やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文に寄せて
 歯科医学は歴史の豊かな専門分野です.原始的な歯科用ドリルにより紀元前7000年に人工的に開けられた穴が残っている歯が見つかりました.歯科医学に関する最古の記録の一つは,紀元前5000年のシュメール人によるものであり,どのように「歯の虫」が齲窩を作るかというものでした.そう,歯科医学は「歯の虫」という概念から9000年という長い歴史をたどってきたのです.そしてその長い歴史のなかで,歯科医学はX線や局所麻酔,ハンドピース,義歯,歯ブラシ,歯磨剤,そしてさらに多くの発展を遂げてきました.
 歯科医学の専門性が増すにつれ,さまざまな専門分野が生まれてきました.G.V.Blackが歯科保存学に関する2巻の教科書を出版したのが,わずか100年と少し前のことです.それ以来,歯科に関する非常に多くのすばらしい教科書により,ベースとなる臨床的または基礎科学の知識が提供されてきました.こういった教科書は,いくつかの専門分野の概念を表現している歯周治療学,補綴学,歯内療法学,口腔外科学,そして歯科矯正学など多岐にわたっています.
 今日,一般歯科医は日々高度な症例に直面しています.一つの例がデンタルインプラントの出現です.多くの一般歯科医がインプラント埋入だけでなく,インプラント修復補綴についても学ぼうとしています.そのため,解剖学や臨床歯科医学の広範な知識が非常に重要となります.
 これこそが,岩永譲先生の「すべての歯科医院のための臨床解剖学に基づいたComprehensive Dental Surgery」が一般歯科医のための教科書である理由です.この教科書は,こういった高度な技術を身につけたいと考える一般歯科医をサポートするために,執筆されました.解剖学的レビュー,段階的な術式,そして読者へさらなるリソースを提供するための,徹底的な論文レビューを通じ,キーポイントを伝える14の臨床的なチャプターから成り立っています.
 私はこの著書を強く推薦いたします! 臨床技術の向上を望む,すべての歯科医師にとって,きわめて価値のあるリソースとなることでしょう.
 Neil S.Norton,PhD
 2015〜2017年 アメリカ臨床解剖学会会長
 ネッター頭頸部・口腔顎顔面の臨床解剖学アトラス 著者
 クレイトン大学歯学部副入学審査部長,口腔生物学講座教授
 (編者訳)


推薦のことば−イメージをもつことの重要性−
 医療を学ぶ学生が必ずぶつかる最初の大きな壁である「解剖学」.学生の頃にあれだけ高い壁だったのにもかかわらず,卒業後はほとんどの先生が「臨床には解剖の知識が不可欠だ」と感じているように思われます.
 学生だけでなく現役の医師・歯科医師からも,私自身が解剖医としてよく聞かれる質問に「どうやって複雑な解剖を理解するのか」といった内容があります.解剖を学ぶにあたって重要なことの一つに,『しっかりとしたイメージをもつ』ことが挙げられます.イメージをもつためには,さまざまな角度からの観察が必要(もちろん解剖実習も含め)であり,複数の視点から一つの構造を見つめることで,難解な解剖が紐解かれるように理解できるのではないかと思います.本書はまさに,解剖・臨床をさまざまな角度から観察した写真を多数掲載しており,『しっかりとしたイメージをもつ』ためにはこれ以上にない最適の書です.本書を読むことで,読者の皆さんは今までの教科書にない写真を発見し,よりイメージを深めてくれることと思います.
 本書はまた,日本国内や世界各地で活躍する,臨床解剖・臨床各分野の次世代を担う専門家が,それぞれの専門分野に対し最後まで妥協せず議論を交わしあい,作りあげた渾身の一冊です.必ずや読者の日常臨床の一助となると確信しています.本書を通じて「臨床解剖」が全国の歯科医師に普及することを期待しています.
 2017年2月
 久留米大学医学部解剖学講座 肉眼・臨床解剖部門 教授
 山木宏一


推薦のことば
 本書は,国内学の臨床,研究の最先端で活躍している新進気鋭の若手歯科医師と医師15名による臨床解剖と手術の本です.
 歯科医療の近年の進歩は目覚ましく,再生医療の概念の導入やマイクロスコープやCBCT,超音波骨切削器具といった機器の普及等で,これまでは不可能であった手術が可能になり,また高い精度で安全に手術することが求められています.類書はあまたあり,名著といわれるものも少なくありません.手術の基本や原則は今も変わらず不変であるとはいえ,新しい概念や手技,機器についての記載がないという点では,少し古くなったものもあります.本書は,臨床に直結した基礎を学んだ者と臨床の最前線で最新の手技を実践している若手歯科医師による本で,歯科手術の「いま」を知るのに格好の良書です.
 本書の特徴は,(1)症例,手術の種類が豊富であること,(2)写真,イラストがきれいでわかりやすいこと,(3)解説がきめ細かく丁寧でわかりやすいことです.学生はもとより研修医,開業医が手術を学ぶにあたって最初に手に取るべき本であり,そして手放せなくなる本です.今後も著者たちの臨床経験と新しい知見が加えられて,版を重ね永く読み継がれていくことを確信しています.
 2017年2月
 公立学校共済組合 九州中央病院歯科口腔外科 部長
 日本口腔外科学会認定専門医・指導医
 九州大学歯学部臨床教授
 熊本大学医学部臨床教授
 堀之内康文


「ありそうでなかった」教科書を目指して
 口腔外科医として臨床解剖の分野に本格的に足を踏み入れ数年が経過したが,解剖に関する論文を読み進め,また解剖体をCBCTやマイクロスコープで詳細に観察すればするほど,臨床で(実際に)外科手技を行うことに難しさを感じるようになり,一方で自分が手に入れた臨床解剖に関する知識を口腔外科医にかぎらず,一般開業医の先生方にも知ってほしいという気持ちを,強く抱くようになってきた.
 近年,インプラント外科や歯周外科が一般開業医でも広く行われるようになり,毎週のように全国各地で研修セミナーが開催されている.また,そういったセミナーには必ずと言っていいほど解剖の講義が含まれており,筆者自身も学ぶことが多い.しかし,時間の制約もあって,学生時代に習った内容の確認が中心となる.もちろん,復習が重要であるのは言うまでもないが,臨床医はさらにアドバンスな,術式ごとの臨床現場に合わせた解剖も必要となるのではないか.そういった背景もあり,本書では「臨床医が安心して手術するための解剖学」といった視点から編集を行った.
 本書には,今までの成書にあまりない角度から見た解剖の写真やイラストを多く掲載しており,難解な解剖をできるかぎり簡単に理解できるよう心がけた.また,その解剖が臨床とどう直結するのかをわかりやすく解説した.さらに,口腔に関する外科(口腔外科,歯周外科,インプラント外科,外科的歯内療法,形成外科など)のそれぞれの分野の専門家に,外科治療の適応や術式,術後管理まで含め,詳細に解説してもらった.歯科医師,歯科衛生士のみならず,学生でも読みやすく,そして一度臨床を始めたら必ず手元に置いておきたい,今まで「ありそうでなかった」一冊になったと確信している.
 最後になるが,本書に推薦文を寄せていただいたDr.Neil S.Norton,堀之内康文先生,解剖医としての恩師であり推薦文を寄せていただいた山木宏一教授,口腔外科の基礎を一から教えていただいた楠川仁悟教授,臨床解剖に関する多くのアドバイスをいただいたDr.R.Shane Tubbsをはじめ,ご執筆いただいた多くの共著者の先生方,関係者各位,献体された故人ならびそのご遺族の方々に,感謝の言葉を述べたい.
 2017年2月
 久留米大学医学部解剖学講座 肉眼・臨床解剖部門/歯科口腔医療センター
 Seattle Science Foundation
 岩永 譲
Chapter 1 臨床医のための口腔解剖
Chapter 2 外科手術の原則と基本手技
Chapter 3 歯科治療における出血と止血
Chapter 4 局所麻酔
Chapter 5 下顎埋伏智歯抜歯
Chapter 6 歯根嚢胞(直視下手術)
Chapter 7 Endodontic Microsurgery
Chapter 8 歯周外科治療
Chapter 9 インプラント
Chapter 10 舌強直症
Chapter 11 自家歯牙移植・再植
Chapter 12 完全脱臼永久歯の再植
Chapter 13 膿瘍
Chapter 14 レーザー
 索引