推薦の辞
私の最も敬愛する臨床家の一人である,倉富覚先生が歯内療法の書籍を出版した.彼は3年間,私のオフィスで勤務した後に開業したのであるが,すでに13年が経過し,開業医としての心技体がバランスよく整った,本当にすばらしい臨床家に育ってくれた.
歯内療法は感染根管と非感染根管に大別されるが,それぞれの処置にはいろいろと違いがある.本書では,それらの概念を明確に区別して,診断と術式を簡潔に整理してある.特に感染根管では,大臼歯・小臼歯・前歯部それぞれの部位の根管の特徴と感染状態を理解し,どのような方法でそれらの根管へアタックすればよいのかを整理し解説した,みごとな書籍である.
提示されている臨床例の記録の一つひとつが,実にわかりやすく的確に表現されており,そのデータを一見すれば,彼の臨床に対する日頃の歯科医師としての姿勢が,ひしひしと読者に伝わってくるはずである.そして,可能なかぎりわかりやすく自分の行ってきた臨床術式とその結果を提示し,そのとおりに施術すれば誰でも同じ結果が得られるはずであると自信をもって述べている.
本書で彼が読者に一番伝えたいのは,まさにそのことなのである.
今,歯内療法はCT,マイクロスコープの出現によって誰でも簡単にでき,同じような結果が出せる時代になってきた.しかしながら,それは天然歯の有する歯髄と歯根膜との病理組織学的な関係と,その防御機構をしっかり理解したうえでの話である.私はこのすばらしい臨床書籍を,ぜひ全国のすべての若い歯科医師に目を通していただきたいと考えている.そして,歯科医療に対する姿勢を育み,患者さんの感染根管罹患歯を一本でも多く治し,末永く保存しようという情熱を絶やすことなく自己研鑽をしてほしいと願っている.
彼はまだ若い.これからますます成長していくはずである.10年,20年後にこれらの症例がどのような形で患者さんの口腔に残っているのか,そして機能しているのかを歯科医師と患者さんとのつながりのなかで,もう一度確認して,その予後を報告してほしいものである.久しぶりに涙が出るほど感動させられた書籍である.
2016年9月
福岡県北九州市・下川歯科医院 下川公一
はじめに
「まずは,エンドをきちんとできることを目標にがんばりなさい」.卒後すぐに師事させていただいた故・山内 厚先生から勤務初日にいただいた言葉である.
なぜ,“まずはエンド”なのか?当時,先生がおっしゃった意味がよくわからなかったが,とりあえずいわれるがまま,歯内療法に一生懸命に取り組み,よい結果を残したいと思った.
山内先生に連れて行っていただいた,歯科医師になって初めての講演会で,現在の師匠である下川公一先生(北九州市ご開業)の歯内療法の講演を拝聴した.患者さんにみえない部分の“根管治療”は“歯科医師の良心”であるという先生の言葉に感銘を受けた.それから20年が経ち,当時の山内先生の年齢に近づいた現在になって,ようやくお二人の先生がおっしゃった意味がわかってきたような気がする.
歯内療法は歯科治療の根幹をなす治療であるといってもよく,そこにエラーがあれば,その後に続く治療の永続性は望めない.日常臨床のなかでは頻度の高い基本的な治療でありながら,その難易度は非常に高く,精度の高い仕事をルーティーンワークとして行っていなければ,よい結果は得られない.また,比較的短期間で改善傾向の判定ができ,改良を加えながら上達することができるという点でも他分野とは異なる.そのような観点より,若い先生には「まずはエンドを…」と私からもアドバイスしたい.
歯内療法は一生懸命に行ったからといって,必ずしもよい結果が出るものではない.根尖病変が治らず,壁にぶつかったときには,えてして目新しい器材や術式に飛びつきたくなるが,一度自身のコンセプトと術式を0ゼロにリセットしてみてはいかがだろうか.先入観を捨て,客観的に自己を見直したときに,何かみえてくるかもしれない.その一助になれば幸いである.
2016年9月
倉富 覚、
私の最も敬愛する臨床家の一人である,倉富覚先生が歯内療法の書籍を出版した.彼は3年間,私のオフィスで勤務した後に開業したのであるが,すでに13年が経過し,開業医としての心技体がバランスよく整った,本当にすばらしい臨床家に育ってくれた.
歯内療法は感染根管と非感染根管に大別されるが,それぞれの処置にはいろいろと違いがある.本書では,それらの概念を明確に区別して,診断と術式を簡潔に整理してある.特に感染根管では,大臼歯・小臼歯・前歯部それぞれの部位の根管の特徴と感染状態を理解し,どのような方法でそれらの根管へアタックすればよいのかを整理し解説した,みごとな書籍である.
提示されている臨床例の記録の一つひとつが,実にわかりやすく的確に表現されており,そのデータを一見すれば,彼の臨床に対する日頃の歯科医師としての姿勢が,ひしひしと読者に伝わってくるはずである.そして,可能なかぎりわかりやすく自分の行ってきた臨床術式とその結果を提示し,そのとおりに施術すれば誰でも同じ結果が得られるはずであると自信をもって述べている.
本書で彼が読者に一番伝えたいのは,まさにそのことなのである.
今,歯内療法はCT,マイクロスコープの出現によって誰でも簡単にでき,同じような結果が出せる時代になってきた.しかしながら,それは天然歯の有する歯髄と歯根膜との病理組織学的な関係と,その防御機構をしっかり理解したうえでの話である.私はこのすばらしい臨床書籍を,ぜひ全国のすべての若い歯科医師に目を通していただきたいと考えている.そして,歯科医療に対する姿勢を育み,患者さんの感染根管罹患歯を一本でも多く治し,末永く保存しようという情熱を絶やすことなく自己研鑽をしてほしいと願っている.
彼はまだ若い.これからますます成長していくはずである.10年,20年後にこれらの症例がどのような形で患者さんの口腔に残っているのか,そして機能しているのかを歯科医師と患者さんとのつながりのなかで,もう一度確認して,その予後を報告してほしいものである.久しぶりに涙が出るほど感動させられた書籍である.
2016年9月
福岡県北九州市・下川歯科医院 下川公一
はじめに
「まずは,エンドをきちんとできることを目標にがんばりなさい」.卒後すぐに師事させていただいた故・山内 厚先生から勤務初日にいただいた言葉である.
なぜ,“まずはエンド”なのか?当時,先生がおっしゃった意味がよくわからなかったが,とりあえずいわれるがまま,歯内療法に一生懸命に取り組み,よい結果を残したいと思った.
山内先生に連れて行っていただいた,歯科医師になって初めての講演会で,現在の師匠である下川公一先生(北九州市ご開業)の歯内療法の講演を拝聴した.患者さんにみえない部分の“根管治療”は“歯科医師の良心”であるという先生の言葉に感銘を受けた.それから20年が経ち,当時の山内先生の年齢に近づいた現在になって,ようやくお二人の先生がおっしゃった意味がわかってきたような気がする.
歯内療法は歯科治療の根幹をなす治療であるといってもよく,そこにエラーがあれば,その後に続く治療の永続性は望めない.日常臨床のなかでは頻度の高い基本的な治療でありながら,その難易度は非常に高く,精度の高い仕事をルーティーンワークとして行っていなければ,よい結果は得られない.また,比較的短期間で改善傾向の判定ができ,改良を加えながら上達することができるという点でも他分野とは異なる.そのような観点より,若い先生には「まずはエンドを…」と私からもアドバイスしたい.
歯内療法は一生懸命に行ったからといって,必ずしもよい結果が出るものではない.根尖病変が治らず,壁にぶつかったときには,えてして目新しい器材や術式に飛びつきたくなるが,一度自身のコンセプトと術式を0ゼロにリセットしてみてはいかがだろうか.先入観を捨て,客観的に自己を見直したときに,何かみえてくるかもしれない.その一助になれば幸いである.
2016年9月
倉富 覚、
推薦の辞
はじめに
Introduction
Chapter 1 根管治療における診査・診断の重要性─デンタルエックス線写真を中心に
1.診断なくして治療なし─すべてはここから始まる
・画像診断とは正常像と異常像の判別であり,正常像を理解することから始まる
2.適切なデンタルエックス線写真の追究─当院ではこうしている!
・“規格性のある”デンタルエックス線画像を得るために
3.デンタルエックス線写真のどこを読むのか?何をみるのか?
4.デンタルエックス線写真の限界とCTの有効性
・三次元像の把握と解剖学的理由
・デンタルエックス線写真の透過像はあくまでも皮質骨の吸収像である
5.デンタルエックス線写真やCTだけではわからない!臨床診断の重要性
Chapter 1のポイント
Chapter 2 治療計画の立案
1.急性炎症期の対応
2.患者さんへの説明
3.原因歯,原因根はどこかを探る
4.根管治療の進め方
1)穿通できない場合は,先に穿通できる根や隣在歯から
2)健全歯質の確保
3)抜歯窩との交通―インプラント埋入を行う前に
5.根尖病変は歯根膜炎─歯根膜を安定させるため,歯周病,咬合性外傷への対応が不可欠
1)自然挺出(自然移動)
2)エンド・ペリオ病変,エンド由来の根分岐部病変
6.治療計画の変更
7.補綴設計
Chapter 2のポイント
Chapter 3 根管拡大の基本概念─非感染根管と感染根管を区別して考える
1.歯内療法の目的─敵は根管内にあり!
2.根尖病変の主犯は細菌─起炎因子を知る
3.非感染根管と感染根管の術式の違い─アピカルストップの設定位置
1)非感染根管─生理学的根尖孔を絶対に破壊しない
2)感染根管─根尖病変を有する歯では歯根吸収が起こっている
3)垂直的な位置設定をどう行うか?
4.1根管単位で診断し,アピカルストップの位置を変える
5.精確なアピカルストップの設定を行うには?─電気的根管長測定をつねに行う
Chapter 3のポイント
Chapter 4 感染根管処置の盲点─根管の水平的拡大を中心に
1.なぜ水平的拡大が重要か─円形の根管はほとんど存在しない
2.根管の形に沿った拡大を行うためのファイル操作─その基本原則
1)リーミング操作や回転切削器具だけでは不十分
2)Hファイルによる円周ファイリング操作
3.拡大不足を防ぐために─解剖学的特徴の理解
1)イスマス,フィンと樋状根
2)副根管の見逃しをなくす
3)根管の数,位置の把握
Chapter 4のポイント
診断クイズ
Chapter 5 部位別の解剖学的特徴と根管拡大のストラテジー
1.上顎切歯,犬歯
2.上顎小臼歯
3.上顎大臼歯
4.下顎切歯,犬歯
5.下顎小臼歯
6.下顎大臼歯
Chapter 5のポイント
文献
索引
下川先生至言集
診断力
デンタルエックス線写真は患者さんの身体の一部だと思え!
プロ選手と観客
デンタルで白を善,黒を悪と考えるのはアパルトヘイトだ
1枚のデンタルをみれば,その臨床家の情熱と実力がわかる
横断歩道を赤信号で渡っても運よく車にはねられないこともある.青信号でもはねられるんぞ!
「青の洞門」式エンド
Ten Cateを暗誦できるくらい読み込め!
歯医者の仕事を動詞でいえば
「いざ」というときの一本
この歯を下川先生に治療してもらったことを忘れるな!
コラム
隣在歯の影響による疑似根尖病変
どのようなときにCTを撮影するの?
特に重要な鑑別診断─歯髄は最良の根管充填材
デンタルエックス線写真では確定できない前医による根管充填の良否
素晴らしい結果
アンダー根充で治るケース
オーバー根充の予後
副根管を偶然発見できた場合は
抜去歯の観察
中心結節
はじめに
Introduction
Chapter 1 根管治療における診査・診断の重要性─デンタルエックス線写真を中心に
1.診断なくして治療なし─すべてはここから始まる
・画像診断とは正常像と異常像の判別であり,正常像を理解することから始まる
2.適切なデンタルエックス線写真の追究─当院ではこうしている!
・“規格性のある”デンタルエックス線画像を得るために
3.デンタルエックス線写真のどこを読むのか?何をみるのか?
4.デンタルエックス線写真の限界とCTの有効性
・三次元像の把握と解剖学的理由
・デンタルエックス線写真の透過像はあくまでも皮質骨の吸収像である
5.デンタルエックス線写真やCTだけではわからない!臨床診断の重要性
Chapter 1のポイント
Chapter 2 治療計画の立案
1.急性炎症期の対応
2.患者さんへの説明
3.原因歯,原因根はどこかを探る
4.根管治療の進め方
1)穿通できない場合は,先に穿通できる根や隣在歯から
2)健全歯質の確保
3)抜歯窩との交通―インプラント埋入を行う前に
5.根尖病変は歯根膜炎─歯根膜を安定させるため,歯周病,咬合性外傷への対応が不可欠
1)自然挺出(自然移動)
2)エンド・ペリオ病変,エンド由来の根分岐部病変
6.治療計画の変更
7.補綴設計
Chapter 2のポイント
Chapter 3 根管拡大の基本概念─非感染根管と感染根管を区別して考える
1.歯内療法の目的─敵は根管内にあり!
2.根尖病変の主犯は細菌─起炎因子を知る
3.非感染根管と感染根管の術式の違い─アピカルストップの設定位置
1)非感染根管─生理学的根尖孔を絶対に破壊しない
2)感染根管─根尖病変を有する歯では歯根吸収が起こっている
3)垂直的な位置設定をどう行うか?
4.1根管単位で診断し,アピカルストップの位置を変える
5.精確なアピカルストップの設定を行うには?─電気的根管長測定をつねに行う
Chapter 3のポイント
Chapter 4 感染根管処置の盲点─根管の水平的拡大を中心に
1.なぜ水平的拡大が重要か─円形の根管はほとんど存在しない
2.根管の形に沿った拡大を行うためのファイル操作─その基本原則
1)リーミング操作や回転切削器具だけでは不十分
2)Hファイルによる円周ファイリング操作
3.拡大不足を防ぐために─解剖学的特徴の理解
1)イスマス,フィンと樋状根
2)副根管の見逃しをなくす
3)根管の数,位置の把握
Chapter 4のポイント
診断クイズ
Chapter 5 部位別の解剖学的特徴と根管拡大のストラテジー
1.上顎切歯,犬歯
2.上顎小臼歯
3.上顎大臼歯
4.下顎切歯,犬歯
5.下顎小臼歯
6.下顎大臼歯
Chapter 5のポイント
文献
索引
下川先生至言集
診断力
デンタルエックス線写真は患者さんの身体の一部だと思え!
プロ選手と観客
デンタルで白を善,黒を悪と考えるのはアパルトヘイトだ
1枚のデンタルをみれば,その臨床家の情熱と実力がわかる
横断歩道を赤信号で渡っても運よく車にはねられないこともある.青信号でもはねられるんぞ!
「青の洞門」式エンド
Ten Cateを暗誦できるくらい読み込め!
歯医者の仕事を動詞でいえば
「いざ」というときの一本
この歯を下川先生に治療してもらったことを忘れるな!
コラム
隣在歯の影響による疑似根尖病変
どのようなときにCTを撮影するの?
特に重要な鑑別診断─歯髄は最良の根管充填材
デンタルエックス線写真では確定できない前医による根管充填の良否
素晴らしい結果
アンダー根充で治るケース
オーバー根充の予後
副根管を偶然発見できた場合は
抜去歯の観察
中心結節











