はじめに
健康寿命の延伸は,わが国はもとよりグローバルな健康課題です.地球規模で進む人口増加と高齢化のなかで,「誰一人取り残されることなく」健康を享受できる世界を目指すことが必要です.これは2015年9月に国連サミットで採択された『持続可能な開発のための2030アジェンダ』とその『持続可能な開発目標:SDGs』のなかでも,ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(universal health coverage:UHC,すべての人が適切な予防・治療・リハビリ等の保健医療サービスを,必要なときに支払い可能な費用で受けられる状態)として位置づけられている国際目標です.いずれの国においてもその人的・経済的資源は限られており,より効率的で効果的な保健医療サービスの提供を追究していくには,エビデンスに基づく多分野の連携が欠かせません.
こうした目標のために,健康な食生活を維持することは,いずれの国や地域においても健康寿命の延伸のための基本的取り組みとなります.特に過栄養による肥満をリスクとする生活習慣病(非感染性疾患:non-communicable diseases;NCDs)予防と,低栄養によるフレイル予防という健康目標においては,食生活は運動とともに不可欠なものです.
わが国は,国民皆保険制度がスタートして60年近くが経過している,UHCの最前線にいます.しかも高齢化が最も進んでいる国として,その取り組みは世界から注目されているとともに,その成果や学びを世界に還元する責任も担っています.
健康政策における「健康日本21(第二次)」(2013-2022年)においては,健康寿命の延伸と健康格差の縮小という最終目標達成のために,生活習慣病(NCDs)の発症予防と重症化予防の徹底および社会生活を営むために必要な機能の維持及び向上を図るうえで,「栄養・食生活」,「身体活動・運動」,「休養・こころの健康」,「飲酒」,「たばこ」および「歯・口腔の健康」は6 つの基本要素と位置づけられています.しかしながら,これらの基本要素は各専門分野にまたがっていて,そのアウトカムに基づくその連携は必ずしも十分ではありません.
本書は,このような背景のなかで,口腔保健と栄養の分野の連携を進めることを目的に企画されたものです.その契機となったのは,2019年6月29,30 日に東京大学で開催された第28 回日本健康教育学会学術大会の大会長を筆者が務めることになり,その企画のなかで大会の記念の出版物として考えられたものです.
この大会のテーマは,「健康教育・ヘルスプロモーションと健康政策─健康寿命の延伸に向けて分野ごとの短期・長期アウトカム評価をどう共有するか」というものでした.この学会は医科,歯科,栄養,運動,禁煙,学校保健等健康に関わる多くの専門分野が参画していることに特徴があります.そして「口腔保健と栄養」のシンポジウムも開催されました.
本書の対象者(読者)は,歯科医師,歯科衛生士,栄養士・管理栄養士,医師,保健師,看護師等医科領域専門職,および健康政策の企画立案にあたる行政職を想定しています.歯・口腔の健康状態が悪ければうまく噛めない.その結果,食品選択の幅は狭まり,食の多様性が失われ栄養バランスが崩れる.このような口腔保健と栄養との関連は経験的にも概念的にも理解しやすいものです.そして本書のなかで示したように,そのエビデンスも蓄積されてきています.しかしながら,両者の連携には,連携の場,評価指標の共有,歯学教育・栄養学教育,両分野の専門職の連携にかかわる法的根拠等いくつかの課題が残されています.そのためこれらの課題を乗り越えていくための助けとなり,各職種が連携をするために有用なエビデンスと実践例を紹介するものとなっています.
本書の構成は,歯科専門職および栄養専門職が,お互いの連携に取り組もうとした場合に,手元においていつでも確認できるエビデンスと健康政策の潮流の中での実践事例をコンパクトに収めています.その章の構成は,
(1)健康寿命の延伸のための健康政策,(2)ライフコースにおける栄養の特性.(3)口腔保健と栄養を結ぶエビデンス,(4)多職種連携の場面・効果,としました.読者が興味ある個所のどこから読んでも理解できるように,各項目の構成も基本的に,(1)背景,(2)エビデンス,(3)実践と統一した書式としています.
また,口腔保健および栄養分野で用いられる専門用語については,各専門職が理解しやすいように巻末に用語解説を加えています.
本書が,口腔保健と栄養という食生活にかかわる両分野の連携が進み,人々の健康寿命の延伸に役立つことができれば望外の喜びです.
結びに,本書の分担をお願いした各著者は,この分野の研究の最前線におられ,政策提言および実践面で経験を積まれた方々です.本企画の意図に賛同していただき協力をいただいたことに感謝申し上げます.また,粘り強く本書の編集作業に当たられた医歯薬出版株式会社の関係者に謝意を表します.
深井保健科学研究所
深井穫博
健康寿命の延伸は,わが国はもとよりグローバルな健康課題です.地球規模で進む人口増加と高齢化のなかで,「誰一人取り残されることなく」健康を享受できる世界を目指すことが必要です.これは2015年9月に国連サミットで採択された『持続可能な開発のための2030アジェンダ』とその『持続可能な開発目標:SDGs』のなかでも,ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(universal health coverage:UHC,すべての人が適切な予防・治療・リハビリ等の保健医療サービスを,必要なときに支払い可能な費用で受けられる状態)として位置づけられている国際目標です.いずれの国においてもその人的・経済的資源は限られており,より効率的で効果的な保健医療サービスの提供を追究していくには,エビデンスに基づく多分野の連携が欠かせません.
こうした目標のために,健康な食生活を維持することは,いずれの国や地域においても健康寿命の延伸のための基本的取り組みとなります.特に過栄養による肥満をリスクとする生活習慣病(非感染性疾患:non-communicable diseases;NCDs)予防と,低栄養によるフレイル予防という健康目標においては,食生活は運動とともに不可欠なものです.
わが国は,国民皆保険制度がスタートして60年近くが経過している,UHCの最前線にいます.しかも高齢化が最も進んでいる国として,その取り組みは世界から注目されているとともに,その成果や学びを世界に還元する責任も担っています.
健康政策における「健康日本21(第二次)」(2013-2022年)においては,健康寿命の延伸と健康格差の縮小という最終目標達成のために,生活習慣病(NCDs)の発症予防と重症化予防の徹底および社会生活を営むために必要な機能の維持及び向上を図るうえで,「栄養・食生活」,「身体活動・運動」,「休養・こころの健康」,「飲酒」,「たばこ」および「歯・口腔の健康」は6 つの基本要素と位置づけられています.しかしながら,これらの基本要素は各専門分野にまたがっていて,そのアウトカムに基づくその連携は必ずしも十分ではありません.
本書は,このような背景のなかで,口腔保健と栄養の分野の連携を進めることを目的に企画されたものです.その契機となったのは,2019年6月29,30 日に東京大学で開催された第28 回日本健康教育学会学術大会の大会長を筆者が務めることになり,その企画のなかで大会の記念の出版物として考えられたものです.
この大会のテーマは,「健康教育・ヘルスプロモーションと健康政策─健康寿命の延伸に向けて分野ごとの短期・長期アウトカム評価をどう共有するか」というものでした.この学会は医科,歯科,栄養,運動,禁煙,学校保健等健康に関わる多くの専門分野が参画していることに特徴があります.そして「口腔保健と栄養」のシンポジウムも開催されました.
本書の対象者(読者)は,歯科医師,歯科衛生士,栄養士・管理栄養士,医師,保健師,看護師等医科領域専門職,および健康政策の企画立案にあたる行政職を想定しています.歯・口腔の健康状態が悪ければうまく噛めない.その結果,食品選択の幅は狭まり,食の多様性が失われ栄養バランスが崩れる.このような口腔保健と栄養との関連は経験的にも概念的にも理解しやすいものです.そして本書のなかで示したように,そのエビデンスも蓄積されてきています.しかしながら,両者の連携には,連携の場,評価指標の共有,歯学教育・栄養学教育,両分野の専門職の連携にかかわる法的根拠等いくつかの課題が残されています.そのためこれらの課題を乗り越えていくための助けとなり,各職種が連携をするために有用なエビデンスと実践例を紹介するものとなっています.
本書の構成は,歯科専門職および栄養専門職が,お互いの連携に取り組もうとした場合に,手元においていつでも確認できるエビデンスと健康政策の潮流の中での実践事例をコンパクトに収めています.その章の構成は,
(1)健康寿命の延伸のための健康政策,(2)ライフコースにおける栄養の特性.(3)口腔保健と栄養を結ぶエビデンス,(4)多職種連携の場面・効果,としました.読者が興味ある個所のどこから読んでも理解できるように,各項目の構成も基本的に,(1)背景,(2)エビデンス,(3)実践と統一した書式としています.
また,口腔保健および栄養分野で用いられる専門用語については,各専門職が理解しやすいように巻末に用語解説を加えています.
本書が,口腔保健と栄養という食生活にかかわる両分野の連携が進み,人々の健康寿命の延伸に役立つことができれば望外の喜びです.
結びに,本書の分担をお願いした各著者は,この分野の研究の最前線におられ,政策提言および実践面で経験を積まれた方々です.本企画の意図に賛同していただき協力をいただいたことに感謝申し上げます.また,粘り強く本書の編集作業に当たられた医歯薬出版株式会社の関係者に謝意を表します.
深井保健科学研究所
深井穫博
はじめに 深井穫博
序文
幸福な健康をもたらす栄養と口腔保健の連携の重要性(ポーラ・モイニハン)
1章 健康寿命の延伸のための(口腔保健・栄養に関する)健康政策
グローバルな動向(小川祐司)
日本の栄養政策の動向(武見ゆかり)
日本の口腔保健に関する健康政策(深井穫博)
2章 ライフコースにおける栄養の特性
健康と栄養(新開省二・成田美紀)
NCDsの観点(過栄養等)から(成田美紀)
フレイルの観点(低栄養等)から(横山友里)
食行動と口腔保健(深井穫博)
調理と食形態(中川(岩崎)裕子)
3章 口腔保健と栄養をむすぶエビデンス
栄養摂取と口腔保健の関係(岩崎正則)
食事の多様性と口腔保健(岩崎正則)
補綴治療と栄養(鈴木啓之・水口俊介)
フレイル,サルコペニアと口腔保健(平野浩彦)
よく噛むことと栄養(葭原明弘・宮本 茜)
認知症予防と栄養・口腔保健(葭原明弘・宮本 茜)
摂食嚥下と栄養(竹内研時)
砂糖摂取・肥満と口腔保健(小川祐司)
4章 多職種連携の場面・効果
特定保健指導の場面〜標準的な質問票における歯科関連項目の回答への対応〜(安藤雄一)
速食い是正指導の場面(古田美智子)
歯科診療所で管理栄養士が(特定)保健指導に関わる場面(武内博朗・寺田美香・小林和子・花田信弘)
Column 特定健康診査と定期健康診断の違いと,歯科医師の活躍(武内博朗・花田信弘)
病院におけるNST(岩佐康行)
介護保険施設におけるミールラウンド(食事観察)(枝広あや子)
認知症患者の食事支援(枝広あや子)
特別支援学校における食支援(遠藤眞美)
食育(学校保健)(中西明美)
成人歯科保健・口腔保健指導〜日本歯科医師会「標準的な成人歯科健診プログラム(生活歯援プログラム)」の活用(深井穫博)
栄養と口腔を理解する用語集
栄養編(中西明美)
歯科編(深井穫博)
まとめ(深井穫博)
索引
序文
幸福な健康をもたらす栄養と口腔保健の連携の重要性(ポーラ・モイニハン)
1章 健康寿命の延伸のための(口腔保健・栄養に関する)健康政策
グローバルな動向(小川祐司)
日本の栄養政策の動向(武見ゆかり)
日本の口腔保健に関する健康政策(深井穫博)
2章 ライフコースにおける栄養の特性
健康と栄養(新開省二・成田美紀)
NCDsの観点(過栄養等)から(成田美紀)
フレイルの観点(低栄養等)から(横山友里)
食行動と口腔保健(深井穫博)
調理と食形態(中川(岩崎)裕子)
3章 口腔保健と栄養をむすぶエビデンス
栄養摂取と口腔保健の関係(岩崎正則)
食事の多様性と口腔保健(岩崎正則)
補綴治療と栄養(鈴木啓之・水口俊介)
フレイル,サルコペニアと口腔保健(平野浩彦)
よく噛むことと栄養(葭原明弘・宮本 茜)
認知症予防と栄養・口腔保健(葭原明弘・宮本 茜)
摂食嚥下と栄養(竹内研時)
砂糖摂取・肥満と口腔保健(小川祐司)
4章 多職種連携の場面・効果
特定保健指導の場面〜標準的な質問票における歯科関連項目の回答への対応〜(安藤雄一)
速食い是正指導の場面(古田美智子)
歯科診療所で管理栄養士が(特定)保健指導に関わる場面(武内博朗・寺田美香・小林和子・花田信弘)
Column 特定健康診査と定期健康診断の違いと,歯科医師の活躍(武内博朗・花田信弘)
病院におけるNST(岩佐康行)
介護保険施設におけるミールラウンド(食事観察)(枝広あや子)
認知症患者の食事支援(枝広あや子)
特別支援学校における食支援(遠藤眞美)
食育(学校保健)(中西明美)
成人歯科保健・口腔保健指導〜日本歯科医師会「標準的な成人歯科健診プログラム(生活歯援プログラム)」の活用(深井穫博)
栄養と口腔を理解する用語集
栄養編(中西明美)
歯科編(深井穫博)
まとめ(深井穫博)
索引