やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社


 “いま,なぜ「食」なのか”.食育基本法の施行に伴い,各地で食育推進基本計画が作成され,その計画に基づいて国民運動としての食育が展開されています.栄養確保と健康の保持を基本として,安心,安全,寛ぎ,感謝,伝承など,人が生きていくうえでの「食」の重要性が見直され,喫緊の課題として食育が推進されています.
 このようななかで,本書は,子どもの「食」について熱い思いを抱きながら,十数年来,そのときどきの子どもの食について検討してきた会(乳幼児食生活研究会)での取り組みを核にして,生きる基本である「食」についてまとめたものです.
 本書の特徴は,執筆者それぞれの専門とする領域や子どもの食への関わり方をもとに,“子どもの毎日の生活のなかで「食」をとらえ,「食」を通して子どもたちの生活を社会全体から見つめ直す”,その視点からまとめられていることにあります.
 I編では食と心の関わりを,II編では食べ方の自立と自律の過程,栄養・調理と食べ方の関わり,食に特別な支援が必要な子どもへの対応をまとめ,日常生活における食との関わりから,「心」「栄養」「食べ方(食べる機能)」を通して子育てを支援しやすいように構成しました.もちろん,食の楽しみは子どもだけに限りません.「コラム」やIII編のちょっと気になる食行動と食生活の疑問を集めた「Q&A」は,このような点も考慮し設けました.しかしながら,つねに発育している子どもたちの食に関わる多様さを考えると,本書では順調に発育している子どもが記載の対象となっているため,何らかの問題を抱え,より専門的な支援を必要としている子どもたちに対しては補いきれていない部分があります.また,家庭や保育の場といった育児環境や,子どもを取り巻く対人関係などの多様さへの対応についても,本書記載内容にとどまらない多彩なる支援が求められているはずです.
 執筆者の誰もが子育て支援は経験豊富であり,長年携わっています.保健・医療,心理,栄養,保育等それぞれの専門領域において,「食」を中心にした育児支援であっても,自分の専門にこだわらない寛容さと,生活している子どもと育児環境全体を支援しようとする意気を感じ取っていただけたら幸いです.
 なお,読者の皆様が,専門の領域を読み進めるうちに知らぬ間に他領域に触れ,違和感なく多面的な知識を得られるような工夫もしました.ぜひ,本書の興味のある項目どこからでも読み進めてください.そして,ときどき冒頭の「座談会」にも戻っていただくと,新たな食支援,食育のアイデアが浮かぶかもしれません.
 本書を子どもの食行動および食支援(食育)の書として多くの読者の皆様に活用していただけたら幸いです.
 2008年10月 監修者一同
 序文
 座談会:いまなぜ「食」か
I編 乳幼児の心と身体を育む食と食支援
CHAPTER-1 乳幼児期における食と心の関わり
 1 食を通した心の発達(吉田弘道)
  食を通して発達する心
  食と心の発達
  大人は子どもの心を育む食事を大切に
 2 食を通じた生活リズムの確立(長谷川智子)
  乳児期からの睡眠・覚醒リズム
  睡眠の現状
  朝食習慣と睡眠との関連性
  幼児の心身の健康と食事との関連性
  朝食欠食や睡眠不足が肥満を招く!?
 3 食の楽しみを伝える─日常食と行事食(加藤 翠)
  子育てにおける乳幼児期の食の大切さ
  1日の食事回数と栄養供給の配分・献立
  食事のマナー(作法)
  行事食
CHAPTER-2 乳幼児期における食事の意義 家庭および集団での食と食育
 1 心を育てる家庭での食事─親と子の食事の心理的な意味(室田洋子)
  乳児期の食事の心理発達課題─親子の呼応関係
  早期幼児期─自我が芽生える
  幼児期の食事の心理発達課題─社会の規範意識への帰属
  家族機能のなかで食をとらえる─食卓状況の心理学
 2 保育園での食事─乳児期から幼児期の集団における食と食育(佐々木聰子)
  保育園の「食」環境の特徴
  保育園での「食」の取り組み
  保育園での「食」における子どもへの具体的な配慮
   COLUMN-1 幼児期の体調が悪いとき,病気のときの食事の考え方(太田百合子)
   COLUMN-2 水・白湯・湯冷まし(巷野悟郎)
   COLUMN-3 経口補水液(巷野悟郎)
   COLUMN-4 冷凍母乳(巷野悟郎)
 3 幼稚園での食育─幼児期の集団における食と食育(岡本美智子)
  幼稚園教育と昼食の時間
  お弁当を通してみえてくること
   ・ぶどうの木幼稚園の給食
  保護者との協力
II編 発育に応じた食べ方・栄養と食支援
CHAPTER-1 授乳期の食べる機能・栄養と食支援
 1 授乳期の子どもの食べる機能─哺乳行動と口腔の成長(向井美惠)
  新生児に備わっている食べる機能─哺乳反射を容易に行うための口腔・咽頭部の形態と乳汁の摂取・嚥下
  4〜5カ月児の口腔と食べる機能
 2 授乳期の栄養─母乳・育児用ミルクによる栄養(太田百合子)
  授乳期の栄養
  母乳栄養の変遷
  なぜ母乳が優れているのか─母乳栄養を勧める理由
  いつ,どのくらい飲ませたらよいのか
  育児用ミルクの利用
  困ったときの相談先
   COLUMN-5 母乳不足,ミルク嫌いへの支援(太田百合子)
   COLUMN-6 完全母乳は観察と柔軟性(巷野悟郎)
   COLUMN-7 自律授乳と時間制授乳(巷野悟郎)
   COLUMN-8 フォローアップミルクとは?(川合信行)
CHAPTER-2 離乳期の食べる機能・栄養と食支援
 1 離乳食の意義と乳児栄養指導の変遷(巷野悟郎)
  母乳栄養から離乳食への準備
  わが国の乳児栄養指導の変遷
 2 「授乳・離乳の支援ガイド」をふまえた離乳の進め方の基本(堤ちはる)
  「授乳・離乳の支援ガイド」における離乳の支援に関する基本的考え方
  「改定 離乳の基本」からの主な変更点
  離乳開始前の果汁摂取について
  乳児期の栄養と肥満,生活習慣病との関わり
  離乳期を家族の食生活を見直す機会に
  食べる楽しさを育む支援を
 3 離乳期の子どもの食べる機能─哺乳から摂食へ(向井美惠)
  食べ方は育児環境と関連しながら発達する
   COLUMN-9 手づかみ食べの支援のポイント(向井美惠)
  離乳の開始時期はどのように決めればよいのか
   COLUMN-10 日常の育児のなかで離乳開始を知るヒント(向井美惠)
  離乳期は「食べ方」の自立の第一歩
  食べる口の発達の目安
  歯の生え方と口の形の成長変化
  味覚の発達─離乳期の食体験と食育
  手づかみで食べる食育
   COLUMN-11 離乳期から幼児期前半の食べる機能を育むための食支援(向井美惠)
 4 離乳食を与えるときの姿勢,介助方法と食具・食器(大岡貴史)
  スプーンでの捕食
  体幹の角度や上肢の使い方
  コップ・ストローはいつごろから,どのように使う?
 5 離乳期の食事─離乳食と離乳の進め方(太田百合子)
  日本の食事と離乳食
  離乳食はなぜ必要なのか
  離乳食の考え方─指導から支援へ
  望まれる離乳食相談のあり方
  保護者への食教育をどうするか
  離乳の進め方
  離乳の進め方のポイント
  離乳完了の目安
  市販のベビーフードの利用
 6 離乳期の栄養・調理─離乳食の上手な献立・食事づくりのアドバイス(永松久美子)
  離乳食を簡単に楽しくつくろう─離乳食の調理で気をつけること
  食品の固さ・大きさ
  献立に使用できる食品
  バランスのよい献立のポイント
  献立の組み合わせ例(1日に必要な鉄分がとれる献立例)
  調理に便利な器具
  冷凍保存に向いている食品と冷凍方法
  電子レンジの活用法
 7 ベビーフードの活用方法(川合信行)
  ベビーフードとは
  ベビーフードの特徴
  ベビーフードを上手に利用しよう
  使用上の留意点
 8 離乳期の口と歯のケア,口の心配事への支援(井上美津子)
  口腔の成長に合わせて上手に口と歯のケアを始めよう
  歯についての心配事
  口の中についての心配事
   COLUMN-12 口内炎・咽頭炎を発症しているときの食事の考え方(太田百合子)
   COLUMN-13 イオン飲料・スポーツ飲料の摂取についての心配事(井上美津子)
CHAPTER-3 幼児期の食べる機能・栄養と食支援
 1 幼児期の子どもの食べる機能─手づかみ食べから食具食べへ(大岡貴史)
  幼児期前半(1,2歳)の子どもの口と食べ方
  幼児期後半(3〜5歳)の子どもの口と食べ方
   COLUMN-14 おいしさと音(向井美惠)
   COLUMN-15 乳幼児の食に関する事故─窒息(大岡貴史)
 2 幼児期の食事─幼児食と食べ方への支援(太田百合子)
  成長発達に合わせた食生活の基本づくり
 3 幼児期の栄養・調理─幼児食の上手な献立・食事づくりのアドバイス(永松久美子)
  幼児食を簡単に上手につくろう
  調理形態の目安
  手づかみ食べがしやすい食事
  スプーン,フォークが使いたくなる料理・食品
  箸が使いたくなる料理
  市販の幼児食の活用方法
   COLUMN-16 貧血や便秘を予防する食事の考え方(太田百合子)
 4 幼児期の口と歯のケア,口の心配事への支援(井上美津子)
  歯みがきタイムを親子のコミュニケーションの場に
  乳歯のむし歯(齲蝕)
  指しゃぶり・おしゃぶり
   COLUMN-17 幼児期の歯ならび・かみ合わせ(井上美津子)
CHAPTER-4 特別な支援が必要な子どもへの食の支援
 1 食物アレルギーがある子どもへの母乳・離乳食・幼児食の支援(大谷智子)
  食物アレルギーとは
  食物により引き起こされる生体に不利益な反応の分類
  食物アレルギーの機序と予後
  食物アレルギーの原因となる食品
  食事療法
  食品表示の見方
  妊娠中と授乳期の母親の食事
  日常生活や保育園・幼稚園での注意点
   COLUMN-18 口腔アレルギー症候群(OAS)とは(大谷智子)
 2 食べる機能や食べ方に問題のある子どもへの支援(向井美惠)
  食べる機能の発達に遅れのある子どもの食べ方の評価と支援
  食べる意欲を引き出し,くつろぎや満足感の得られる食べ方の支援
III編 お母さん・保育者の疑問にこたえる 気になる食行動と食生活Q&A
 食べ方・食行動
  Q1:離乳食を食べるのを嫌がります(太田百合子)
  Q2:食べながら眠ってしまいます(佐々木聰子)
  Q3:泣きやまらせるために添い寝で母乳を与えていますが,やめないといけないのでしょうか(井上美津子)
  Q4:口に入れたものをブーッと吹いてしまいます(太田百合子)
  Q5:食事中,落ち着きがありません(佐々木聰子)
  Q6:むら食いに困っています(吉田弘道)
  Q7:同じものばかりを食べたがります(太田百合子)
  Q8:食べるのに時間がかかります(ゆっくり食べ)(佐々木聰子)
  Q9:口の中にためて飲み込みません(井上美津子)
 口や歯
  Q10:歯ならびが心配です(井上美津子)
  Q11:歯みがきを嫌がり,むし歯にならないか心配です(大岡貴史)
  Q12:よだれが多いのですが(井上美津子)
  Q13:指しゃぶりがやめられません(井上美津子)
  Q14:よくかみません(井上美津子)
 心
  Q15:きょうだいができて赤ちゃん返りをしています(吉田弘道)
  Q16:食べない・食べすぎる・食べることに興味がないのが心配です(吉田弘道)
  Q17:好き嫌いが多く,こだわりも強くて困っています(吉田弘道)
  Q18:手づかみ食べをしません(佐々木聰子)
 食生活習慣
  Q19:どうしても外食が多くなってしまい心配です(太田百合子)
  Q20:朝食がつくれません.つくっても子どもが食べません(太田百合子)
  Q21:親の好き嫌いを子どもにあてはめているようです(岡本美智子)
  Q22:食環境(テレビのつけっぱなし,食卓の周りの環境)が悪いようです(岡本美智子)
 栄養
  Q23:食事をつくるのが苦手です.インスタント食品や総菜などの中食を使ってもよいでしょうか(太田百合子)
  Q24:食べすぎるときの食事制限は必要ですか(太田百合子)
  Q25:塩辛いものを食べたがります(太田百合子)
  Q26:大人の食事を食べたがります(岡本美智子)
  Q27:イオン飲料は身体によいのですか(井上美津子)
   COLUMN-19 夜間の授乳(巷野悟郎)

 資料:授乳・離乳の支援ガイド(抜粋)
  図(1) 離乳食の進め方の目安
  図(2) 咀しゃく機能の発達の目安について
  図(3) 手づかみ食べについて
  図(4) 1日の食事量の目安について
  図(5) 発育・発達過程に応じて育てたい“食べる力”について
 参考資料:発育・発達過程に関わる主な特徴
 文献
 索引