やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

日本語版 序文
 日本は2007年に“超高齢社会”に突入し,世界でもトップレベルの長寿国となっています.一方で,人口の急速な高齢化とともに,生活習慣病およびこれに起因して認知症や寝たきりなどの要介護状態になる方が増加しています.そして,10 年後の2017年6月9日,『経済財政運営と改革の基本方針2017〜人材への投資を通じた生産性向上〜』が閣議決定され,内閣府から発表されました.これは日本の国としての今後の方針といえるものですが,そこで歯科医療にとって大きな前進となる一文が盛り込まれました.「……口腔の健康は全身の健康にもつながることから,生涯を通じた歯科健診の充実,入院患者や要介護者に対する口腔機能管理の推進など歯科保健医療の充実に取り組む」,すなわち,これからの歯科医療は,今までの単なる局所的な治療の提供だけではなく,健康寿命を延伸し生活支援や生活の質(QOL)の向上を図る視点から,その高度な方向性や社会性が求められており,少子高齢社会における保健・医療・福祉などの専門職種からのニーズに応えることが必要です.
 このような状況の中,口腔の健康管理を行ううえで,多くのエビデンスが構築されている“歯周病と全身の健康”の観点から歯周病予防や歯周治療を行うことは歯科関係者にとって必須です.
 本ハンドブックは,歯周病の非外科的コントロールについて,基礎からはじまり検査・診断,歯周基本治療,付加的な治療を踏まえて全体で8章から成っています.歯周病専門医は無論のこと,一般歯科臨床医,歯科研修医,歯科衛生士,そして両学生にとって,さまざまな病態を持つ歯周病患者の非外科的歯周治療を多くの図や写真を用いて理解しやすく整理され,すぐに臨床に応用できる情報が満載されています.歯周治療は,検査によって明らかにされた病因を一つひとつ確実に取り除く歯周基本治療に支えられ,その結果はそれに続く歯周外科治療の成功に大きく影響します.また,高齢者や有病者の口腔管理の多くは歯周基本治療を中心とした非外科的歯周治療で対応することが求められます.
 本書の筆頭著者であるDr.Paul A.Levi,Jr.は, 米国歯周病学会(AmericanAcademy of Periodontology)の歯周病専門医(Diplomate of American Board of Periodontology)であり,AAPの重鎮のお一人です.タフツ大学をはじめ多くの大学で歯周治療と歯科インプラント治療の臨床教育に携わり,私どもも2009 年1 月に東京医科歯科大学歯周病学分野で直接ご指導をいただきました.その講義・実習は非常に理解しやすく,その時の感動を皆さまにお伝えしたいと思い,本書の翻訳を企画しました.
 本書がすべての歯科臨床医,歯科研修医,歯科衛生士,両学生,そして歯科関係の皆さまにとって歯周治療の基本的な教科書になることを願っています.
 2018年5月
 監訳者一同
1章 基礎
 1.1 はじめに
 1.2 解剖
  1.2.1 歯周組織における疾患や形態異常の観点からみた歯肉の解剖
  1.2.2 非外科的なプロフェッショナルケアのための歯肉と歯の解剖
  1.2.3 セルフケアのための歯肉と歯の解剖
  1.2.4 まとめ
 1.3 歯周病検査
 1.4 歯周病と齲蝕の診断
  1.4.1 歯肉炎
  1.4.2 歯周炎
  1.4.3 インプラント周囲粘膜炎
  1.4.4 インプラント周囲炎
  1.4.5 齲蝕
  1.4.6 結論
 1.5 病因論
 1.6 予後
 1.7 まとめ
2章 患者の能力を高める:コンプライアンスからコンコーダンスへ
 2.1 はじめに
 2.2 バイオフィルム(デンタルプラーク)を除去するための患者の動機づけ
 2.3 効果的で正しい技法を確実に習得してもらうために
 2.4 アクセス性:プラークを除去するには患者により清掃器具が根面にアクセス可能でなければならない
  2.4.1 プロービングデプス
  2.4.2 歯肉縁上・縁下歯石,粗造な根面
  2.4.3 歯の解剖学的異常
  2.4.4 歯肉の形態変化
  2.4.5 歯の位置異常
  2.4.6 矯正装置
  2.4.7 不適合なマージンの修復物
  2.4.8 プロビジョナルレストレーション
  2.4.9 接触に対する根面の知覚過敏
  2.4.10 不適切なプラーク除去法
  2.4.11 毛の硬さや種類,ヘッドの形態が不適切な歯ブラシ
  2.4.12 摩耗により変形した歯ブラシ
  2.4.13 不適切なデンタルフロスの技法と素材
  2.4.14 インプラントの設計
  2.4.15 インプラント上部構造
 2.5 まとめ
3章 患者によるプラーク除去方法
 3.1 染色剤によるプラークの検出
 3.2 プロービング時の出血
 3.3 BOPの動機づけへの利用
 3.4 歯肉縁上歯石と歯肉縁下歯石
  3.4.1 歯石
  3.4.2 歯面への歯石の付着
 3.5 歯石の探知─ その器材と方法
  3.5.1 歯肉縁上歯石の探知
  3.5.2 歯肉縁下歯石の探知
 3.6 手用歯ブラシ
 3.7 電動歯ブラシ
 3.8 ブラッシング法:手用歯ブラシ
  3.8.1 バス法(BT)
  3.8.2 改良バス法(MBT)
  3.8.3 毛先固定法(SBT)
  3.8.4 スティルマン法(ST)
 3.9 ブラッシング法:電動歯ブラシ
 3.10 固定式矯正装置に対する手用および電動歯ブラシでのブラッシング
 3.11 結論:歯のブラッシング
 3.12 歯間部のプラーク除去
  3.12.1 デンタルフロス/テープ
 3.13 効果的なフロッシング法
 3.14 歯間ブラシ
 3.15 その他の歯間清掃器具
  3.15.1 ラバーチップ
  3.15.2 フロススレッダー
  3.15.3 トゥースピック
  3.15.4 口腔細菌を減らすための他の器具
 3.16 まとめ
4章 患者の検査と評価
 4.1 患者診察の準備:診療室,器具,材料の準備
  4.1.1 患者のポジショニングと術者の視野
 4.2 患者への問診と初回の検査
  4.2.1 患者の主訴
  4.2.2 患者の要望
  4.2.3 ベースライン時のバイタルサイン
  4.2.4 全身的既往歴/社会歴
  4.2.5 歯科的既往歴
  4.2.6 日常の口腔衛生習慣
  4.2.7 口腔習癖
  4.2.8 口腔外検査
  4.2.9 口腔内の軟組織の検査
  4.2.10 歯肉組織の評価
 4.3 歯周組織検査用紙の記入
  4.3.1 プロービングデプスの測定
  4.3.2 プロービング時の出血
  4.3.3 歯肉退縮の評価
  4.3.4 付着歯肉量
  4.3.5 歯肉歯槽粘膜の変形
  4.3.6 歯の動揺
  4.3.7 フレミタス
  4.3.8 根分岐部病変
  4.3.9 歯石の探知
  4.3.10 プラーク
  4.3.11 歯肉炎指数
 4.4 エックス線写真の解釈
  4.4.1 口内法
  4.4.2 口外法
  4.4.3 適切なエックス線写真の特徴
  4.4.4 エックス線写真の分析と読影
  4.4.5 歯周病により認められるエックス線写真の変化
  4.4.6 追加資料
 4.5 まとめ
5章 歯肉炎・歯周炎の診断や基本治療における器具の使用法
 5.1 歯周治療における器具の適切使用の原則
  5.1.1 把持法
  5.1.2 手首の位置
  5.1.3 支点(フィンガーレストの位置)
  5.1.4 適合
  5.1.5 角度
  5.1.6 側方圧
  5.1.7 ストローク(インスツルメントの動かし方)
 5.2 歯周治療に用いるインスツルメント
  5.2.1 歯周治療に用いるインスツルメントの分類
  5.2.2 歯周治療用インスツルメントの構成要素
 5.3 診断用インスツルメント
  5.3.1 デンタルミラー
  5.3.2 スリーウェイシリンジ
  5.3.3 歯周プローブ
  5.3.4 歯周プローブの有用性
  5.3.5 歯周プローブの重要な10種類の使用目的
  5.3.6 歯周プローブの機能
  5.3.7 歯周ポケット自動測定器
  5.3.8 探針
 5.4 歯周治療用手用インスツルメント
  5.4.1 スケーラー
  5.4.2 キュレット型スケーラー
  5.4.3 ユニバーサル型スケーラー,ユニバーサル型キュレット,グレーシー型キュレットのワーキングエッジの比較
 5.5 補助的手用インスツルメント
 5.6 パワーインスツルメント
  5.6.1 エアスケーラー,マグネット式超音波スケーラー,ピエゾ式スケーラー
  5.6.2 パワーインスツルメントの利点と欠点
 5.7 研磨用インスツルメント
  5.7.1 ラバーカップ
  5.7.2 エアーパウダーポリッシング
 5.8 インスツルメントのシャープニング
  5.8.1 インスツルメントのシャープニング理論
  5.8.2 手用インスツルメントのシャープニング法
 5.9 まとめ
6章 治療
 6.1 治療フェーズ
  6.1.1 治療計画をフェーズ分けする利点
  6.1.2 フェーズ1治療
  6.1.3 フェーズ2治療
  6.1.4 フェーズ3治療
  6.1.5 フェーズ4治療
 6.2 臨床的な手技
  6.2.1 歯面清掃,スケーリング,ルートプレーニングの目的
  6.2.2 スケーリング
  6.2.3 ルートプレーニング
  6.2.4 歯周ポケット掻爬:ルートプレーニングとは別に行うべきか
 6.3 歯面清掃における患者管理プロトコル
  6.3.1 スケーリング・ルートプレーニングにおける患者管理プロトコル
  6.3.2 具体的な臨床場面における治療選択
  6.3.3 まとめ
 6.4 スケーリング・ルートプレーニングに必要とされる局所麻酔
  6.4.1 歯周治療における局所麻酔のための解剖学
  6.4.2 表面麻酔
  6.4.3 局所麻酔
  6.4.4 注射法
  6.4.5 上顎と下顎の麻酔
  6.4.6 まとめ
 6.5 歯周治療による象牙質知覚過敏症
  6.5.1 病因
 6.6 象牙質知覚過敏症の治療法
  6.6.1 治療における推奨事項
  6.6.2 まとめ
7章 補助的療法
 7.1 薬物療法
  7.1.1 はじめに
  7.1.2 抗菌薬の全身投与
  7.1.3 抗菌薬の局所応用
  7.1.4 結論
 7.2 禁煙の重要性
  7.2.1 はじめに
  7.2.2 喫煙による全身的な影響
  7.2.3 喫煙による歯科的な影響
  7.2.4 禁煙における歯科医療従事者の役割
  7.2.5 禁煙のための薬物療法
  7.2.6 電子タバコ
  7.2.7 禁煙カウンセリング
  7.2.8 介入の5つの重要なステップ(5 A)
  7.2.9 準備の段階
 7.3 レーザー療法
 7.4 口腔細菌の培養と感受性試験
 7.5 DNAプローブ法
 7.6 歯周ポケット内視鏡
8章 長期的予後のために必要な歯周メインテナンス治療
 8.1 はじめに
  8.1.1 メインテナンスプログラム
 8.2 メインテナンス治療の開始
  8.2.1 高リスクの患者
 8.3 歯肉炎と歯周炎を予防するための治療方針
 8.4 体系的なメインテナンス治療計画の基本的特徴
  8.4.1 評価基準:初期疾患を発見するのに鍵となる徴候は何か
 8.5 メインテナンス治療の実際:基本的プロトコル
 8.6 インプラントのメインテナンス
  8.6.1 インプラント周囲の解剖と上部構造
  8.6.2 インプラント周囲組織の健康の評価
  8.6.3 インプラントのインスツルメンテーション
  8.6.4 患者のホームケアのためのプロトコル
 8.7 診断目標の把握
 8.8 歯周治療の目標の把握
 8.9 メインテナンスに関連する心理学的障害
 8.10 解剖の理解:アタッチメントロスと歯周ポケット
 8.11 成功のビジョンの拡大:メインテナンスは機能しているか
 8.12 コンプライアンスを得るための課題
9章 結語

 付録A アメリカ歯周病学会における歯周病の分類
 付録B 予防的抗菌薬投与のガイドライン
 付録C 禁煙のための薬物療法
 付録D Fagerstrom検査
 付録E メインテナンス治療用の患者パンフレットのサンプル
 索引