やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 既に本邦は超高齢社会と言われて久しく,全人口の65 歳以上の占める割合(高齢化率)は27.7%(2017 年10 月1 日現在,総務省統計局)で過去最大となっており,この傾向は今後も続くことが予測されます.これまでの歯科医療従事者の尽力により,義歯装着者の割合は減少していると思われますが,高齢者数の増加により義歯装着者は依然多く,それに伴い日常臨床での義歯調整の機会も多いのが現状です.
 義歯の調整は装着時に行う義歯床粘膜面の調整や咬合調整等の他,装着後に定期的にあるいは患者が不都合を訴えた時に行われます.治療および技工過程において,かなりの精度で義歯の製作を行ったとしても,微細な誤差を避けることはできず,義歯装着時の調整は必須です.装着時の調整は装着後の義歯機能に大きく影響し,不十分な調整は種々の弊害を引き起こします.そのため正しい手法で繊細に調整を行っていく必要があります.
 さらに義歯を装着後しばらく経過すると,義歯そのものの変化と同時に口腔諸組織も変化するため,義歯の調整は長期にわたり行うこととなります.患者の口腔内の感覚は非常に繊細であり,義歯の調整も当然高い精度が求められます.さらに近年,その機会が増えつつある訪問歯科診療では,通常の診療室に比べ治療環境に制約があり,より効率的な義歯調整の手法が求められます.
 しかしながら,日常臨床で行うことが多い処置であるにも関わらず,義歯の調整に関する書籍は意外と少ないようです.そこで,本書では『義歯調整Update』と銘打ち,まず基本的な事項として義歯装着後の生体と義歯の変化について解説しました.次いで義歯調整の中で実際の臨床において頻度が高い,(1) 義歯床粘膜面の調整,(2) 咬合調整,(3) クラスプの調整,に焦点を絞り,詳細な解説を行いました.
 義歯床粘膜面の調整については,適合試験と適合性の診断について言及し,リリーフそしてリラインについて解説しました.特に最近,保険収載された軟質リライン材の使い方と調整方法については詳説しました.咬合調整については,まず有床義歯補綴の基本となる全部床義歯の咬合調整の復習の意味合いを込めて説明しました.次いで咬耗への対応や部分床義歯での対処法,そして偏位あるいは不安定な顎位を有する有床義歯患者の対応について解説しました.クラスプの調整については,部分床義歯の臨床では頻繁に行う処置ですので別項目とし,その交換あるいは修理時のポイントを記載しました.
 本書は研修医をはじめ歯科医師になって間もない先生方はもちろん,ベテランの先生方にも有益な座右の書となり,日常の有床義歯補綴臨床に役立つものと確信しています.
 2019 年4 月
 長崎大学大学院医歯薬学総合研究科歯科補綴学分野
 村田比呂司
I 義歯調整の重要性
II 義歯装着後の生体と義歯の変化
III 義歯床粘膜面の調整
 義歯の適合試験と適合性の判定基準
 リリーフ
 リライン
  1.リラインの目的とリライン材の種類
  2.軟質リライン材の特徴
  3.軟質材料を用いる有床義歯内面適合法
  4.軟質リラインの術式
  5.軟質リライン義歯の調整
IV 咬合調整
 全部床義歯
  1.咬合小面とは
  2.中心咬合位での咬合調整
  3.中心咬合位で機能咬頭を削合する必要がある場合
  4.作業側および平衡側における咬合調整
  5.咬耗への対応
 部分床義歯
  1.粘膜面の適合試験と咬合調整
  2.義歯が外れやすい時に考慮すること
 下顎位の偏位が疑われる,または不安定な顎位をとる患者への対応
V クラスプの調整
 装着時および定期検査時の注意点
 クラスプ交換,追補修理等に伴う注意点

 参考文献
 索引