やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
正解ではなく最善の臨床決断を
 「正しくありたい」.そう願って,日本での10年間の臨床経験を終え,一心発起し渡米した.そして,多くのことを学び,人生における貴重な経験をすることができた.その1つは「科学に,真実という正解はほとんど存在せず,真実を追い求め続ける思考と決断こそが重要である」と学んだことである.
 アメリカの大学院では,専門的知識,情報について,その情報源から歴史,理論的背景までを,膨大な教材を用いて自ら学び,批判的思考をもって理解するプログラムが組まれている.アメリカでの鍛錬によって培った思考スキルは,その後の私の臨床家人生における大きな自信につながっている.一般臨床では多くの教科書や文献にはない複雑な問題に遭遇するが,それらを論理的に患者・スタッフらと議論し,自らの環境,技術を加味した最善の決断で解決していく,真の意味での問題解決能力に培った思考スキルがつながると実感しているからである.
 この度,支台歯形成の書籍を執筆する機会を,僭越ながら頂戴した.少しでも多くの読者の方々が自信を持って支台歯形成を患者に施すために,本書は3部構成とした.CHAPTER1では,支台歯形成に関わる臨床決断の基礎として,国際標準の原理原則をまとめた.Goodacreらの過去の文献,研究を吟味・議論し報告した科学的根拠に基づく支台歯形成のガイドラインと,歯科補綴学の成書として世界的に認識される,『クラウンブリッジの臨床』を基本とした内容となっている.CHAPTER2では,理想的状況を想定した模型上での理想的形成技術を紹介している.経験のない読者の方々にもわかりやすく理解し,技術を鍛錬していただけるようにStep by Stepの説明を心がけた.また,CHAPTER3では,臨床で遭遇する理想とは異なるある種,妥協的状況の歯を,筆者がどのような思考と決断(Think)で,どのように形成を実行・行動し,その問題を解決したのか,その臨床の実際を紹介する.
 繰り返しとなるが,その思考・決断(Think)は,正解ではない.
 筆者のBias(固定観念)を多くの読者に押し付けている可能性を覚悟し,あえて,自らの思考・決断(Think)を紹介させていただく.これは,いわゆる科学的根拠を示し,そのスタンダードを正解として教育するシステムを批判するものではなく,患者に無意識に正解という理想を押し付けていないか,もしくは,患者主体という名目で,国際標準の歯科科学と離れた臨床をしていないか,議論の場になればと考えている.
 一人でも多くの読者の方々に,最善の臨床決断と技術による自信を伴った補綴修復臨床の実現のお役に経てることを願っている.
 錦織 淳
 序文
 監著者略歴
CHAPTER 1 KNOWLEDGE―総論―
 1 INTRODUCTION
  1 はじめに
  2 支台歯形成の理想的3条件と臨床的7評価項目
  3 補綴歯冠修復治療を成功に導くための3条件
 2 BIOLOGIC CONSIDERATIONS:生物学的条件
  1 歯髄の保護・歯質の保存
   CLINICAL ESSENCE 1 歯髄の保護・歯質の保存に関連する臨床的評価項目
  2 再感染の予防(歯周疾患・二次齲蝕)
   CLINICAL ESSENCE 2 再感染の予防(歯周疾患・二次齲蝕)に関連する臨床的評価項目
  3 歯の破折の予防
   CLINICAL ESSENCE 3 歯の破折の予防に関連する臨床的評価項目
 3 MECHANICAL CONSIDERATIONS:機械的条件
  1 維持形態(Retention Form):脱離の予防
  2 抵抗形態(Resistance Form):脱離の予防
   CLINICAL ESSENCE 1 脱離の予防:維持形態・抵抗形態に関連する臨床的評価項目
  3 修復物破折の予防
   CLINICAL ESSENCE 2 修復物破折の予防に関連する臨床的評価項目
 4 ESTHETIC CONSIDERATIONS:審美的条件
  1 審美的領域の考慮
  2 審美的色調の配慮
   CLINICAL ESSENCE 1 審美的領域の考慮と審美的色調に関連する臨床的評価項目
CHAPTER 2 TECHNIQUE―各論―
 1 適切な支台歯形成を行うために
  1 形成用インスツルメントをどのように使用するか
  2 患者と術者の位置関係
  3 形成ステップとその評価法
   STEP BY STEP
 2 各支台歯形成ステップ解説
  1 全部被覆鋳造冠の支台歯形成
  2 オールセラミッククラウンの支台歯形成
  3 陶材焼付鋳造冠の支台歯形成
  4 部分被覆鋳造冠の支台歯形成
  5 ゴールドインレー・アンレーの支台歯形成
CHAPTER 3 THINK―症例―
 1 どのように臨床決断していくのか
  1 Think(思考・決断)→Surgery(支台歯形成・外科処置)→Verify(自己評価・確認)
  2 支台歯形成の臨床的7評価項目に関わる3条件の形成ポイント
  3 形成ステップ臨床決断リスト
 CASE 1 7クラックに対しクラウンにて対応した症例
 CASE 2 7舌側歯質を大きく喪失している生活歯のクラウン再製作症例
 CASE 3 6強度的リスクの高い失活歯症例
 CASE 4 65 456歯周治療後の陶材焼付鋳造冠による連結固定を施した歯周補綴症例
 CASE 5 765脱離によるブリッジの再製作症例
 CASE 6 654脱離によるブリッジの再製作症例
 CASE 7 21 12外傷歯への根管治療および補綴治療を行った症例

 REFERENCE
 INDEX