やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

総監修の序
 近年,医学・薬学系における統計学は,保健統計,疫学,集団遺伝学をベースとして生物統計学(Biostatistics)として大きく発展してきた.こうした生物統計の教科書とは一線を画して,本書は,歯学でも補綴学という限られた分野で独自に集大成された.それだけに,自らの手で集めたデータを分析するために,必要とされる統計学をセミナーや研究会を通じて学びながら本書のようにまとめられたことに敬意を表したい.
 もとより,統計学は,データを扱う学問であって,そのデータのもつランダム性(不確定さ)のなかから,いかに効率的にデータのもつ特徴量を抽出することができるかということでその有用性が決まってくる.こうした集団のもつ特徴量の比較が統計的仮説検定であり,本書でも,この点について詳述している.特に,多重比較の重要性についても触れており,実際のデータを分析して,論文としてまとめあげるまでに,何が本当に重要であるかが,わかる形になっている.多重比較は,医学系を中心として,検定論のフレームワークのなかでその分析手法の重要性が高まってきており,理論的にも非常にアクティブに研究されている分野である.脳科学におけるfMRI画像や遺伝子データの解析のように何万にも及ぶ仮説検定が行われる分野では,優れた分析方法の探求が行われ,応用分野のみならず,統計的方法そのものを研究する分野でも継続的かつ定期的に国際会議がもたれている.
 また,多変量解析に関する節では,非常にコンパクトに分析手法とそれを活用した例題の紹介がされている.編集に携わった方々の緻密な作業の賜物と解釈される.
 実験や観測データの取り扱いは,近代の統計学の祖でもあるR.A.Fisherの言葉にあるように,コントロールできない因子の無作為化と背景要因の調整が重要である.これらに必要な分析方法についても記述されており,歯科補綴学という分野にだけでなく,非常に有用なデータ解析の書が誕生したと判断される.さらに,論文の投稿に必要とされる統計分析を中心としたレフェリーとのやりとりの概要を要領よく扱うという,類書に見ない記述も特徴的である.統計解析を行って論文としてまとめる分野は数多くあるが,初めての試みであると思われる.本書が規範となる可能性が高いので,バージョン・アップを重ね,さらに使いやすくなることを期待したい.
 平成21年10月吉日
 中央大学理工学部教授 鎌倉稔成

『歯科臨床研究の統計ガイド』の発刊に寄せて
 私たちが日常的に携わるいかなる研究領域においても,統計は欠かすことのできないツールであり,研究デザインの立案は統計学的な検討に基づいて行われます.しかしながら一方では,学会発表や研究論文のなかには,正確な知識をもたないことに起因する統計方法の誤用や不適切な解釈が散見されるところです.
 社団法人日本補綴歯科学会では,平成17年10月開催の第114回学術大会(新潟)以来,学会としての学術レベルの向上ならびに会員の研究力の向上に資することを目的として,学術大会のシリーズ企画として,統計に関するセミナーを継続的に開催してきました.本企画では,医学統計の第一線で活躍されている国立保健医療科学院の横山徹爾先生を講師としてお迎えし,専門的見地からの解説をいただくとともに,本学会学術委員からは,実際の研究事例に基づき,種々の解説が加えられました.この身近にある歯科的な事例をトピックとする統計セミナーは多くの会員からの支持を得てきました.具体的には,各種の統計手法や研究デザインの立案方法を理解することが可能となったとの声も聞かされております.
 本書は,以上の実績を踏まえ,さらには歯学研究に広く活用しうることの観点から,可及的に歯科臨床に関連した事例に基づき,さまざまな研究において必要とされる統計に関する知識を解説したものです.なお,本書は2部構成となっており,第1章では応用統計学会の現会長であられる鎌倉稔成教授(中央大学)に監修者としてご参加いただき,統計に関する基本知識を網羅いたしました.また第2章では,横山徹爾先生に監修者となっていただき,歯科関連研究論文の実例から統計学的手法について検討し,解説しております.
 文末となりましたが,本書の発刊に際して多大なるご尽力を頂きました鎌倉稔成教授ならびに横山徹爾先生,そして本学会の志賀 博教授(平成19・20年度編集委員長),皆木省吾教授(平成19・20年度学術委員長)はじめ,編集者,執筆者の方々に心より御礼申し上げます.
 平成21年10月吉日
 社団法人日本補綴歯科学会
 理事長 佐々木啓一
 前理事長 平井敏博
第1章 統計の基本概念
1.研究計画
 1 観察研究
  1)ケースシリーズ研究(記述研究)
  2)ケースコントロール研究(症例対照研究)
  3)横断研究
  4)コホート研究
 2 実験研究
  1)無作為化比較対照試験
  2)非無作為化比較対照試験
  3)クロスオーバー研究
 3 研究デザインの質
2.母集団と標本
3.データの整理
 1 データの種類
 2 正規分布と検定法
 3 平均値と中央値
 4 標準偏差と標準誤差
4.検定とは
 1 検定における2種類の判断ミス
  1)第1種の過誤
  2)第2種の過誤
 2 有意差検出のための標本サイズの決め方
5.数量データの差の検定
 1 2群の差の検定
  1)独立2群の差の検定
  2)関連2群の差の検定
 2 多群の差の検定
  1)独立多群の差の検定と多重比較法
  2)関連多群の差の検定
6.質的データの差の検定
 1 質的データとは
 2 2×2分割表(クロス集計表)の検定
  1)独立しているデータの場合
  2)関連しているデータの場合
 3 m×n分割表の検定
 4 多重比較法
 5 Mantel-Haenszel検定
7.相関分析と回帰分析
 1 相関分析
 2 回帰分析
  1)直線回帰
  2)曲線回帰
8.多変量解析
 1 共分散分析
 2 重回帰分析
 3 ロジスティック回帰分析
 4 コックス比例ハザードモデル
 5 主成分分析
 6 因子分析
第2章 統計実践オムニバス─歯科関連研究論文の実例から切り口を考える─
1.論文における統計解析手法記載の要点
2.原著論文が受理されるまでの査読過程を再検証する
 1 材料試験での多群間の差の検定を行った論文
  1)研究内容概略
  2)当初の解析
  3)査読者の指摘事項(和訳抜粋)
  4)査読者への回答(和訳抜粋)
  5)査読内容の解釈
 2 アンケート調査票の開発と妥当性・信頼性の検討
  1)研究内容概略
  2)当初の解析
  3)査読者の指摘事項(和訳抜粋)
  4)査読者への回答(和訳抜粋)
  5)査読内容の解釈
 3 総義歯の総合的状態の量的評価
  1)研究内容概略
  2)当初の解析
  3)査読者の指摘事項(1回目,和訳抜粋)
  4)査読者への回答(1回目,和訳抜粋)
  5)査読者の指摘事項(2回目,和訳抜粋)
  6)査読者への回答(2回目,和訳抜粋)
  7)査読者の指摘事項(3回目,和訳抜粋)
  8)査読者への回答(3回目,和訳抜粋)
  9)査読内容の解釈
 4 顎の動きと脳血流の変化との関係
  1)研究内容概略
  2)当初の解析
  3)査読者の指摘事項(和訳抜粋)
  4)査読者への回答(和訳抜粋)
  5)査読内容の解釈

 参考文献
 索引