やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 乳児期から幼児期における摂食支援は,子どもが自分で種々の食物を一定量食べられるようになるまでの発達過程をサポートすることです.この時期の食に対する基本的な考え方は,乳幼児の食に関わる興味と食べる動きを引き出すように支援することであり,自分で食べていく機能も,そのなかで育ちます.そのためには,他の発育(成長・発達)と関連させながら,どのような食べ方を,どうサポートすればよいのかという視点を常に持つことが大切です.
 本書は,食べることに興味を持って食を楽しみながら自立していく子どもを支え,さらに食の自律を促すことを目的としています.
 乳児期(離乳期)から自分で食べていくための最初のステップとしてなされる手づかみ食べに関しては,従来から「授乳・離乳の支援ガイド」や「母子健康手帳」などでその効用などについて強調されてきましたが,離乳の最初から手づかみ食べを推奨する離乳法も紹介されています.子ども自身が自分で食べようとすることは,食事に関わる行動の発達を促すとともに,バランスよく栄養を摂取するための離乳食を食べることが順調に進むことにもつながります.乳幼児期の食事を一部は手づかみで子ども自身が,一部は保護者や保育者が手伝いながら一緒に食事をとる時間(共食)は双方にとって至福のときともなります.家族で食卓を囲む団らんの食事,保育園などの給食やおやつの場で保育者や友達と皆で共有する食の時間.このような場や時間を楽しく過ごすようになるためには,どのような発達の経緯があるのでしょう.特に食べる機能の発達面ではどのような支援がその時々に必要なのでしょうか.子どもが自分で食べていくことをサポートしていくために必要な基本が,この本には「一つの目安」として書かれています.
 本書の特徴は,手と口の協調を発達的な視点から研究し,明らかにした内容をもとにしていることです.それぞれの項目は,実際にその研究を主として担った専門性の高い執筆陣がわかりやすい文章で執筆しています.
 食物を口から摂取することは子どもの生活の中心であり,そのなかで楽しく口を使う経験を積み重ねることにより食行動が育ちます.さらに,乳幼児期には食事を通して親子や保育者,友人などとのコミュニケーションなどによって対人関係や社会性が発達していきます.その基本は,自分で食べることによって得られる身体と心の栄養の蓄積にほかなりません.
 いろいろな子どもがいるように,いろいろな食に対する育児があってよいのですが,子どもが自分で食べていくための一助として子育てに関わる多くの皆様の参考にしていただけたら幸いです.
 向井美惠
 はじめに(向井美惠)
 発達の流れ(水上美樹,西方浩一)
(1)「赤ちゃんが自分で食べていくこと」を考える前に
 Message 1 保護者に伝えたいメッセージ(千木良あき子)
 Message 2 保育士に伝えたいメッセージ(綾野理加)
 Message 3 リハビリテーション職種に伝えたいメッセージ―作業療法士の視点から(神作一実)
 Message 4 歯科医療者に伝えたいメッセージ(田村文誉)
(2)「食べる」を育てる
 1 「食べる」を育てるとはどのようなことでしょう?(向井美惠)
  1 「食べる」で育てること,育つこと
  2 「食べる」で育つ五感
(3)発達のマイルストーン
 1 口腔機能に関係する反射にはどのようなものがあるのでしょうか?(綾野理加)
  1 摂食機能の発達と関係の深い原始反射
  2 そのほかの口腔機能に関係する反射
 2 摂食機能獲得過程はどのように進んでいくのでしょうか?(野本たかと)
  1 はじめに
  2 摂食機能のマイルストーン
  3 自食機能のマイルストーン
 3 何をどう食べるかがわかること(認知機能)の発達はどのように進みますか?(田村文誉)
  1 食べる機能の発達と脳の役割
  2 認知機能の発達
 4 食べるのに必要な感覚(運動機能)の発達はどのように進みますか?(神作一実)
  1 食べるための七つの感覚
  2 感覚から得られる情報と食べることの発達
  3 感覚運動機能の発達と感覚統合機能の発達
  4 感覚統合と食べることの発達の順序性
  5 標準化された発達検査のなかでの食べることの発達
  6 まとめ
 5 手先の細かな運動(微細運動)の発達はどのように進みますか?(西方浩一)
  1 はじめに
  2 身体全体の運動(粗大運動)の発達
  3 手先の細かな運動(微細運動)の発達
  4 発達検査からみた粗大運動発達・微細運動発達
(4)口唇閉鎖機能の発達
 1 唇を閉じる力の発達はどのように進みますか?(向井美惠)
  1 食べる機能の発達をリード
  2 生理的な役割
  3 口唇閉鎖不全
 2 食べるときの唇を閉じる力はどんなふうに強くなっていくの?(千木良あき子)
  1 上手に捕食する!
  2 口唇閉鎖の発達
 トピックス 食べるときの唇を閉じる力の発達の仕方はひとそれぞれ(田村文誉,水上美樹)
  1 はじめに
  2 唇を閉じる力の発達変化
  3 考え方
 トピックス 口唇口蓋裂児の食べることの発達(千木良あき子)
  1 口唇口蓋裂児
  2 口唇口蓋裂児の口唇機能
(5)固形物を自分で食べる機能の発達
 1 軟らかい食べ物はどのようにして食べているの?(野本たかと)
  1 摂食機能の発達と離乳
  2 口腔諸器官の発達
  3 食べる機能の発達段階と食物形態
 2 噛むときの顎や舌の動きはどのように発達するの?(大久保真衣)
  1 はじめに
  2 咀しゃく運動とは?
  3 口の動きのステップアップ
(6)水分が上手に飲めるようになる機能の発達
 1 コップで飲めるようになるのはいつから?(大久保真衣)
  1 はじめに
  2 すすり飲みはどんな発達と関係がある?
  3 すすり飲みの発達
 2 水分を上手に飲めるようになるには? ストローはいつから使う?(大久保真衣)
  1 ストロー飲みは,すすり飲みができるようになってから
  2 ストロー先端の位置によって舌の力が変化する
  3 舌の動きの重要性
  4 ストローとコップの飲み方の違い
(7)食べるための情報
 1 食べることに「口に入る」前からの情報はどのようにかかわっているの?(神作一実)
  1 食べ物を口に運ぶ動きの発達
  2 発達と手づかみ食べの精度
 2 自分で食べるためにはどのようなことが発達する必要があるの?(西方浩一)
  1 経口摂取準備期の目・手・口の協調運動を考える
  2 協調運動の発達と食べること
 トピックス 食行動・母子の関係性について(田村文誉)
  1 乳幼児の縦断的観察研究から
  2 離乳の進め方の文化による違い
(8)手づかみ食べ機能の発達
 1 手で食べるときの指先と口の動きの関係は?(綾野理加)
  1 大人の手づかみ食べの食べ方から考える
  2 手づかみ食べでの口と手の動きの協調についてのまとめ
 2 手で食べるとき,どうやって口まで運んでいるの?(神作一実)
  1 食べ物を口に運ぶ機能の発達
  2 手づかみ食べ機能発達のまとめ
 3 手づかみ食べはやめさせたほうがいいの?(千木良あき子)
  1 手づかみ食べは貴重な経験
  2 手づかみ食べの上達
 トピックス 手で食べるときの腕の動きを知ろう!(林 佐智代)
  1 腕と口の協調
  2 食べ物を置く位置で腕の動きは変わるのか
  3 食べ物を置く位置が左右方向に異なるときの腕の動き
  4 食べ物を置く位置が前後方向に異なるときの腕の動き
  5 食べ物を置く位置が対角線上に異なるときの腕の動き
  6 腕と口の協調を促すための食べ物の位置は?
(9)食具食べ機能の発達
 1 スプーンで食べるとき,どうやって口まで運んでいるの?(西方浩一)
  1 手・口の協調運動の発達
  2 食具を用いた動作はどのように発達していくか
 2 スプーンで食べるとき,どうやって口に入れているの?(田村文誉)
  1 スプーンの口への運び方・口でのくわえ方
  2 スプーンの形状と食べやすさ
 3 箸で食べるのはいつから?(大岡貴史)
  1 箸の使い方はどのように上達していくか
  2 箸の持ち方と動かし方が重要!
(10)その他のトピックス
 トピックス 知的障害児にとっての自分で食べるということ(野本たかと)
  1 認知機能と運動機能の発達不全が招く食の問題
  2 捕食時の手と口の協調
  3 食べることに影響を及ぼす問題と対処
 トピックス 手や足を動かすことが不自由な子どもにとっての自分で食べること(西方浩一)
  1 はじめに
  2 脳性麻痺とは
  3 麻痺の分布による分類
  4 脳性麻痺児の姿勢・運動障害と自分で食べること

 おわりに
 索引