やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序にかえて
 「口腔内写真の撮り方」の初版が刊行されてから,15年の歳月が過ぎました.この間,歯科医療を取り巻く環境は大きく変わり,また科学の進歩とともに歯科医療に用いられる器具機材や材料も進化してきました.
 口腔内写真撮影においても,15年前はすべてがアナログだったものが,現在はデジタル化が進み,使用する器材も,また撮影した写真の整理の仕方や活用方法も様変わりしています.そこで,口腔内写真のデジタル化に対応した写真の撮り方やその管理,活用方法について,大幅な書き直しをいたしました.
 口腔内写真の歯科医療における役割は,改めて言及するまでもなく実に大きく,現在の歯科臨床にとっては必須との認識が定着してきました.口腔内写真の最大のメリットは,医療者側だけでなく,誰が見てもその状況をよく理解できることにあります.カルテや診療録やさまざまな検査記録に記載できないことも,写真を見ることで理解が可能です.そのうえ,デジタル化によって画質が均一化され,術前術後の色調の変化などがよりわかりやすくなり,以前にも増して患者さん自身と治療の効果を共有できるようになりました.
 特に,治療優先の歯科医療から脱却し,患者さんとともに健康を守り続ける歯科医療を推進するためには,口腔内写真のような,その経過や細かな変化までも示すことのできる記録が存在することによって,歯科医療に対する理解を深め,継続的なメインテナンスを受けるための大きなモチベーションにつながるように感じています.
 近年,日本の歯科医療の先行きを懸念する声が多く聞かれるようになりました.そのような時代であるからこそ,歯科医療のあり方そのものが問われているのだと理解しなくてはなりません.患者さんは,自分の健康を守る歯科医療,健康な歯を守る考え方に立つ歯科医療を望んでいます.その思いを理解して,そうした歯科医療を適切に提供できる歯科診療所でなければ,患者さんの信頼を勝ち得ることはできません.写真は,術前術後の変化を正直に再現します.患者さんはその医療の質を写真を通して認識し,信頼を深めます.また,医療者側は,診断や治療の精度を再確認することができ,力量の向上の一助ともなりえます.
 しかし,口腔内写真をただ撮るだけではそのような目的を達成することはできません.口腔内写真には術前術後の比較や経年的変化を的確に表す力がありますが,そのためには規格性のある撮影が不可欠です.また,写真の構図がきちんとしていることで,得られる情報量は格段に多くなります.歯科臨床に役立つ資料性を適切に備えた口腔内写真を撮るためには,それを可能にするための知識や技術の習得が欠かせません.本書がそのような知識や技術の習得の一助になれば大変うれしく思います.そして,日本の歯科医療の向上に貢献することができれば幸いです.
 2007年9月 著者代表 熊谷 崇
 序にかえて
I編 口腔内写真の基礎知識
 CHAPTER1 口腔内写真はなぜ必要で,どう役立つか
  1.口腔内写真の必要性とその役割
  2.口腔内写真のメリット
   患者さんにとって
   歯科医師にとって
   スタッフにとって
  3.口腔内規格写真から治療経過を追う
   1987年11月(40歳)初診時
   1989年3月(41歳)再評価時
   2001年2月(53歳)6年ぶりの来院
   2003年8月(56歳)
   2006年10月(59歳)紹介先の歯科診療所にて
 CHAPTER2 口腔内規格写真とは
  1.これからの口腔内写真-デジタル化への対応
  2.よい口腔内写真とは
  3.口腔内規格写真撮影に必要な3要素
   撮影倍率は撮影目的がポイント
   撮影枚数は組写真の種類で決まる
   撮影部位を定めよう
  4.口腔内規格写真の組写真例
   規格写真の基本パターン-14枚撮影法
   基本パターンの14枚撮影法の前に
    〔HOP〕スタートバージョン:5枚撮影法 〔STEP〕ステップアップバージョン:9枚撮影法 〔JUMP〕マスターバージョン:12枚撮影法 小児4枚撮影法 半開口状態での撮影法
   顔貌の撮影
    小児の場合 成人の場合 歯科矯正用
II編 実践!さぁ始めましょう
 CHAPTER1 撮影を始める前に
  1.撮影までの一連の流れ
   撮影前の準備
   撮影時の環境づくり
   ポジショニング,ファインダーでの確認
  2.使用器材の準備
   使用器材一覧
 CHAPTER2 部位別撮影の実際
  1.正面観の撮影(1/2倍・1/1.2倍)
   撮影時の姿勢
  2.側方面観の撮影(1/2倍)
   右側撮影時の姿勢
   左側撮影時の姿勢
  3.舌側面観の撮影(ミラー観,1/1.2倍)
   右側撮影時の姿勢
   左側撮影時の姿勢
  4.口蓋側面観の撮影(ミラー観,1/1.2倍)
   右側撮影時の姿勢
   左側撮影時の姿勢
  5.側面観の撮影(ミラー観,1/1.2倍)
   右側撮影時の姿勢
   左側撮影時の姿勢
  6.咬合面観の撮影(ミラー観,1/1.2倍)
   下顎撮影時の姿勢
   上顎撮影時の姿勢
  7.前歯部舌側/口蓋側面観の撮影(ミラー観,1/1.2倍)
   舌側撮影時の姿勢
   口蓋側撮影時の姿勢
 CHAPTER3 撮影時のテクニック
  1.撮影時の姿勢・ポジショニング
   撮影者の位置
   ユニットの調整
   ユニットライト(照明)の位置
   カメラの持ち方・構え方
   ピントの合わせ方
  2.効率的な撮影順序
   4枚規格写真撮影法(小児用)
   5枚規格写真撮影法(すべて1/2倍)
   9枚規格写真撮影法(すべて1/1.2倍)
   12枚規格写真撮影法
   14枚規格写真撮影法
  3.口角鉤のテクニック
   口角鉤の使い方
    正面観撮影時 側方面観撮影時 咬合面観撮影時 舌側/口蓋側面観撮影時
  4.ミラーのテクニック
   口腔内撮影用ミラーの持ち方
    舌側/口蓋側面観撮影時の持ち方 側面観撮影時の持ち方 咬合面観撮影時の持ち方
   唾液の処理
    唾液処理のタイミング
   嘔吐反射への対応
  5.ミラー撮影におけるテクニック
   実像と鏡像
   ミラー撮影時の注意点
    例外的な撮影方法
   舌側面観撮影時のミラー挿入手順
    右側舌側面観 左側舌側面観
   口蓋側面観撮影時のミラー挿入手順
    右側口蓋側面観 左側口蓋側面観
   側面観撮影時のミラー挿入手順
    右側側面観 左側側面観
   咬合面観撮影時のミラー挿入手順
    下顎咬合面観 上顎咬合面観 開口角度を確保するためのポイント
   舌側面観撮影時のミラーテクニック
    ミラーの固定位置と固定角度 舌圧を排除する方法 ピント合わせ中の持ち方の注意-ミラーの戻りを防ぐ
 CHAPTER4 テクニカルエラーから学ぶ
  1.よい写真を撮るための条件とテクニカルエラー
   よい写真を撮るための基本となる条件
  2.事例から学ぶテクニカルエラーの原因と対応
   正面観撮影時のエラーと対応
   側方面観撮影時のエラーと対応
   舌側面観撮影時のエラーと対応
   口蓋側面観撮影時のエラーと対応
   側面観撮影時のエラーと対応
   咬合面観撮影時のエラーと対応
   前歯部舌側/口蓋側面観撮影時のエラーと対応
   参考 口角鉤の扱い方によるエラー
III編 写真撮影の基本的な知識
 CHAPTER1 口腔内写真撮影のためのデジタルカメラの基礎知識
  1.カメラの各部位の名称と役割
  2.カメラの選択
   カスタマイズしたデジタルカメラで撮影する場合
    デジタルカメラ 撮影レンズ ストロボ
   口腔内写真撮影用デジタルカメラシステムで撮影する場合
   カスタマイズカメラと口腔内写真撮影用カメラシステムでの撮影結果
 CHAPTER2 口腔内撮影のための基本テクニック
  1.マニュアル撮影の基本
   画像のブレとは
    ブレの特徴を知りましょう
   ピンボケとは
    ピントの精度 被写界深度 画角と焦点距離-デジタルカメラとフィルムカメラの違い
   露出アンダー・露出オーバーとは
    絞りによる調整 ISO感度による調整
   色合い調整
    ホワイトバランスよる色調整 機種による色合いの違い 色合い調整機能の利用 コンピュータモニター上での色合い調整
   撮影画素数
   撮影倍率の設定
 CHAPTER3 デジタルカメラの応用
  1.シェードの撮影
   撮影時のハレーションを防ぐ方法
   色調をキャリブレーションする方法
  2.X線フィルムのデジタルデータ化
   デジタルカメラによるデンタルX線フィルムの撮影
    画像の明暗
   スキャナーを利用したX線フィルム画像の取り込み
IV編 デジタル画像データの活用と管理
 CHAPTER1 デジタル画像データの活用
  患者さんへの説明
 CHAPTER2 デジタル画像データの管理
  1.画像データの管理
   画像データの取り込み
   画像データの保存と編集
    コンピュータに搭載された標準機能を使用した保存と編集 コンピュータ搭載の標準機能とソフトウェア「ViX」を利用した編集 市販の画像管理ソフトを利用した保存と編集
   画像修正の危険性
  2.画像データ管理のために
   コンピュータの基礎知識
   データ消失を防ぐバックアップシステム

 掲載器材一覧
 あとがき
 索引