やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 平成20年度の診療報酬改定を歯周治療に限局して概観すると,おもな特徴として
 (1) 歯科疾患総合指導料,歯周疾患指導管理料等を医学管理料として1本化する.
 (2) 「歯周病の診断と治療に関する指針」(日本歯科医学会,平成19年11月)を参考に保険診療を構築する.
 (3) 同一部位に対する再度の歯周基本治療算定を認め,また歯周外科は対象部位を緩和する.
 (4) (2)に基づき,従前の保険上のメインテナンスは「SPTと呼ばれる安定期治療」と「治癒後のメインテンス」の二つに概念規定を改める.
 といったことなどがあげられます.
 このうち,まず着目すべきは(1)ではないでしょうか.なぜならば,これは歯周治療に限ったことではありませんが,それが診療報酬体系の簡素化と診療の流れの論理的規定という,医療制度改革の大きな方向性に準拠して位置づけられたものだといえるからです.具体的にいうと,それは患者に対するわかりやすい医療の提供,包括化による過剰診療の抑制を意味し,一方で,2011年より開始される診療報酬のオンライン請求化に向けた布石(「電子点数表作成のためのロジック構築が確立しやすくなり,レセプトオンライン化,IT化施策を実施しやすい体系となった」,小社刊『全科実例による社会保険歯科診療平成20年4月版』)ということもできるでしょう.
 現在,診療報酬のオンライン請求化を間近に控え,歯科診療所におけるレセプトコンピューターの導入率は約6割(厚生労働省「平成17年医療施設調査」では57.7%)ともいわれています.オンライン請求に完全移行する2011年以降の代行請求が認められることになったとはいえ,その数は今後,まちがいなく増長していくでしょう.
 本書は,こうした趨勢のなかで企画しました.その狙いは,
 1)カルテの1行1行をためつすがめつ検証し,(1)はもとより(2)〜$を含めた歯周治療全般について,レセコンなどでは理解しにくかった算定上の考え方を掘り下げて追求する.
 2)それにより,「どうしてこの点数が算定できないのか」といった算定上の疑問にこたえる.
 3)算定要件を理解するだけでなく,算定要件を満たすための臨床手法はどのようなものであるのかを解説する(一部,小社刊『歯周病の新治療システム』〈1998年〉より再掲).
 4)算定要件の本質的意味にアプローチすることで,然るべき治療とは何かという問いを提起する.
 ということにあります.つまり,本書により請求漏れをなくすということは言うに及びませんが,本書を紐解くことが,保険を単なる事務処理として捉えることなく,その根底を流れる水脈をたどりながら,適切な医療のあり方について考えていく契機となったらと思ったのです.
 本書により,歯科の保険診療,ひいては歯科医療全体がより良質なものへと向上していく一助となれば,望外の幸いです.
 平成20年6月
 編集一同
 はじめに
 目 次
1編 治療の流れ,保険請求と各治療行為の解説
 I 歯周治療の流れと歯科疾患管理料
 II 歯周病の診断に必要な検査
  1)歯周組織検査算定の概要
  2)歯周組織検査の要件
   1.プラークの付着状態 2.歯周ポケットの測定 3.歯の動揺度測定 4.歯肉の炎症程度 5.咬合の診査 6.根分岐部病変の診査 7.プラーク増加因子の診査 8.付着歯肉の診査
  3)口腔内写真検査
  4)X線検査
   1.歯周疾患における X線画像診断のポイント
 III 診 断
  1)歯周病の分類,歯科疾患管理料と機械的歯面清掃
  2)診断のための歯周病の分類
   1.歯肉病変 2.歯周炎 3.壊死性歯周疾患 4.歯周組織の膿瘍 5.歯周―歯内病変 6.歯肉退縮 7.咬合性外傷
 IV 応急(緊急)処置
 V 歯周基本治療
  1.モチベーション 2.プラークコントロール 3.スケーリング 4.スケーリング・ルートプレーニング(SRP) 5.歯周ポケット掻爬(PCur) 6.咬合性外傷に対する処置 7.歯周疾患処置(P処)
 VI 再評価,治療計画の修正
  1.歯周組織検査 1 2.歯周組織検査 2 3.歯周組織検査 ^n4.部分的再評価 5.SPT;歯周病安定期治療 6.治癒・メインテナンス
 VII その他の処置(歯周疾患処置)
  1)歯周疾患処置
 VIII 歯周外科
  1.歯周ポケット掻爬術 2.新付着手術(ENAP) 3.歯肉切除手術 4.歯肉剥離掻爬手術(フラップ手術) 5.歯周組織再生誘導手術(GTR) 6.歯肉歯槽粘膜形成術(MGS) 7.根分岐部病変に対する外科処置
 IX 歯周病患者の口腔機能回復治療
 X 安定期治療とメインテナンス
  1)歯周病安定期治療とメインテナンスの違い
  2)検査・診断
  3)治療計画
  4)歯周病安定期治療の算定要件
   3)安定期治療を算定せずに診療を継続する場合
 XI まとめ
2編 臨床例に基づく歯周治療の流れ
 I 歯周治療の流れ
  ・症例 1 プラーク性歯肉炎
  ・症例 2 中等度歯周炎
  ・症例 3 重度歯周炎
3編 実例―歯周治療の保険診療
 ・No. 1 歯肉炎への対処(歯周基本検査,スケーリング等の算定)
 ・No. 2 軽度歯周炎への対処(P【1】へのスケーリング,SRP)
 ・No. 3 中等度歯周炎への対応(P【2】へのスケーリング,SRP)
 ・No. 4 重度歯周炎への対応(FOp実施例)
 ・No. 5 歯周治療用装置
 ・No. 6 急性症状(抜歯,局所薬物応用例)
 ・No. 7 歯周病安定期治療
 ・No. 8 SPT中の歯周疾患以外への対処
 ・No. 9 SPT→歯周外科(SPT中止)

 索 引