やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監訳者序文
 現在,歯周病学は目覚しい進歩を遂げています.病因論については,歯周病原細菌のさまざまな潜在的病原因子が報告され,当該因子と宿主との相互作用についての研究が進展し,遺伝子レベルでの解明が進んでいます.さらに歯周炎には危険因子が存在し,その有無によって歯周炎の発症頻度や重症度が異なることが疫学研究で明らかにされました.喫煙などの環境因子のほかに,糖尿病などの全身疾患,サイトカイン遺伝子や免疫グロブリン遺伝子などの遺伝子多型も報告されています.また,逆に歯周炎が全身疾患に影響を与えることが明らかにされました.歯周病原細菌の内毒素や歯周炎局所で産生される炎症メディエーターにより心臓・血管系疾患,早産・低体重児出産,糖尿病や誤嚥性肺炎などの全身疾患のリスクが上昇することが報告されています.今後,歯周炎と全身疾患との関わりは,ペリオドンタルメディシンとして歯科医科連携の重要な鍵を握っていると考えられます.
 治療法に関しては,歯周炎により破壊された歯周組織を健康な状態に回復させることが歯周治療の究極のゴールであり,その実現に向けて歯周組織再生治療に大きな期待が寄せられています.これまでに,骨移植,GTR法,生物学的根面処理(エナメルマトリックスタンパク質の適用)は臨床実施されています.さらにサイトカイン療法や細胞移植療法が注目されており,セメント芽細胞,歯根膜細胞,骨芽細胞といった歯周組織構成細胞や当該細胞に分化可能な幹細胞をin vitroで培養後,歯周病罹患部位に移植し積極的に歯周組織を再生させようと試みられています.
 このような中にあって,デンタルプラーク(バイオフィルム)が歯周炎発症のトリガーであり歯周治療の基本は歯肉縁下プラークを構成する歯周病原細菌の除去にあることは,将来も不変な確固たる中心原理となっています.そのため,実際の臨床の場では原因除去療法として歯科医師・歯科衛生士によるプラークコントロールとともにスケーリング・ルートプレーニング(SRP)を行い,歯肉縁下プラークコントロールを行うことが基本となっています.歯周治療におけるSRPはまさに人間にとっての言語といえるでしょう.言語(SRP)が存在しなければ社会・文化(歯周組織再生治療など)という概念は生まれなかったからです.上記のように歯周治療は方法論において現在進行形で発展を続けていますが,この歯肉縁下プラークコントロールを適切に行えるか否かによって,歯周治療さらには歯周組織再生治療をはじめとするアドバンス的な治療の成否が決定されるのです.
 このたび,“Fundamentals of Periodontal Instrumentation and Advan-ced Root Instrumentation”(Sixth edition)の日本語訳として,Iベーシックスキルに続き,IIアセスメントとインスツルメンテーション,IIIデブライドメント,IVアドバンススキルの4冊に分冊して上梓されることになりました.すべてのページにわたって,正確なSRPを行ううえで必須の情報・知識とそれらを具体的に体得するうえで強力な武器となる秀逸なイラストや写真で満載されています.さらには,チェックリストが各パートの最終ページに掲載してあり,初学者にとっても各項で学んだ事柄を自ら確認することが可能となっているなど,他にもさまざまな工夫がなされています.
 以上のような原著の素晴らしさに加えて,本日本語訳版の特徴として,すべて歯科衛生士の方々によって翻訳されたことが挙げられます.このことは,原文に忠実になるあまり逐語訳になってしまうことなく,原文の意とするところを実態に即し,わかりやすい日本語で伝えることにつながったと考えております.したがって,本書は第一線でご活躍中の歯科衛生士の方々はもちろんのこと,初学者にとっては歯周治療の根幹であるSRPとはいかなるものかという基礎知識の修得と実践に,歯周病の治療に改めて取り組まれようとされる歯科衛生士や歯科医師の方々にとっても知識・技術の再確認・再構成に役立つと考えられます.
 最後に,ご多忙中にもかかわらず執筆ならびに度重なる編集にご協力頂きました歯科衛生士の皆様,また編集,レイアウトなどすべてを担当して頂いた医歯薬出版株式会社の中村 伸氏,若林由紀子氏ならびに関係者各位に深謝申し上げます.
 平成21年11月
 和泉雄一
 監訳者序文
 原著序文
 原著謝辞
第13章 歯周デブライドメントの概念
 1節 歯周病の予防
 2節 歯周デブライドメント
 3節 象牙質知覚過敏
 4節 実習してみよう!
第14章 シックルスケーラー
 1節 シックルスケーラー
 2節 歯石除去の概念
 3節 技術練習:前歯部
 4節 技術練習:臼歯部
 5節 スキル応用
第15章 ユニバーサルキュレット
 1節 ユニバーサルキュレット
 2節 ユニバーサルキュレットの選択
 3節 技術練習:臼歯部
 4節 技術的な注意点:第一シャンクの位置
 5節 技術練習:前歯部
 6節 技術的な注意点:水平ストローク
 7節 スキル応用
第16章 部位別キュレット
 1節 部位別キュレット
 2節 技術練習:前歯部
 3節 技術練習:臼歯部
 4節 水平ストローク
 5節 スケーラーとキュレットの形態分析
 6節 スキル応用
第17章 ファイル型スケーラー
 1節 ファイル型スケーラー
 2節 技術練習:臼歯部
 3節 技術練習:前歯部
 4節 スキル応用
第18章 インスツルメンテーションの戦略と症例
 1節 歯石の付着様式
 2節 歯石除去の計画
 3節 歯石除去の順序とインスツルメントの選択
 4節 実習してみよう!
第19章 課題の特定:インスツルメンテーションの困難さ
 課題1 施術野が見えない
 課題2 歯石が探知できない!
 課題3 施術野の光源が確保できない!
 課題4 歯面にカッティングエッジが当てられない!
 課題5 適合が維持できない!
 課題6 ストロークが制御できない!あるいは弱い!
 課題7 歯石を取り残す!
第20章 インスツルメントのシャープニング
 1節 シャープニングの概念
 2節 インスツルメントのメインテナンス計画
 3節 鋭利さの復元
 4節 インスツルメントと砥石の位置づけ
 5節 インスツルメントの形態維持
 6節 シャープニングガイド
 7節 砥石の動かし方
 8節 電動シャープニング機器(電動シャープナー)
 9節 スキル応用

 索引