序文
平成26 年10 月1 日現在の日本の総人口は約1 億2,708 万人であり,死亡者数が出生数を上まわり,人口は4 年連続して減少となっている.一方,高齢者人口は増加しており,65歳以上人口は総人口の26.0%を,75 歳以上人口は総人口の12.5%を占めている.
人生を楽しんでいる高齢者の姿から,65 歳以上の方々を高齢者と呼ぶのは相応しくないのではないかという意見をもつ人は多い.また,数々の研究結果は,口腔の健康,咀嚼機能の維持・向上が高齢者の健康の維持・増進に貢献していることを示している.
一方,要介護状態になり日々の生活を送っている高齢者がいることも事実である.介護保険において要介護認定を受けている高齢者は増加しており,要介護高齢者に対する支援や介護予防が歯科医療・歯科医学に求められている.
高齢者の楽しみの一つに食事があげられていることはよく知られている.家族・友人との会話を楽しみながら,美味しいものを美味しく食べることができるということは誰しもが望むことである.胃瘻造設が大きな話題になったときには,食べる楽しみが失われるということが問題とされていた.食べる楽しみを回復する点において歯科医療への期待は大きい.そのため,摂食嚥下機能の回復手段の一つである義歯に対する社会からの期待は大きいものがあると感じている.
本書は高齢者の歯科治療,口腔の健康管理に携わる歯科医師を主対象読者に,またテーマによって歯科衛生士,看護師,言語聴覚士,介護福祉士などの保健・医療・福祉の関係者も対象として,義歯をメインテーマに高齢者の口腔機能管理,口腔衛生管理について解説したものである.これまで筆者が歯科医師,歯科衛生士,看護・介護に携わる専門職など,多くの職種の方々からいただいた歯科治療に関する質問に答えることも本書の役割と考えている.具体的には要介護状態になられた高齢者に対する欠損補綴,要介護状態を見据えた欠損補綴に関する基本的な考え方・術式,口腔の健康管理や義歯の管理について述べている.要介護高齢者を対象とした歯科治療では基本的な考え方が最も重要であり,その考え方を具体化する知識,技術が求められている.要介護高齢者に対する歯科治療にはさまざまな制約がある.たとえば,歯科訪問診療では歯科診療所とはまったく異なる治療環境のなかでの診療となる.その環境ではシンプルな歯科医療を選択せざるをえない状況にある.したがって,本書では最新,最高の術式を記載するものではなく,臨床の場で使いやすい考え方・術式を基本に,要介護高齢者の歯科治療に役立つ事項を述べた.
本書が高齢者の口腔衛生管理,口腔機能管理に取り組む多くの方々に役立ち,高齢者のQOLの維持・向上に資することを願っている.
平成27年4月
下山和弘
平成26 年10 月1 日現在の日本の総人口は約1 億2,708 万人であり,死亡者数が出生数を上まわり,人口は4 年連続して減少となっている.一方,高齢者人口は増加しており,65歳以上人口は総人口の26.0%を,75 歳以上人口は総人口の12.5%を占めている.
人生を楽しんでいる高齢者の姿から,65 歳以上の方々を高齢者と呼ぶのは相応しくないのではないかという意見をもつ人は多い.また,数々の研究結果は,口腔の健康,咀嚼機能の維持・向上が高齢者の健康の維持・増進に貢献していることを示している.
一方,要介護状態になり日々の生活を送っている高齢者がいることも事実である.介護保険において要介護認定を受けている高齢者は増加しており,要介護高齢者に対する支援や介護予防が歯科医療・歯科医学に求められている.
高齢者の楽しみの一つに食事があげられていることはよく知られている.家族・友人との会話を楽しみながら,美味しいものを美味しく食べることができるということは誰しもが望むことである.胃瘻造設が大きな話題になったときには,食べる楽しみが失われるということが問題とされていた.食べる楽しみを回復する点において歯科医療への期待は大きい.そのため,摂食嚥下機能の回復手段の一つである義歯に対する社会からの期待は大きいものがあると感じている.
本書は高齢者の歯科治療,口腔の健康管理に携わる歯科医師を主対象読者に,またテーマによって歯科衛生士,看護師,言語聴覚士,介護福祉士などの保健・医療・福祉の関係者も対象として,義歯をメインテーマに高齢者の口腔機能管理,口腔衛生管理について解説したものである.これまで筆者が歯科医師,歯科衛生士,看護・介護に携わる専門職など,多くの職種の方々からいただいた歯科治療に関する質問に答えることも本書の役割と考えている.具体的には要介護状態になられた高齢者に対する欠損補綴,要介護状態を見据えた欠損補綴に関する基本的な考え方・術式,口腔の健康管理や義歯の管理について述べている.要介護高齢者を対象とした歯科治療では基本的な考え方が最も重要であり,その考え方を具体化する知識,技術が求められている.要介護高齢者に対する歯科治療にはさまざまな制約がある.たとえば,歯科訪問診療では歯科診療所とはまったく異なる治療環境のなかでの診療となる.その環境ではシンプルな歯科医療を選択せざるをえない状況にある.したがって,本書では最新,最高の術式を記載するものではなく,臨床の場で使いやすい考え方・術式を基本に,要介護高齢者の歯科治療に役立つ事項を述べた.
本書が高齢者の口腔衛生管理,口腔機能管理に取り組む多くの方々に役立ち,高齢者のQOLの維持・向上に資することを願っている.
平成27年4月
下山和弘
第1章 診療方針
1 最善の医療およびケア
2 歯科診療方針に影響する要因
3 歯科診療に至るプロセス
4 高齢者に対する歯科治療の基本方針
5 口腔の健康管理を重視した歯科治療
6 在宅歯科医療の診療方針
7 歯の欠損に対する補綴歯科診療の基本的考え方
8 咬合と欠損様式
9 欠損補綴における歯科補綴装置の選択
10 インプラント治療
11 欠損補綴歯科治療をしないという判断
12 義歯に関連する粘膜の問題
第2章 全部床義歯製作の勘所
1 患者が満足する全部床義歯
2 全部床義歯を長期間使用するための工夫
3 全部床義歯製作上の要点
第3章 部分床義歯製作の勘所
1 部分床義歯の基本
2 クラスプデンチャーの支持,把持,維持
3 クラスプデンチャー製作の要点
4 ノンメタルクラスプデンチャー
5 オーバーデンチャー
第4章 嚥下機能を補助する装置
1 舌接触補助床
2 軟口蓋挙上装置
3 Swalloaid(スワロエイド)
第5章 印象採得の勘所
1 可撤性義歯の印象
2 歯の印象の勘所
3 顎堤の印象の勘所
4 印象に必要な解剖学的知識
5 概形印象の勘所
6 精密印象の勘所
7 フラビーガムの印象
8 複製義歯による印象
9 印象採得時の吐気への対応
第6章 咬合採得の勘所
1 多数歯欠損症例における咬合採得
2 無歯顎補綴における咬合採得
3 咬合採得の要点
4 試適時に咬合採得を取り直す方法
5 咬合採得が困難な場合
第7章 使える義歯への修正法
1 使える義歯にするための義歯修正の要点
2 全部床義歯のチェックポイント
3 部分床義歯のチェックポイント
4 粘膜異常への対応
5 義歯床の調整・修正
6 即時義歯
7 義歯装着に関連する訴え
第8章 義歯の管理法
1 定期的な検診の必要性
2 介護者が口腔内の問題を発見する方法
3 デンチャーマーキング(義歯の名前入れ)
4 義歯安定剤
5 誤飲・誤嚥
6 口腔の健康管理
7 就寝時の義歯装着の可否と義歯の保管法
8 義歯の着脱方法
9 口腔乾燥症
1 最善の医療およびケア
2 歯科診療方針に影響する要因
3 歯科診療に至るプロセス
4 高齢者に対する歯科治療の基本方針
5 口腔の健康管理を重視した歯科治療
6 在宅歯科医療の診療方針
7 歯の欠損に対する補綴歯科診療の基本的考え方
8 咬合と欠損様式
9 欠損補綴における歯科補綴装置の選択
10 インプラント治療
11 欠損補綴歯科治療をしないという判断
12 義歯に関連する粘膜の問題
第2章 全部床義歯製作の勘所
1 患者が満足する全部床義歯
2 全部床義歯を長期間使用するための工夫
3 全部床義歯製作上の要点
第3章 部分床義歯製作の勘所
1 部分床義歯の基本
2 クラスプデンチャーの支持,把持,維持
3 クラスプデンチャー製作の要点
4 ノンメタルクラスプデンチャー
5 オーバーデンチャー
第4章 嚥下機能を補助する装置
1 舌接触補助床
2 軟口蓋挙上装置
3 Swalloaid(スワロエイド)
第5章 印象採得の勘所
1 可撤性義歯の印象
2 歯の印象の勘所
3 顎堤の印象の勘所
4 印象に必要な解剖学的知識
5 概形印象の勘所
6 精密印象の勘所
7 フラビーガムの印象
8 複製義歯による印象
9 印象採得時の吐気への対応
第6章 咬合採得の勘所
1 多数歯欠損症例における咬合採得
2 無歯顎補綴における咬合採得
3 咬合採得の要点
4 試適時に咬合採得を取り直す方法
5 咬合採得が困難な場合
第7章 使える義歯への修正法
1 使える義歯にするための義歯修正の要点
2 全部床義歯のチェックポイント
3 部分床義歯のチェックポイント
4 粘膜異常への対応
5 義歯床の調整・修正
6 即時義歯
7 義歯装着に関連する訴え
第8章 義歯の管理法
1 定期的な検診の必要性
2 介護者が口腔内の問題を発見する方法
3 デンチャーマーキング(義歯の名前入れ)
4 義歯安定剤
5 誤飲・誤嚥
6 口腔の健康管理
7 就寝時の義歯装着の可否と義歯の保管法
8 義歯の着脱方法
9 口腔乾燥症