やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに 第2版
 患者さんは家で暮らしています.住み慣れた家で,家族の思い出とともに暮らしています.いつまでも住み慣れた家で暮らし続けるために,在宅診療が注目され,歯科においてもその推進が叫ばれています.
 一方で,在宅の患者さんであっても,以前は歯科医院への通院が可能であったはずです.歯科医師は通院が困難になる前段階で,徐々に身体機能・精神機能が低下していく過程を自院で見ているはずなのです.その時期こそが,最近耳にすることが多い「フレイル」という状態で,心身の脆弱性が増している状態を示します.その状態を放置すると容易に要介護状態に陥り,訪問診療で対応しなければいけない段階となるのです.
 この「フレイル」の時期には,口腔機能の低下も見られます.フレイルは口腔機能の低下の原因にも,結果にもなりえます.この時期にみられる口腔機能の低下は,より重症な摂食機能障害に比較して回復可能な余地を大いに残す領域と考えられ,地域の歯科医院への通院期間中に起こるため,そのトリアージにおいても対応においても,歯科医院におけるかかわりは強く求められるのです.
 折しもこの第2版が上梓される本年は,「口腔機能低下症」という病名が診療報酬において取り上げられ,歯科から「フレイル」を発信できる大きな機会を得た年になりました.この新しい病名は,齲蝕,歯周病,歯の欠損という病名に縛られていた歯科医療が,新たに「口腔機能」という視点で患者に対峙することができることを意味します.
 「口腔機能低下症」が保険病名として挙げられたことの意義は大きく感じる一方で,すべての歯科医師が口腔機能の低下に取り組む責務を持ったと考えます.すなわち,齲蝕や歯周病という疾患に対して歯科医師として取り組むと同様に,口腔機能低下についても責任をもって対応しなければいけないと考えます.
 「平成」という元号の終わりが近い本年は,10年先,20年先から振り返ってみると,歯科医療の大きな転換期であったといえることに,筆者は疑いを持っていません.この,大きな変化の時流に対応していけるように,本書が先生方のお役に立てれば幸いです.
 2018年5月
 菊谷 武
 はじめに
 本書の使い方
 歯科医院におけるオーラルフレイルチェック・オーラルフレイル問診票
 歯科診療報酬における「口腔機能低下症」 考え方と診断基準
 付録動画コンテンツについて
1章 オーラルフレイルを「知る」
 1節 フレイルとサルコペニア−加齢と全身の身体機能低下の関係
 2節 オーラルフレイル−加齢・疾患による口腔機能の変化と運動障害性咀嚼障害
 3節 オーラルフレイルを理解するための摂食嚥下のメカニズムとその低下
 コラム オーラルフレイル,口腔機能の低下に関わるエビデンス
  1章文献
2章 オーラルフレイルを「評価する」 “気づく”ための必須事項
 1節 主訴を読み取る−こんな訴え! 口腔機能低下症かもしれません
  (1)食べこぼし (2)噛みづらい(咀嚼困難感) (3)食事に時間がかかる
  (4)ムセ込むタン(喀痰)がからむ (5)薬が飲みにくい
 2節 高齢者が診療室に来たら,ここをチェックしよう
  (1)入室時の歩行状態をみる (2)顔の表情をみる
  (3)声−「患者の声を聴け!!」 (4)その他のチェックポイント
 コラム 握力測定鼻指鼻試験指輪っかテスト
 3節 口腔内を診てわかること
  (1)唇や頬,舌に咬傷がある
  (2)口または義歯の片側や口蓋部分に食物残渣やプラークが付着している
  (3)舌苔が付着している (4)片側性に歯科疾患が発症する(悪化する)
  (5)診療中にムセる (6)うまくゆすげない
 4節 舌,口唇,頬,軟口蓋の機能評価
  (1)咀嚼機能の評価法 (2)舌の機能評価
  (3)口唇,頬の機能評価 (4)軟口蓋の評価
 5節 診療報酬に基づく口腔機能精密検査
  (1)口腔衛生状態不良の検査 (2)口腔乾燥の検査
  (3)咬合力低下の検査 (4)舌口唇運動機能低下の検査 (5)舌圧測定
  (6)咀嚼機能低下の検査 (7)嚥下機能低下の検査
 6節 口腔機能低下(摂食嚥下障害)のスクリーニング法
  (1)質問紙法による口腔機能のスクリーニング (2)スクリーニングテスト
  (3)機器等を用いた機能検査
 7節 認知面のフレイル
  (1)歯科医院って?−認知症に対する役割
  (2)認知症にみられる口腔の諸問題 (3)歯科医院でできる簡単な検査
  (4)認知面の低下に気づいたら,歯科は何をするのか?
 8節 栄養の基礎と対応
  (1)口腔機能の低下と栄養摂取との関連 (2)栄養アセスメント
  (3)必要栄養量の把握 (4)歯科医院での考え方
  2章文献
3章 オーラルフレイルに「対応する」 チェアサイドの実際,歯科としてできること
 1節 口腔機能低下症に対応するための考え方・症型分類
  (1)口腔機能低下症に対応するための考え方・症型分類
 2節 口腔機能訓練
  (1)咀嚼機能に関わるトレーニング (2)嚥下機能に関わるトレーニング
  (3)唾液腺マッサージ
  コラム 口腔機能のトレーニングになる早口言葉や言葉遊び
 3節 口腔機能低下に合わせた義歯への配慮
  (1)口腔機能を考慮した義歯の設計 (2)舌接触補助床(PAP)
 4節 咀嚼機能を考慮した食事指導
  (1)咀嚼機能と食形態の決定 (2)咀嚼訓練食を利用した食形態決定のフロー
  (3)嚥下,咀嚼機能を考慮した市販食品の選び方,入手法
  (4)嚥下機能を考慮したとろみ付与 (5)嚥下,咀嚼機能を考慮した調理法
 コラム ゲル化剤を使用した全粥ゼリー
  3章文献