やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 本書は月刊『歯科技工』において2015年1月から2017年6月まで掲載された連載記事の内容を再編し,1冊にまとめたものである. 連載当時を振り返ってみれば,毎月13冊の『Prosthodontic Treatment for Edentulous Patients』各版における該当箇所をチェックし,コンビニで全ページをコピーし,各版の変遷について吟味しながら和訳し,原稿を執筆する作業は非常に骨が折れる仕事であった.しかし,同時に自分自身の知識の向上や整理に大いに役立ったことは間違いない.そして,その上で再認識したのは,「最新の教科書が必ずしも最良とは限らない」ということである.近年のエビデンスを重視する姿勢は,“科学的根拠に基づいた治療を行う”という意味では評価するべきなのかもしれないが,逆に十分なエビデンス(インパクトファクターの高い国際雑誌に掲載されている論文)がないからという理由で,先人たちの豊富な臨床経験から得られた言葉に耳を傾けないのは,非常にもったいないことではないだろうかとも感じている.
 「私がもし,他人より遠くを見ているとしたら,それは先人の肩の上に乗っているからだ」というのはアイザック・ニュートンの言葉であるが,我々も先人たちの遺した知識から学び,より良い無歯顎補綴治療を行えるように努力するべきであり,本書が少しでもその役に立つことを祈りたい.
 大阪大学大学院歯学研究科 顎口腔機能再建学講座
 有床義歯補綴学・高齢者歯科学分野 助教
 松田謙一


 私の歯科臨床に関する書籍の読み方は偏向していると言っていいだろう.どこか,それぞれの書籍の中に共通点が存在するのではないかと探しながら読んでしまうからである.各書籍に述べられていることは,著者の長年の豊富な臨床経験から生まれた方法や知識が背景になっている.そのことに敬意を払いつつ,自分自身の臨床に取り入れられるのは,共通して述べてあること,言い換えれば「誰がやってもできること」「再現性のあること」であろう,と探してしまうのだ.
 その意味で,本書で取り上げている『Prosthodontic Treatment for Edentulous Patients』(バウチャー無歯顎患者の補綴治療)の内容こそそのものずばりと言えそうなのだが,他の教科書と同様に分担執筆のテキストには限界がある.
 そのことは,松田謙一先生が上記書籍を初版から最新版まで細かく分析してくれたことでさらによく理解できるようになったのだが,その努力と飽くなき追究の姿勢に改めて敬意を表したい.
 また,最新版を最後に筆頭著者・編集者の立場を後進に譲ったGeorge A.Zarb先生に編集方針や内容の選択基準の変遷などについて直接質問し,真摯に答えてもらう機会が得られたことにも感謝している.
 教科書としてはできるだけ多くの大学で利用してもらえるようにすることが不可欠であり,そのために編集者は相反する意見をどのように記載するかに苦労することになる.残念ながら,その記載のすべてに科学的な根拠があるとは限らないが,ノーベル賞を受賞された本庶 佑先生の言葉である「教科書を信用しない」姿勢を持って利用することにこそ意義があるのではないだろうか.
 大阪大学大学院歯学研究科 特任教授・名誉教授
 オーラルケアステーション本町歯科 院長
 前田芳信
 はじめに
 総説 改訂内容の分析から試みる全部床義歯臨床の変遷の探求
第1章 無歯顎患者の診査・診断
 ・はじめに
 ・初版〜第6版における記述
 ・第7版,第8版における記述
 ・第9版,第10版における記述
 ・第11版〜第13版における記述
 ・現在使用されている無歯顎患者の診査票
 ・診査票以外の変遷
 ・おわりに
第2章 概形印象採得
 ・はじめに
 ・初版〜第3版における記述
 ・第4版,第5版における記述
 ・第6版における記述
 ・第7版〜第9版における記述
 ・第10版における記述
 ・第11版,第12版における記述
 ・第13版における記述
 ・我が国の全部床義歯学教科書における記述の変遷
 ・現在筆者らが行っている概形印象法
 ・おわりに
第3章 最終印象採得(総論編)
 ・はじめに
 ・PTEPにおける印象に関する章の構成
 ・各部位の説明の変遷
 ・印象時の圧力に関する考え方の変遷
 ・我が国の全部床義歯学教科書における記述の変遷
 ・おわりに
第4章 最終印象採得(各論編)
 ・各版に記載されている印象法の整理
 ・我が国の全部床義歯学教科書における記述の変遷
 ・おわりに
第5章 垂直的顎間関係の決定
 ・各版に記載されている垂直的顎間関係決定法の整理
 ・我が国の全部床義歯学教科書における記述の変遷
 おわりに
第6章 水平的顎間関係の決定
 ・採得する顎位に関する表現の変遷
 ・各版に記載されている水平的顎間関係決定法の整理
 ・ゴシックアーチ装置の変遷
 ・我が国の全部床義歯学教科書における記述の変遷
 ・おわりに
第7章 咬合器へのマウント
 ・咬合器へのマウント法に関する変遷
 ・フェイスボウに関する変遷
 ・咬合器に関する記述の変遷
 ・咬合器選択の基準
 ・我が国の全部床義歯学教科書における記述の変遷
 ・現時点での筆者らの考え方
 ・おわりに
第8章 前歯部人工歯の選択
 ・初版〜第3版の記述
 ・第4版〜第6版の記述
 ・第7版〜第10版の記述
 ・第11版,第12版の記述
 ・第13版の記述
 ・我が国の全部床義歯学教科書における記述の変遷
 ・現時点での筆者らの考え方
第9章 前歯の排列
 ・初版〜第6版の記述
 ・第7版〜第10版の記述
 ・第11版,第12版の記述
 ・第13版の記述
 ・我が国の全部床義歯学教科書における記述の変遷
 ・おわりに
第10章 臼歯部人工歯の選択
 ・初版〜第6版の記述
 ・第7版〜第9版の記述
 ・第10版の記述
 ・第11版,第12版の記述
 ・第13版の記述
 ・我が国の全部床義歯学教科書における記述の変遷
 ・現時点での筆者らの考え方
第11章 臼歯の排列
 ・PTEPにおける臼歯部人工歯の実際の排列法とその順序
 ・PTEP各版における頬舌的位置の決定法
 ・我が国の全部床義歯学教科書における記述の変遷
 ・現時点での筆者らの考え方
 ・おわりに
第12章 義歯に付与する咬合
 ・義歯に付与する咬合の重要性についての記載
 ・両側性平衡咬合についての記載
 ・各版で紹介されている咬合様式
 ・我が国の全部床義歯学教科書における記述の変遷
 ・筆者らの考え方
 ・おわりに
第13章 試適
 ・試適に関する章で解説されている項目
 ・垂直的顎間距離の確認
 ・中心位の確認
 ・偏心位の記録と咬合器の調節
 ・前歯部の審美的確認法
 ・口蓋後縁の封鎖
 ・試適後の患者の承諾
 ・我が国の全部床義歯学教科書における記述の変遷
 ・おわりに
第14章 歯肉形成,埋没・重合
 ・歯肉形成,蝋義歯の完成
 ・埋没と重合
 ・我が国の全部床義歯学教科書における記述の変遷
 ・おわりに
第15章 リマウント,再削合
 ・リマウント
 ・リマウント後の選択削合
 ・我が国の全部床義歯学教科書における記述の変遷
 ・おわりに
第16章 義歯装着の手順
 ・義歯の装着に関する記述の変遷
 ・我が国の全部床義歯学教科書における記述の変遷
 ・おわりに
第17章 義歯装着時の患者指導
 ・患者指導
 ・我が国の全部床義歯学教科書における記述の変遷
 ・おわりに
第18章 義歯のメインテナンス
 ・義歯装着後のメインテナンスに関する記述の変遷
 ・我が国の全部床義歯学教科書における記述の変遷
 ・おわりに
第19章 リライン・リベース
 ・リライン・リベースに関する記述の変遷
 ・我が国の全部床義歯学教科書における記述の変遷
 ・おわりに
第20章 即時義歯の適応症や利点,注意点
 ・即時義歯に関する記述の変遷
 ・我が国の全部床義歯学教科書における記述の変遷
 ・おわりに
第21章 即時義歯の製作法
 ・即時義歯の製作に関する記述の変遷
 ・我が国の全部床義歯学教科書における記載の変遷
 ・おわりに
第22章 シングルデンチャー
 ・シングルデンチャーに関する記載の変遷
 ・我が国の全部床義歯学教科書における記述の変遷
 ・おわりに
第23章 無歯顎者に対するインプラント治療
 ・無歯顎者へのインプラント治療に関する記述の変遷
 ・インプラントオーバーデンチャーに関する記述の変遷
 ・我が国の全部床義歯学教科書における記述の変遷
 ・おわりに

 あとがき

 ≪Dr.Zarb's Opinion≫
  ・最終印象時の印象圧について
  ・最終印象とはピアノを弾くようなもの
  ・辺縁形成の方法について
  ・ゴシックアーチトレーサーについて
  ・水平的顎間関係の決定・確認法について
  ・臼歯部人工歯の選択―解剖学的形態か?