やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 口腔外科学の診療内容は多岐にわたっている.そのため歯科医学,医学の一般知識に加えて,より専門的な知識と医療技術が求められる.このように特定の分野において卓越した医学知識と臨床技能を兼ね備えることこそ専門医としての資格に値する.
 日本における専門医制度は,日本医師会が欧米にならって1951年より医学教育委員会,専門医制度委員会において検討を始めている.1956年には厚生科学研究費による専門医制度研究会から専門医制度に関する研究結果中間報告が出され,これをもとに各学会で検討されてきた.わが国の専門医制度の嚆矢は日本麻酔科学会で,1961年に「日本麻酔指導医制度」を発足させている.その後,各学会で専門医制度が整備されてきたが,日本口腔外科学会でも1957年頃から議論され,1973年に日本口腔外科学会認定医の規程が制定され,1977年4月に認定医制度が実施された.
 その後,2001年に厚生労働省は一定の外形基準,すなわち「資格の取得条件の公表」と「資格認定に際して適正な試験を実施すること」を満たしていれば専門医の広告を認めることとしたので,日本口腔外科学会では従来の「口腔外科認定医」を「口腔外科専門医」と読み替えて対応し,2003年11月に日本歯科医学会専門分科会では初めて「日本口腔外科学会認定口腔外科専門医」の広告が認可された.さらに近年,「国民に信頼される安心・安全な医療の提供」,「患者に対する正確で優秀な臨床能力の提供」が社会から求められるようになってきたことから,学会として専門医制度を抜本的に見直し,2006年4月から新たな専門医制度が実施された.新専門医制度では,口腔外科専門医の申請資格として,決められた研修期間に「研修実績」と「診療実績」が求められ,その後,筆記ならびに口頭試問による試験に合格すると,臨床実地試験が行われ,最終判断が下されるシステムになっている.
 本書は,口腔外科に求められる知識のなかでも特に観血的処置を要する疾患に対する項目に加え,全身管理も含めて対応できることを目指した書で,もっぱら臨床能力の向上に重点を置いた初めての成書である.2009年に「がん治療認定医(歯科口腔外科)」が認可され,その資格要件が「口腔外科学会専門医」であることから,これまで以上に全身管理が求められることを見越したものである.また,その記載事項は「口腔外科専門医」の取得を目指している口腔外科医に対する研修カリキュラム内容をすべて網羅していることから,2年間の研修期間で申請資格のできる「口腔外科専修医」にとっても大変有用な書である.特に,これから2階建ての専門医制度に発展していくとき,口腔外科専修医の資格は顎顔面インプラント,顎変形症,顎顔面補綴等の専門医の基盤部分となるものと考えている.さらに現在,歯科診療所の3割強が歯科口腔外科の標榜をしているが,そこで実地臨床に携わる先生方にも活用しやすい内容になっているので,ぜひ,皆様の座右の書として臨床の傍らにおいていただくとこのうえない喜びである.
 2011年8月
 社団法人日本口腔外科学会理事長
 福田仁一
I編 基本的知識
 第1章 口腔外科専門医と本書発刊の意義(木村博人)
   I 医療における専門医の役割
   II 口腔外科専門医とは何か
   III 本書発刊の意義
 第2章 口腔外科専門医として修得すべき手術(菅原利夫)
   I 手術の難易度区分
   II 必須修得手術の概説
   III 修得が望ましい手術の概説
   IV オプションとなる手術の概説
   V 入院症例の管理および口腔外科症例の管理・診断
 第3章 診査・診断(瀬戸ユ一)
   I 医療面接と診査(medical interview and physical examination)
    1─診療録の記載 2─診査(患者の全身状態,頭頸部,胸腹部および四肢の所見) 3─紹介状(診療情報提供書)の書き方 4─退院時のサマリの書き方
   II インフォームドコンセント(informed consent)
    1─インフォームドコンセントの必要性 2─インフォームドコンセントと法律の関係 3─インフォームドコンセント事実の証明 4─説明書と同意書の作成
   III 画像診断(diagnostic imaging)
    1─画像診断
 第4章 周術期管理(山下徹郎,中嶋頼俊,上田倫弘)
  4─1 全身管理
   1─心電図と循環 2─呼吸管理 3─輸液管理 4─輸血 術後栄養管理 6─術後全身反応 7─全身合併症 8─投薬
  4─2 局所管理
   1─静脈確保 2─止血と縫合 3─創部処置 4─術後出血 5─術後感染
  4─3 麻酔
   I 局所麻酔
    1─局所麻酔薬 2─局所麻酔法 3─偶発症
   II 全身麻酔
    1─全身麻酔薬 2─気道確保 3─術後鎮痛 4─術後の気道確保
 第5章 救急救命医療(菅原利夫,南 克浩)
   I 一次救命処置(BLS)
   II 二次救命処置(ALS)
II編 分野別の診療ポイントと手術手技
 第6章 臨床経験(実績)として必要な難易度別疾患と診療技術・手術手技
  A 歯・歯槽外科手術(福田仁一,土生 学)
   I 基礎的知識
    1─抜歯創の治癒過程 2─術前,術後の感染予防処置・術中の無菌的処置─基礎疾患をもつ患者に対する観血的処置の適応および処置の判断
   II 診療技術
    1─歯に対する検査,歯周組織に対する検査の実施と判断 2─X線,CT,MRI,モニタリングなどの適応と読影および解釈 3─個々の症例の病態に合わせた検査,治療計画 4─一般臨床医,矯正歯科医との的確なコンサルテーション 5─処置・手術後の偶発症の対応と予防
   III 手術手技
    1─埋伏智歯抜歯 2─深部埋伏智歯(下顎管より下方に埋伏) 3─癒着歯抜歯 4─洞内および口底迷入歯根の抜歯 5─歯根嚢胞摘出および歯根尖切除手術 6─歯牙・開窓・再植・移植 7─歯・口腔粘膜の外傷(損傷) 8─歯周外科
  B-1 消炎手術(山田朋弘,三島克章,菅原利夫)
   I 基礎的知識
    1─顎口腔領域に生じる炎症性疾患 2─治療
   II 診療技術
    1─検査と診断 2─画像診断例
   III 手術手技
    1─膿瘍切開 2─慢性炎症の手術(主として顎骨が対象となる)
  B-2 顎口腔領域の硬組織・軟組織に生じる良性腫瘍と嚢胞の手術(三島克章,山田朋弘,菅原利夫)
   I 分類,原因,症候
    1─分類 2─症候
   II 画像検査と所見
    1─歯原性腫瘍 2─非歯原性腫瘍 3─顎骨に発生する嚢胞 4─口腔軟組織に発生する嚢胞
   III 治療計画
    1─歯原性腫瘍 2─非歯原性腫瘍 3─嚢胞の治療法
   IV 手術法
    1─顎骨嚢胞の手術 2─軟組織の嚢胞 3─顎骨の良性腫瘍 4─軟組織の良性腫瘍
  B-3 唾液腺手術(野間弘康)
   I 基礎的知識
    1─唾液腺腫瘍 2─唾石症(顎下腺管唾石) 3─ガマ腫(ranula)
   II 診療技術
    1─大唾液腺疾患の診断に用いられる検査 2─治療方針を立てるための検査の活用
   III 手術手技
    1─顎下腺摘出手術 2─顎下腺管内唾石の摘出術(唾石が深部にある場合) 3─単純ガマ腫の開窓術
  B-4 上顎洞関連手術(橋 哲,宮本郁也)
   I 基礎的知識
    1─上顎洞炎 2─術後性上顎嚢胞 3─上顎洞粘液貯留嚢胞 4─その他の上顎洞疾患
   II 診療技術
    1─歯性上顎洞炎 2─術後性上顎嚢胞 3─上顎洞粘液貯留嚢胞
   III 手術手技
    1─上顎洞開洞術 2─洞内異物摘出術 3─口腔上顎洞瘻閉鎖術 4─減圧穿刺術 5─上顎洞根治手術 6─術後性上顎嚢胞摘出術
  C 顎顔面骨骨折(覚道健治,中嶋正博)
   I 基礎的知識
    1─口腔顎顔面の構造的特徴 2─顎顔面骨骨折の原因・頻度 3─顎顔面骨骨折の特徴 4─顎顔面骨骨折に対する診断
   II 基本的診療技術
    1─救急処置 2─顎顔面骨体骨折の画像診断 3─顎顔面骨体骨折に対する治療計画
   III 顎顔面骨体骨折手術
    1─上顎骨骨折 2─頬骨骨折 3─下顎骨骨折 4─関節突起骨折 5─陳旧性骨折
  D-1 顎矯正手術(木多加志)
   I 基礎的知識
    1─顎変形症の分類と特徴 2─顎顔面骨格異常の診断および治療方針
   II 診療技術
    1─顎変形症における基本的診断と骨格異常の分析 2─頭部X線規格撮影,X線CTによる診断 3─検査・治療計画と術前準備 4─術後管理
   III 手術手技
    1─顎変形症の手術の心構え 2─顎変形症の手術術式
  D-2 顎顔面骨延長術(福田仁一,吉岡 泉)
   I 基礎的知識
    1─顎顔面骨延長術の理論的根拠 2─顎顔面骨延長術のメカニズム 3─顎骨延長術の利点 4─顎顔面骨延長術の欠点
   II 顎顔面骨延長術の適応症
   III 診査および治療計画
   IV 手術
    1─上顎急速側方拡大手術 2─下顎骨水平延長術 3─下顎骨延長術 4─上顎骨延長術(Le FortI型) 5─上顎骨延長術(高位骨切り術) 6─上顎骨延長術(唇顎口蓋裂) 7─bone transport法
  D-3 顎関節手術および関連処置(栗田賢一,福田幸太)
   I 基礎的知識
    1─顎関節疾患の診断と外科的治療のポイント
   II 診療のポイント
    1─診査と検査 2─術前療法 3─観血的治療後の処置
   III 手術手技
    1─顎関節腔内穿刺 2─顎関節パンピングマニピュレーション 3─顎関節洗浄法 4─関節鏡視下手術 5─顎関節円板切除術 6─顎関節脱臼徒手的整復術 7─顎関節脱臼に対する開放手術 8─顎関節腫瘍切除術 9─顎関節授動術
  E-1 癌・前癌病変の手術(小村 健)
   I 口腔領域の癌・前癌病変に関する基礎的知識
    1─原因 2─症候・病態 3─治療 4─予後に関連して 5─前癌病変・状態
   II 診療技術
    1─臨床診断 2─病理診断 3─治療計画
   III 手術手技
    1─口腔領域に生じた癌に対する手術 2─口腔領域に生じた前癌病変に対する手術
  F-1 補綴前外科手術,歯槽骨延長手術,口腔・顎・顔面インプラント手術(橋 哲,宮本郁也)
   I 顎堤形成術
    1─診断と手術適応 2─絶対的顎堤形成術
   II インプラント
    1─インプラント埋入術 2─インプラントのための骨造成術
  F-2 口唇口蓋裂手術(栗田賢一,中山敦史)
   I 基礎的知識
    1─一貫治療の概要 2─一次手術と二次手術
   II 診療技術
    1─口蓋床(Hotz床) 2─鼻咽腔閉鎖機能検査法
   III 手術手技
    1─口唇形成術 2─口蓋形成術 3─顎裂部骨移植術
  F-3 再建外科手術(柴原孝彦,内山健志)
   I 口腔の基礎的知識
    1─口腔の位置 2─舌 3─口唇 4─口底 5─頬 6─上・下顎骨
   II 口腔再建の適応
    1─再建の選択基準 2─再建法の種類
   III 診療技術と手術手技
    1─皮膚移植術 2─粘膜移植 3─骨移植術 4─軟骨移植 5─脂肪移植 6─局所皮弁移植 7─血管柄付遊離皮弁術 8─神経・血管移植術
III編 隣接・関連分野の疾患の診断・治療および各科との連携
 第7章 口腔外科症例の診断と管理
  G-1 口腔顎顔面痛(野間弘康,山根源之)
   I 基礎的知識
    1─痛みの感覚が生じるメカニズム 2─口腔顎顔面領域において痛みの原因となる疾患と病態 3─痛みの臨床的分類
   II 診断技術
    1─身体性疼痛か否かの判別 2─急性痛の診断 3─慢性痛の診断
   III 治療法および治療技術
    1─急性痛に対する治療 2─慢性痛に対する治療 3─難治性疼痛に対する治療
  G-2 顎口腔機能障害(瀬戸ユ一,関谷秀樹)
   I 基礎的知識
    1─はじめに 2─臨床に即した対応
   II 診療技術
    1─検査 2─検査計画・総合診断
   III 手術手技
    1─手術の意義(リハビリテーションの進め方) 2─構音・嚥下のリハビリテーション 3─味覚 4─唾液分泌
  G-3 全身疾患の口腔症状(千葉博茂,伊能智明)
   I 基礎的知識
    1─口唇炎・口角炎 2─歯肉の腫脹(歯肉炎に類似) 3─水疱の形成 4─紅斑の形成 5─潰瘍の形成 6─萎縮性病変 7─出血が主症状 8─顎下部・頸部の腫脹 9─X線不透過像
   II 診療技術:各種疾患と検査
    1─血液疾患 2─感染症 3─自己免疫疾患 4─その他
   III 各科との協調
    1─貧血 2─顆粒球減少症 3─白血病 4─悪性リンパ腫 5─伝染性単核球症 6─梅毒 7─AIDS 8─結核 9─Sjogren症候群 10─Behcet病 11─木村病 12─Wegener肉芽腫症 13─甲状腺疾患 14─心身症,神経症
  G-4 口腔粘膜疾患(南雲正男)
   I 基礎的知識
    1─口腔粘膜疾患の概念 2─口腔粘膜疾患の原因,症状と分類 3─口腔粘膜疾患の発症頻度 4─口腔粘膜疾患の予後
   II 診療技術
    1─口腔粘膜疾患の診断 2─口腔粘膜疾患における検査 3─診断のための検査の実際
   III 診療技術
    1─外科的療法 2─薬物治療 3─栄養管理(摂食指導),補液 4─口腔のケア 5─他科との連携
  H-1 気道管理(柴田敏之)
   I 基礎的知識
   II 診療技術
    1─診察 2─検査 3─喫煙と気道管理
   III 手術技術
    1─エアウェイ・気管切開術 2─基本的な呼吸器の設定 3─Pierre-Robin症候群の呼吸管理 4─SpO2などのモニター評価 5─睡眠時無呼吸症候群における連携,口腔内装置の装着・管理
  H-2 栄養管理(木村博人,小林 恒)
   I 基礎的知識
    1─栄養素について 2─栄養状態の評価(栄養アセスメント) 3─必要エネルギー量,必要水分量の求め方 4─各種栄養管理法の選択基準と適応
   II 経腸栄養の診療技術
    1─経腸栄養(EN)の手技ならびに合併症への対処
   III 静脈栄養の診療技術
    1─輸液と静脈栄養の意義 2─末梢静脈栄養(PPN)の実際 3─中心静脈栄養(TPN)の実際 4─嚥下機能評価と栄養摂取 5─栄養サポートチーム(NST)の役割と組織について

 索引