やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文 根管を1本のファイルで形成するために
 歯内療法処置,ことに根管処置では拡大・清掃・消毒・充填といった処置の流れのなかに,決して外すことのできない器械的形成のための小機器がある.
 根管は細く,彎曲している.根管充填のためには,根管を所定の大きさに拡大することが必要である.一般的に根管拡大,形成にあたってはリーマー,ファイルをサイズの小さなものから,順次太いサイズへとアップし形成を行う.
 この場合,根管の経路を確保し,その後の根管充填法に従った形態を根管に与える方法が拡大・形成に求められる.これらの操作は,従来ステンレススチール製のリーマーやファイルによって行われてきたが,しなやかさと弾性を有するNiTiファイルの登場によって,ここ数年根管形成の概念は大きく変化した.ファイル素材の改良,形状の改良,そして根管内での動きをコントロールすることによって1本のファイルによる根管形成をも可能とするに至った.また個々のファイルに適応した根管充填システムが登場し,NiTiファイルによる歯内療法は根管処置における体系化されたシステムとしてその地位を確立しつつある.
 しかしながら,すべての根管に対して一律同様な術式で対応することは困難であり,そこには守るべき基本と機器の特徴を生かした術式の修得が必要である.
 この新たなシステムの臨床手技と関連事項を整理し,根管形成における新たなマイルストーンとしての位置づけが望まれる.
 本書では,筆者と所属するクリニックにおいて実際の臨床に取り入れ,ここ数年間にわたって良好な成績を得ているワンファイルエンドシステムについて解説する.現状において,もはや根管形成においてこれらなしでは先に進めないと感じるほど臨床的な使用感触はすこぶる良好ではあるが,ファイル使用前の診断,根管経路の探索とガイド形成など前準備の可否がすべてに優先することを忘れてはならない.スーパーファイルは存在しない.
 平成29年3月
 中川寛一
Chapter 1 本当に煩わしい根管形成
Chapter 2 根管の形態とファイルによる切削
Chapter 3 根尖孔へ―パスファインディング
  (1) 開拡窩洞(access cavities)
  (2) Straight line access(根管上部の直線形成)
  (3) グライドパス(ファイルの非回転刺入)
  (4) プレカーブ(ファイルによる根管探索)
  (5) ファイルモーション
  (6) File patency(再通)
  (7) スカウティングファイル(根管の探索と穿通)
Chapter 4 NiTiファイルの歴史
  (1) 形態
  (2) 切削効率
  (3) Right or left hand thread(右回転切削と左回転切削)
  (4) テーパー
  (5) 素材,加工
  (6) 切削・駆動様式
Chapter 5 NiTiファイルプレパレーションI 基本事項
  (1) 根管形成の設計とファイル選択
  (2) Apical gaging(作業長の確認と根尖孔径)
  (3) ガイド形成
  (4) 根管長測定
Chapter 6 NiTiファイルプレパレーションII レシプロカルモーション
  (1) レシプロカルモーションと根管形成
  (2) RECIPROC(R)とWave・one(R)
  (3) レシプロカルモーションによるシングルファイルプレパレーションと根管治療
Chapter 7 安全な根管形成のために ファイル破折を考える
  (1) ファイル素材と破断面の特徴
  (2) NiTiファイルの疲労に関して
  (3) ファイル破折と根管形態
  (4) レシプロカルモーションとファイル破断
Chapter 8 根管充填
  (1) テーパー規格ガッタパーチャ
  (2) 根管シーラー
  (3) 根尖孔の拡大・移動とover extention
Chapter 9 根管清掃
  (1) 根管清掃材
  (2) 機械的な清掃補助

 おわりに
 付表
  器材リスト
  文献
  索引