やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 パーシャルデンチャーを必要とする患者さんの年齢層は幅が広く,義歯による外観の問題や管理の手間を嫌う患者さんがいる一方で,内科的疾患があったり介護下の患者さんも増えてきました.また歯科医療の発展に伴い,天然歯を保存する手段は増えたものの,歯科治療を多く経験した患者さんほど口腔内の状況は複雑化しています.歯科治療には,治療開始から終了までの道程と長期予後を見据えたディシジョンメイキング(方針決定)とインフォームドコンセントがますます重要となり,そこにパーシャルデンチャーが大きな役割を果たすことが多くなってきました.
 従来の教育の中心であった欠損形態から最終的(ディフィニティブ)な義歯の設計を決めるというステップは,治療方針決定の一部に過ぎません.今必要なのは治療全体の流れの中でパーシャルデンチャーを有効利用する「活用力」が求められていると言えます.「活用力」とは,「パーシャルデンチャーをさまざまな場面で便利に応用する力」であり,「患者さんごとに,教科書で習った知識をどのように組み合わせていくか」です.本書は,パーシャルデンチャーを活用するための実践的な方法をまとめたものであり,チェアサイドで今すぐに役立つ内容だけを選んで構成しました.本書を手に取っていただいた方々が,日常臨床におけるディシジョンメイキングにふと迷う場面で,多少なりともお役に立つようであれば誠に幸いに思います.
 2016年1月
 著者
 序章 パーシャルを活用するためのディシジョンメイキング
Case 1 パーシャルへの導入
 A 症例 突然,義歯になると宣言された
  1 経過のまとめ
  2 診査
  3 診断
 実際の治療経過
  1 プロビジョナルパーシャル(即時義歯)の製作
  2 設計の要点
  3 歯周基本治療
  4 プロビジョナルレストレーション
   1−プロビジョナルブリッジの製作
   2−プロビジョナルパーシャル(確認用)の製作
  5 ブリッジ,ディフィニティブパーシャルの製作
  6 ディフィニティブパーシャルの調整
  まとめ
 B 解説 治療開始時に行うこと
  1 診断のポイント:着目する4つの視点
   1−抜歯の必要性
   2−残存歯の数と分布
   3−残存歯の動揺と二次固定
   4−外観回復の重要度
  2 インフォームドコンセント:患者さんに何をわかってもらうのか
Case 2 クラスプが緩くなった
 A 症例 使用中のパーシャルが緩い
  1 経過のまとめ
  2 診査
  3 診断
 実際の治療経過
  1 概形印象(アルジネート印象材)
  2 前処置
  3 義歯の設計
  4 印象採得(上顎)
  5 咬合採得
  6 上顎ディフィニティブパーシャルの装着
  7 義歯の着脱指導
  まとめ
 B 解説 前処置とデザイン
  1 パーシャルにおける前処置の重要性
  2 実例で示す前処置の例
   1−中間欠損の片側設計
   2−中間欠損の両側設計
   3−遊離端欠損の設計(リンガルバー)
   4−遊離端欠損の設計(リンガルプレート)
   5−多数歯欠損症例の設計
   6−前歯部欠損の設計
  3 前処置の手順
   1−エーカースクラスプの場合
   2−近心レストを用いたクラスプの場合
   3−歯間部にレストとクラスプを置く場合
   4−基底結節レスト
  4 目立たないクラスプの選択
  5 支台歯の連結,二次固定,残根への変更
Case 3 ブリッジからパーシャルへ
 A 症例 ブリッジが脱離してパーシャルが必要となった症例
  1 経過のまとめ
  2 診査
  3 診断
 実際の治療経過
  1 治療順序の考慮
  2 歯周初期治療と下顎パーシャル製作
  3 下顎パーシャルの設計
  4 印象採得(下顎)
  5 咬合採得
  6 下顎パーシャルの装着
  7 下顎パーシャル装着4カ月後にブリッジが脱離した
  8 上顎プロビジョナルパーシャルの製作
   1−ブリッジが外れた状態で前処置
   2−印象採得(既製トレー+寒天アルジネート連合印象)
   3−咬合採得(シリコーン咬合採得材)
  9 上顎プロビジョナルパーシャルの設計
  10 義歯の装着
   1−仮着ブリッジの除去
   2−義歯の試適
   3−咬合調整
   4−粘膜面の調整
   5−外観の確認
  11 義歯の着脱指導
  まとめ
 B 解説 印象採得と床縁形態
  1 部位による床下顎堤の違い
  2 辺縁形成と印象採得の手順
   1−個人トレーの試適
   2−コンパウンド(インプレッションコンパウンド・赤)の付与
   3−筋形成の要点(上顎)
   4−コンパウンドの微修正
   5−内面の適合確認
   6−筋形成の要点(下顎)
   7−ブロックアウト
   8−印象材をトレーに盛る
   9−トレーの口腔内挿入
   10−印象材の撤去
   11−印象の確認
  3 筋形成を要しない場合
  4 全部床義歯とは何が違うのか
Case 4 咬合挙上が必要なとき
 A 症例 パーシャルによる咬合挙上が必要なとき
  1 経過のまとめ
  2 診査
  3 診断
 実際の治療経過
  1 プロビジョナルパーシャルの製作
  2 プロビジョナルパーシャルの設計
  3 プロビジョナルパーシャルの装着
  4 プロビジョナル装着後の機能を経過から観察する
  5 残存歯の歯冠補綴治療
  6 ディフィニティブパーシャルの製作
  7 ディフィニティブパーシャルの装着
  8 装着後の経過
  まとめ
 B 解説 新しい咬合関係の決定と記録
  1 高径の変更が必要な症例とは
  2 咬合挙上を回避する場合
   1−顎堤間距離が著しく不足していても咬合挙上を行うべきでない症例
   2−義歯の設計と材料の工夫で対応した症例
  3 咬合採得を正確に行うために
   1−咬合床を整える
   2−審美的なリップサポート
   3−咬合高径の決定手順−顔貌計測(Willis法)に基づく方法−
   4−咬合採得のエラーをなくす
Case 5 パーシャル装着のルーティン
 A 症例 装着した日から噛めるようになりたい
  1 経過のまとめ
  2 診査
  3 診断
 実際の治療経過
  1 抜歯窩の上皮化の確認
  2 ディフィニティブパーシャルの製作
  3 装着のルーティン
   1−定位に装着できるかを確認する
   2−支台歯と支台装置の適合を確認する
   3−咬合調整
   4−粘膜面の調整
   5−着脱指導
  4 抜歯部位のリライン
  まとめ
 B 解説 義歯装着と調整
  1 義歯挿入時の調整
   1−支台装置が入らないとき
   2−義歯床が干渉するとき
  2 維持力と適合の確認
  3 咬合調整
   1−タッピングポイント(または中心咬合位)
   2−偏心咬合位
   3−パーシャルにおける両側性平衡咬合への調整の手順
  4 粘膜面の調整
  5 調整完了
   1−着脱指導
   (付録)患者さんに手渡す「義歯のしおり」
   2−装着直後の調整
   3−調整時期完了の目安
Case 6 変化への対応
 A 症例 予期されていた増歯修理を行う
  1 経過のまとめ
  2 診査
  3 診断
 実際の治療経過
  1 歯周基本治療
  2 歯周基本治療後のポケットチャート
  3 ディフィニティブパーシャルの設計の要点
  4 メインテナンス
  5 増歯修理 診療当日の流れ
  6 義歯修理の詳細
  まとめ
 B 解説 義歯修理の背景を理解する
  義歯修理の分類
  A.人工歯
   1 A-1:人工歯の脱離と破折
    1−直接法修理(人工歯の再接着)
    2−間接法修理(人工歯交換)
   2 A-2:人工歯の摩耗
    1−間接法修理(人工歯交換)
  B.義歯床
   1 B-1:レジン床の破折
    1−直接法修理(床のクラック)
    2−直接法修理(義歯床の破折)
   2 B-2:顎堤と粘膜の変化
   3 B-2a:粘膜面の不適合
    1−直接リライン(レジン床)
    2−直接リライン(金属床)
    3−リベースと人工歯交換
   4 B-2b:粘膜の損傷
   5 B-3:設計の変更
    1−増床修理
    2−増歯に伴う増床
  C.支台装置
   1 C-1:支台装置の破損と不適合
    1−支台装置の交換(クラスプ交換)
   2 C-2a:支台歯の喪失
    1−増歯と支台装置の追加:一部間接法による増歯修理
    2−支台歯の根面板への変更:根面板設置に伴う増歯修理(直接法)
   3 C-2b:支台歯の形態変更(支台装置を継続使用した例)
    1−支台歯の歯冠修復
   4 C-3:設計の変更(残根→クラウン:減歯修理)
    1−減歯修理
  D.メタルフレーム
   1 D-1:メタルフレームの破折
    1−直接法による修理
    2−間接法による修理
   2 D-2:レジンからの脱離
  パーシャルデンチャーの修理方法をチェックするためのフローチャート

 あとがき
 索引