務スタッフの重要性〜歯科医院に事務スタッフを配置する理由〜
 訪問車の導入を検討する
 摂食嚥下治療を始める
 訪問専門チームを作る〜院長不在でも同じ方向を向いてやり遂げるチームを作る〜
第7章 訪問歯科事業の実際
 筆者の医院における訪問歯科事業の変遷
 訪問歯科チームの一日の流れ

 column
  歯科医師が営業?〜営業したことがない歯科医師が営業するには〜
  利回りという考え方
  交通費の請求
  健康保険と介護保険
  スマートフォンなどの通話料・通信料
  災害時に役立つ訪問歯科のスキル
  他業種コミュニティに参加するには
  施設をめぐる攻防戦
  リースの車検料についての勘違い