やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 超高齢社会の現在,歯科医院に来院する患者も高齢化が進み,通院歴の長い方も増えてきたのではないでしょうか.
 同じ患者を長くみていると,それまでとの「違い」が気になることはないでしょうか.たとえば,今まで問題なく診療ができていたのに,よく診療中にむせるようになった,疲れやすくなった,歩き方が不安定になったといった徴候が目につくことがあるかもしれません.また,食事中にむせることがある,食べこぼすことがある,飲み込みにくいといった主訴がある,痩せてきていると話していた,口のなかに食物残渣が認められるというようなケースもあるのではないでしょうか.
 こうした患者は,摂食嚥下機能に何らかの問題を抱えているかもしれません.診療中,このような徴候を把握することができる歯科医師は,摂食嚥下障害に関するリスクの第一発見者となり得るのです.そのため,歯科医師はチェアサイドで患者に摂食嚥下機能について何らかのアドバイスできるようになることが大切になってくるといえるでしょう.
 摂食嚥下障害への対応は,本格的に介入するにはたしかに専門性が要求されます.しかし歯科医院では,まずはチェアサイドでできることを行えばよいのです.上記のような患者の訴えに耳を傾けたり,患者の様子を注意深く観察したりすることから始めてみましょう.患者の様子をしっかりと受け止め,可能な対応をとるのです.嚥下内視鏡検査などの専門的検査も,歯科医院では必須ではありません.仮に専門性の高い介入が必要であっても,自院で行えなければ高次の医療機関に紹介することができます.歯科医院で大切になるのはむしろ,症状を改善,あるいは予防することを目的とした対応法を患者に理解してもらうこと,適切な指導を行うことです.簡易な嚥下体操を指導することもよいでしょう.
 本書は,こうした診療所で行う摂食嚥下障害対応のエッセンスをまとめたものです.歯科医院の歯科医師が,あるいは歯科衛生士が,本書をヒントに患者の摂食嚥下機能の維持・向上に取り組むことができたら幸いです.
 最後に,本書の発行にあたりお力添えをいただいた医歯薬出版株式会社に厚く感謝申し上げます.
 平成29 年9 月 石田 瞭
 序文
1 患者の高齢化で気をつける点は?
2 摂食嚥下障害の原因となる疾患は?
3 普段の歯科診療から摂食嚥下障害を予測する
4 診療所での対応の流れ
5 歯科医院で摂食嚥下機能の評価を考える―診療所でできる問診〜スクリーニング
 1 はじめに―徴候の捉え方
 2 質問票
 3 おもなスクリーニング検査―その選択にあたって
 4 RSST(repetitive saliva swallowing test)
 5 MWST(modified water swallowing test)
 6 フードテスト(food test;FT,食物テスト)
6 栄養状態を知る
 1 体重等の身体状態
 2 訪問診療における身体状態把握
 3 参考:主観的包括的評価
7 歯科医院でできる摂食嚥下障害の対処法―摂食機能療法
 1 間接訓練の考え方と適応
 2 嚥下体操
 3 その他のおもな間接訓練
 4 要介護者に行う間接訓練
8 嚥下内視鏡検査
9 食事場面で最低限注意したいそのほかのこと
 1 訪問診療で行う直接訓練
 2 そのほかの全体的注意事項

 まとめ 歯科医院で行う摂食嚥下リハビリテーション
 付 摂食機能療法の算定要件
 文献
 索引