やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 現代の医学と生命科学には,動物の動き,すなわち生体力学作用とは何かがいっさい語られていない.これが現代医学の盲点であることに気づいて,大きな衝撃を受けたのが,人工関節骨髄造血器官と歯根膜線維関節造血装置を備えた人工歯根を,生体力学エネルギーで未分化間葉細胞から分化誘導することに成功して,日本人工臓器学会で学会賞を授与された1994年頃のことであるから,今から15年前になる.それを契機として歯科口腔科の疾患をバイオメカニクスの観点から研究を始め,順次学会発表を続けて,2000年にはこれらをまとめて医歯薬出版(株)から『顎口腔の疾患とバイオメカニクス─歯科医学の新しいパラダイム』を出版した.この少し前の1999年に,医学会総会に合わせて南山堂からは,内科学の教科書としてバイオメカニクスを中心とした新しい生命科学に立脚した『重力対応進化学』を出版した.
 バイオメカニクスの根源は地球の持つ重力・引力作用であるから,重力エネルギーに覚醒めると,これまでの生命科学では手つかずの状態であった動物の進化の謎や組織免疫系発生の謎,骨髄造血発生の謎が自ずと解明され,さらに,60兆個の多細胞動物の統一個体制御の仕組みの謎までもが解明されるのである.約10年経った今でもこれらの拙著を読んで,歯科医師のみならず若い内科医や整形外科医や高齢の産科医やいろいろな科の医師が,わが西原研究所にある研修制度の研修生となって通っている.リタイヤーした2001年の春に,重力・力学エネルギーのバイオメカニクスに基づいた医学によって,現代医学では暗闇につつまれている「迷宮の免疫病」に光をあてるべく「日本免疫病治療研究会」を設立し,同時にこれらの研究の実践の場として西原研究所を設立し,未完成であった人工歯根療法の完成を期した.
 研究所を設立して8年間臨床研究を続け,口呼吸と冷中毒と働き中毒(骨休め不足)で起こる免疫病のほぼ全容が究明され,人工歯根療法も完成したので,この度『顔と口腔の医学』をまとめることにした.
 「わけの解らない免疫病」が,口呼吸とエネルギーの不適で,口や腸内の常在性微生物が腸扁桃のM細胞からステムセル(未分化間葉細胞)に取り込まれ,これが微生物を多数抱えた顆粒球に分化して血中をめぐり,さまざまな組織・器官の細胞群に微生物を播種し,いたる所に細胞内感染症を発症する.この細胞内感染症で生ずる細胞小器官のミトコンドリアの荒廃によって「わけの解らない免疫病」が発症することがついに究明されたのである.永らく生命科学の謎とされた進化も,多細胞生命体の統一個体制御機構もともにミトコンドリアの働きによって起こることが明らかとなり,ついに生命科学の統一理論が完成し,ここにブレークスルーが拓かれたのである.将来は,洞察力のある口腔科医によって,精神神経疾患を含むすべての免疫病の予防と治療が可能な時代が到来することが予想される.
 本書をまとめるにあたり,医歯薬出版株式会社の辻 寿氏に多くのご尽力をいただきました.謹んで感謝の意を表します.
 2009年11月
 西原克成
第I編 理論的背景
はじめに─バイオメカニクスを導入した口腔の医学
 1.機能性の疾患への対応を怠ってきた医学
 2.力学エネルギーの見落とし
 3.ミトコンドリアと細胞核の遺伝子の相互作用
 4.「顔と口腔の医学」の重要性
 5.バイオメカニクスを導入した口腔の医学
序章 本書が出来るまで─ミトコンドリア博士の研究の歩みにてらして
 1.大学生の頃
 2.大学院生の頃
 3.臨床医学に復帰して─東大分院の口腔科臨床医学の6年
 4.本郷に復帰してからの臨床医学
 5.「釘植型人工歯根」,「人工関節骨髄」の開発研究と「口腔とその周辺の習癖」の研究に着手
 6.現代医学の盲点に気づく
 7.免疫学の変質
 8.歯科医学の新しいパラダイム
 9.西原研究所の研究と治療
 10.Bi Digital O-ring Test(BDOT)医学会の歯科部門長
第1章 医学・生命科学にはバイオメカニクスの導入が必須である
 はじめに
 1.現代医学の盲点と分子生物学の落とし穴
 2.生命とミトコンドリアと脊椎動物
 3.バイオメカニクスを医学に導入するに至る著者の研究テーマの変遷
  1)ミトコンドリアの変異発生に関する研究
  2)アパタイトを用いた人工歯根と人工骨髄の生体力学エネルギーによる開発研究
  3)生命の要の咀嚼器官─鰓腸・脳下垂体系─顎・口腔の本質の究明
  4)哺乳動物の乳児の特徴についての研究
  5)ミトコンドリアに基づいた生命の5種類の情報系による統一個体制御の仕組みの究明
 4.疾病の時代的変遷―機能性疾患の発生,その原因究明と治療法の樹立
  1)疫病・伝染病と感染症の時代
  2)従来型の医学の問題点
  3)機能性の疾患の時代
   (1)生体力学エネルギーの偏りで起きる病気─生理的変形症
   (2)エネルギーの不適当で起きる病気─「わけの解らない免疫病」
 5.生体力学の導入による顎・口腔疾患の革命的治療法の樹立
  1)新しい医学の誕生
  2)バイオメカニクスに基づいた健康の仕組み
第2章 新しい生命科学理論と「顔と口腔の医学」の樹立
 1.生命科学の統一理論─多細胞生命体の統一個体制御の機構をさぐる─
  1)研究の歴史
  2)多細胞動物の本質をさぐる
   (1)原核生物と真核生物 (2)原生動物と多細胞動物(脊椎動物)の比較 (3)植物と脊椎動物 (4)脳脊髄神経系と腸管の仲を取り持つもの─物質・メディウム情報系 (5)生命科学の統一理論(統一個体制御の機構学)
 2.「顔と口腔の医学」の樹立
  1)脊椎動物の進化学から学ぶ新しい医学
  2)哺乳動物のオリジン(源)をさぐる─ネコザメが哺乳動物のオリジンだった
  3)実験することができる進化の現象─実験進化学の創始
  4)原始脊椎動物の器官は哺乳動物に移植することができる
  5)顔のオリジンは1匹のホヤだった
  6)脳神経と「顔と口腔の医学」
   (1)脳脊髄神経系 (2)視覚(第二脳神経) (3)嗅覚(第一脳神経) (4)聴覚平衡器官(第八脳神経) (5)味覚 (6)触覚
  7)骨格を持った内臓呼吸腸管系とヒトの身体の仕組み
  8)「顔と口腔の医学」の樹立
 本書における主な法則と概念の解説
第3章 歯と骨の科学と人工関節骨髄造血器官の開発
 はじめに
 1.歯の学問の歴史
 2.歯の学問の多様性
 3.歯の学問の生体力学による統合と復活
 4.歯とは何か?骨とは何か?
 5.進化の謎の究明と人工関節骨髄造血臓器官の開発
 6.人工歯根療法の開発
第4章 新しい免疫学の概念の樹立 91
 1.生命とエネルギーとミトコンドリア
 2.顔と口腔の医学
 3.難病治療法の研究
 4.迷宮の偽学問─「自己・非自己の免疫学」
  1)移植医学の申し子「自己・非自己の免疫学」
  2)免疫システムと抗原抗体反応について
  3)アナフィラキシー,アレルギーと病原微生物
  4)ワクチン,トキソイド,抗毒素
  5)難病医療救済制度
  6)低体温療法による脳蘇生術
  7)腸内常在菌の細胞内感染症
 5.健康と病気の定義およびミトコンドリア免疫病治療法と免疫病予防法
第II編 「顔と口腔の医学」の臨床
第1章 顎・口腔に生ずる器質性疾患および口呼吸で生ずる感覚器官の疾患とバイオメカニクス
 はじめに
 1.器質性疾患の診断と治療
  1)口腔疾患の特徴
  2)口腔の構造と機能
  3)口腔疾患とその特徴
  4)口腔診察の実際
   (1)一般診査法
    (1)問診 (2)視診 (3)触診 (4)X線診査
   (2)口腔に特徴的な疾患の診察法
    (1)口腔粘膜疾患 (2)齲蝕 (3)歯周疾患 (4)唾液腺の疾患 (5)歯列の異常と顎の変形症
  5)口腔の器質性疾患
   (1)奇形,変形症 (2)外傷 (3)外科的感染症 (4)口腔粘膜疾患 (5)嚢胞性疾患 (6)腫瘍 (1)良性腫瘍 (2)悪性腫瘍 (7)その他の疾患
 2.感覚器官の眼,鼻,聴覚平衡器官,皮膚および脳神経系に及ぼす口呼吸の影響
  1)感覚器官の疾患の特徴
  2)感覚器官の構造と機能
   (1)触覚器官─皮膚 (2)視覚器官─眼 (3)嗅覚器官─鼻 (4)聴覚平衡器官─耳 (5)感覚器官の総元締─脳神経系
  3)感覚器官の疾患の診断
第2章 「顔と口腔の医学」とバイオメカニクス
 1.内臓頭蓋の器官特性と生体力学技法
  1)咀嚼器官とは何か.鰓腸とは何か
  2)細胞呼吸制御システムの脳下垂体
  3)ワルダイエル扁桃輪と脳下垂体
  4)口呼吸が免疫病の原因となる理由
 2.顎・口腔領域への機械臓器の概念の導入
  1)顎・口腔疾患と機械臓器の概念
  2)口腔疾患とバイオメカニクス
 3.歯の器官特性と口腔疾患の生体力学的因子
  1)顎・顔面頭蓋の力学機能体としての特性
  2)歯の力学機能体としての特性
  3)口腔疾患の生体力学的因子
   (1)口呼吸習癖 (2)片側咀嚼習癖,噛まない食べ方,暴飲暴食,冷飲料中毒 (3)睡眠姿勢習癖と短睡眠 (4)頬杖習癖 (5)食いしばり・歯軋り習癖 (6)器楽の演奏練習
 4.口腔疾患の機能療法と機能外科療法
  1)機能療法
  2)咀嚼器官の機能外科療法
  3)重度の歯周疾患と咬合の崩壊症例の機能外科療法
  4)機能性疾患の予防法
第3章 「顔と口腔の医学」機能性の疾患の診断と治療 その1 生活習慣病としての顔の変形症と免疫病
 はじめに
 1.生活習慣病としての顔の変形症
  1)口呼吸習癖による顔の変形症と機能障害
  2)片側咀嚼習癖による顔の変形症と機能障害
   (1)顔の変形症 (2)片側咀嚼癖による機能障害と顎関節症
  3)睡眠姿勢,枕の位置習慣による変形症
  4)頬杖による変形症
  5)クレンチングによる変形症
  6)口呼吸,片噛み,横向き・俯せ寝相の3つの習癖と顔の変形症
 2.生活習慣病としての顔の変形症と免疫病
第4章 「顔と口腔の医学」機能性の疾患の診断と治療 その2 顔の変形症と顎・口腔,歯列弓の疾患
 はじめに
 1.顔の変形症
  1)口呼吸,片噛み,横向き・俯せ寝で発症する顔の変形症
  2)顎関節の変形症を伴う顔の変形症
   (1)顎関節症と顎関節脱臼 (2)顎関節の疾患の特徴─鰓腸内臓骨格系の障害の治療
 2.顎と歯列弓の変形症
 3.歯周疾患
 4.歯の欠損症
第5章 「顔と口腔の医学」と免疫病の診断と治療
 はじめに
  1)人類特有の免疫病
  2)口呼吸,冷中毒,歯周疾患で人類特有の免疫病が発症する理由 口呼吸,冷中毒,歯周疾患と免疫病
  3)免疫病の実相とその治療法
  4)免疫病治療の実践法
 1.人類特有の免疫病の治療法─実際症例
  1)赤ちゃんの免疫病
   (1)妊婦の不適切な生活習慣による乳児の免疫病と,母親が不適切な生活習慣を続けて発症する乳児の免疫病 (2)生後間もなく母乳で皮膚の湿疹やアトピー性皮膚炎を発症する症例の大半は,妊娠中の母親の冷中毒,口呼吸,骨休め不足による (3)順調な母乳育児の後に赤ちゃんが皮疹,咳,膀胱炎になる場合
  2)重症の免疫病の母親の母乳で発症する赤ちゃんの免疫病
   (1)母親が潰瘍性大腸炎,緑内障,皮膚疹の母乳で発症した乳児アトピー性皮膚炎 (2)重症のアトピー性皮膚炎の母親の母乳で起こる赤ちゃんのアトピー (3)アトピーの母親とその母乳で発症した3カ月の男児の軽度のアトピーの症例
  3)育児法の誤りによる赤ちゃんの免疫病
   (1)離乳食を5,6カ月ないし9カ月から開始するとどうなるか (2)生後,初乳とともにおしゃぶりを与える
 2.口呼吸,冷中毒,歯周疾患で発症する感覚器官の疾患
 3.口呼吸,冷中毒,歯周疾患で発症する成人の免疫病
  1)アトピー性皮膚炎
  2)歯周疾患による重度の心疾患
第6章 人工歯根療法の樹立とその実際
 1.人工歯根療法の概念
 2.歯の器官特性に関する研究─歯とは何かを究明する
  1)進化から歯のオリジンをさぐる.
  2)ヤツメウナギの真歯から学ぶ釘植歯の器官特性─歯の本質
  3)歯は最適形状化システムを持つ力学感応器官
   (1)歯の形は食性によって決まる (2)生体の形態を決めるミトコンドリアに立脚した5種類の情報系
 3.シンプソンのトリボスフェニック型の臼歯
 4.バトラーの場の理論
 5.筋肉運動と血流
 6.関節とは何か
 7.人工歯根の開発研究
  1)人工歯根開発の発想の原点
  2)人工歯根の必要条件をさぐる
  3)vehicle形態と手術操作を考えた人工歯根形状の考案
  4)人工歯根療法の実際
  5)人工歯根療法は顔と口腔科の医療における究極の治療法である

 あとがき
 索引