やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
 老年人口(高齢者人口)は,2040 年まで増え続けると予想されています.また,総人口の減少を伴うので老年人口割合(高齢化率)は2070 年まで増加するといわれています.現在その値は27% 強ですが,最終的には約40% にまでなるという予測値が提示されています.
 高齢者においては,年齢が高くなるにしたがい,口腔機能が低下するという報告があります.医療や介護の現場では,口腔機能が低下することによるさまざまな問題が挙げられます.咀嚼・嚥下・発音機能の低下により,低栄養・コミュニケーション能力低下・嚥下障害などが惹起されます.それらの機能は,神経筋機構のなかの複合した不具合を生じています.これらの状況に関わる多くの専門職種には,知識の共有が求められます.とくに口腔領域の専門家である歯科医師や歯科衛生士は,先頭に立って関わることから,それらの基礎的認識が必要となります.
 解剖に関する書籍は多くありますが,単なる組織や解剖ではなく,営まれる機能と,その運動を織りなす筋の相関を示した書籍は多くありません.とりわけ,歯科領域の咀嚼,嚥下,発音(構音)運動に着目し,運動を構成する筋を図示する,あるいは機能障害とその影響を受ける筋等を解説した書籍は類をみないといえます.本書はこれらについて取り上げ,口腔機能管理に対する意識の高まるなか,その基礎的な背景因子を整理していきます.ただし神経支配までは記述してありません.それぞれの筋に対する支配神経は,機能ごとに違うわけではないので,口腔解剖学,口腔生理学などの書籍を参考にして頂ければと思います.
 現場で頑張っている歯科医師や歯科衛生士のポケットマニュアルとして,歯学部や歯科衛生士養成校の学生の参考書としても活用して頂ければと願っています.
 2018 年3 月吉日
 森戸光彦
 まえがき(森戸光彦)
解説編
咀嚼
 (下山和弘)
 1 咀嚼―かむこと
 2 咀嚼周期(咀嚼サイクル)
 3 咀嚼に関わるおもな筋
  1―舌骨上筋(群) 2―咀嚼筋 3―口輪筋と頬筋
   メモ 筋の基礎知識
  4―舌筋
 4 顎運動時に働く筋
  1―開口運動に関与する筋
  2―閉口運動に関与する筋
  3―前方運動および側方運動に関与する筋
 5 咀嚼時の舌運動
 6 咀嚼時の軟口蓋の動き
嚥下
 (橋一也)
 1 嚥下に関わるおもな筋
  1―舌筋 2―口蓋筋
  3―舌骨筋群 4―咽頭筋 5―喉頭筋
 2 嚥下運動
  1―口腔期:食塊を舌運動によって口腔から咽頭へと送り込む時期 2―咽頭期:食塊の咽頭通過ならびに食道への送り込み 3―鼻咽腔閉鎖
  4―咽頭への送り込み 5―喉頭口閉鎖 6―咽頭の収縮 7―食道入口部の開大 8―摂食嚥下運動のステージとイベント
発音(構音)
 (森戸光彦)
 1 口の動きと筋
 2 鼻咽腔閉鎖機能
   メモ オーラルディアドコキネシス(oral diadochokinesis)
   メモ 言語療法
 COLUMN 筋の不具合についての研究(坂本英治)
 1 ジストニアとジスキネジア
   1)ジストニアとは  2)ジストニアの病態と臨床的特徴
   3)ジストニアの治療
 2 ジスキネジア
 3 フレイルとサルコペニア
   1)サルコペニアとは  2)サルコペニアの危険因子
   3)摂食嚥下機能とサルコペニア
図表編
 図 図1〜図9:下山和弘
   図10〜図19:橋一也
 図1 顎の運動と咀嚼周期
 図2 舌骨上筋群 図3 下顎骨に付着するおもな筋
 図4 咀嚼筋 図5 頬筋と口輪筋 図6 咀嚼時の頬および舌の動き
 図7 外舌筋と咽頭筋
 図8 内舌筋とその周辺の筋 図9 咀嚼時の舌運動 図10 口蓋筋 図11 舌骨下筋群 図12 咽頭筋 図13 喉頭の構造と喉頭筋 図14 食塊形成 図15 嚥下の開始(固体) 図16 嚥下の準備(液体) 図17 下顎骨の保持・固定 図18 喉頭口閉鎖 図19 摂食嚥下運動のステージとイベント
 表 表1〜表5:下山和弘
   表6〜表9:橋一也
 表1 舌骨上筋(群) 表2 咀嚼筋 表3 口輪筋と頬筋 表4 舌筋 表5 咀嚼時の舌運動 表6 舌骨下筋(群)
 表7 軟口蓋の筋群 表8咽頭の筋群 表9 喉頭の筋群

 文献
 索引