はじめに
1 口腔機能と音声言語機能
多くの歯科医師にとって,音声・言語機能は,「近くて遠きもの,遠くて近きもの」といえるのではないだろうか.私たちは口腔の重要性を訴える際に,「口腔は,噛むこと,食べること,さらには,話すことという,人にとって重要な機能を担っている」などと表現する.しかし,音声・言語機能についての理解は十分とはいえない.
音声・言語機能を司る器官の多くは,咀嚼器官であることはいうまでもなく,音声・言語機能の評価は,咀嚼機能の評価にも値する.口腔諸器官に運動障害が生じたり,器質的な問題が生じたりすると咀嚼機能はもとより発語に問題が生じる.すなわち,歯科医師は,こうした兆候から口腔諸器官の問題を読み取ることも可能となる.「患者の声を聴け!」患者の訴えに傾聴し,さらには,声なき声をも読み解くこと.それは,患者に寄り添う歯科医師として,必要なスキルとなる.一方で,患者の声に耳を傾け,患者の声の質に気を止めれば,咀嚼機能に影響する口腔の諸問題が明らかとなる.
歯科医師は,音声・言語機能にとって重要な歯,歯列をはじめとした口の構造をダイナミックに変化させる力を持っている.音声・言語機能に思いをはせながら構造の変化を図れば,それは,時としていかなるアプローチをも超えてその改善に寄与するが,無為に手を加えれば,機能に重大な影響を与える.
多くの神経筋疾患の初発症状が言語障害や咀嚼障害であるように,口腔機能を広く理解することは,これら疾患の早期発見にもつながる.また,歯科医師が耳鼻咽喉科や神経内科などの医師と連携し,さらには,言語聴覚士と協働するためにも重要なスキルとなる.
歯を守るだけでは口腔機能を守ることが困難になってきた時代に本書はすべての歯科医師,歯学生に手にとっていただきたいと考えている.
2 歯科医師としてどうかかわるか
上述の通り,歯や舌などの口腔諸器官と構音は密接に関係する.
歯科医師として構音機能の低下から最も想起しなくてはならないのは,歯の喪失や歯列の異常である.しかし,歯の問題を意識しすぎて口腔機能全体に視野を広げる機会を逸することがないようにしなくてはならない.口腔機能に影響を与える全身的な疾患の存在,加齢による影響などを複合的に捉え,歯の喪失,歯列や義歯の問題などと絡めながら問題を整理していく必要がある.そして,患者の声の変化を端緒として,口腔に問題があれば適切に対処する.また,耳鼻咽喉科領域に問題が疑われたら迅速に患者を紹介するなどの対応を行う.また,音声言語の専門家である言語聴覚士とも密に連携を図ったり,対応可能な医療機関への紹介等も検討するようにしなくてはならない.
(菊谷 武)
1 口腔機能と音声言語機能
多くの歯科医師にとって,音声・言語機能は,「近くて遠きもの,遠くて近きもの」といえるのではないだろうか.私たちは口腔の重要性を訴える際に,「口腔は,噛むこと,食べること,さらには,話すことという,人にとって重要な機能を担っている」などと表現する.しかし,音声・言語機能についての理解は十分とはいえない.
音声・言語機能を司る器官の多くは,咀嚼器官であることはいうまでもなく,音声・言語機能の評価は,咀嚼機能の評価にも値する.口腔諸器官に運動障害が生じたり,器質的な問題が生じたりすると咀嚼機能はもとより発語に問題が生じる.すなわち,歯科医師は,こうした兆候から口腔諸器官の問題を読み取ることも可能となる.「患者の声を聴け!」患者の訴えに傾聴し,さらには,声なき声をも読み解くこと.それは,患者に寄り添う歯科医師として,必要なスキルとなる.一方で,患者の声に耳を傾け,患者の声の質に気を止めれば,咀嚼機能に影響する口腔の諸問題が明らかとなる.
歯科医師は,音声・言語機能にとって重要な歯,歯列をはじめとした口の構造をダイナミックに変化させる力を持っている.音声・言語機能に思いをはせながら構造の変化を図れば,それは,時としていかなるアプローチをも超えてその改善に寄与するが,無為に手を加えれば,機能に重大な影響を与える.
多くの神経筋疾患の初発症状が言語障害や咀嚼障害であるように,口腔機能を広く理解することは,これら疾患の早期発見にもつながる.また,歯科医師が耳鼻咽喉科や神経内科などの医師と連携し,さらには,言語聴覚士と協働するためにも重要なスキルとなる.
歯を守るだけでは口腔機能を守ることが困難になってきた時代に本書はすべての歯科医師,歯学生に手にとっていただきたいと考えている.
2 歯科医師としてどうかかわるか
上述の通り,歯や舌などの口腔諸器官と構音は密接に関係する.
歯科医師として構音機能の低下から最も想起しなくてはならないのは,歯の喪失や歯列の異常である.しかし,歯の問題を意識しすぎて口腔機能全体に視野を広げる機会を逸することがないようにしなくてはならない.口腔機能に影響を与える全身的な疾患の存在,加齢による影響などを複合的に捉え,歯の喪失,歯列や義歯の問題などと絡めながら問題を整理していく必要がある.そして,患者の声の変化を端緒として,口腔に問題があれば適切に対処する.また,耳鼻咽喉科領域に問題が疑われたら迅速に患者を紹介するなどの対応を行う.また,音声言語の専門家である言語聴覚士とも密に連携を図ったり,対応可能な医療機関への紹介等も検討するようにしなくてはならない.
(菊谷 武)
はじめに(菊谷 武)
1編 構音障害とは
1章 発生・発語のメカニズム(大森孝一)
1 はじめに
2 発生と発語
1─発声のメカニズム
2─発語のメカニズム
3─発声・発語の発達と減退
メモ [ ]と// の違い(橋本久美)
2章 構音器官の解剖学的特徴(香取幸夫)
1 下顎
2 舌
3 口唇
4 口蓋帆
3章 構音障害とその原因(西澤典子)
1 構音障害とは
2 構音障害の分類
3 構音障害の原因と治療
1─器質性構音障害
2─運動障害性構音障害
3─機能性構音障害
4章 口腔と構音障害(吉田光由)
1 歯,顎の欠損と構音障害
2 母音と子音の生成
1─構音障害の種類
3 顎欠損と構音障害
4 歯の欠損と構音障害
5 発声・発語(構音)と発話
2編 構音障害の評価とは
1章 構音障害の評価(橋本久美)
1 はじめに
2 発声発語器官の形態・運動機能・感覚機能の評価
1─形態の評価
2─口腔運動機能の評価
3─感覚機能の評価
4─呼吸機能の評価
3 発話の検査
1─構音検査
2─明瞭度検査
3─発話特徴の評価
4 鼻咽腔閉鎖機能の評価
1─鼻咽腔閉鎖機能とは
2─鼻咽腔閉鎖機能不全の原因
3─鼻咽腔閉鎖機能検査
5 声の検査
1─大きさ
2─高さ
3─長さ
4─音質(声質)
6 パラトグラフィ(palatography)
1─スタティックパラトグラフィ
2─ダイナミックパラトグラフィ
3編 構音障害と補綴歯科
1章 有床義歯(小野高裕,堀 一浩)
1 有床義歯と構音障害
2 義歯設計上の留意点
1─義歯床(粘膜面,研磨面)
2─大連結装置
3─維持(支台)装置
4─人工歯
2章 舌接触補助床(PAP)(堀 一浩,小野高裕)
1 概要
2 適応症
3 製作方法
4 装着による効果と限界
3章 顎補綴装置(顎義歯)(小野高裕,堀 一浩)
1 概要
2 上顎切除症例に対するさまざまな補綴装置
3 上顎顎義歯の製作方法
4 上顎顎義歯の効果と限界
5 下顎領域の顎補綴治療
4章 軟口蓋挙上装置(PLP)とその他の鼻咽腔部補綴装置(堀 一浩,小野高裕)
1 概要
2 PLP
3 バルブ型鼻咽腔部補綴装置
COLUMN NSVとソフトPAP(川上滋央,皆木省吾)
COLUMN モバイル型PLP(大野友久)
4編 原疾患の概説と障害への介入
1章 口腔疾患による構音障害 口唇口蓋裂
1 疾患の概要と治療の流れ(小森 成)
1─出生から口唇形成まで
2─口唇形成から口蓋形成まで
3─幼児期(口蓋形成以降)
4─学童期
5─思春期
2 障害に対する機能訓練(西脇恵子)
1─言語の特徴
2─評価
3─発話障害への介入
2章 口腔疾患による構音障害 舌小帯付着位置異常(舌小帯短縮症)
1 疾患の概要と治療方針(小口莉代,小方清和)
2 構音障害への介入(西脇恵子)
1─術前検査
2─術後検査
3─機能訓練
3章 口腔疾患による構音障害 顎変形症による構音障害(吉田光由)
1 顎変形症とは
2 顎変形症と構音障害
4章 口腔疾患による構音障害 口腔咽頭癌術後─概要と構音障害への介入(田中 彰)
1 口腔咽頭癌の疫学と標準治療
1─口腔咽頭癌の疫学
2─口腔癌の標準治療
2 口腔咽頭癌手術と構音障害
1─舌癌術後の構音障害
2─その他の口腔咽頭癌の構音障害
3─構音障害の評価
4─構音障害の訓練
3 口腔咽頭癌術後の構音障害と歯科
5章 機能性構音障害(西脇恵子)
1 疾患の概要
1─未熟な発達に起因する構音障害
2─異常な構音様式が習慣化した構音障害
2 構音障害に対する評価
3 構音障害に対する介入
1─目的
2─舌や口唇の使い方に対する運動機能訓練
3─構音訓練
6章 吃音(西脇恵子)
1 概要
2 コミュニケーション障害への介入
1─流暢性の促進
2─環境調整
3─リスクマネジメント
7章 脳性麻痺
1 疾患の概要と治療の流れ(田村文誉)
1─脳性麻痺とは
2 コミュニケーション障害への介入(西脇恵子)
1─脳性麻痺児の構音障害の特徴
2─評価
3─コミュニケーション障害への介入
8章 関連するその他の障害への対応 自閉スペクトラム症
1 疾患の概要と治療の流れ(田村文誉)
1─自閉スペクトラム症とは
2 コミュニケーション障害への介入(西脇恵子)
1─言語・コミュニケーションの特徴
2─評価
3─目標
4─コミュニケーション障害への介入
9章 関連するその他の障害への対応 知的能力障害
1 疾患の概要と治療の流れ(田村文誉)
1─知的能力障害とは
2 コミュニケーション障害への介入(西脇恵子)
1─評価
2─指導・支援
5編 構音障害と発話障害
1章 構音障害と発話障害(高島良代)
1 コミュニケーションへの対応:リハビリテーション
1─運動・感覚の機能に直接アプローチする方法
2─代償手段を使ってアプローチする方法
3─環境の設定
4─合併症への配慮
2 AACについて
1─ AACの定義
2─ AACの種類
3─疾患別
4─導入時の評価
5─誰が使用するのかを考える
6─継続使用のための支援
1編 構音障害とは
1章 発生・発語のメカニズム(大森孝一)
1 はじめに
2 発生と発語
1─発声のメカニズム
2─発語のメカニズム
3─発声・発語の発達と減退
メモ [ ]と// の違い(橋本久美)
2章 構音器官の解剖学的特徴(香取幸夫)
1 下顎
2 舌
3 口唇
4 口蓋帆
3章 構音障害とその原因(西澤典子)
1 構音障害とは
2 構音障害の分類
3 構音障害の原因と治療
1─器質性構音障害
2─運動障害性構音障害
3─機能性構音障害
4章 口腔と構音障害(吉田光由)
1 歯,顎の欠損と構音障害
2 母音と子音の生成
1─構音障害の種類
3 顎欠損と構音障害
4 歯の欠損と構音障害
5 発声・発語(構音)と発話
2編 構音障害の評価とは
1章 構音障害の評価(橋本久美)
1 はじめに
2 発声発語器官の形態・運動機能・感覚機能の評価
1─形態の評価
2─口腔運動機能の評価
3─感覚機能の評価
4─呼吸機能の評価
3 発話の検査
1─構音検査
2─明瞭度検査
3─発話特徴の評価
4 鼻咽腔閉鎖機能の評価
1─鼻咽腔閉鎖機能とは
2─鼻咽腔閉鎖機能不全の原因
3─鼻咽腔閉鎖機能検査
5 声の検査
1─大きさ
2─高さ
3─長さ
4─音質(声質)
6 パラトグラフィ(palatography)
1─スタティックパラトグラフィ
2─ダイナミックパラトグラフィ
3編 構音障害と補綴歯科
1章 有床義歯(小野高裕,堀 一浩)
1 有床義歯と構音障害
2 義歯設計上の留意点
1─義歯床(粘膜面,研磨面)
2─大連結装置
3─維持(支台)装置
4─人工歯
2章 舌接触補助床(PAP)(堀 一浩,小野高裕)
1 概要
2 適応症
3 製作方法
4 装着による効果と限界
3章 顎補綴装置(顎義歯)(小野高裕,堀 一浩)
1 概要
2 上顎切除症例に対するさまざまな補綴装置
3 上顎顎義歯の製作方法
4 上顎顎義歯の効果と限界
5 下顎領域の顎補綴治療
4章 軟口蓋挙上装置(PLP)とその他の鼻咽腔部補綴装置(堀 一浩,小野高裕)
1 概要
2 PLP
3 バルブ型鼻咽腔部補綴装置
COLUMN NSVとソフトPAP(川上滋央,皆木省吾)
COLUMN モバイル型PLP(大野友久)
4編 原疾患の概説と障害への介入
1章 口腔疾患による構音障害 口唇口蓋裂
1 疾患の概要と治療の流れ(小森 成)
1─出生から口唇形成まで
2─口唇形成から口蓋形成まで
3─幼児期(口蓋形成以降)
4─学童期
5─思春期
2 障害に対する機能訓練(西脇恵子)
1─言語の特徴
2─評価
3─発話障害への介入
2章 口腔疾患による構音障害 舌小帯付着位置異常(舌小帯短縮症)
1 疾患の概要と治療方針(小口莉代,小方清和)
2 構音障害への介入(西脇恵子)
1─術前検査
2─術後検査
3─機能訓練
3章 口腔疾患による構音障害 顎変形症による構音障害(吉田光由)
1 顎変形症とは
2 顎変形症と構音障害
4章 口腔疾患による構音障害 口腔咽頭癌術後─概要と構音障害への介入(田中 彰)
1 口腔咽頭癌の疫学と標準治療
1─口腔咽頭癌の疫学
2─口腔癌の標準治療
2 口腔咽頭癌手術と構音障害
1─舌癌術後の構音障害
2─その他の口腔咽頭癌の構音障害
3─構音障害の評価
4─構音障害の訓練
3 口腔咽頭癌術後の構音障害と歯科
5章 機能性構音障害(西脇恵子)
1 疾患の概要
1─未熟な発達に起因する構音障害
2─異常な構音様式が習慣化した構音障害
2 構音障害に対する評価
3 構音障害に対する介入
1─目的
2─舌や口唇の使い方に対する運動機能訓練
3─構音訓練
6章 吃音(西脇恵子)
1 概要
2 コミュニケーション障害への介入
1─流暢性の促進
2─環境調整
3─リスクマネジメント
7章 脳性麻痺
1 疾患の概要と治療の流れ(田村文誉)
1─脳性麻痺とは
2 コミュニケーション障害への介入(西脇恵子)
1─脳性麻痺児の構音障害の特徴
2─評価
3─コミュニケーション障害への介入
8章 関連するその他の障害への対応 自閉スペクトラム症
1 疾患の概要と治療の流れ(田村文誉)
1─自閉スペクトラム症とは
2 コミュニケーション障害への介入(西脇恵子)
1─言語・コミュニケーションの特徴
2─評価
3─目標
4─コミュニケーション障害への介入
9章 関連するその他の障害への対応 知的能力障害
1 疾患の概要と治療の流れ(田村文誉)
1─知的能力障害とは
2 コミュニケーション障害への介入(西脇恵子)
1─評価
2─指導・支援
5編 構音障害と発話障害
1章 構音障害と発話障害(高島良代)
1 コミュニケーションへの対応:リハビリテーション
1─運動・感覚の機能に直接アプローチする方法
2─代償手段を使ってアプローチする方法
3─環境の設定
4─合併症への配慮
2 AACについて
1─ AACの定義
2─ AACの種類
3─疾患別
4─導入時の評価
5─誰が使用するのかを考える
6─継続使用のための支援














