やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

インプラント治療を30年してきて思ったこと
 私たちは,歯科医師になってから約30年の間,失った歯をよみがえらせる夢の治療であるインプラントを,より苦痛が少なく,より早く,より美しく行えるよう,一心に努力を続けてきました.
 以前はインプラントを埋入する骨がない場合,入院して腰の骨をとってきて移植するといった大がかりな手術が必要でしたが,現在は三次元的な診断に基づいて正確に埋入位置を決めることができるようになり,負担の少ない手術ができるようになりました.また,インプラントと骨が結合するまで数ヵ月の安静期間が必要でしたが,条件さえ整えば,埋入と同時に仮の歯を入れることも可能です.さらに,さまざまな工夫により,見た目にも美しく仕上げることもできるようになりました.
 そして,よく噛めるようになったことで,身体機能が向上したり,性格も明るくなったなど,思いがけない嬉しい結果も,患者さんとご一緒に体験することができました.
 多くの患者さんに,「なんでも食べられるようになって嬉しい」といっていただき,私たちも喜んでいたのですが,ある日,「太ってしまいました……」という患者さんが何人もいらっしゃることに気づき,はたして,よく噛めるようになったことが全身の健康に寄与したのだろうか?むしろ望ましくない変化を引き起こしてしまったのではないか?と心配になりました.
 そこで,噛むことの大事さ,その全身への影響について知っていただき,さらに,健康で長生きするためにはどうしたらよいかということについて考えたことを,この本に書いてみました.臨床とは離れた部分もあり,私たちもまだ学習途上なのですが,楽しく美味しくすごすためにはどうしたらよいかを,ご一緒に考えていただければと願っています.
 2010年6月20日 Field Implant Dentistry Institute(FIDI)発足の日に
 武田孝之 林 揚春
 インプラント治療を30年してきて思ったこと
1 つい,走っちゃいました─患者さんのエピソードから
2 あれから,太っちゃいました─患者さんのエピソードから
3 なぜ太っていてはいけないの?
4 メタボリックドミノ─あなたのBMIはいくつ?
5 全身の健康と歯科治療との関係
6 現代の食事の問題点─早食い・丸飲みは肥満の原因
7 バランスよく食べるためには歯が大事
8 転ばないためにも歯が大事
9 認知症の予防にも歯が大事
10 歯周病と肥満と糖尿病の関係
11 歯の欠損から死のドミノに向かわせないために
12 年齢と問題に応じた治療方針
13 患者さんの負担の少ないインプラント治療
14 医療費と健康行動―あとがきにかえて