やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

監修のことば
 特定非営利活動法人日本歯周病学会50周年記念大会が平成19(2007)年9月21,22日に東京国際フォーラムで開催されました.昭和33年(1958年),檜垣麟三会長のもとで第1回日本歯槽膿漏学会が開催されて以来,第50回の記念大会です.ここに,日本歯周病学会に関わってこられた臨床家や研究者および市民の方々が参集し,歯周病学および歯周治療学の視野にたったさまざまな研究成果を通じてこれまでの50年を総括し,親睦交流を図るとともに,さらに,将来の日本歯周病学会の進歩,発展を展望するにふさわしい一大集会でした.
 記念大会では,「歯周病学から国民健康科学への提言」(A New Approach Toward a Health Science for the General Public in Periodontology)というメインテーマを掲げました.2000年にスタートした「健康日本21」で強調されるように,制圧すべき疾患として糖尿病,循環器病,がん,歯科疾患の4つが掲げられ,歯科疾患では,とくに歯周病と全身疾患の関係が注目されています.歯周病学は,今まで以上に医学的根拠に基づいた予防や治療を施し,歯周病がどのような全身的状態に影響を及ぼすか,全身的状態が歯周組織に破壊にどのように関わるかなど,多くのことを解明していく必要があります.さらに,「健康日本21」がスタートし,社会的な支援と併せて,一人ひとりが健康づくりに取り組む重要性が提唱されております.また,日本歯周病学会が,歯周病学を通してこころとからだの健康に今後どのように貢献できるかも大きな課題であります.
 『歯周病学からみた国民の健康増進』と題した本書は,50周年記念大会の演者の方々に,講演内容を新たにご執筆いただいたもので,国民病といわれている歯周病について研究・臨床の双方向から検証したものです.国民の健康づくりに今後どのようにアプローチし,歯周病をどう予防していくかについて,歯周病学の研究成果と臨床の方向性が示された内容となっております.
 国民の健康増進のための活動を,21世紀の未来に向けて大きく飛躍させていくためには,日本歯周病学会,歯科医師,歯科衛生士,関連学会・関連職種のみなさまが,どのようにアプローチしていくかの契機に本書がお役に立つことができれば,これ以上の喜びはありません.本書の出版にご協力いただきました関係者各位に,重ねて心より感謝し,御礼申し上げます.
 2008年6月
 特定非営利活動法人日本歯周病学会 理事長 山田 了

序文
 今回,医歯薬出版から本書『歯周病学の視点からみた国民の健康増進』を上梓する運びとなりました.日本歯周病学会は平成19(2007)年で創立50周年を迎え,平成19(2007)年9月21,22日に東京国際フォーラムで『歯周病学から国民健康科学への提言』というメインテーマで50周年記念大会が開催されました.
 本大会では,海外からの特別講演者4名による最新の歯周病学の基礎と臨床の講演に引き続き,現在話題のテーマに関して4つのシンポジウムが行われました.シンポジウム1では「歯周病の治癒・病状安定とはなに?」というテーマで歯周病の病状安定について,シンポジウム2では「リスク検査・診断へのロードマップ」というテーマで近未来的な歯周病のリスク検査と診断法について,シンポジウム3では「QOLを高める喜び;インプラントVS再生療法」というテーマで最適な歯周治療法の選択について,シンポジウム4では「歯周組織再生医学の最前線─狙いと焦点─」というテーマで最新の歯周組織再生療法についてディスカッションが行われました.
 平成17年秋に日本歯周病学会認定歯科衛生士制度が発足し,平成20年3月31日現在で461名の認定歯科衛生士が誕生しています.さらに,正会員6,802名のうち,歯科医師5,481名,歯科衛生士1,134名と,歯科衛生士の占める割合が非常に高くなっています.以上のことから,本大会においても歯科衛生士シンポジウム1「認定歯科衛生士のためのインスツルメンテーション」,歯科衛生士シンポジウム2「歯肉出血から全身疾患を考える」,歯科衛生士ポスターセッション1「歯周治療に生活習慣の改善を取り入れて」が行われ,多くの参加者による熱気のあるシンポジウムおよびポスターセッションになりました.
 公開ファーラムは「すこやかな生活は歯周病の予防から」というテーマで,たばこ,くすり,口臭およびメタボリックシンドロームと歯周病の関係について,市民にわかりやすい講演が行われました.
 本書は,50周年記念大会での講演内容を新たにご執筆いただき再編成したもので,最新の歯周病学の臨床および研究成果が網羅されております.日常臨床の場で活躍されている臨床医,歯科衛生士,研修歯科医および研究者,学生の皆様にとって,本書が歯周治療および歯周病研究の良き手引書となることを期待しております.
 最後に,本書の出版にご協力いただきました関係者各位に,心から感謝し,厚く御礼申し上げます.
 2008年6月
 編者一同
開会講演
 ゲノムで変わる21世紀の医療(中村祐輔)
特別講演-1
 Periodontal Medicine for the 21st Century(21世紀のペリオドンタルメディスン)(Robert J.Genco)
特別講演-2
 Susceptibility to Periodontal Disease:Host,Bacteria and Lifestyle(歯周疾患感受性:宿主,細菌,ライフスタイル)(Gregory J.Seymour・Mary P.Cullinan)
特別講演-3
 Periodontal Regeneration――Present Status and Future(歯周再生療法――現状と未来)(Lars Heijl)
特別講演-4
 BioSurgery――Tissue Engineering Solutions for Soft Tissue Difects(BioSurgery――軟組織欠損における組織工学)(Michael K.McGuire)
学術部門シンポジウム1 リスク検査・診断へのロードマップ(吉江弘正)
 口腔マーカーを用いた歯周病リスク診断法確立へのロードマップ(島内英俊)
 歯周疾患における免疫応答の特質――慢性感染による慢性炎症の実態(山崎和久)
 根拠に基づく「内科的歯科治療」のための生体・遺伝子検査(高柴正悟)
 歯周組織の健康と全身的リスク因子(和泉雄一)

学術部門シンポジウム2 歯周組織再生医学の最前線:歯根膜の生物学から歯周組織再生療法の現場へ(原 宜興)
 組織再生における歯根膜細胞の役割――骨系細胞への分化調節と石灰化の阻止(川瀬俊夫・出口眞二)
 エナメルマトリックスタンパク質中の骨形成促進因子(小方頼昌)
 BMPによる歯周組織再生療法の可能性――動物実験から臨床応用を展望する(川浪雅光)
 骨髄間葉系幹細胞移植による歯周組織再生の臨床研究(栗原英見・河口浩之)
臨床部門シンポジウム1 QOLを高める喜び:インプラントvs再生療法(伊藤公一)
 歯周・インプラント治療の進歩により変化する抜歯基準(宮本泰和)
 インプラント補綴の長期予後(河津 寛・藤井秀朋)
 治療計画に基づく抜歯,保存の判断(西堀雅一・武内謙典・篠田 純)
 サイトカイン療法が広げる歯周組織再生の可能性(村上伸也)
臨床部門シンポジウム2 歯周病の治癒,病状安定とはなに?:今なぜ治癒を論じるのか:治癒の概念の変遷(長谷川紘司)
 歯周病対策は国民の意識改革から(南 砂)
 歯周病の病状安定の多様性(村岡宜明)
 歯周病治癒後・病状安定後のリスク管理(野口俊英・山本弦太)
 医療制度と歯周病(鳥山佳則)
歯科衛生士部門シンポジウム1――歯肉出血から全身疾患を考える
 歯肉出血の発生機序と全身疾患との関係(宮内睦美・高田 隆)
 歯周炎モデルラットにみられた多臓器の病変(山本龍生)
 つまようじ法による歯肉出血の予防(森田 学)
 歯科衛生士にとっての歯肉出血(渡邊達夫)
歯科衛生士部門シンポジウム2――認定歯科衛生士のためのインスツルメンテーション
 認定歯科衛生士のためのインスツルメンテーション(小田 茂・新田 浩)
 ペリオドンタルデブライドメント(加藤久子)
 患者さんにダメージのないルートプレーニングを目指したい(山岸貴美恵)
歯科衛生士部門ポスターセッション:歯周治療に生活習慣の改善を取り入れて
 高血圧症と糖尿病を伴った慢性歯周炎の一例(青木悦子・鹿山美香)
 力のコントロールを考慮して歯周治療を行った一症例(飯田しのぶ)
 自律神経失調症を伴う侵襲性歯周炎患者の一例(大塚アヤ子)
 生活習慣の改善を契機に包括的治療を行った重度慢性歯周炎患者症例(小川夏子・五味一博・新井 )
 広汎型重度慢性歯周炎の患者がSPT時に禁煙に至った一症例(加藤 典)
 歯科治療に不信感をもつ喫煙患者の症例(田中良枝)
 喫煙習慣の改善を取り入れた歯周治療の効果(長谷ますみ)
 歯科衛生士を含めたSPTシステムの確立――ライフイベントに対応する(人見早苗)
 歯周外科による歯周組織の改善が患者のモチベーションを向上させた症例(廣重 薫)
 歯科医院における禁煙指導の実際(松本絹子)
 高血圧症の息子と認知症の母親に対する長期治療経過(山田和代)
 喫煙者の侵襲性歯周炎に対する禁煙の効果(渡部ゆかり)
公開フォーラム:すこやかな生活は歯周病の予防から
 たばこと歯周病――「しっかり禁煙」すすめよう(埴岡 隆)
 メタボリックシンドロームと歯周病(西村英紀)
 くすりと歯周病(永田俊彦)
 口臭と歯周病(角田正健)