はじめに
13年ほど前,歯内療法の分野で高名な米国のある先生のオフィスで研修を受けたことがある.米国国内からも複数の先生が受講していた.研修中には学術的・技術的な質問など,さまざまな意見交換がなされるのだが,我々はある質問をした.それは,「このニッケルチタンファイルは何回くらいまで使えるのか?」というものだ.メンターはもちろんのこと,米国からの受講生も目を丸くしながら,「ディスポーザブルなのに,なぜそのような質問をするのか!?」と,逆に問いかけてきた.日本には国民皆保険制度があるため,患者は非常に安価に治療を受けることができる.一方,我々歯科医療従事者は,治療内容と診療報酬のバランスが悪く,患者ごとに高価なニッケルチタンファイルをディスポーザブルにすることが難しいと伝えた.するとメンターは,歯科医療の本質を決して見失ってはいけないといわんばかりに,「個包装なので,使うもの以外は開封しないようにするしかないだろう」と苦し紛れに答えてくれた.
昨今よく目にする,「より安く」「より簡単に」「より少ない本数で短時間に」などをうたった根管拡大形成用の器材.我々が,これを救世主のように捉えてしまうのもやむを得ない.しかし,「根管拡大形成=根管内のすべての感染除去」ではない.複雑な問題を抱えてしまった既根管治療歯をみるたびに,その多くが歯科医療の本質を遵守できていないことに気づく.そしてそれと同時に,あのときのメンターの答えが心にしみる.「医は仁術なり」だけで,本当に国民の健康を守れるのか強い懸念を抱く.国により医療制度は異なるが,歯に対するそもそもの大前提は変わらないはずである.患者は抜髄や抜歯にならないように歯を大切にし,術者は歯や歯髄を極力温存したり,やむを得ず根管治療になってしまった場合でも,処置後に複雑な問題を生じさせないように努めなければならない.しかし,現実には外科的歯内療法や抜歯など,大きな代償を払うことも少なくない.
これから供覧するInternal Apicoectomyは,その名のとおり,歯の内側から根尖部を切除する,これまでの歯内療法の常識を覆す,非常に低侵襲の革新的な術式である.これを正しく伝えるため,現時点でわかっていることを臨床例などを交えながら,丁寧にまとめてみた.本書を手にした先生が,歯内療法の有効なオプションとしてこれを取り入れ,これまで諦めていたような場面で正しく適応し,より多くの歯を,少しでも長く延命できるようになるならば,本術式の考案者としてのこの上ない喜びである.
2023年2月
長尾大輔
13年ほど前,歯内療法の分野で高名な米国のある先生のオフィスで研修を受けたことがある.米国国内からも複数の先生が受講していた.研修中には学術的・技術的な質問など,さまざまな意見交換がなされるのだが,我々はある質問をした.それは,「このニッケルチタンファイルは何回くらいまで使えるのか?」というものだ.メンターはもちろんのこと,米国からの受講生も目を丸くしながら,「ディスポーザブルなのに,なぜそのような質問をするのか!?」と,逆に問いかけてきた.日本には国民皆保険制度があるため,患者は非常に安価に治療を受けることができる.一方,我々歯科医療従事者は,治療内容と診療報酬のバランスが悪く,患者ごとに高価なニッケルチタンファイルをディスポーザブルにすることが難しいと伝えた.するとメンターは,歯科医療の本質を決して見失ってはいけないといわんばかりに,「個包装なので,使うもの以外は開封しないようにするしかないだろう」と苦し紛れに答えてくれた.
昨今よく目にする,「より安く」「より簡単に」「より少ない本数で短時間に」などをうたった根管拡大形成用の器材.我々が,これを救世主のように捉えてしまうのもやむを得ない.しかし,「根管拡大形成=根管内のすべての感染除去」ではない.複雑な問題を抱えてしまった既根管治療歯をみるたびに,その多くが歯科医療の本質を遵守できていないことに気づく.そしてそれと同時に,あのときのメンターの答えが心にしみる.「医は仁術なり」だけで,本当に国民の健康を守れるのか強い懸念を抱く.国により医療制度は異なるが,歯に対するそもそもの大前提は変わらないはずである.患者は抜髄や抜歯にならないように歯を大切にし,術者は歯や歯髄を極力温存したり,やむを得ず根管治療になってしまった場合でも,処置後に複雑な問題を生じさせないように努めなければならない.しかし,現実には外科的歯内療法や抜歯など,大きな代償を払うことも少なくない.
これから供覧するInternal Apicoectomyは,その名のとおり,歯の内側から根尖部を切除する,これまでの歯内療法の常識を覆す,非常に低侵襲の革新的な術式である.これを正しく伝えるため,現時点でわかっていることを臨床例などを交えながら,丁寧にまとめてみた.本書を手にした先生が,歯内療法の有効なオプションとしてこれを取り入れ,これまで諦めていたような場面で正しく適応し,より多くの歯を,少しでも長く延命できるようになるならば,本術式の考案者としてのこの上ない喜びである.
2023年2月
長尾大輔
はじめに
This is Internal Apicoectomy!
1 第13回日本顕微鏡歯科学会で初披露したInternal Apicoectomy
1)処置内容
2)デンタルX線写真による予後の確認
3)歯科用コーンビームCT(CBCT)画像による予後の確認
2 根切と再植とIA
1)根切
2)再植
3)IA
1 Internal Apicoectomyの概念
1 根尖は「聖域」? それとも「諸悪の根源」?
2 複雑な問題が山積している日本の歯内療法
3 「従来の」外科的歯内療法の術式選択に関わる大きな要因
4 問題を抱えていた根尖部へのアクセスルートを再考
5 ヒントは「赤プリ」の解体工事
6 誕生! Internal Apicoectomy
7 歯内療法の常識を覆す術式
2 Internal Apicoectomyの適応症
1 従来の外科的歯内療法の適応症と非適応症
2 臨床的にみた外科処置に対するハードル
1)歯科医師にとっての外科処置
2)患者にとっての外科処置
3 Internal Apicoectomyの適応症と非適応症
4 非外科と外科の狭間を埋める術式としてのInternal Apicoectomy
3 Internal Apicoectomyに必要な器材
1 Internal Apicoectomyを提供するにあたり
2 Internal Apicoectomyに使用する器材・薬剤
1)マイクロスコープ
2)歯科用コーンビームCT
3)う蝕検知液
4)IA用バーセット
5)超音波チップ
6)マイクロエキスカ
7)筆者自作のDeN-Tサクション
8)根管洗浄・貼薬
9)アテロコラーゲン
10)MTAセメント
4 Internal Apicoectomyの術式
1 カリエスチェックで染まる箇所は徹底除去
1)歯内療法と歯の破折
2)抜髄症例から考える
3)感染歯質を残さない.あくまでも残存歯質は健全歯質
2 終始根管経由でいかに根尖を切削・形成しているのかを図説
3 根尖の切削および形成面を抜去歯で解説
4 症例でみたInternal Apicoectomyの一連の流れ
1)徹底的な感染歯質除去と漏洩のない隔壁を作製
2)Internal Apicoectomyを施術
3)根管充填
4)歯冠補綴および予後
5 Internal Apicoectomyは筆者だけが行うことができる術式にあらず!
5 Internal Apicoectomy前の的確な診査
1 まずは二次元的な事前情報の収集
2 Internal Apicoectomy前に三次元的な事前情報を活用
1)デンタルX線写真より
2)CBCT画像では
3)歯を立体的に計測
3 歯科用コーンビームCTを活用したInternal Apicoectomy
1)処置内容
6 Internal Apicoectomy後の根尖部形成面の特徴と根管充填のポイント
1 従来の外科的歯内療法における逆根管形成と逆根管充填
1)従来の外科的歯内療法で考えねばならないこと
2)感染源や感染経路が残存することによる問題
3)Internal Apicoectomyによる問題の改善
2 Internal Apicoectomy後の根尖部形成面を図説
3 さまざまな意味で有利なフレアー状
4 Internal Apicoectomy後に従来の外科的歯内療法を行うことになった歯を観察
1)Internal Apicoectomy後の意図的再植術例
2)Internal Apicoectomy後の歯根端切除術例
3)これらの結果から得られた教訓
5 Internal Apicoectomy後の根尖孔外の状態の変化と根管充填のタイミングを臨床的に考察
1)非外科的歯内療法における根管充填のタイミング
2)Internal Apicoectomy後の根管充填のタイミング
7 Internal Apicoectomyを行った症例
1 症例1
2 症例2
3 症例3
4 症例4
5 症例5
6 症例6
あとがき
索引
This is Internal Apicoectomy!
1 第13回日本顕微鏡歯科学会で初披露したInternal Apicoectomy
1)処置内容
2)デンタルX線写真による予後の確認
3)歯科用コーンビームCT(CBCT)画像による予後の確認
2 根切と再植とIA
1)根切
2)再植
3)IA
1 Internal Apicoectomyの概念
1 根尖は「聖域」? それとも「諸悪の根源」?
2 複雑な問題が山積している日本の歯内療法
3 「従来の」外科的歯内療法の術式選択に関わる大きな要因
4 問題を抱えていた根尖部へのアクセスルートを再考
5 ヒントは「赤プリ」の解体工事
6 誕生! Internal Apicoectomy
7 歯内療法の常識を覆す術式
2 Internal Apicoectomyの適応症
1 従来の外科的歯内療法の適応症と非適応症
2 臨床的にみた外科処置に対するハードル
1)歯科医師にとっての外科処置
2)患者にとっての外科処置
3 Internal Apicoectomyの適応症と非適応症
4 非外科と外科の狭間を埋める術式としてのInternal Apicoectomy
3 Internal Apicoectomyに必要な器材
1 Internal Apicoectomyを提供するにあたり
2 Internal Apicoectomyに使用する器材・薬剤
1)マイクロスコープ
2)歯科用コーンビームCT
3)う蝕検知液
4)IA用バーセット
5)超音波チップ
6)マイクロエキスカ
7)筆者自作のDeN-Tサクション
8)根管洗浄・貼薬
9)アテロコラーゲン
10)MTAセメント
4 Internal Apicoectomyの術式
1 カリエスチェックで染まる箇所は徹底除去
1)歯内療法と歯の破折
2)抜髄症例から考える
3)感染歯質を残さない.あくまでも残存歯質は健全歯質
2 終始根管経由でいかに根尖を切削・形成しているのかを図説
3 根尖の切削および形成面を抜去歯で解説
4 症例でみたInternal Apicoectomyの一連の流れ
1)徹底的な感染歯質除去と漏洩のない隔壁を作製
2)Internal Apicoectomyを施術
3)根管充填
4)歯冠補綴および予後
5 Internal Apicoectomyは筆者だけが行うことができる術式にあらず!
5 Internal Apicoectomy前の的確な診査
1 まずは二次元的な事前情報の収集
2 Internal Apicoectomy前に三次元的な事前情報を活用
1)デンタルX線写真より
2)CBCT画像では
3)歯を立体的に計測
3 歯科用コーンビームCTを活用したInternal Apicoectomy
1)処置内容
6 Internal Apicoectomy後の根尖部形成面の特徴と根管充填のポイント
1 従来の外科的歯内療法における逆根管形成と逆根管充填
1)従来の外科的歯内療法で考えねばならないこと
2)感染源や感染経路が残存することによる問題
3)Internal Apicoectomyによる問題の改善
2 Internal Apicoectomy後の根尖部形成面を図説
3 さまざまな意味で有利なフレアー状
4 Internal Apicoectomy後に従来の外科的歯内療法を行うことになった歯を観察
1)Internal Apicoectomy後の意図的再植術例
2)Internal Apicoectomy後の歯根端切除術例
3)これらの結果から得られた教訓
5 Internal Apicoectomy後の根尖孔外の状態の変化と根管充填のタイミングを臨床的に考察
1)非外科的歯内療法における根管充填のタイミング
2)Internal Apicoectomy後の根管充填のタイミング
7 Internal Apicoectomyを行った症例
1 症例1
2 症例2
3 症例3
4 症例4
5 症例5
6 症例6
あとがき
索引