やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

本書の発刊にあたって
 筆者が北米の歯内療法専門医教育を受けてから,10 年が経とうとしている.
 当時,携帯電話の日本独特の発展方向が「ガラパゴス化」と評されており,その比喩的引用は歯内療法領域にもあてはまるのではないか,と感じたことを昨日のことのように思い出す.
 しかしながら歯科医学は,人間の身体を扱う自然科学の一部で,ある程度の普遍性を求められるものであり,携帯電話のように時代の流行に左右されるべきものではないと信じている.
 特に歯内療法領域における臨床と教育の日米間格差は,その他の歯科領域と比較しても大きく,筆者はそのことに驚愕し,その事実を伝えることと北米の歯内療法専門医レベルの臨床ができる歯科医師を増やすことに,自分の歯科医師人生を使うことを決心した.
 そのためにまず行ったことは,系統立った臨床専門医を安定して育てることを可能にする,筆者が北米で受けた教育を日本で再現することであった.いくつかの課題はあるものの,その成果は確実に上がってきていると感じている.そして,この教育内容に確信を得た後に,より多くの先生方にそのエッセンスを伝えるためのテキストブックをまとめることを決意した.これが,本書の出版に至る経緯である.
 本書の共著者のほとんどは,筆者が帰国後に歯内療法専門医としてのノウハウを伝えてきた者たちであり,本書の内容は,すべての著者の共通意見,見解であると捉えていただいてかまわない.
 また,筆者が教育を受けてからの10 年で,当時「スタンダード」であったいくつかの事柄が変化しつつあることも事実である.このような科学見解の変化も敏感に感じとり,随時,本書のアップデートを行っていくことも必要であると考えている.
 本書が,すべての日本国民が「世界基準の歯内療法」を受けられることにつながる足がかりになればと願うものである.
 2015 年 9 月
 石井 宏
Chapter 1 診査・診断と意思決定
 1.診査・診断
 2.歯内療法の予後
 3.意思決定
  i.生活歯髄療法における意思決定
  ii.歯内療法の再治療における意思決定
  iii.Compromised Toothにおける抜歯の意思決定
  症例難易度評価表
Chapter 2 非外科的歯内療法
 4.根尖性歯周炎の難治化とその対応
 5.無菌的処置環境と臨床に必要な細菌学的考察
 6.生活歯髄療法
 7.Initial Treatment
  i.根管形成
  ii.化学的根管洗浄
  iii.根管内貼薬
  iv.根管充填
 8.Retreatment
  i.クラウン・ポストの除去
  ii.根管充填材の除去
  iii.レッジの攻略
 9.偶発症・困難性への対応
  i.石灰化根管
  ii. 穿孔
  iii.破折器具
Chapter 3 外科的歯内療法
 10.歯根端切除術
 11.意図的再植術
Chapter 4 歯内療法の隣接領域
 12.歯内療法領域における痛みのマネージメント
  i.術後疼痛
  ii.非歯原性疼痛との鑑別診断
 13.歯内療法処置歯における歯冠修復
  i.歯冠側からの漏洩
  ii.支台築造と修復の実際
 14.歯内・歯周病変
 15.根尖開放歯における歯内療法
 16.歯内療法における再生療法(Regenerative Endodontics)
 17.MTAセメント
 18.外傷歯のマネージメント
 19.歯根吸収の分類とマネージメント
 20.歯牙破折
 21.矯正歯科治療と歯内療法の関係
 22.失活歯の変色と漂白

 付録 外傷歯の診断フローチャート