本書の発刊にあたって
読者の方々には,まず,TCHの提唱者である東京医科歯科大学の木野孔司准教授と筆者(齋藤博)とのかかわりをご説明しておきたい.
木野先生と筆者は東京医科歯科大学歯学部の同級生で,卒業後,木野先生は口腔外科学第一講座に入局して大学院に進み,私は東京都内で開業した.
木野先生の大学院での研究テーマは顎関節の解剖学で,他の動物との比較解剖学も研究していた.口腔外科医としても臨床経験を積み,2000 年に東京医科歯科大学歯学部附属病院に顎関節治療部が新設された際には部長に着任し,現在まで数多くの臨床と研究にあたっている.
木野先生と筆者は大学卒業後も絶えずコンタクトをとっており,筆者は木野先生から顎関節症の治療が終了した患者さんの補綴治療を時折依頼され,行ってきた.そのような関係から,木野先生のTCH(Tooth Contacting Habit;上下歯列接触癖)の研究も,初期の頃から話を聞いていた.
顎関節治療部が発足した頃から,木野先生は,多くの顎関節症患者に共通してみられるTCHをコントロールすれば顎関節症の症状が改善するのではないかとの考えから,来院患者のTCHの有無を調べ,TCHコントロール指導を開始した.
筆者は2004 年に,顎関節治療部へ木野先生の治療を毎週見学しに行ったが,ほとんどの患者さんの顎関節症症状が,TCHコントロール指導を受けた次の来院時には軽減していることに,たいへん驚いた.顎関節症の名医を訪ねて咬合治療や矯正治療を受けても症状が改善しなかったという患者さんでさえも,わずか1,2回のTCHコントロール指導で明らかに症状が改善していた.
患者さんのなかには,「今まで受けていた治療はなんだったんだ.こんな簡単な指導で治ってしまうなんて!」と怒る人もいたが,筆者自身,開業歯科医ではとても治療できないような難しい患者さんを指導だけで改善してしまう現場を目にして,TCHコントロールの重要性をひしひしと感じた.
顎関節治療部での見学を通じ,顎関節症ばかりでなく,齲蝕や歯周病,補綴治療の経過にもTCHが影響するのではないかと考えるようになり,さっそく当院でもTCHのコントロールを日常臨床に取り入れた.その結果,TCHが口腔内のさまざまなトラブルの寄与因子であると認識するようになった.現在,TCHのある患者さんに対しては,そのリスクに応じたコントロールを行っており,口腔内健康維持の必須事項になっている.
本書は,木野先生が昨年出版された『TCHのコントロールで治す顎関節症』(医歯薬出版刊)の続編的な位置づけで,TCHが顎関節症だけでなく口腔内の多くの問題にいかに関与しているか,またそれをコントロールすることで一般開業医の日常臨床にどれほどメリットがあるかを紹介していく.
歯を削ることなく,TCHのコントロールだけで口腔内の多くの問題が解決できれば,患者さんの歯の寿命は長くなり,歯科医にとって治療が格段にしやすくなることは間違いない.最初は試行錯誤があるかもしれないが,プラークコントロールと同様にTCHコントロールの重要性を必ず実感するはずだ.
本書が,多くの読者の臨床の一助となることを願っている.
2014年秋
齋藤 博
読者の方々には,まず,TCHの提唱者である東京医科歯科大学の木野孔司准教授と筆者(齋藤博)とのかかわりをご説明しておきたい.
木野先生と筆者は東京医科歯科大学歯学部の同級生で,卒業後,木野先生は口腔外科学第一講座に入局して大学院に進み,私は東京都内で開業した.
木野先生の大学院での研究テーマは顎関節の解剖学で,他の動物との比較解剖学も研究していた.口腔外科医としても臨床経験を積み,2000 年に東京医科歯科大学歯学部附属病院に顎関節治療部が新設された際には部長に着任し,現在まで数多くの臨床と研究にあたっている.
木野先生と筆者は大学卒業後も絶えずコンタクトをとっており,筆者は木野先生から顎関節症の治療が終了した患者さんの補綴治療を時折依頼され,行ってきた.そのような関係から,木野先生のTCH(Tooth Contacting Habit;上下歯列接触癖)の研究も,初期の頃から話を聞いていた.
顎関節治療部が発足した頃から,木野先生は,多くの顎関節症患者に共通してみられるTCHをコントロールすれば顎関節症の症状が改善するのではないかとの考えから,来院患者のTCHの有無を調べ,TCHコントロール指導を開始した.
筆者は2004 年に,顎関節治療部へ木野先生の治療を毎週見学しに行ったが,ほとんどの患者さんの顎関節症症状が,TCHコントロール指導を受けた次の来院時には軽減していることに,たいへん驚いた.顎関節症の名医を訪ねて咬合治療や矯正治療を受けても症状が改善しなかったという患者さんでさえも,わずか1,2回のTCHコントロール指導で明らかに症状が改善していた.
患者さんのなかには,「今まで受けていた治療はなんだったんだ.こんな簡単な指導で治ってしまうなんて!」と怒る人もいたが,筆者自身,開業歯科医ではとても治療できないような難しい患者さんを指導だけで改善してしまう現場を目にして,TCHコントロールの重要性をひしひしと感じた.
顎関節治療部での見学を通じ,顎関節症ばかりでなく,齲蝕や歯周病,補綴治療の経過にもTCHが影響するのではないかと考えるようになり,さっそく当院でもTCHのコントロールを日常臨床に取り入れた.その結果,TCHが口腔内のさまざまなトラブルの寄与因子であると認識するようになった.現在,TCHのある患者さんに対しては,そのリスクに応じたコントロールを行っており,口腔内健康維持の必須事項になっている.
本書は,木野先生が昨年出版された『TCHのコントロールで治す顎関節症』(医歯薬出版刊)の続編的な位置づけで,TCHが顎関節症だけでなく口腔内の多くの問題にいかに関与しているか,またそれをコントロールすることで一般開業医の日常臨床にどれほどメリットがあるかを紹介していく.
歯を削ることなく,TCHのコントロールだけで口腔内の多くの問題が解決できれば,患者さんの歯の寿命は長くなり,歯科医にとって治療が格段にしやすくなることは間違いない.最初は試行錯誤があるかもしれないが,プラークコントロールと同様にTCHコントロールの重要性を必ず実感するはずだ.
本書が,多くの読者の臨床の一助となることを願っている.
2014年秋
齋藤 博
こんな患者さん,来ませんか? Case 1〜4
Chapter 1 TCHコントロールを日常臨床に取り入れるメリット
(齋藤 博)
TCHコントロールが顎関節症治療を変えた!
1 顎関節症には多くの因子が関与している
2 TCHコントロールは安全で効果的な顎関節症の治療法
患者さんにTCHをわかりやすく説明するには?
歯の寿命を延ばすTCHコントロール
TCHコントロールで歯科治療のトラブルを減らす
1 TCHコントロールで歯科治療をスムーズに
2 歯科治療による咬合違和感の予防
Chapter 2 TCHのリスク診断
(齋藤博之)
TCHリスク診断時の患者説明
1 患者説明:4 つのポイント
TCHリスク診断の方法
チェック1:顎関節症・咬合違和感のチェック(TCHリスク3bのスクリーニング)
チェック2:歯列離開テスト(TCHリスク3aのスクリーニング)
チェック3:歯列接触テスト
チェック4:口腔内所見(TCHリスク2 とリスク1 の鑑別)
心理状態のスクリーニング
1 精神科への受診歴・服用薬
2 心理状態のスクリーニング
3 性格傾向のスクリーニング
Column 1 一般歯科でも見逃すと怖い「かくれ顎関節症」
Column 2 治療費の設定
Chapter 3 TCHリスク別対応法
(齋藤博之)
TCHリスク別 一般歯科治療の進め方
3 ステップで行うTCHコントロール(貼り紙法)
うまくいく指導のコツ
1 意識的なコントロールは逆効果
2 貼り紙の意味と枚数
3 脱力の正しい意味
Chapter 4 TCHを長時間化させない咬合治療
(齋藤 博)
TCHをベースにした咬合治療の考え方
1 TCHリスク別の咬合治療
2 TCHリスク患者の咬合の基本的な考え方
3 TCHの長時間化につながる違和感を最小限に
違和感の少ない補綴方法
1 既存歯を複製できる場合のクラウン作製
2 既存歯を複製できない場合のクラウン作製
3 咬合高径の変更
Column 3 哺乳類の進化の過程からみたヒトの下顎運動
Chapter 5 メインテナンス時のTCHコントロール
(渡邉晴美(歯科衛生士))
歯科衛生士が行うメインテナンス時のTCHリスク診査
1 メインテナンス時のTCHリスク診査
2 TCHリスク診断に役立つ会話術
3 メインテナンス時に気づくTCHの長時間化
TCHリスク別メインテナンス
長期メインテナンス患者におけるTCHコントロールの効果
Chapter 6 TCHコントロールを取り入れた臨床例
(齋藤滋子・齋藤 博・渡邉晴美)
Case 3・4・6・7
文献
Chapter 1 TCHコントロールを日常臨床に取り入れるメリット
(齋藤 博)
TCHコントロールが顎関節症治療を変えた!
1 顎関節症には多くの因子が関与している
2 TCHコントロールは安全で効果的な顎関節症の治療法
患者さんにTCHをわかりやすく説明するには?
歯の寿命を延ばすTCHコントロール
TCHコントロールで歯科治療のトラブルを減らす
1 TCHコントロールで歯科治療をスムーズに
2 歯科治療による咬合違和感の予防
Chapter 2 TCHのリスク診断
(齋藤博之)
TCHリスク診断時の患者説明
1 患者説明:4 つのポイント
TCHリスク診断の方法
チェック1:顎関節症・咬合違和感のチェック(TCHリスク3bのスクリーニング)
チェック2:歯列離開テスト(TCHリスク3aのスクリーニング)
チェック3:歯列接触テスト
チェック4:口腔内所見(TCHリスク2 とリスク1 の鑑別)
心理状態のスクリーニング
1 精神科への受診歴・服用薬
2 心理状態のスクリーニング
3 性格傾向のスクリーニング
Column 1 一般歯科でも見逃すと怖い「かくれ顎関節症」
Column 2 治療費の設定
Chapter 3 TCHリスク別対応法
(齋藤博之)
TCHリスク別 一般歯科治療の進め方
3 ステップで行うTCHコントロール(貼り紙法)
うまくいく指導のコツ
1 意識的なコントロールは逆効果
2 貼り紙の意味と枚数
3 脱力の正しい意味
Chapter 4 TCHを長時間化させない咬合治療
(齋藤 博)
TCHをベースにした咬合治療の考え方
1 TCHリスク別の咬合治療
2 TCHリスク患者の咬合の基本的な考え方
3 TCHの長時間化につながる違和感を最小限に
違和感の少ない補綴方法
1 既存歯を複製できる場合のクラウン作製
2 既存歯を複製できない場合のクラウン作製
3 咬合高径の変更
Column 3 哺乳類の進化の過程からみたヒトの下顎運動
Chapter 5 メインテナンス時のTCHコントロール
(渡邉晴美(歯科衛生士))
歯科衛生士が行うメインテナンス時のTCHリスク診査
1 メインテナンス時のTCHリスク診査
2 TCHリスク診断に役立つ会話術
3 メインテナンス時に気づくTCHの長時間化
TCHリスク別メインテナンス
長期メインテナンス患者におけるTCHコントロールの効果
Chapter 6 TCHコントロールを取り入れた臨床例
(齋藤滋子・齋藤 博・渡邉晴美)
Case 3・4・6・7
文献














