やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 「高齢者」といってもその生活・身体状況(ライフステージ)や口腔状態はさまざまであることから,個々の高齢者に応じた戦略的な歯科医療が求められることになる.近年,口腔状態が良好で元気な高齢者(自立高齢者)が一般歯科に来院することが多くなっているが,自立高齢者の歯・口腔環境や全身状態は,高齢者に分類されない成人患者とは様相が異なるため,治療に際しては一定の知識と技術が必要になる.また,第三の医療である在宅医療が国策の大きな柱として推進されており,歯科医療従事者には寝たきり高齢者の治療・口腔管理に関する適切な知識・技術も必要とされている.さらに,寝たきりに移行する可能性が高い自立高齢者に対する治療法の選択を迫られることも増えており,これまでとは異なる判断基準も必要となってきている.
 「高齢者歯科医療」という用語が使われるようになって久しく,地域で活躍している歯科医療従事者はその重要性を認識している.関連書籍も数多く出版されており,特に訪問・在宅歯科医療について詳細に解説された書籍が多くの歯科医療従事者の手元にはある.しかしながら,自立高齢者が元気なうちからしておきたい,寝たきりになることを想定した対応など,高齢者の多様なライフステージに合わせた口腔環境づくりについて言及している書籍は少ない.
 本書は,地域で活躍する多くの歯科医療従事者が,自立高齢者と寝たきり高齢者に対する診断・治療の違いや寝たきりになる可能性を考えたうえでの自立高齢者に対する診断・治療について理解しやすいようコンパクトに構成されている.また,口腔健康管理,歯の治療,歯周治療,補綴治療,口腔外科治療,および摂食嚥下リハビリテーションに分けてそれぞれを専門とする歯科医療従事者が執筆しており,各章において健康寿命を延ばすことを念頭においた治療・対応,および寝たきりになったときを念頭においた治療・対応について提示している.加えて,今後の高齢者歯科医療における課題についても提起している.
 高齢者のライフステージに応じた多様なアプローチを1 冊にまとめた本書が,現在,地域に密着して歯科医療を実践している歯科医療従事者のハンドブックとして役立つことを願っている.
 2017 年9 月
 編者一同
第1章 高齢者の各ライフステージに応じた歯科治療と口腔健康管理
 (北村知昭)
第2章 口腔健康管理
 1 ライフステージを見据えた高齢者の口腔健康管理(中道敦子)
 2 地域包括医療ケアにおける歯科医療の果たす役割(曽我部浩一)
 3 自立高齢者の口腔健康管理(中道敦子)
 4 寝たきり高齢者の口腔健康管理(猪原 光)
第3章 歯の治療
 1 ライフステージを見据えた高齢者の歯の治療(大野友久)
 2 自立高齢者の歯の治療
  (1)知覚過敏処置,抗齲蝕処置,修復処置(福島正義)
  (2)歯髄保存治療:覆髄は効果的か?(諸冨孝彦)
  (3)抜髄と感染根管治療(鷲尾絢子)
  (4)歯根端切除術(土生 学)
  (5)歯根破折への対処(朝日陽子,林 美加子)
 3 寝たきり高齢者の歯の治療
  (1)抗齲蝕処置,修復処置 (植田耕一郎)
  (2)抜髄と感染根管治療:保存か抜歯か? (大野友久)
第4章 歯周治療
 1 ライフステージを見据えた高齢者の歯周治療(内藤 徹)
 2 自立高齢者の歯周治療(山下明子,西村英紀)
 3 寝たきり高齢者の歯周治療(吉成伸夫,`島弘之)
第5章 補綴(欠損)治療
 1 ライフステージを見据えた高齢者の補綴治療(皆木省吾,兒玉直紀)
 2 自立高齢者の補綴治療
  (1)歯冠補綴と審美治療(金成雅彦)
  (2)ブリッジか,義歯か,あるいはインプラントか?(鱒見進一,槙原絵理)
  (3)義歯の調整(槙原絵理,鱒見進一)
 3 寝たきり高齢者の補綴治療
  (1)口腔健康管理とブリッジ,インプラントへの対応(菅 武雄)
  (2)義歯の調整(木村貴之)
第6章 口腔外科治療
 1 ライフステージを見据えた高齢者の口腔外科治療(大渡凡人)
 2 自立高齢者の口腔外科治療
  (1)抜歯および小手術(吉岡 泉,大澤賢次)
  (2)粘膜疾患および炎症性疾患(吉岡 泉,大澤賢次)
  (3)顎関節脱臼(吉岡 泉,大澤賢次)
 3 寝たきり高齢者の口腔外科治療
  (1)抜歯および小手術(品川 隆)
  (2)粘膜疾患(品川 隆)
  (3)顎関節脱臼(品川 隆)
第7章 摂食嚥下リハビリテーション
 1 摂食嚥下とは(松尾浩一郎)
 2 ライフステージを見据えた高齢者の摂食嚥下リハビリテーション(藤井 航)
 3 自立高齢者の摂食嚥下リハビリテーション(飯田貴俊)
 4 寝たきり高齢者の摂食嚥下リハビリテーション(藤井 航)

 索引