やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

Preface
 歯周治療の一翼を担う歯周外科処置は,的確に処置を行えば効果は抜群です.
 外科処置というと,患者さんには「痛い」「腫れる」といった先入観もあるかもしれません.しかし,しっかりとした基本治療を地道に行った後で処置を行えば,大きく腫れたり,痛んだりするのは,むしろ稀なことであり,処置後の経過も良く,それによって信頼関係も構築できます.一度,うまく外科処置ができれば,患者さんは次の処置も安心して受けてくれます.その結果,歯科治療全体がスムーズに運び,患者さんから感謝されることを数多く経験してきました.
 2013年に出版した前著『ステップアップ歯周外科 診断・手順・テクニック』では,歯周外科を始めるために必要な,前準備としての医院の環境整備,組織学的な背景,歯周外科器具の選択,基本となる切開・縫合法の実際,代表的な歯周外科処置の解説を行いました.
 実際に患者さんに歯周外科を行う場合,歯周病の進行度の評価に基づく基本的な術式の検討はもちろんですが,解剖学的な特徴や,歯列内での罹患歯の役割,口腔粘膜の状態など,施術する部位の特異性も考慮したアプローチを考える必要もあります.そのため,『歯界展望』で2018年1月から7月まで上顎編,2020年1月から4月まで下顎編,として部位別に歯周外科処置の解説を執筆しました.本書はそれに加筆,修正を行ったものです.
 歯周病が細菌感染症であることをふまえると,「“炎症“と“力”のコントロール」といわれるように,一口腔単位で歯周治療を行ったほうが効果が高く,その永続性,予知性も期待できます.本書では,全編を通して,部位別に歯周外科治療を詳細に解説していますが,治療部位以外の病状の背景がわかるように,できるだけ多くの口腔内の資料を提示しています.とくにConclusionでは,歯周治療を含めて全顎治療を行う場合の治療手順を実際の症例をもとに解説しています.また,処置直後だけ良い状況を保っても治療の意味はありませんので,術後経過も提示しています.それは治癒経過を追うことで,当時の診断・治療の妥当性が検証でき,術後の反省点や今後の改良点を術者に教えてくれるからでもあります.
 超高齢社会が到来し,成人の8割が歯周病に罹患しているとされますが,患者さんは,末長く,美味しく,楽しく,食を享受したいと希望されています.日々研鑽を積まれている歯科医師の方々,コデンタルスタッフの方々にとって,本書がそうした患者さんの期待に応えるための一助となれると幸いです.
 最後に,今も共に学ぶ経基臨塾,PABCの諸先生方,PAB研修会インストラクターの先生,私をサポートしてくれている安東歯科医院のスタッフ,歯科技工担当の宮崎英樹先生,本書の出版にご尽力いただいた医歯薬出版の萩原宏氏,藤本憲明氏に心より感謝の意を表します.また,私の歯科臨床の目標であり,厳しくご指導いただき,多くの事を学ばせていただいた故下川公一先生に哀悼の意を捧げます.
 2021年 初夏の日差しを感じて 安東俊夫
Introduction 歯周外科治療の選択基準
 はじめに
 ペリオドンタルサージカルツリー
 典型症例でペリオドンタルサージカルツリーを理解しよう
第1編 上顎前歯部の歯周外科
 1章 切除療法と組織付着療法
  1.上顎前歯部の役割,解剖
  2.上顎前歯部にみられる歯周病の特徴と病状の推移
  3.治療戦略の立案
  4.Case 1の処置方針と歯周外科の術式
  5.Case 2の処置方針と歯周外科の術式
  6.まとめ
 2章 再生療法と抜歯
  1.再生療法と上顎前歯部
  2.軟組織
  3.抜歯と上顎前歯部
  4.Case 3の処置方針と歯周外科の術式
  5.Case 4の処置方針と歯周外科の術式
  6.まとめ
 3章 欠損歯槽堤の処置
  1.上顎前歯部と歯槽堤の欠損
  2.移植方法と切開線と審美性
  3.移植片の採取
  4.Case 5の処置方針と歯周外科の術式
  5.Case 6の処置方針と歯周外科の術式
  6.まとめ
第2編 上顎臼歯部の歯周外科
 1章 組織付着療法と切除療法
  1.上顎臼歯部の役割,解剖
  2.上顎臼歯部における歯周病の特徴と病状の推移
  3.治療計画の立案
  4.Case 7の処置方針と歯周外科の術式
  5.Case 8の処置方針と歯周外科の術式
  6.Case 9の処置方針と歯周外科の術式
  7.まとめ
 2章 再生療法
  1.上顎臼歯部再生療法の特徴
  2.Case 10の処置方針と歯周外科の術式
  3.Case 11の処置方針と歯周外科の術式
  4.Case 12の処置方針と歯周外科の術式
  5.まとめ
第3編 下顎前歯部の歯周外科
 1章 組織付着療法と再生療法,欠損歯槽堤の処置
  1.下顎前歯部の役割,解剖
  2.下顎前歯部の歯周病的な特徴,進行
  3.治療戦略
  4.Case 13の処置方針と歯周外科の術式
  5.Case 14の処置方針と歯周外科の術式
  6.Case 15の処置方針と歯周外科の術式
  7.まとめ
第4編 下顎臼歯部の歯周外科
 1章 再生療法
  1.下顎臼歯部の役割
  2.下顎臼歯部における歯周病の特徴と病状の推移
  3.治療計画の立案
  4.Case 16の処置方針と歯周外科の術式
  5.Case 17の処置方針と歯周外科の術式
  6.Case 18の処置方針と歯周外科の術式
  7.まとめ
 2章 組織付着療法,抜歯
  1.はじめに
  2.Case 19の処置方針と歯周外科の術式
  3.Case 20の処置方針と歯周外科の術式
  4.まとめ
Conclusion 歯周外科の治療手順
  1.治療戦略
  2.Case 21の処置方針と歯周外科の術式
  3.Case 22の処置方針と歯周外科の術式
  4.まとめ

 References
 Index

 動画目次
  第1編1章
   Case 1 歯間乳頭保存を含む組織付着療法
   Case 2 歯冠長延長術を兼ねた切除療法
  第1編2章
   Case 3 広く浅い唇側骨の骨吸収に対し再生療法による早期の環境改善
   Case 4 インプラント埋入予定部位への抜歯時歯槽堤保存術
  第1編3章
   Case 5 上皮下結合組織片による遊離結合組織移植術(パウチ法)
   Case 6 ロール法を用いた軟組織の増大
  第2編1章
   Case 7 切除的な骨削除を伴う歯肉剥離掻爬術
   Case 8 intrabony techniqueを準用した歯周外科
   Case 9 臼歯部歯頚線の調和とポケット除去
  第2編2章
   Case 10 1〜2度の根分岐部病変に対する,人工骨を併用した再生療法
   Case 11 抜根とデブライドメントによる根分岐部病変への対応
   Case 12 深い垂直性骨欠損に対する人工骨を併用した再生療法
  第3編1章
   Case 13 歯周病の進行した下顎前歯部へのアクセスフラップ
   Case 15 下顎前歯部欠損部への結合組織移植を用いた歯槽堤増大
  第4編1章
   Case 16 1度の根分岐部病変部への人工骨補填を併用した再生療法
   Case 18 根分岐部病変と深い骨縁下ポケットへの再生療法
  第4編2章
   Case 19 組織付着療法による口腔清掃環境の改善
   Case 20 抜歯後の歯槽堤保存術
  Conclusion
   Case 21 上顎左側の治療(再生療法)
   Case 21 下顎右側の治療(インプラント二次手術,再生療法)
   Case 21 下顎左側の治療(インプラント埋入と同時の骨造成)
   Case 21 上顎右側の治療(ridge expansion,socket lift)