やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

巻頭言
 本書は『歯科医療救急ポケットマニュアル』(菅原利夫監修/医歯薬出版)の第2版として企画されました.『歯科医療救急ポケットマニュアル』(以下,初版)は2008年に発行されましたが,14年の時が流れ,歯科に求められる社会のニーズに変化が見られるようになりました.
 初版は臨床研修中の歯科医師や広く臨床に携わる歯科医師を対象とし,歯科救急疾患と歯科診療中の救急処置がチェアサイドで効率よく参照できるマニュアルでしたが,本書では,高齢化社会と地域包括医療への歯科的対応が必要とされる時代に対応すべく,歯科診療に口腔ケアを加えた内容とし,「安全な歯科診療・口腔ケアを行うための体制作り」と「高齢者の全身疾患の把握」の項目を加えました.
 「安全な歯科診療・口腔ケアを行うための体制作り」は現代社会が強く求めている事項で,この項目は是非早急に目を通して,ご自身の医療体制に問題がないかご確認下さい.
 また,「高齢者の全身疾患の把握」もあらかじめ内容を確認しておくと高齢者の安全な処置につながります.これらの内容は,歯科医師に加えて歯科衛生士など,歯科医療に関わる多くの方々に使って頂けるよう配慮しました.特に,歯科衛生士として知ってもらいたい項目にはマークを付けました(下記参照).
 また,歯科診療・口腔ケア中の患者の急変に対する初期対応は,ヨーロッパ蘇生協議会の『ヨーロッパ蘇生ガイドライン2021』に準拠しており,歯科医療環境に十分配慮した内容になっています.巻末には最近話題になっている個人用防護具の着脱方法を加え,初版と同様,各種検査の基準値,歯科診療に関連する各種薬剤の用法,用量を記載しました.
 本書は内容の増加により版型が大きくなり,ポケットサイズとしてはぎりぎりの大きさですが,是非お手元に置いて日々の臨床に役立てて頂ければ幸いです.
 最後に,今回の改版を快く承諾して下さった岡山大学名誉教授の菅原利夫先生,改版を私に強く勧めて下さった山口大学名誉教授の上山吉哉先生に深謝致します.
 2022年3月
 森 悦秀



 歯科医療の進歩発展に伴う手術適応の拡大や治療の高度化,そして薬剤使用の増加や適応範囲の拡大による予期しない歯科治療中の合併症の増加が予測されています.また,基礎疾患を多く有する高齢者の受診の増加に伴い,歯科治療中の患者状態の急変などに対する救急処置の対応が求められています.
 このような歯科治療救急の場で即座に対応するために,疾患の原因,症状,処置法などをなるだけ簡潔に記載し,シェーマなどを入れ分かりやすいようにするとともに,予防,予後についても記載したのがこのポケットマニュアルです.
 本書の内容は急な歯痛や外傷による歯,骨,軟組織の損傷などの救急疾患に対応するための処置法,そして歯科治療中に偶発的に発現する局所麻酔や外科的処置,歯内療法,補綴処置での合併症に対する救急の対応処置を,臨床の場で実践できるように具体的に記載してあります.
 また,歯科治療中の患者状態の急変に対する初期対応としての救急処置法を,2005年11月に国際蘇生連絡協議会から発表された「心肺蘇生に関わる科学的根拠と治療勧告コンセンサス(CoSTR)」に基づいて記載してあります.更に巻末には,医科との連携医療に必須となる血液検査の基準値を,そして日常の歯科臨床で使用する頻度の高い歯科適応のある抗菌薬と救急薬品の用法と用量を記載しました.
 本書が歯科医師臨床研修医をはじめ,多くの歯科臨床医,そしてスタッフの方々の歯科医療救急処置に役立つことになれば幸いです.
 菅原利夫
 (本文書は『歯科医療救急ポケットマニュアル』[菅原利夫監修.医歯薬出版,2008]に掲載されたものです)
I 安全に歯科診療・口腔ケアを行うための体制作り
 [DH]
  感染予防,針刺し事故対応
  医療安全
  救命処置
II 救命処置
 [DH]
  デンタルチェア上の救命処置
  救急薬品
III 歯科診療・口腔ケア時に偶発症を生じさせないために重要な全身状態の把握
 [DH]
 1章 全身評価と処置上の注意点
 2章 各種疾患の注意点
  高血圧症
  虚血性心疾患
  心臓弁膜症
  不整脈
  抗凝固薬投与患者
  気管支喘息
  慢性閉塞性肺疾患(COPD)
  誤嚥性肺炎
  呼吸器感染症
  糖尿病
  慢性腎臓病
  肝機能障害
  感染症(HBV,HCV,HIV)
  脳血管障害後遺症
  運動制限のある患者
  認知症
  副腎皮質ステロイド投与中患者
  骨吸収抑制薬投与患者と薬剤関連顎骨壊死
  癌治療患者
  妊娠中の患者
IV 歯科診療・口腔ケア中のアクシデントへの対応
 1章 口腔ケア中のアクシデントへの対応[DH]
 2章 一般診療中のアクシデントへの対応
  気分不良,意識消失(神経性ショック,過換気症候群,局所麻酔中毒,アナフィラシーショック)
  出血性素因とその対処法
  器具・薬剤による軟組織損傷
  誤飲・誤嚥
  皮下気腫
  器具の破損
 3章 侵襲的歯科処置時の偶発症
  露髄
  根管穿孔,髄床底穿孔
  抜歯時の根尖部破折
  異物迷入(上顎洞,口底)
  抜歯時の上顎洞穿孔
  歯槽骨損傷,上顎結節の破損,下顎骨骨折
  隣在歯の損傷
  神経損傷
V 救急来院時の診断と対応
 1章 疼痛
  疼痛の診断
  急性歯髄炎/急性根尖性歯周炎/歯周病急発
  顎関節痛
  非歯原性歯痛・口腔顔面痛
  抜歯後疼痛・ドライソケット
 2章 炎症性腫脹
  歯および歯槽部の炎症
  顎骨の炎症(骨髄炎)
  顎骨周辺の炎症
  副鼻腔炎(上顎洞炎),術後性上顎嚢胞
  唾液腺炎,唾石症
 3章 非炎症性腫脹
  腫瘍
  その他(アレルギー,血管性浮腫,肉芽腫性口唇炎)
 4章 出血
  皮下出血,歯肉出血
  術後出血
 5章 外傷
  外傷の診断
  外傷の処置
  開口障害
  破傷風(牙関緊急)
  顎関節脱臼
  神経麻痺
VI 付録
  個人用防護具(PPE)の着脱方法
  血液生化学検査基準値
  バイタルサイン基準値
  抗菌薬の適正使用
  抗菌薬
  抗真菌薬
  鎮痛薬
  抗凝固薬
  骨吸収抑制薬
  免疫抑制薬
  ホルモン製剤

 索引

 (歯科衛生士にも読んでもらいたい項目には目次に[DH]を付けてあります)