やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文
 本書の企画意図は,高齢社会の進行を想定して制度設計がなされた2006年の医療制度改革が,地域における「歯科医院経営」にどのような影響を与えるのかの視点に立って解説している.また,地域が一体となって医療・介護を支える仕組みを作り上げるには従来の歯科医療の「治す医療」に「生きる力を支える医療」を合わせて提供する「在宅歯科医療」にスポットをあてて,歯科医院経営改革の方向を提言した.これからは地域医療に参画しながら,歯科医院を活性化することが求められており,院内での改善努力はもちろんであるが,医療従事者と患者・家族の双方が協働作業を行うことの視点に立った医院経営が重要である.同時に,医療安全やレセプトオンラインといった制度対応を進めつつ,生活者である国民の「生きる力を支える医療」への参画を推進することが,医院経営改善につながると考えている.
1章 これからの歯科医院経営をどうする!
 2006年の医療制度改革のなかに盛り込まれた各種計画は地域医療のなかでどのような位置づけになっているか.一見,制度の上からみて歯科診療所の経営に直接影響するとはみえない計画も,「医療の質と効率化」という視点からすれば多くの対策が必要となってくる.制度改革からみた,歯科医院経営への影響と改革への対応をQ&A方式で解説する.
2章 地域との連携が診療所機能を高める─治す医療から治し支える医療へ
 「治す医療」から「支える医療」への発想の転換は,患者・家族の生活の質を確保する歯科医療の提供から生まれる.それには,医療従事者が一方的に提供する医療ではなく,退院前・退院後までの歯科医療サービスを切れ目のない医療連携で行うには,多くの他職種との協働関係をどう作っていくかが診療所の機能を高めるうえで重要である.
3章 在宅歯科診療の現場が抱える問題点と実践例
 高齢社会の進行や病院の機能再編に伴い,在宅療養・在宅死の問題は避けて通れない課題である.制度改革による在宅医療の流れは加速される一方,その受け皿となる医療機関や歯科医療機関はどのような仕組みや準備が必要であるか,長崎市での在宅訪問歯科診療の実際を示しながら,そのシステムの流れ,円滑に進めるための課題をレポートする.
4章 医療安全がみえる医療環境をどうつくるか─医療安全への転換
 患者にとって,医療の安全に対する歯科医院の取り組みがみえることが安心へとつながる.安全管理体制の確保とは何かを,院内感染予防対策,医薬品の安全管理,医療機器の安全管理のための具体的対策を示しながら,コンプライアンス経営の確立を提示する.
5章 第5次医療法改正─歯科医療は量から質への転換
 歯科医療は量から質への転換が求められている.その具体的内容を第5次医療法改正の内容に即して解説する.とりわけ,歯科医療への医療監視の現状や立ち入り検査についてはその重点事項をわかりやすく提示した.医療機能情報提供制度に基づき,医療広告についても指針に基づいた模範広告を示す.
6章 レセプトオンライン化の仕組みと対策─紙レセプトから電子レセプトへ
 レセプトオンライン請求は,政府が進めるIT化戦略の具体的取り組みの重要な柱である.そのレセプトオンライン化の仕組みを詳しく解説し,歯科医院での準備に必要な設定方法についてもわかりやすく手順を示しながらまとめてある.
7章 カルテ・レセプトはどうなるのか─日ごと月ごとから生涯の視点へ
 診療情報の電子管理を活用して,患者自らが健康管理に取り組める環境を作ることが国の重点施策として推進されつつある.その診療情報を地域連携に用いる際のPOSカルテの導入は,歯科医院経営の質の向上に向けていかに取り組まれるべきかを歯科医院のIT化例を示して解説する.
 本書は,従来の経営指南書とは違い,医療制度改革や医療政策が,現場の歯科診療所に求めている改革の方向を示した.在宅医療の推進という課題に歯科診療所が取り組むには,地域医療計画等の各種の計画で歯科診療所がどのような機能を果たすべきかを経営理念のうえで明確にしなければならない.
 本書の内容が,先生方の経営の方針,対策にいささかでもお役に立てば幸いである.
 最後に,本書中に用いた多くの資料は,愛知県歯科医師会宮村一弘会長の御厚意により使用させていただいたことに深く感謝申し上げる.

 2010年6月10日 編者一同
1章 Q&A これからの歯科医院経営をどうする!!
 梅村長生
 Q 歯科医院経営の低迷はなぜなの?
 Q 低迷から脱却するためには?
 Q 医療制度改革は歯科医院経営に影響するの?
 Q 第5次医療法に基づいた医療制度改革による各種計画とは?
 Q 都道府県の各種医療計画と歯科診療所の関係は?
 Q  2008年の医療制度構造改革の主柱はなに?
 Q 医療費適正化計画の中身はなに?
 Q 医療費適正化計画でのPDCAの評価とはなに?
 Q 医療費適正化計画で,国民の健康管理のうえで最も関係するのはなに?
 Q 特定健診・保健指導を実施した事業者は,そのデータをどうするの?
 Q レセプトオンラインとの関係は?
 Q 歯周病健診は特定健診に導入されるの?
 Q 日本型マネジドケアってなに?
 Q 医療制度構造改革の背景にあるものは?
 Q 医療制度構造改革で歯科医院の機能はどう変わるの?
 Q 高齢社会に対して歯科医院はどう機能分化するの?
 Q 高齢社会で歯科医院の経営のあり方を考えるための要因は?
 Q 人口推計に基づく患者数の予測は?
 Q 年齢階層別医療・介護・健康人口はどのくらいなの?
 Q 地域医療連携はどうなるの?
 Q 歯科の目標と役割はどうなるの?
 Q 高齢者が多い地域は?
 Q 歯科医院経営の将来を明るくするための具体策は?
 コラム 安心と希望の医療確保ビジョンの概略
2章 地域との連携が診療所機能を高める
 小塩 裕 花木雅洋
 治す医療から治し支える医療へ─ 0〜80歳まで支援できる医療
 医療のこれからの方向性
  医師と歯科医師等との協働
  在宅医療推進の背景
 I.「歯の健康力」を守るための協働
  在宅療養支援歯科診療所の施設基準
  在宅ケアにおける他職種連携の重要性
  外来医療から入院・在宅医療にいたる口腔機能の維持管理
  医科との連携の実例
  医師との連携
  介護支援専門員との連携
 II.高齢者の口腔ケアの重要性
 コラム 歯の健康力推進歯科医師等養成講習会とは
 コラム 新健康フロンティア戦略賢人会議
3章 在宅歯科診療の現場が抱える問題点と実践例
 角町正勝 白髭 豊 志岐美津子 箱崎守男
 在宅歯科診療が歯科医療モデルを変える
 1.なぜ在宅医療が必要なのか
  在宅歯科診療の重要性
  患者の口腔内は悲惨
 2.どのような在宅歯科診療,歯科との連携が行われているのか
  長崎ドクターネットの立ち上げ
  具体的な連携例
  長崎市の補助事業
 3.在宅歯科診療を進めるうえでの問題は?
  医科への宣伝
  照会システムの確立と窓口の明確化
  問題が2点
 4.在宅歯科診療を円滑に行っていくには,また,広げていくためには
  介護専門職が在宅歯科診療に対する知識を得るために
  医療連携の具体的な稼働
  患者の状態を理解するためには
 5.在宅診療を行っていくうえでのきっかけづくり,歯科医院へのヒント
  顔のみえる関係
  町の歯科医院が一番頼り
  患者の情報を十分に把握する
  医科の場合は
  歯科医院でのシステムづくり
4章 医療安全がみえる医療環境をどうつくるか?
 小塩 裕 高津茂樹
 歯科医療は医療安全への転換へ
  1 医療の安全を確保するためには
  2 安全管理体制とは
  3 院内感染対策の整備とは
  4 医薬品の安全管理体制の整備
  5 医療機器の安全管理体制の整備
  6 医療安全委員会の設置
  7 医療安全のための職員研修
  8 歯科診療所における医療安全に関する具体的な対応
  9 歯科医療安全対策表
  10 医療安全政策まとめ
5章 第5次医療法改正
 小塩 裕
 歯科医療は量から質への転換へ
 1.第5次医療制度改革による医療法改正
  1 医療安全(安全文化)は時代の流れ
 2.第5次医療法改正の具体的内容
  1 院内等での医療安全に関する事項
  2 医療安全に関するポイント
 3.医療安全への転換
  1 医療の安全確認と改善報告書
  2 立入検査実地要項
 4.医療監視の現状
  1 医療監視検査
  2 実施された医療監視立入検査からの報告コメントおよび特記事項
 5.平成22 年度立入検査の実施について〜重点事項〜
  1 立入検査
  2 重点事項
 医療に関する情報提供制度とは
 1.医療機能情報の公表制度について
 医療広告について
 1.医療広告に関する指針の見地から提案する模範広告
  1 模範広告
  2 こんな広告,大丈夫?
6章 レセプトオンライン化の仕組みと対策
 齊藤孝親
 紙レセプトから電子レセプトへ
 1.レセプトオンライン請求に関する告示および改正省令
  1 告示および改正省令の概要
  2 電子レセプト請求の免除・猶予
  3 レセプトオンラインの請求に向けたスケジュール
 2.レセプトオンライン化の仕組み
  1 現行の請求とレセプト電算処理システムおよびオンライン請求システムとの違い
  2 電子レセプトの流れ
  3 既存の請求とオンライン請求との違い
  4 電子レセプトの仕組み
 3.歯科医院での準備
  1 電子レセプト請求の義務化に向けた歯科医院での対応
 4.対応1:電子媒体による請求(レセプト電算処理システム)への対応
  1 レセ電算への対応手順
  2 レセ電算対応レセコンなどの準備(オンライン請求への対応も要確認)
  3 確認試験
  4 光ディスク等を用いた費用の請求に係る確認試験から本請求への流れ
  5 光ディスク等を用いた費用の請求に係る確認試験依頼書
  6 光ディスク等を用いた費用の請求に係る確認試験結果連絡書
  7 光ディスク等を用いた費用の請求に係る確認試験分析結果連絡書
  8 明細書作成システム調べ
  9 請求に関する届出書類の提出
  10 電子媒体による請求
  11 電子媒体の種類および記録形式
  12 光ディスク等送付書
  13 電子媒体への表記
  14 審査支払機関の審査方法
 5.対応2:オンライン請求システムへの対応
  1 オンライン接続のイメージ
  2 受付・事務点検ASP
  3 受付・事務点検ASPに係るチェックの例
  4 オンライン請求に必要なもの
  5 オンライン請求に必要な費用
  6 オンライン請求開始までの手順
  7 オンライン請求用パソコンを用意
  8 規定のネットワーク回線を用意
  9 インターネット(IPSec & IKE)サービス提供事業者
  10 ネットワーク回線費用の見込み
  11 オンライン請求に必要なセキュリティー対策
  12 レセプトのオンライン請求システムに係る安全対策の規程例
  13 オンライン請求に必要な届出書類
  14 オンライン請求用パソコンの設定
  15 オンライン請求開始までの手続きの流れ
  16 オンライン請求の準備チェックシート
  17 オンライン請求用パソコンを使ったオンライン請求例
  18 電子レセプトの読み込みと送信
7章 カルテ・レセプトはどうなるのか?
 齊藤孝親
 “日ごと,月ごと“の視点から“生涯”の視点へ
 1. 2015医療のIT化への対応
  1 IT戦略の流れ
  2 IT化によって医療はどう変わるのか
 2.新しい歯科医院管理のために
  1 歯科医院がIT化に対応するためには?
  2 実際の歯科医院でのIT化例
  3 診療録等を電子保存する場合に必要な要件(保存義務のある文書等を電子的に保存する場合は要求事項を満たすことが必要)
  4 電子的な情報を扱う際に遵守すべきガイドライン (レセコン等も対象となっていることに注意)
  5 「医療情報システムの安全管理に関するガイドライン」(診療所でも遵守が必要)
  6 電子的な情報を扱う際の責任のあり方
  7 電子的な情報を扱う際の安全管理に求められる対策(基本は個人情報の保護)
  8 電子的な情報を扱う際の一般管理における運用管理の実施項目例
 3.電子カルテへの流れ
  1 電子カルテ(診療録等を電子的に保存)
  2 歯学部付属病院における電子カルテの例
 4.電子カルテでも一般的なカルテ記載方式のPOSカルテとは
  1 POS:問題志向型システム
  2 POMR:問題志向型診療録
  3 POMRの基本構成
  4 POMRの流れ
  5 POS/POMRは保健,医療,介護,福祉の連携ツール
  6 歯科でPOS/POMR導入は難しいか?
  7 POS導入 ステップ1
  8 POS導入 ステップ2
  9 POS導入 ステップ3
  10 経過記録(SOAP記録)
  11 POS/POMR導入で何が変わるのか?
 5.レセプト情報
  1 法に基づいてレセプト情報・特定健診等情報データベースが構築される(高齢者の医療の確保に関する法律)
  2 レセプト情報の利用例1(新しい利用法)
  3 レセプト情報の利用例2(新しい利用法)
  4 レセプト情報の利用例3(将来の利用法)
  5 レセプトを月単位とする考え方の転換
  6 情報弱者にならないために

 索引