やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 人口の急速な高齢化に伴って慢性疾患を有する高齢者が増加し,歯科口腔外科領域においても機能分化や連携が進み,疾病構造や患者のニーズも多様化している.かつてはほとんどみられなかった口腔乾燥症,舌痛症,誤飲・誤嚥などの患者が歯科外来を訪れるようになった.
 一方,医療の流れは,2025 年の地域包括ケアシステムの構築に向け患者本位,安心・安全で質の高い医療サービスが一貫して受けられる体制の構築や,患者等への医療に関する情報提供の推進等が求められている.
 歯科医療の質的向上にむけての歯科医師臨床研修もその例外ではなく,平成18 年度から必修化され,各研修施設で研修内容の検討が行われている.
 しかし,実際の口腔外科研修にあたっての心構えや臨床における留意点をわかりやすく示した成書は少ない.本書は,歯科口腔外科疾患の治療については,診断・鑑別・治療計画という治療の流れの一貫性を解説すると同時に,診察のアウトカムを評価するシステムが重要となるという視点から編集している.
 時代の要請は,歯科医師は歯だけの専門家ではなく,全身の一部としての口腔の疾患を治療する口腔科学の専門家であることと同時に機能連携によって口腔領域の疾患とその周辺にわれわれ歯科医師は貢献する必要がある.
 このような背景のもとに,研修歯科医が実際に診察するために必要な知識と臨床技術と現在の口腔外科診療に必要な情報を記載した.
 歯学生,研修歯科医のみならず一般臨床医の先生方の日々の臨床に役立つような書籍を目指すことをコンセプトにまとめたのが本書である.

 本書の活用法
 第1 編 総論
  歯科医師としての心構え,初診時の心得等,口腔外科に必要な基本的事項を取り上げている.また,地域包括システム構築に向けて医療提供体制の改革が進められている.そのなかで,口腔外科疾患の治療にあたっては,医療機能連携による口腔管理計画が重要になっている.これらは,かかりつけ歯科医を中心とした病院,医療機関,歯科診療所の機能連携が必要である.このことは周術期口腔機能管理,チーム医療,医科歯科連携,在宅医療等が診療報酬上でも評価されていることで分かる.こういった医療政策の方向についても解説を行っている.
 第2 編 症例に学ぶ診断手順
  ここでは,左ページに主訴・症状と診査,検査が示されている.研修歯科医等が主訴および症状から診断,治療に至る過程を実際のカルテ記載に即して記述されている.臨床歯科医にとっては,鑑別診断に役立つ症例は必見である.
 第3 編 口腔外科疾患の治療概説
  外来で行う小手術が中心となっている.研修歯科医,臨床歯科医にとっても,必要な器具からはじまり,手技や治療手順が写真や図解でわかりやすく解説されている.治療の具体的イメージを会得できるよう配慮されているので,手術前に一読されると役立つ内容である.
 最後に,編集委員の無理な要求にもかかわらず快くご執筆いただいた先生方ならびに関係各位にあらためてお礼申し上げる.
 2016 年10 月
 角 保徳
 樋口勝規
 梅村長生
 柴原孝彦
第1編 総論
 Introduction 歯科医師としての心構え(梅村長生)
   1)歯科医師に求められる4 つの能力
   2)患者とのコミュニケーション能力
   3)EBMに基づく歯科医療を実践できる能力
   4)マネジメント能力
   5)初診時の心得─ 安心できる雰囲気づくり─
   6)治療の優先順位による初診時の患者への対応
 1 口腔外科とは(柴原孝彦)
 2 口腔外科領域で行う術前検査の手順と目的(柴原孝彦)
   1)医療面接
   2)視 診
   3)触 診
   4)打診と聴診
   5)画像検査
   6)臨床検査
 3 医療連携と周術期管理(柴原孝彦,梅村長生)
  1.医療提供体制改革と口腔外科
  2.連携医療を行ううえでの心構え
   1)口腔外科疾患を疑う目
   2)外科手術上注意を要する全身性疾患への理解
  3.周術期管理
   1)周術期とは
   2)周術期と口腔機能管理
  4.周術期院内感染対策管理
  5.術後感染
第2編 症例に学ぶ診断手順
 1 診断フローチャート(角 保徳)
 2 部位分類・症状分類一覧(角 保徳)
 3 症例解説
   (1)歯の外傷(外木守雄)
   (2)歯根破折(亀裂)(佐分利紀彰)
   (3)歯肉癌(角 保徳)
   (4)智歯周囲炎(角 保徳)
   (5)エプーリス(角 保徳)
   (6)乳頭腫(角 保徳)
   (7)エナメル上皮腫(中村康典)
   (8)上顎骨骨膜炎/歯性上顎洞炎(角 保徳)
   (9)歯根嚢胞/上顎嚢胞(角 保徳)
   (10)術後性上顎嚢胞(中村康典)
   (11)上顎洞癌(中村康典)
   (12)褥瘡性潰瘍(角 保徳)
   (13)アフタ性口内炎(角 保徳)
   (14)カンジダ症(角 保徳)
   (15)扁平苔癬(角 保徳)
   (16)白板症(角 保徳)
   (17)口腔出血(角 保徳)
   (18)三叉神経痛(角 保徳)
   (19)口腔乾燥症(角 保徳)
   (20)舌痛症(角 保徳)
   (21)扁平舌(Plummer-Vinson症候群)(角 保徳)
   (22)血管腫(中村康典)
   (23)ガマ腫(外木守雄)
   (24)舌 癌(角 保徳)
   (25)味覚異常(外木守雄)
   (26)舌小帯強直症(角 保徳)
   (27)粘液嚢胞(角 保徳)
   (28)Quincke浮腫(外木守雄)
   (29)顎骨嚢胞(角 保徳)
   (30)口蓋の唾液腺腫瘍(悪性)(中村康典)
   (31)下顎骨骨膜炎(角 保徳)
   (32)顎下腺炎(中村康典)
   (33)顎下腺腫瘍(外木守雄)
   (34)唾石症(角 保徳)
   (35)頸部リンパ節腫脹(角 保徳)
   (36)ビスフォスフォネート系薬剤による顎骨壊死(角 保徳)
   (37)顎関節脱臼(角 保徳)
   (38)顎関節症(中村康典)
   (39)顎顔面の外傷(角 保徳)
   (40)顔面神経麻痺(角 保徳)
   (41)帯状疱疹(角 保徳)
   (42)誤飲,誤嚥(角 保徳)
第3編 口腔外科疾患の治療概説
 1 口腔外科治療で身につけておきたい麻酔と全身管理 森本佳成
  1.局所麻酔(局所麻酔薬,局所麻酔法,合併症)
   1)局所麻酔薬
   2)局所麻酔法
   3)局所麻酔の合併症
  2.全身管理
   1)モニタリングで異常がみられた時の対応
   2)救急救命処置
 2 口腔外科手術の基本手技
  1.抜 歯
   1)普通抜歯(鉗子抜歯,ヘーベル抜歯)(堀之内康文)
   2)普通抜歯 1.鉗子抜歯(堀之内康文)
   3)普通抜歯 2.ヘーベル抜歯(堀之内康文)
   4)下顎埋伏智歯(堀之内康文)
   5)切開法(堀之内康文)
   6)剥離法(堀之内康文)
   7)縫合法(堀之内康文)
   8)結紮法(糸結び)(堀之内康文)
   9)止血法(堀之内康文)
   10)消毒法(堀之内康文)
  2.外 傷
   1)顔面外傷(喜久田利弘)
   2)歯の外傷(喜久田利弘)
   3)顎顔面骨折(喜久田利弘)
   4)顎関節部の損傷(喜久田利弘)
  3.嚢胞の手術
   1)嚢胞開窓摘出術(中村典史)
   2)口唇粘液嚢胞の摘出手術(角 保徳)
   3)エプーリスの摘出術(宇佐美雄司)
   4)歯根尖切除術(五十嵐 勝)
  4.その他
   1)小帯形成術(木律男)
   2)唾石摘出(顎下腺)(宮田 勝)
   3)歯の移植(木律男)
  5.インプラント
   1)インプラント(保険適用)(松下恭之,佐々木匡理)
  6.こんな偶発症にどう対処するか
   1)上顎洞穿孔(口腔上顎洞瘻)の処置(薬師寺 登)
   2)ドライソケット(中村誠司)
   3)異物の誤飲・誤嚥(中村誠司)
 3 悪性腫瘍の手術(悪性腫瘍検査含む)(山本信治,柴原孝彦)
  1.表在癌・早期癌─舌癌(T1N0M0)の切除手術─
  2.進行癌─下顎歯肉癌(T4aN2bM0)の拡大根治手術:下顎半側切除術─
  3.化学療法
  4.周術期口腔管理
 4 外科手術時に注意を要する薬剤(柴原孝彦)
   1)BP服用患者
   2)抗血栓薬服用患者