やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 本書をまず,医学・歯学の教育と研究のため,自らの体をご献体された多くの方々のご霊前に捧げます.これらの善意の方々の献体への尊いご意志と,ご遺族の深いご理解がなければ,本書を上梓し得なかったことはいうまでもありません.
 本書は,2006年1月から8月にかけて,『歯界展望(107巻1号から108巻2号)』誌に連載した「見える!わかる!臨床に役立つ解剖写真集」と2007年7月から2008年6月にかけて,同じく『歯界展望(110巻7号から111巻6号)』誌に連載した「カラーアトラス 皮膚・粘膜の下,透けて見えますか-歯科医師・口腔外科医に必要な局所解剖学の知識」を書籍化したものです.前者は第2章に,後者は第1章に収録されています.書籍化に際し,B5版をA4版に変え,写真を大きくしました.文章と写真も一部変更しましたが,大きな変更点として,第2章では前著で各項6ページであったのを8ページに書きかえるとともに,抜歯に関わる項目を追加しました.また,「コラム欄」として,“局所解剖を理解するために必要な系統解剖学の知識“と“臨床医からの一言アドバイス-解剖構造をどう読むか”を,それぞれ第1章と第2章に追加しました.
 私の解剖学講義のキャッチフレーズは「臨床に役立つ解剖学」です.「歯科医師を目指す学生,あるいは高度で安全な歯科医療を目指す歯科医師や口腔外科医の皆さんに,より役立つ解剖学の知識を提供したい」というのが私の願いです.本書に掲載された解剖写真は,その目的のため,私の指導の下で研究生や大学院生が剖出したごく一部を除いて,私自身で剖出し,撮影したものです.解剖写真は,大阪大学または徳島大学の歯学部解剖実習室で撮影されています.私に遺体の解剖と写真撮影の機会を与えてくださった,大阪大学大学院歯学研究科高次脳口腔形態統合学講座の重永凱男前教授(現 大阪大学名誉教授)と吉田 篤教授に感謝いたします.
 1992年1月から1993年9月まで12回にわたり『ザ・クインテッセンス』誌に「歯科臨床に生かす口腔周囲構造の解剖アトラス」を連載してから,16年が経過します.その間,さまざまな出会いがありました.1993年に大阪大学から徳島大学に移り,共同執筆者でもある市川哲雄,宮本洋二,高橋 章の諸先生方と縁ができ,臨床面からのアドバイスがいただけるようになりました.研究基礎ゼミで私の研究室に配属になった学生たちと,後述の臨床解剖学のテーマで一緒に勉強し,解剖写真を整理していきました.その内容を学内の勉強会で発表してもらい,臨床医の方々からご意見をいただきました.これらのことがすべて本書の内容に反映されています.そして何よりも私にとって励みになったのは,加藤武彦先生(横浜市開業)との出会いです.先生は私の仕事に深いご理解を示され,一緒に講演させていただき,「私の仕事が臨床の先生方の役に立っている」ことを実感させてくださいました.この実感がなければ,この地味な仕事は続かなかったと思います.
 本書が歯科医学・歯科医療の発展に寄与できるとすれば,これに勝る喜びはありません.
 徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部 口腔顎顔面形態学分野教授
 北村清一郎
 序
 研究基礎ゼミ 臨床解剖学テーマと配属学生
 編者・執筆者一覧
 本書の見方と読み方
第1章 口腔顎顔面領域と前頸部の局所解剖学
1 顔の皮下組織
 ―“顔の美しさを守るプロ”として知っておくべきこと(北村清一郎 角田佳折 宮本洋二)
2 口唇と頬
 ―美しい顔は美しい口元から(北村清一郎 角田佳折 市川哲雄)
3 口腔前庭
 ―外科的処置に失敗しないために(北村清一郎 二宮雅美 宮本洋二)
4 舌下部
 ―この恐い部位を克服するために(北村清一郎 益井孝文 宮本洋二)
5 舌と下顎骨
 ―口腔機能の立役者である舌の機能を理解する(北村清一郎 山下菊治 宮本洋二)
6 口蓋と上顎骨
 ―外科的処置に失敗しないために(北村清一郎 山下菊治 二宮雅美)
7 口峡とその周辺
 ―発音・嚥下機能を理解するうえで知っておくべきこと(北村清一郎 角田佳折 市川哲雄)
8 咬筋・耳下腺部と側頭部,および下顎後窩
 ―耳下腺手術および下顎骨折時の対応のために(北村清一郎 高橋 章 宮本洋二)
9 翼突下顎隙と茎突前隙
 ―口腔の「奥座敷(炎症波及路)」としての重要性を考える(北村清一郎 高橋 章 宮本洋二)
10 前頸部の皮下組織と顎下部
 ―顎下部の腫れを理解するために(北村清一郎 高橋 章 宮本洋二)
11 頸部前面の深層
 ―口腔の炎症が全身に拡がる経路を理解するために(北村清一郎 高橋 章 宮本洋二)
12 頸部の内臓
 ―嚥下を理解するために(北村清一郎 角田佳折 山下菊治)
コラム 局所解剖を理解するために必要な系統解剖学の知識
 顔面神経と上顎・下顎神経(角田佳折)
 顎関節の動きにかかわる筋(角田佳折)
 口腔顎顔面領域における動・静脈の分布(角田佳折)
第1章 文献一覧
第2章 テーマ別 臨床に役立つ口腔顎顔面領域の解剖写真集
1 総義歯の形態にかかわる解剖構造
 ―義歯の形を理解する(1)上顎義歯(北村清一郎 角田佳折 市川哲雄)
2 総義歯の形態にかかわる解剖構造
 ―義歯の形を理解する(2)下顎義歯(北村清一郎 石橋 淳 市川哲雄)
コラム 臨床医からの一言アドバイス―解剖構造をどう読むか
 上顎総義歯の安定をよくするために(市川哲雄)
 下顎総義歯の安定をよくするために(市川哲雄)
3 インプラント植立手技のエビデンスを考える
 (1)上顎インプラント(北村清一郎 角田佳折 安田清次郎)
4 インプラント植立手技のエビデンスを考える
 (2)下顎インプラント(北村清一郎 高橋 章 安田清次郎)
コラム 臨床医からの一言アドバイス―解剖構造をどう読むか
 上顎のインプラントを失敗しないために(宮本洋二)
 下顎のインプラントを失敗しないために(宮本洋二)
5 歯科局所麻酔時に必要な解剖学の知識
 ―より効果的な麻酔を目指して(北村清一郎 篠原千尋 宮本洋二)
6 臼後三角の局所解剖学
 ―下顎智歯抜歯時の偶発症を防ぐには(北村清一郎 石橋 淳 宮本洋二)
コラム 臨床医からの一言アドバイス―解剖構造をどう読むか
 下顎大臼歯部の局所麻酔の勘所(宮本洋二)
 下顎埋伏智歯抜歯の勘所(宮本洋二)
7 顎関節の局所解剖学
 ―顎関節症を理解するために(北村清一郎 篠原千尋 高橋 章)
8 喉頭蓋谷と梨状陥凹の解剖構造
 ―義歯は嚥下にどうかかわるのか(北村清一郎 角田佳折 市川哲雄)
コラム 臨床医からの一言アドバイス―解剖構造をどう読むか
 顎関節と咬合(市川哲雄)
 口の機能のリハビリテーション(市川哲雄)
9 歯・歯槽骨・顎骨のX線解剖学
 ―うまい抜歯に役立つために(高橋 章 宮本洋二 北村清一郎)
コラム 臨床医からの一言アドバイス―解剖構造をどう読むか
 上顎洞の読影(高橋 章)
第2章 文献一覧

 索引