やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

まえがき
 本書は,パーシャルデンチャーのための診査と診断,治療計画の立案,そして臨床ステップから構成され,日々臨床にたずさわる歯科医師に向けて書かれた実践的なガイドブックである.私が分担執筆したパーシャルデンチャーに関わる2冊のテキスト*で述べた基本的な補綴学的原則が,Dr.John D.JonesとDr.Lily T.Garciaの共同編集によって,大幅な内容の拡大と新しい解釈を伴い,ここに刷新されている.この場をお借りして,その2冊のテキストにおける共著者,Dr.Louis J.Boucherに深く敬意を表し,彼の驚くべき見識と経験,補綴学への造詣の深さが本書に継承されていることを書きとめたい.
 新しい『パーシャルデンチャー・クリニシャンズガイド』の執筆陣は,大学やそれぞれのクリニックで研究と臨床に従事する複数の専門医から構成され,その内容は,卒直後の研修歯科医からパーシャルデンチャーの経験豊富な臨床家に至るまで多様な期待に応えるものである.本書の目的は,すでに確立して現在まで歯科医療の基盤となっている補綴学的な原則を明記し,臨床家が現実の歯科医療の現場において,実際的で予知性がありコスト的にも優れたパーシャルデンチャーの治療ができるよう助けることである.
 本書の判型やレイアウト,スタイル,構成のすべては読みやすいように配慮されており,その点で他のパーシャルデンチャーのテキストとは一線を画している.従来のテキストのほとんどが理論に重きを置くのに対し,本書ではより実践的な診療内容に的を絞ったアプローチが見られる.臨床にたずさわる歯科医師にとっては,パーシャルデンチャーの最新の科学と技術とを実際的で今すぐ使える情報として理解できる内容になっている.『パーシャルデンチャー・クリニシャンズガイド』は,診断と治療方法の選択,さらにパーシャルデンチャーに関わる問題解決において臨床家の大きな助けとなるものであり,欠くことのできないテキストとなるであろう.
 Robert P.Renner,DDS
 ニューヨーク・ストーニーブルック大学歯学部名誉教授

謝辞
 このたび貴重な序文をご寄稿いただいたDr.Robert Rennerに謹んで感謝いたします.Dr.Rennerは現在,多くの献身的なライフワークで多忙を極めています.過去数年間,エルサルバドル,グアテマラ,カンボジア,フィリピンのマニラをボランティアとして訪問し,多くの米国人歯科医師やUCSF(カリフォルニア大学サンフランシスコ校)とコロンビア大学の歯学生とともに年間6,000人以上の貧困に苦しむ子供たちの治療に従事されてきました.Dr.Rennerの献身的な努力と多くのボランティアたちとの共同作業により,現在までに4万人以上の子供たちを助けてきたことになります.彼はまた,カンボジアのプノンペンにある歯科大学で教育と臨床指導を行っています.ボブには感謝の気持ちでいっぱいです.
 そして,本書の完成を影で支えてくれた人たち,文献の準備や図表の処理をしていただいたMr.Chong-Fong ZhuとMr.Robert Hudson,執筆期間中ずっと事務的なサポートをしていただいたMs.Marta KingとMs.Sandra Langelierに深く感謝の意を表します.
 著者

訳者―序
 2009年に発刊された本書は,Dr.Rennerが寄稿したまえがきにあるように,パーシャルデンチャーのテキストととして長く読まれてきたBoucherとRennerの共著の内容を継承し,新しい内容を盛り込んだものである.旧著には見られなかった新しい項目として,“インプラントを用いたパーシャルデンチャー“,“高齢者とパーシャルデンチャー”など興味深い内容が加わっている.
 副題の“Clinician's Guide”が示すように,本書には若い歯科医師や経験ある一般臨床家が直面するさまざまな問題を解決するためのヒントが多数,順序立てて提示されている.理論と原則はコンパクトに述べられ,多くのページは治療ステップの解説と症例のプレゼンテーションに使われている.本書は,実際の診療とそこで遭遇する問題の解決方法を述べたBoucherとRennerの方針を踏襲している.
 第2章に記載されている2002年米国補綴学会制定の“欠損分類と補綴診断チャート”は,一般臨床家だけでなく補綴学の教育・研究者にとっても重要で興味深いものである.日本補綴歯科学会でも近年診療ガイドラインの策定を進めているが,米国において広く認められている診断チャートは,教育と研究分野でも有用と思われる.
 設計の考え方と維持装置の選択は,現在わが国で一般的に用いられているものといくぶん違いがある.保険制度の違いから,レジン床義歯の適用に違いが生じていることも明らかである.このような違いを認識したうえで,著者らの設計方法に対して読者1人ひとりが自由な意見をもち,結果として自らの臨床の選択肢が少しでも拡がればよいと思う.
 訳語の選択では専門用語集に記載されている言葉を優先して用い,学術的に正確な記述となるように努めたつもりである.
 2010年11月
 訳者
 まえがき
 謝辞
 訳者―序
Chapter ONE 第1章 求められるパーシャルデンチャー
 パーシャルデンチャーを必要とする患者数
 義歯のクオリティー
 まとめ
Chapter TWO 第2章 パーシャルデンチャーの診断
 診査の進め方と得られる情報
 歯科的既往歴
 全身状態と医科的既往歴
 患者に関して気づくこと
 医科への照会
 診査の項目
 X線診査
 研究用模型の分析
 患者の心理的側面の評価
 経済状況の考慮
 補綴診断のための症型分類(Prosthodontic Diagnostic Index:PDI)
 補綴治療の選択
 ブリッジとパーシャルデンチャーのコンビネーション
 治療計画の立案
 治療計画の提案
Chapter THREE 第3章 パーシャルデンチャーの設計
 3-1 設計の原則
 3-2 KennedyI級に対する義歯の設計
 3-3 KennedyII級に対する義歯の設計
  RPIを適用した設計
 3-4 KennedyIII級に対する義歯の設計
 3-5 KennedyIV級に対する義歯の設計
Chapter FOUR 第4章 診療ステップ
 4-1 口腔内の前処置
 4-2 精密印象
  印象材の選択
  印象用トレーの選択
  臨床操作における注意事項
 4-3 フレームワークの試適
  フレームワークの適合
  フレームワークの適合操作
  適合後に行うステップ
  人工歯の選択
  診療の流れ
 4-4 蝋義歯試適
  人工歯の外観
  発音機能
  咬合
  患者からのフィードバック
  義歯床縁の形態
Chapter FIVE 第5章 装着とメインテナンス
 5-1 装着
  パーシャルデンチャーの装着
  完成義歯の試適前の精査
  フレームワークの適合
  義歯床の粘膜との適合
  義歯床辺縁の形態
  咬合接触状態
  リマウント
  義歯装着後の調整
 5-2 修理とリライン
  義歯装着後の修理とリライン
  支台歯とフレームワークとの適合
  義歯床の適合
  咬合
  リベース,リライン,修理
  顎堤吸収
  歯根膜支持義歯(KennedyIII級)
  上顎の両側遊離端義歯(KennedyI級)
  下顎の両側遊離端義歯(KennedyI級)
  義歯調整による機能の向上
  間接法によるリライン
  義歯の修理
  人工歯の破折と脱離
  複雑な修理
Chapter SIX 第6章 パーシャルデンチャーのバリエーション
 6-1 レジン床義歯
  機能に基づく義歯の分類
  治療用義歯
  最終補綴装置として用いるレジン床義歯
  レジン床義歯による治療の流れ
 6-2 アタッチメント
  総論
  オーバーデンチャーの製作ステップ
  まとめ
 6-3 インプラントパーシャルデンチャー
 6-4 その他のパーシャルデンチャー
  パーシャルオーバーデンチャー
  スウィングロック
Chapter SEVEN 第7章 高齢者とパーシャルデンチャー
 社会の高齢化
 高齢患者の変化
 まとめ
Chapter EIGHT 第8章 臨床ケーススタディー
 8-1 症例1(義歯の支台歯形態を付与した歯冠修復)
 8-2 症例2(ランナーバーによる前歯部人工歯維持)
 8-3 症例3(根面アタッチメント)
 8-4 症例4(残存歯が歯周病に罹患した症例(1))
 8-5 症例5(残存歯が歯周病に罹患した症例(2))
 8-6 症例6(ロテーショナルパスによる下顎前歯義歯)
 8-7 症例7(パーシャルオーバーデンチャー)
 8-8 症例8(全顎的補綴におけるパーシャルデンチャー)
 8-9 症例9(コンプリートデンチャーが対合であるパーシャルデンチャー)
 8-10 症例10(唇側アーチワイヤーを用いた義歯)
 8-11 症例11(咬合高径の変更を伴った下顎両側遊離端義歯)
 8-12 症例12(コンポジットレジンによる支台歯の歯冠形態修正)
 8-13 症例13(咬耗歯列へのパーシャルデンチャーの応用)

 索引