やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 インジェクションテクニックを最初に目にしたのは,2019年春,アメリカのサンディエゴで開催されたAmerican Association for Cosmetic DentistryにおけるDouglas Terryの講演の時であった.短時間しか参加できなかったものの,クリアインデックスにフロアブルコンポジットレジン(CR)を流し込むだけで修復の最終形態が充填されていくスライドは,いまだに筆者の脳裏に強く焼きついている.その記憶が蘇ったのは同年夏で,当時在籍していた東京医科歯科大学にメキシコの歯科医師James Alejandroが訪れた時である.Alejandroは,Terryとともに書籍を執筆したインジェクションテクニックの第一人者であり,その詳細について直接伺うことができた.CR修復に20年以上携わり,術者の技術や経験に依存する従来の方法に限界を感じていた筆者にとって,これが転換点となった.また,ちょうどデジタル技術を活用したインジェクションテクニックに関する文献がでてきた頃で,筆者もこの技術の研究と臨床応用を急いではじめ,国内外で論文発表および講演発表を重ねることで,多くの知見を得ることができた.現在では,フロアブルCRのみならず,ペーストCRも広く応用され,インジェクションテクニックの枠を越えて,さまざまな症例に応用できるようになったことから,筆者はクリアインデックスを用いたCRの修復法を総称してクリアインデックステクニックと呼んでいる.
 本書は,日々の臨床において迅速かつ確実なCR修復を実現するクリアインデックステクニックについて体系的かつ実践的にまとめたはじめてのガイドブックである.日常診療で即座に活用できるよう,ラボサイドにおけるインデックスの製作法から,チェアサイドにおける実際のテクニックについてできるだけわかりやすく解説した.本書が多くの歯科医師にとって有益な一冊となり,臨床におけるCR修復のさらなる発展に寄与することを心より願っている.
 最後に,本書の執筆に際してご協力いただいた多くの方々,特に東京医科歯科大学病院歯科技工部の本山靖治先生,長谷川勇一先生,徳島大学大学院の渡邉佳一郎先生,徳島大学病院技工部の大山正弘先生,鴨居浩平先生に厚く御礼申し上げる.
 2024年6月 保坂啓一
CHAPTER 1 クリアインデックステクニックの有用性
 クリアインデックスとは
 クリアインデックステクニックとは
 間接修復との比較
 有効な症例
 [COLUMN]クリアインデックステクニックにかかるチェアタイム
CHAPTER 2 クリアインデックスの製作〜基本編〜
 製作のワークフロー
 デジタルでもアナログでも可能
 歯列情報のデジタル化
 デジタルワックスアップ
 3Dプリントプラスチック模型
 クリアインデックスの製作
CHAPTER 3 クリアインデックスの製作〜応用編〜
 バイレイヤー(2層)のクリアインデックス
 下部鼓形空隙の付与が可能なインデックス
 3Dプリントクリアインデックス
CHAPTER 4 クリアインデックステクニック〜基本編〜
 CRの選択
 ペーストCRのプレヒート
 アクセスホールから内部にインジェクションする方法
 クリアインデックス内にインジェクション・填入する方法
 窩洞へインジェクション・填入する方法
 複数のシェードを用いる方法
 隣接面管理の考え方と実際
 クリアインデックステクニックにおける注意点
 インデックス撤去後の操作
 [COLUMN]インデックスは押せばよいというわけではない
CHAPTER 5 クリアインデックステクニック〜症例編〜
 臼歯部の咬合面窩洞の修復
 臼歯部の大型修復
 ダイレクトベニア修復
 矮小歯や正中離開の修復
 犬歯誘導の付与
 トゥースウェアの修復
 ダイレクトブリッジ