やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 ご自分の診療所に,車いすの患者さんをお迎えになったことはありませんか?最近では,車いすで来院される患者さんはそれほどめずらしいことではなくなってきています.車いすからの移乗の必要のない,車いす対応の診療ユニットをお持ちの診療所では,車いすから患者さんを降ろさずに治療することもできるでしょう.また,施設の介護職員さんが同行されている場合には,車いすから診療ユニットへの移乗をお願いできることもあります.車いすからの移乗は難しく,転倒や打撲の危険があるから,介護は専門職に任せておけばよいという意見を聞くこともあります.しかし,介護タクシーを使って車いすの患者さんがお一人で来られた場合や,付き添いの方が高齢の配偶者だった場合はどうしましょう?そんなときは,車いすから診療ユニットへの移乗の技術を習っておいたらよかったのにと,お感じになることもあるのではないでしょうか.
 この本は,今後ますます増加する要介護高齢者の歯科診療に安心して対応していくため,介護・介助の技術のなかでも歯科診療を行う際に特に必要となるものを選んで,できるだけ実践的な解説をするように試みてみました.これからの歯科医療は,要介護高齢者への対応なしに済ませることはできません.安心・確実な歯科治療を行うために,あなたもぜひ基本的な介護・介助のスキルを身に付けてください.
 福岡歯科大学 高齢者歯科
 内藤 徹
 はじめに
 執筆者・モデル一覧
 本書の読み方・使い方
1章 なぜ介護・介助スキルが必要か
2章 高齢者歯科診療のためのコミュニケーションのポイント
 (1)高齢者に伝わりやすい話し方
 (2)ご家族とのコミュニケーション
 (3)多職種とのコミュニケーション
3章 歯科診療所・施設での要介護高齢者への対応
 (1)バリアフリーの歯科診療所環境の整備
 (2)杖をついた患者さんの歩行介助
 (3)車いすの操作方法
 (4)車いすから診療用チェアへの移乗
 (5)診療用チェアから車いすへの移乗
 (6)上着の着脱1-上着を脱ぐ
 (7)上着の着脱2-上着を着る
 (8)患者さんに快適な診療姿勢
 (9)患者さんと医療者のためのボディメカニクス
4章 寝たきり高齢者への対応
 (1)寝たきり高齢者でチェックしなければならない項目
 (2)患者さんの体位と安全な診療姿勢
 (3)体位変換(寝返り)
 (4)ベッドからの起き上がり
 (5)ベッドからの立ち上がり
 (6)ベッドから車いすへの移乗
 (7)麻痺がある場合の車いすへの移乗
 (8)床から車いすへの移乗
5章 要介護高齢者への対応を充実させるための必要な技術
 (1)要介護高齢者の治療時に役立つスキル
 (2)あると便利な機材や器具
 (3)地域の医療機関との連携
 (4)歯科診療所は認知症のゲートキーパー

 column
  ・大還暦をご存じですか?
  ・たった2つの質問で高齢者のうつが見つかる
  ・傾いた障害者優先パーキング
  ・橋の上では杖をつかない
  ・着患脱健
  ・ウォーキングと認知症
  ・若年性アルツハイマー病と障害者手帳
  ・大先輩の校歌
  ・野菜を食べて認知症予防