やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

子どもの頃から矯正治療をするのは何のため?
 「矯正治療」と聞くと,皆さんは何をイメージされますか?
 ほとんどの方は,「歯並びをきれいにすること」を思い浮かべるでしょう.確かに,それは矯正治療の最もわかりやすいイメージです.しかし,矯正治療ができることは,実はそれだけではありません.
 8〜10歳頃になると,歯の生え替わりが進み,あごの骨も成長してきて,不正咬合(出っ歯,受け口,歯並びのデコボコなど)の特徴が出始めます.
 不正咬合は見た目が気になるだけでなく,食べる,話す,呼吸するといった日常の動作にも影響しますし,場合によってはあごや歯の痛みにつながることもあります.
 適切な時期に適切な矯正治療をすることで,不正咬合が原因で起こる問題を防ぎ,将来の歯並びや顔かたちに良い影響を与えることができます.結果として,それがお子さんの心の成長にもプラスになります.
 たとえば,骨格に問題がある受け口(下顎前突)では,8〜10歳頃の時期にしかできない矯正治療があります.それを逃してしまうと,大人になって受け口をなおすには手術が必要になる場合が多いのです.
 また,永久歯の生えてくる方向に異常がある場合は,なるべく早く矯正治療を行って,正常な場所に歯を誘導してあげないと,将来のかみ合わせや歯並びに悪い影響がおよぶことがあります.
 さらに,日本人の約10人に1人は,永久歯の本数が生まれつき少ない(先天性欠損)といわれています.多くの場合,生活によほど問題がなければそのままにしてしまうでしょうが,それが将来,大きな問題を引き起こすことがあります.大人になってから矯正治療をしようとすると,長い期間がかかることもあります.
 私が矯正治療を学んだ歯科治療先進国である北欧の国スウェーデンでは,子どもの成長や発育に必要な矯正治療は無料で受けられます.ですから,スウェーデンでは矯正治療は身近な歯科治療であり,誰もが必要な矯正治療を受けられる体制が整っています.
 しかし,その治療費は国が出しているので,人口わずか1,000万人の小さな国スウェーデンでは,支出を極力抑えるために費用対効果が最も高い治療が選ばれて行われます.
 子どもの頃にしか行えない矯正治療は,そのような費用対効果の高い治療と位置づけられています.
 一方,日本では,子どもの成長や発育に必要な矯正治療であっても,保険診療にはなりません.親御さんは,お子さんを歯科医院に連れて行って矯正治療の相談をし,治療をするとなったら,それなりの費用を支払う必要があります.
 労力とお金をかけるのですから,費用対効果の高い矯正治療を希望されるのは当然で,それはきっとスウェーデンで行われている矯正治療と同じだと思います.
 お子さんの健やかな成長や発育のため,
 どの時期に,どのような治療を,どれだけの期間,行えばよいか
 それを皆さんにわかりやすくお伝えするのが,この本のねらいです.
 この本に掲載している子どもの時期から始める矯正治療は,お顔の成長や歯の生え替わりに対して,
 (1)すでに起こっている大きな問題を改善すること
 (2)これから起こりうる大きな問題を予防すること
 が目的です.
 ですから,この時期に矯正治療をしても,必ずしも将来きれいな歯並びになるというわけではありません.すべて大人の歯に生え替わってから,本格矯正が必要になる場合もあります.ただ,その場合も,子どもの頃に矯正治療をしておくことで,本格矯正をスムーズに進めることができますし,治療結果も良いものになります.
 この本を通じて,スウェーデンで行われている“本当に必要な矯正治療”が皆さんに届くことを願っています.
 2020年9月
 スウェーデン矯正歯科 院長 石川 基
 子どもの頃から矯正治療をするのは何のため?
 子どもの年齢別チェックリスト
 お子さんの口の中,気になるのはどこですか?
 矯正治療に使う装置の種類
CASE 01 子どもの歯が早くに抜けてしまった(乳歯の早期脱落)
CASE 02 上の奥歯が変な位置に生えてきた(異所萌出)
CASE 03 大人の歯がなかなか生えてこない(萌出遅延)
CASE 04 歯が出てこない(埋伏歯)
CASE 05 子どもの歯が抜けない(乳歯の晩期残存)
CASE 06 大人の前歯が生えてこない(先天性欠損)
CASE 07 大人の奥歯が生えてこない(先天性欠損)
CASE 08 歯並びがデコボコしている(叢生)
CASE 09 すきっ歯(空隙歯列)
CASE 10 出っ歯(骨格性上顎前突)
CASE 11 前歯が1本飛び出ている(歯性上顎前突)
CASE 12 受け口(骨格性反対咬合)
CASE 13 下の前歯が2〜3本前に出ている(歯性反対咬合)
CASE 14 前歯がかみ合わない(開咬)
CASE 15 かみ合わせが深すぎる(過蓋咬合)
 気をつけたい習慣
CASE 16 片側の奥歯のかみ合わせがおかしい(奥歯の反対咬合)
CASE 17 両側とも奥歯のかみ合わせがおかしい(奥歯の反対咬合)
CASE 18 片側の奥歯がかみ合わない(鋏状咬合)
CASE 19 両側の奥歯がかみ合わない(鋏状咬合)
CASE 20 下の奥歯が変な位置に生えてきた(異所萌出)