序文
すでに第一線を退かれていると紹介された老年医学の専門家が「私ができる社会貢献は元気なうちは社会のために働き続けることです.ピンピンコロリですよ」とおっしゃった.ピンピンコロリを望む人は多いが,望みどおりになるとは限らない.しかしピンピンコロリの望みをかなえるためには食生活が大切といわれていることは周知のことであろう.
美味しいものを美味しく食べられないなら長生きしたくないという人もいる.「最期まで自らの力で食事を摂取し味わいたい」と誰しもが思っている.しかし介護施設を利用している高齢者の状況をみると,食事摂取に問題を抱えている高齢者は多い.その原因は多彩であり,う蝕や歯周病の治療により解決できる場合,義歯の調整または新製で対応できる場合もあれば,嚥下障害,運動機能障害,高次脳機能障害のため多職種協働が必要であり歯科単独での対応が困難な場合もある.しかし,心身にどのような問題がたとえあろうとも,口腔の健康を維持するための基本は口腔衛生の維持・向上であることは論をまたないであろう.介護予防では口腔機能向上が強調されているが,口腔機能向上のための基本は口腔衛生の維持・向上である.もちろん口腔機能向上と口腔衛生の維持・向上が相互に影響し合う関係にあり,良い影響を与え合うこともあり,また悪い影響を与え合うこともある.すなわち,口腔健康管理は口腔衛生管理と口腔機能管理の両輪からなっているといえる.
本書は高齢者の口腔の健康管理に携わる方々に役立つことを目指して,安全で安楽,効果的な口腔の健康管理の実施方法について解説を加えたものである.本書では,口腔健康管理の一般論とともに脳血管疾患,パーキンソン病,認知症,うつ病などの疾患をもった高齢者の口腔健康管理についても解説を行った.多くの視点から口腔健康管理に有用な情報を提供することを心掛けたが,対象者の心身の状況は千差万別である.口腔衛生管理と口腔機能管理の実際については一括りにまとめられない難しさがある.本書が口腔健康管理に携わる方々,歯科医師,歯科衛生士の方々のみならず看護・介護に携わる方々にとって日々の実践に少しでも役立つことを願っている.そして,口腔健康管理によって高齢者の生活の質が維持・向上することに本書が資することを願っている.
最後に有益な助言をいただいた秋本和宏氏,また本書の完成に労を惜しまなかった医歯薬出版関係諸氏に深く感謝の意を表します.
平成28年6月 下山和弘
すでに第一線を退かれていると紹介された老年医学の専門家が「私ができる社会貢献は元気なうちは社会のために働き続けることです.ピンピンコロリですよ」とおっしゃった.ピンピンコロリを望む人は多いが,望みどおりになるとは限らない.しかしピンピンコロリの望みをかなえるためには食生活が大切といわれていることは周知のことであろう.
美味しいものを美味しく食べられないなら長生きしたくないという人もいる.「最期まで自らの力で食事を摂取し味わいたい」と誰しもが思っている.しかし介護施設を利用している高齢者の状況をみると,食事摂取に問題を抱えている高齢者は多い.その原因は多彩であり,う蝕や歯周病の治療により解決できる場合,義歯の調整または新製で対応できる場合もあれば,嚥下障害,運動機能障害,高次脳機能障害のため多職種協働が必要であり歯科単独での対応が困難な場合もある.しかし,心身にどのような問題がたとえあろうとも,口腔の健康を維持するための基本は口腔衛生の維持・向上であることは論をまたないであろう.介護予防では口腔機能向上が強調されているが,口腔機能向上のための基本は口腔衛生の維持・向上である.もちろん口腔機能向上と口腔衛生の維持・向上が相互に影響し合う関係にあり,良い影響を与え合うこともあり,また悪い影響を与え合うこともある.すなわち,口腔健康管理は口腔衛生管理と口腔機能管理の両輪からなっているといえる.
本書は高齢者の口腔の健康管理に携わる方々に役立つことを目指して,安全で安楽,効果的な口腔の健康管理の実施方法について解説を加えたものである.本書では,口腔健康管理の一般論とともに脳血管疾患,パーキンソン病,認知症,うつ病などの疾患をもった高齢者の口腔健康管理についても解説を行った.多くの視点から口腔健康管理に有用な情報を提供することを心掛けたが,対象者の心身の状況は千差万別である.口腔衛生管理と口腔機能管理の実際については一括りにまとめられない難しさがある.本書が口腔健康管理に携わる方々,歯科医師,歯科衛生士の方々のみならず看護・介護に携わる方々にとって日々の実践に少しでも役立つことを願っている.そして,口腔健康管理によって高齢者の生活の質が維持・向上することに本書が資することを願っている.
最後に有益な助言をいただいた秋本和宏氏,また本書の完成に労を惜しまなかった医歯薬出版関係諸氏に深く感謝の意を表します.
平成28年6月 下山和弘
Part I 口腔健康管理の実践
Chapter 1−口腔衛生管理
1.口腔衛生管理の基本
(1)口腔衛生管理の重要性 (2)口腔清掃の実施者
(3)高齢者にみられる歯科疾患および口腔内の状態
(4)口腔清掃の自立度判定 (5)口腔アセスメント
(6)介護者による口腔清掃 (7)口腔清掃に用いるおもな用具
(8)義歯清掃 (9)義歯の保管方法 (10)義歯の紛失防止
Chapter 2−口腔機能管理
1.口腔機能の評価
(1)咀嚼機能の評価 (2)摂食嚥下障害のスクリーニングテストと検査
(3)発声・構音機能の評価 (4)含嗽(うがい)による評価
(5)口腔顔面失行検査 (6)口腔・顔面の観察
2.口腔機能維持・向上のためのトレーニング
(1)摂食嚥下リハビリテーション (2)口腔体操・嚥下体操
(3)口唇・舌・頬の訓練 (4)開口訓練(舌骨上筋群強化目的)と頭部挙上訓練
(5)ブローイング訓練 (6)唾液腺マッサージ
3.介護保険制度における口腔機能向上
(1)基本チェックリストによる二次予防事業対象者の選定
(2)口腔機能向上プログラム
Part II 基礎知識
Chapter 3−噛んで食べるということ−健康とのかかわりのなかで
1.摂食嚥下の過程
2.摂食嚥下機能の加齢変化と摂食嚥下障害
(1)摂食嚥下機能の障害と加齢変化 (2)摂食嚥下障害の病態
3.歯の喪失が顎口腔系に及ぼす影響
(1)歯の喪失による機能障害 (2)歯の喪失による咀嚼能力の低下
(3)摂食嚥下機能への影響
4.咀嚼機能および咬合維持の重要性
(1)栄養 (2)サルコペニア (3)運動器の機能向上
(4)脳の活性化 (5)QOL(生活の質) (6)寿命
Chapter 4−高齢者の栄養
1.栄養の問題点
2.栄養状態の評価
3.必要栄養量の算出
4.栄養法
(1)栄養治療 (2)経腸栄養法 (3)静脈栄養法
5.高齢者ケアの意思決定プロセス
6.高齢者の食事・食品
(1)食事介助 (2)特別用途食品 (3)ユニバーサルデザインフード
(4)日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013
Chapter 5−安全・安楽の確保
1.安全・安楽の基本
(1)はじめに (2)感染対策 (3)患者の安全と安楽
(4)患者の暴言・暴力
Chapter 6−高齢者の身体的な特徴
1.高齢者の置かれた状況
(1)健康 (2)介護
2.高齢者の医学的な特徴
3.老年症候群と高齢者総合機能評価
(1)廃用症候群 (2)老年症候群 (3)高齢者総合機能評価
4.脳血管疾患
(1)脳血管疾患の分類 (2)脳卒中
5.パーキンソン病
(1)パーキンソン病の病態 (2)治療方法 (3)口腔にみられる問題
(4)口腔衛生管理 (5)歯科治療時の注意点
6.骨粗鬆症
(1)骨粗鬆症と骨折 (2)歯周病との関係
(3)ビスフォスフォネート関連顎骨壊死
Chapter 7−高齢者の精神的な特徴
1.高齢者の心理的な特徴
(1)記憶 (2)知能 (3)人格 (4)心理的特徴と対応方法
2.精神疾患
(1)高齢期の気分障害(うつ病) (2)認知症
文献
索引
Chapter 1−口腔衛生管理
1.口腔衛生管理の基本
(1)口腔衛生管理の重要性 (2)口腔清掃の実施者
(3)高齢者にみられる歯科疾患および口腔内の状態
(4)口腔清掃の自立度判定 (5)口腔アセスメント
(6)介護者による口腔清掃 (7)口腔清掃に用いるおもな用具
(8)義歯清掃 (9)義歯の保管方法 (10)義歯の紛失防止
Chapter 2−口腔機能管理
1.口腔機能の評価
(1)咀嚼機能の評価 (2)摂食嚥下障害のスクリーニングテストと検査
(3)発声・構音機能の評価 (4)含嗽(うがい)による評価
(5)口腔顔面失行検査 (6)口腔・顔面の観察
2.口腔機能維持・向上のためのトレーニング
(1)摂食嚥下リハビリテーション (2)口腔体操・嚥下体操
(3)口唇・舌・頬の訓練 (4)開口訓練(舌骨上筋群強化目的)と頭部挙上訓練
(5)ブローイング訓練 (6)唾液腺マッサージ
3.介護保険制度における口腔機能向上
(1)基本チェックリストによる二次予防事業対象者の選定
(2)口腔機能向上プログラム
Part II 基礎知識
Chapter 3−噛んで食べるということ−健康とのかかわりのなかで
1.摂食嚥下の過程
2.摂食嚥下機能の加齢変化と摂食嚥下障害
(1)摂食嚥下機能の障害と加齢変化 (2)摂食嚥下障害の病態
3.歯の喪失が顎口腔系に及ぼす影響
(1)歯の喪失による機能障害 (2)歯の喪失による咀嚼能力の低下
(3)摂食嚥下機能への影響
4.咀嚼機能および咬合維持の重要性
(1)栄養 (2)サルコペニア (3)運動器の機能向上
(4)脳の活性化 (5)QOL(生活の質) (6)寿命
Chapter 4−高齢者の栄養
1.栄養の問題点
2.栄養状態の評価
3.必要栄養量の算出
4.栄養法
(1)栄養治療 (2)経腸栄養法 (3)静脈栄養法
5.高齢者ケアの意思決定プロセス
6.高齢者の食事・食品
(1)食事介助 (2)特別用途食品 (3)ユニバーサルデザインフード
(4)日本摂食・嚥下リハビリテーション学会嚥下調整食分類2013
Chapter 5−安全・安楽の確保
1.安全・安楽の基本
(1)はじめに (2)感染対策 (3)患者の安全と安楽
(4)患者の暴言・暴力
Chapter 6−高齢者の身体的な特徴
1.高齢者の置かれた状況
(1)健康 (2)介護
2.高齢者の医学的な特徴
3.老年症候群と高齢者総合機能評価
(1)廃用症候群 (2)老年症候群 (3)高齢者総合機能評価
4.脳血管疾患
(1)脳血管疾患の分類 (2)脳卒中
5.パーキンソン病
(1)パーキンソン病の病態 (2)治療方法 (3)口腔にみられる問題
(4)口腔衛生管理 (5)歯科治療時の注意点
6.骨粗鬆症
(1)骨粗鬆症と骨折 (2)歯周病との関係
(3)ビスフォスフォネート関連顎骨壊死
Chapter 7−高齢者の精神的な特徴
1.高齢者の心理的な特徴
(1)記憶 (2)知能 (3)人格 (4)心理的特徴と対応方法
2.精神疾患
(1)高齢期の気分障害(うつ病) (2)認知症
文献
索引