やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

第2版の発刊にあたって
 初版が刊行された2015年からわずか5年あまりしか経っていないが,世界中で起こるさまざまな変化同様,歯内療法領域の潮流の変化もまた小さなものではなかった.
 よく言われることだが,伝統や文化の変化は人類にとってきわめてゆっくりと進むのに対し,科学の進歩の速さは昔も今も,そしておそらく未来も変わらないのであろう.その進歩の速さは,それだけ人類の知らない事実が地球上にはまだたくさんあるということの裏返しである.
 歯内療法においては,まさに伝統的と言える「基本的なコンセプト」はあまり変わらない部分であるし,技術革新的である「器具・機材」や「テクニック」は変化の激しい部分である.
 後者に関してはNiTiロータリーファイルの開発,バイオセラミック系材料の進歩,画像診断の変革,再生療法の知見などがあり,これらの科学的な進歩と実用化の速さは,この5年だけでも目を見張るものがあった.CBCTや 高性能のNiTiロータリーファイルの出現によりアクセスキャビティーはより保存的であるべきと考えられるようになり,ケイ酸カルシウム系のシーラーの出現により根管充填のための便宜的な根管象牙質の削除量も少なくなる傾向にある.再生療法の分野では,一度失われた歯髄を根管内で再生させることへの挑戦が続けられている.
 この第2版では,初版で示した変化のない「基本コンセプト」はそのままに,この5年間の技術革新によって変化した根管形成や根管充填について情報を刷新し,また外科的歯内療法の章や,歯内療法で特に必要な麻酔のテクニック,歯内-歯周病変の項目において新たな知見を付け加えている.
 2021年現在,初版の序文で述べた「ガラパゴス」は「世界標準」に近づいているのであろうか.それが達成され,さらにその先の日本が世界をリードするような時代が来ることを願ってやまない.
 2021年4月
 歯内療法専門医
 石井 宏


初版の発刊にあたって
 筆者が北米の歯内療法専門医教育を受けてから,10年が経とうとしている.
 当時,携帯電話の日本独特の発展方向が「ガラパゴス化」と評されており,その比喩的引用は歯内療法領域にもあてはまるのではないか,と感じたことを昨日のことのように思い出す.
 しかしながら歯科医学は,人間の身体を扱う自然科学の一部で,ある程度の普遍性を求められるものであり,携帯電話のように時代の流行に左右されるべきものではないと信じている.
 特に歯内療法領域における臨床と教育の日米間格差は,その他の歯科領域と比較しても大きく,筆者はそのことに驚愕し,その事実を伝えることと北米の歯内療法専門医レベルの臨床ができる歯科医師を増やすことに,自分の歯科医師人生を使うことを決心した.
 そのためにまず行ったことは,系統立った臨床専門医を安定して育てることを可能にする,筆者が北米で受けた教育を日本で再現することであった.いくつかの課題はあるものの,その成果は確実に上がってきていると感じている.そして,この教育内容に確信を得た後に,より多くの先生方にそのエッセンスを伝えるためのテキストブックをまとめることを決意した.これが,本書の出版に至る経緯である.
 本書の共著者のほとんどは,筆者が帰国後に歯内療法専門医としてのノウハウを伝えてきた者たちであり,本書の内容は,すべての著者の共通意見,見解であると捉えていただいてかまわない.
 また,筆者が教育を受けてからの10年で,当時「スタンダード」であったいくつかの事柄が変化しつつあることも事実である.このような科学見解の変化も敏感に感じとり,随時,本書のアップデートを行っていくことも必要であると考えている.
 本書が,すべての日本国民が「世界基準の歯内療法」を受けられることにつながる足がかりになればと願うものである.
 2015年9月
 石井 宏
 第2版の発刊にあたって(石井 宏)
 初版の発刊にあたって(石井 宏)
Chapter 1 診査・診断と意思決定
 I 診査
  1.臨床診査(伊藤創平)
   A 問診
   B 口腔外診査
   C 口腔内診査
  2.画像診査(新谷武史)
   A  X線画像診断
   B  CBCTでの画像診断
 II 歯髄の診断(伊藤創平)
   A 意思決定に結びつく歯髄診断の分類
   B  AAEの分類に基づく診断名
 III 根尖歯周組織の診断(橋 玄)
   A 根尖歯周組織の診査結果の解釈
   B 根尖歯周組織の病名のつけ方
   C 他疾患との鑑別
 IV 痛みの鑑別診断(石井 宏)
   A クラックトゥースの鑑別
   B 非歯原性疼痛との鑑別診断
 V 歯内療法の成功率(清水花織・石井 宏)
   A 成功の判定基準
   B 非外科的歯内療法の成功率
   C 外科的歯内療法の成功率
 VI 歯内療法における意思決定
  1.歯髄保存の意思決定(石井 宏)
   A 症例の選択
   B 原因の除去
   C 術式の選択
  2.再治療の意思決定(尾上正治)
   A 成功と失敗の基準
   B 診査・診断
   C 再治療の意思決定―治療法の選択基準
   D 再治療における部位別の考察事項
   E 外科・非外科の選択
  3.保存・抜歯の意思決定(石井 宏)
   A 歯内療法専門医が考える保存・抜歯の基準
   B 生物学的要因に基づく患歯の分類
Chapter 2 非外科的歯内療法
 I 臨床に必要な細菌学的考察(田中浩祐)
   A 臨床における細菌培養試験
   B 根尖性歯周炎と細菌
   C 感染根管内の細菌
   D 根尖孔外の細菌
 II 根尖性歯周炎の難治化とその対応(横田 要・石井 宏)
   A 一般的な根尖性歯周炎の原因
   B 根尖性歯周炎難治化の原因
   C 難治化した根尖性歯周炎の対処法
 III 無菌的処置環境(横田 要・石井 宏)
   A 無菌的処置法と根管内細菌の減少法の位置づけ
   B 歯内療法における無菌的処置の実際
 IV さまざまな防湿のテクニック(牛島正雄)
   A ラバーダム防湿法の実際
   B 防湿困難な場合の対応
 V 前処置と主治医や他科との連携
  1.外科的歯冠長延長術(藤本浩平)
   A 歯周病専門医からみた歯冠長延長術のタイミング
   B 歯冠長延長術の理論的背景
   C 歯冠長延長術の実際
  2.矯正歯科的歯冠長延長術(石亀 勝)
   A 矯正歯科的歯冠長延長術の目的
   B 矯正歯科専門医からみた歯の挺出のタイミング
   C 歯の挺出速度のコントロール
   D 適応症・非適応症
   E 術式
 VI 生活歯髄療法(~戸 良)
   A 生活歯髄療法とは
   B 生活歯髄療法の分類
   C 生活歯髄療法の成否に影響を及ぼす因子
   D 生活歯髄療法の術式
   E 生活歯髄療法の術後フォローアップ
 VII Initial Treatment
  1.根管形成(下山智義・尾上正治)
   A 根管形成の目的
   B 根管形成器具
   C 根管形成の手順と戦略
  2.化学的根管洗浄(牛島 寛)
   A 化学的根管洗浄の重要性
   B 化学的根管洗浄に使用する薬剤
   C 洗浄液の運搬方法(delivery system)
  3.根管内貼薬(小板橋 徹)
   A 貼薬剤の選択
   B 根管貼薬の意思決定
   C 臨床における根管貼薬のポイント
  4.根管充填(梅田貴志・牛島 寛・石井 宏)
   A 根管充填の目的
   B 根管充填の概要
   C 根管充填の術式
   D 根管充填の評価
 VIII Retreatment
  1.クラウン・ポストの除去(尾上正治)
   A 術前診査
   B クラウンの除去法
   C ポストの除去法
  2.根管充填材の除去(尾上正治)
   A なぜ根管充填材の除去が必要か?
   B 除去すべき充填材の種類
   C 根管充填材除去に使用する器材
   D 効率的な除去法
 IX 偶発症・困難性への対応
  1.レッジ(梅田貴志・尾上正治)
   A レッジとは
   B レッジ形成の原因
   C レッジ形成の予防
   D レッジの対処法
  2.石灰化根管(横田 要・石井 宏)
   A 歯髄の石灰化とは
   B 診査・診断・意思決定
   C 石灰化根管のマネージメント
  3.穿孔(高橋宏征)
   A 穿孔の原因と好発部位
   B 穿孔の診断
   C 穿孔の予後に影響を与える因子
   D 穿孔の処置
  4.破折器具(梅田貴志・石井 宏)
   A 根管内ファイル破折の予防
   B ファイル破折の診断と意思決定
   C 破折ファイルへの対応
Chapter 3 外科的歯内療法
 I 外科的歯内療法の目的とその成功率(石井 宏・大森さゆり)
   A 外科的歯内療法の位置づけ
   B 外科的歯内療法の適応症と意思決定
   C 外科的歯内療法の術式
   D 外科的歯内療法の成功率
 II 歯根端切除術(石井 宏・大森さゆり)
   A 術前の注意事項
   B 歯根端切除術の術式
   C 術後の注意事項
 III 意図的再植術(石井 宏・伊藤創平)
   A 適応症と非適応症
   B 意図的再植術の術式
   C 歯根膜の保存に関する注意事項
 IV 外科的歯内療法における術後評価(石井 宏・大森さゆり)
   A 術後の創傷治癒
   B 外科的歯内療法における成功の基準
   C 追加的治療介入の意思決定
 V 外科的歯内療法に関連する偶発症(石井 宏)
   A 局所麻酔時の偶発症
   B 審美障害
   C 骨削除・掻爬時の偶発症
   D 根尖切除・逆根管形成・逆根管充填時の偶発症
   E 上顎洞粘膜の傷害
   F 末梢神経の損傷
   G 薬剤関連顎骨壊死
 VI 歯内-歯周病変への外科的歯内療法の応用(石井 宏・大森さゆり)
   A 歯内-歯周病変に外科的歯内療法を行うタイミング
   B 歯内-歯周病変における外科的歯内療法の成功率
   C 骨欠損への対応
   D 歯根端切除術における遮断膜・骨補填材・成長因子の使用
  E GTR法併用時の偶発症
Chapter 4 歯内療法の隣接領域
 I 歯内療法領域における痛みのマネージメント
  1.術後疼痛(田中浩祐)
   A 正常な範囲内の術後疼痛
   B 術後疼痛に対するマネージメント
   C 根管治療で取り除くことができなかった起炎因子による疼痛
   D 術後疼痛に影響を与える因子
   E いわゆるフレアーアップについて
   F 根管充填後に痛みがある場合の築造処置
   G 術後疼痛に関する患者マネージメント
  2.非歯原性疼痛(田中浩祐)
   A 歯科医師が知るべき非歯原性疼痛
   B 歯科医師の役割と臨床における非歯原性疼痛のマネージメント
  3.歯髄炎・根尖性歯周炎における救急対応(尾上正治)
   A 診断の重要性
   B 治療法
   C 補助的治療
   D 救急処置における薬物療法
  4.全身疾患のある患者や全身的偶発症への対応(渡邉征男)
   A 歯科医療をとりまく状況の変化
   B 全身的偶発症
   C 全身的偶発症に対するリスクマネージメント
   D 全身的偶発症における救急対応
  5.歯内療法領域の麻酔(尾上正治)
   A 局所麻酔の奏効を妨げる要因
   B 不可逆性歯髄炎における局所麻酔
   C 追加麻酔(補助的麻酔注射)
 II 歯内療法処置歯における歯冠修復処置
  1.歯冠側からの漏洩(牛島 寛)
   A 歯冠側からの漏洩の概念
   B 細菌漏洩を防止するための臨床上の注意点
  2.支台築造(大森さゆり)
   A 支台築造
   B 築造体と根管との接着
  3.歯冠修復(牛島正雄)
   A 根管治療歯の生体力学的特性
   B 根管治療歯の歯冠修復
   C フェルール効果の重要性
 III 歯内-歯周病変のマネージメント(石井 宏)
   A 病因と病態
   B 分類
   C 各カテゴリーにおける治療手順と予後
   D 意思決定
 IV 外傷歯のマネージメント(李 光純)
   A 外傷後の創傷治癒
   B 外傷歯の分類
   C 外傷歯の診査方法
   D 歯冠破折のマネージメント
   E 歯冠-歯根破折のマネージメント
   F 水平性歯根破折のマネージメント
   G 脱臼歯のマネージメント
   H 脱落歯のマネージメント
   I 外傷歯の合併症
   J 乳歯の外傷
 V 歯牙破折の分類とマネージメント(石井 宏)
   A クラックの典型的な徴候と診断における困難性
   B クラックの診査
   C クラックの分類・診断・治療計画
 VI 歯根吸収の分類とマネージメント(林 佳士登)
   A 永久歯における歯根吸収
   B 歯根吸収に関与する細胞・組織
   C 歯根吸収が起こる条件
   D 歯根表面の治癒と歯根吸収
   E 歯根吸収の分類とマネージメント
 VII 根尖開放歯における歯内療法(濱田泰子・~戸 良・高橋宏征)
   A 根尖開放歯の分類とその原因
   B 治療の困難性
   C 根尖開放歯の根尖閉鎖法
 VIII 矯正歯科治療と歯内療法の関係(石亀 勝)
   A 根管治療歯に対する矯正歯科治療
   B 矯正歯科治療による歯髄への影響
   C 歯の動きとそれに伴う歯根吸収
   D 歯の移動時における生活歯と根管治療歯の歯根吸収反応の違い
   E 矯正歯科治療と根管治療のどちらを先に行うか?
   F 根管治療後の歯の移動開始時期
   G トラブルへの対処法
   H 根管治療後の処置と矯正歯科治療の前準備
 IX Regenerative Endodontic Therapy(RET)(田中浩祐・横田 要)
   A 幹細胞を応用した再生療法
   B リバスクラリゼーション
 X 歯内療法とバイオセラミック系材料(下山智義・石井 宏)
   A バイオセラミック系材料とは
   B バイオセラミック系材料の物理・化学的特性
   C 操作方法と臨床例
 XI 失活歯の変色と漂白(近 加名代)
   A 歯の変色の原因
   B インターナルブリーチに用いる薬剤
   C インターナルブリーチのテクニック
   D 偶発症
   E インターナルブリーチ後の修復処置
   F インターナルブリーチの成功率
   G 患者満足度

 Index