序文
　インプラント治療が歯科医療界のゴールドスタンダードといわれるようになって数年が経ちました．しかし，15年以上前となった著者の学生時代では，インプラント治療の講義や実習などはありませんでした．大学卒業直後に口腔外科学講座の大学院に進学しましたが，そこでもインプラント治療をされている口腔外科の先生はほんの一握りで，年間の手術件数も非常に少なかったと記憶しています．今日，インプラント治療に取り組まれている先生方は，メーカー主催の講習会に参加し，模型実習を行い知識や技術の研鑽を積まれたと思います．現在では，基本手技やテクニック，メンテナンス技術などを身につけるための素晴らしい書籍やセミナーも非常に多くなりました．しかし，近年インプラント治療にまつわる医療事故や訴訟問題が急増し続けている現状を考えますと，治療技術同様に大事なことが認識されていないことが原因と思われます．それは「治療を行うにふさわしい環境づくり」がなされていないということです．
　数年前，私はそれまで勤めていた大学病院を辞め，患者さんが一般歯科診療室でも安全で安心してインプラント治療を受けられるようにと，歯科医療コンサルティング会社を設立しました．10件目の立ち上げを手掛けた頃に感じたことは，現在の歯科診療室には外科手術を行うための設備や配慮がされていないことが多く，歯科医師をはじめスタッフも手術が行われる環境を熟知していないということでした．そこで，技術以外にも大切な環境づくりが安全への第一歩であると考え，さまざまなセミナー活動を行ってきました．そこに参加してくださった諸先生方のアンケート結果からも，病院の手術室で手術をしたことがない，また歯科衛生士の方々においては手術室に入ったこともないという回答が多くみられ，外科治療が通常の歯科治療と異なる特殊な環境で行われるという認識がされていないとさらに強く感じました．
　インプラント治療は「生体に人工物を移植する手術」で，外科の基本的な考えや技術は必要不可欠であると思います．したがって，通常の歯科治療では起こり得ないトラブルや外科治療特有のリスクがあり，危険を伴う治療であるという認識が必要になります．そのための「環境づくり」を第一に考えることが，安心・安全なインプラント治療を行うことができると実感し，本書を執筆することになりました．
　本書では，安心・安全なインプラント治療を行うために必要な歯科医院の環境づくりの考え方やポイント，治療システム，技術や工夫，アドバイス，さまざまなルールなどを治療の流れに沿ってしるしました．歯科医師や歯科衛生士，歯科技工士，歯科助手および受付，インプラントメーカーの方などインプラント治療に携わるすべての方々に読んでいただきたいと思い，できるかぎりわかりやすく解説しました．素晴らしいインプラント治療が，すべての人にとって安心・安全な治療となるため，本書がその一助となりますことを心から願います．著者もまだまだ未熟者で，これからより一層の歯科医療の発展に貢献すべく研鑽を重ねていきたいと思っています．
　最後になりましたが，本書の出版にあたって惜しみないご協力とご指導を賜りました各歯科医院の諸先生方とスタッフの方々に，この場をお借りして御礼申し上げます．
　2012年10月
　井島喜弘

謝辞
　本書の発行にあたり，多大なご理解とご協力をいただきました，以下の歯科医院の諸先生方ならびにスタッフの方々に心より感謝申し上げます．
　おおむろ歯科医院
　大川原歯科医院
　きのしょう歯科診療所
　クイーンズスクエア鈴木歯科医院
　黒田歯科医院
　酒見デンタルクリニック
　歯科おおたにクリニック
　歯科学園クリニック
　歯科　さくらクリニック
　太陽の丘デンタルクリニック
　タックデンタルクリニック
　マームデンタルクリニック
　（以上，五十音順）