やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 矯正歯科臨床においては,顎顔面形態の診断,治療方針の立案,顎骨の成長予測,治療結果の評価のために頭部X線規格写真,いわゆるセファロの分析が必須となっている.コンピュータが現在のように普及する前は,セファロ分析には膨大な時間を必要とした.すなわち,セファロのレントゲンフィルムから透写図を作成し,必要な補助線を引いて計測点を設定し,ノギスおよび分度器を用いて測定値をすべて手作業で求めたわけである.もちろん,こうした一連の手作業による分析は,一度しっかりと経験しておくのが望ましい.しかし,忙しい日常臨床においては,そうした時間を作ることは難しいし何しろ効率が悪すぎる.コンピュータを使うことによって,その何十分の一の時間で,計測結果が簡単に求められるようになった.これを以前の著書(2007 年発刊)で,「デジタル時代のセファロ分析」と呼んだ.現在においては,デジタルレントゲンの急速な普及によりレントゲンフィルムが必要なくなると同時に,コンピュータとセファロ分析ソフトがなければ,セファロ分析が不可能になってしまっている.一方,セファロ分析は矯正歯科医にとどまらず,小児歯科,外科的矯正治療に関わる口腔外科,補綴をはじめとして咬合に携わる多くの歯科医師,はたまた形成外科医や睡眠障害の治療に関わる医師など幅広い先生方がその知識を必要としてきている.こうしたセファロ分析ソフトは矯正歯科医以外の先生方に対して,これまで難解だったセファロ分析の敷居を大きく下げる効果をもたらしてくれることとなった.
 本書では,筆者が中心となってわが国で開発されたセファロ分析用の代表的なソフトウェアである“WinCeph”の最新バージョン11 を例として,デジタルならではの効率的なセファロ活用方法を記載したものである.本ソフトウェアは単にセファロ分析だけにとどまらず,患者管理機能までを含んだ多機能の矯正歯科治療支援プログラムと位置づけられている.添付しているソフトウェアは機能限定版ではあるものの,実際に操作しながらセファロ分析を学んでいただくことが可能である.これからセファロ分析について勉強しようとする先生方はもちろんのこと,歯科矯正学を学ぶ学生にもおおいに役立つはずである.
 もっとも,コンピュータを用いてセファロ分析を行うことで,今まで必要とされた解剖学的知識がまったく必要なくなったということではない.また,計測結果から自動的に治療方針を導いてくれるものでもない.これまで我々が膨大な時間をかけて手作業で行っていた作業をコンピュータが支援してくれることにより,生み出された時間を利用して,診断と治療方針の立案にいっそう時間を注いでいただければ幸いである.
 2015年8月
 佐藤亨至
Chapter 1 セファロ分析の基礎
 (1)セファロ撮影
 (2)アナログ方式のセファロ分析法
 (3)セファロのデジタル化の利点について
Chapter 2 デジタル方式のセファロ分析の準備
 (1)セファロのデジタル化の実際
 (2)データの整理
 (3)患者とのコミュニケーションツールとしての利用
Chapter 3 デジタル方式のセファロ分析の実際
 (1)動作環境
 (2)インストール
 (3)起動と分析項目の設定
 (4)基本情報入力
 (5)画像管理
 (6)キャリブレーション
 (7)計測点の設定
 (8)セファロ計測点(ランドマーク)の設定
  ・線計測,角度計測など通常のセファロ分析に使用される計測点
  ・Ricketts(リケッツ)分析にのみ使用する計測点
  ・軟組織上の計測点
 (9)計測点の設定方法
 (10)図形分析
 (11)線計測と角度計測
  ・線計測
  ・角度計測
 (12)代表的な側面セファロ分析法
  ・Ricketts & McNamara分析とVTO
  ・Open Bite分析
  ・Steiner & Tweed分析
  ・Northwestern法
  ・Kimの分析
  ・Jarabakの分析
  ・Level anchorage分析
  ・その他の分析
 (13)正面セファロの分析法
  ・Ricketts分析
  ・その他の分析
 (14)分析結果の解釈と診断
Chapter 4 デジタル方式のセファロの重ね合わせから模型分析まで
 (1)セファロの重ね合わせ
  ・トレース画像を作成して重ね合わせる方法
  ・レントゲン画像を直接重ね合わせる方法
 (2)顔写真の活用
 (3)歯列模型の活用
 (4)成長分析
 (5)報告書の作成
 (6)プレゼンテーション
 (7) Excelとの連携
Chapter 5 添付のWinCeph11 機能限定版を使ってセファロ分析を実際に行ってみよう
 (1)インストールとWinCeph11 機能限定版の起動
 (2)設定の確認
 (3)患者とセファロの選択
 (4)キャリブレーション
 (5)計測点(ランドマーク)の設定
 (6)図形(プロフィログラム)分析
 (7)線分析と角度分析
 (8)データの保存

 文献
 索引