はじめに
医学の進歩，医療機器の進歩などによって口腔癌の治療成績は著しく向上しています．しかし，未だ十分とはいえません．癌治療の成績を向上させるためには，言い古された言葉ですが，今でも早期発見，早期治療が最も有効です．その重要な役割を担っているのは実は一般開業歯科医なのです．口腔内の変化を最初に発見することができるのは，いつも患者の口腔内を診ているかかりつけの歯科医なのです．しかし，実際には早期癌を発見することは容易ではありません．また，口腔癌の発生については，何らかの粘膜の変化を経てから癌となるものがあることも分かっています．これらの病変すなわち前癌病変を発見し治療することができれば，さらに望ましいことは明らかです．しかし，前癌病変の診断もまた容易ではありません．そこで本書は，タイトルを“口腔癌の早期診断アトラス”とし，一般歯科医が日常診療において口腔癌あるいは口腔癌が疑わしい病態を発見するための一助となるようにと意図して作成しました．同時に，口腔癌治療を目指す若き口腔外科医のための入門書にもなるようにと配慮しました．
本書の構成は，概説は少なくし，症例の呈示を中心にしました．症例については，最初に典型的な口腔扁平上皮癌の病態を呈示し，次いで，その他の癌，早期癌，前癌病変，並びに鑑別すべき疾患という順序としました．さらに，歯原性腫瘍，唾液腺腫瘍，肉腫，悪性黒色腫なども掲載しました．これによって臨床医あるいは初学者が感覚的に病態を把握することができるものと期待しています．
実は，本書は10年以上前に，口腔癌診断のための専門書として企画されました．しかし，製作の過程で，著者の一人の他界や医歯薬出版編集担当者の長期入院などという事態に遭遇し，製作の中断を余儀なくされました．それでもまだ，本書の必要性は高いものと考えて，新たな著者も加えて編集，製作を再開しました．見直しに当たっては製作開始当時の資料をなるべく使いながら，新たな資料を加えて日進月歩の今日の歯科医療に適応するように改変しました．本書の内容については，まだ，不足不備もありますが，口腔癌，前癌病変の診断のための参考書としては十分にその役を果たせるものと考えて，この度，発刊することと致しました．
本書が一般歯科医や若い口腔外科医にとって，口腔癌の早期診断あるいは前癌病変の発見の一助となれば幸いです．また，それに伴って口腔癌の治療成績が少しでも向上し，医療の向上に貢献することができるならば，著者等の望外の喜びです．
最後に，長年にわたり本書の発行を見捨てなかった医歯薬出版株式会社と，終始，協力を惜しまなかった同社，牧野和彦氏ならびに大城惟克氏に心から感謝申し上げます．
2007年12月
著者一同
医学の進歩，医療機器の進歩などによって口腔癌の治療成績は著しく向上しています．しかし，未だ十分とはいえません．癌治療の成績を向上させるためには，言い古された言葉ですが，今でも早期発見，早期治療が最も有効です．その重要な役割を担っているのは実は一般開業歯科医なのです．口腔内の変化を最初に発見することができるのは，いつも患者の口腔内を診ているかかりつけの歯科医なのです．しかし，実際には早期癌を発見することは容易ではありません．また，口腔癌の発生については，何らかの粘膜の変化を経てから癌となるものがあることも分かっています．これらの病変すなわち前癌病変を発見し治療することができれば，さらに望ましいことは明らかです．しかし，前癌病変の診断もまた容易ではありません．そこで本書は，タイトルを“口腔癌の早期診断アトラス”とし，一般歯科医が日常診療において口腔癌あるいは口腔癌が疑わしい病態を発見するための一助となるようにと意図して作成しました．同時に，口腔癌治療を目指す若き口腔外科医のための入門書にもなるようにと配慮しました．
本書の構成は，概説は少なくし，症例の呈示を中心にしました．症例については，最初に典型的な口腔扁平上皮癌の病態を呈示し，次いで，その他の癌，早期癌，前癌病変，並びに鑑別すべき疾患という順序としました．さらに，歯原性腫瘍，唾液腺腫瘍，肉腫，悪性黒色腫なども掲載しました．これによって臨床医あるいは初学者が感覚的に病態を把握することができるものと期待しています．
実は，本書は10年以上前に，口腔癌診断のための専門書として企画されました．しかし，製作の過程で，著者の一人の他界や医歯薬出版編集担当者の長期入院などという事態に遭遇し，製作の中断を余儀なくされました．それでもまだ，本書の必要性は高いものと考えて，新たな著者も加えて編集，製作を再開しました．見直しに当たっては製作開始当時の資料をなるべく使いながら，新たな資料を加えて日進月歩の今日の歯科医療に適応するように改変しました．本書の内容については，まだ，不足不備もありますが，口腔癌，前癌病変の診断のための参考書としては十分にその役を果たせるものと考えて，この度，発刊することと致しました．
本書が一般歯科医や若い口腔外科医にとって，口腔癌の早期診断あるいは前癌病変の発見の一助となれば幸いです．また，それに伴って口腔癌の治療成績が少しでも向上し，医療の向上に貢献することができるならば，著者等の望外の喜びです．
最後に，長年にわたり本書の発行を見捨てなかった医歯薬出版株式会社と，終始，協力を惜しまなかった同社，牧野和彦氏ならびに大城惟克氏に心から感謝申し上げます．
2007年12月
著者一同
はじめに
I．口腔悪性腫瘍・前癌病変の概説
1．口腔悪性腫瘍
1）総論
2）扁平上皮癌の臨床像と特徴
(1)部位別頻度 (2)性・年齢 (3)臨床分類 (4)症状
3）画像診断
(1)単純X線写真 (2)パノラマX線写真 (3)CT写真 (4)エコー像 (5)MRI (6)RI検査法 (7)PET
4）臨症診断の手順
(1)問診の要点 (2)現症のとり方
5）TNM悪性腫瘍の分類
(1)口唇および口腔に関する分類 (2)唾液腺に関する分類
6）扁平上皮癌の病理
(1)上皮内癌 (2)早期（浸潤）癌 (3)扁平上皮癌（進行癌）
2．前癌病変
1）前癌病変の定義
2）白板症
(1)定義 (2)性，年齢 (3)部位別頻度 (4)臨床像・臨床分類 (5)前癌病変の病理組織学的分類 (6)白板症における上皮性異形成 (7)白板症の悪性化
3）紅板症
(1)定義 (2)性，年齢 (3)部位別頻度 (4)症状 (5)臨床像 (6)病理組織学的所見 (7)治療法・悪性化 (8)病因
4）白板症・紅板症と鑑別を要する疾患
(1)扁平苔癬 (2)乳頭腫 (3)疣贅性黄色腫 (4)褥瘡性潰瘍 (5)口腔カンジダ症 (6)初期の扁平上皮癌
5）前癌状態
(1)梅毒性舌炎 (2)鉄欠乏性嚥下障害 (3)口腔粘膜下線維症
II．症例編
【扁平上皮癌】
定型例
下顎歯肉癌（下顎歯肉〜頬粘膜癌）・乳頭型 頬粘膜癌・乳頭型 下顎歯肉癌・肉芽型,28 舌癌・白板型 舌癌・潰瘍型 口底癌・潰瘍型 頬粘膜癌・潰瘍型 舌癌・膨隆型 下顎歯肉癌（圧迫型X線吸収像） 下顎歯肉癌（浸潤型X線吸収像）
非定型例
舌癌・肉芽型 上顎歯肉癌・肉芽型
口唇
口唇癌・潰瘍型
軟口蓋
口蓋癌・肉芽型,52
上顎洞
顎洞癌,56
上皮内癌
紅斑型〔上皮内癌〕,60 白斑型〔上皮内癌〕 混在型〔上皮内癌〕
早期浸潤癌
乳頭型〔口底早期浸潤癌〕 白斑型〔舌早期浸潤癌〕,68 白斑型〔舌口底早期浸潤癌〕 紅斑型〔舌早期浸潤癌〕 白斑紅斑混在型〔舌早期浸潤癌〕,74,75 白斑紅斑混在型〔上顎歯肉早期浸潤癌〕 顆粒型〔上顎歯肉早期浸潤癌〕 潰瘍型〔舌早期浸潤癌〕
疣贅性癌
舌疣贅性癌 頬粘膜上顎疣贅性癌 頬粘膜疣贅性癌
歯肉
上顎歯肉・扁平上皮癌（疣贅性癌から）
舌
舌扁平上皮癌（疣贅性癌から）
【前癌病変】
白板症
白斑型〔舌下面部白板症〕 紅斑混在型〔頬粘膜白板症〕 紅斑混在型〔舌白板症〕 丘型〔白板症〕 疣型〔頬粘膜白板症〕 白板症の悪性化
紅板症
頬粘膜上顎硬口蓋紅板症 舌紅板症
【歯原性腫瘍】
顎骨中心性癌 エナメル上皮腫（充実性） エナメル上皮腫（嚢胞性）
【癌および前癌病変との鑑別を要する疾患】
扁平苔癬
頬粘膜扁平苔癬 舌・頬粘膜扁平苔癬
乳頭腫
舌乳頭腫 下顎歯肉乳頭腫 口蓋乳頭腫
乳頭状過形成
乳頭状過形成（頬粘膜）
疣贅性過形成
疣贅性過形成（舌）
外傷性潰瘍
舌縁部外傷性潰瘍
褥瘡性潰瘍
褥瘡性潰瘍
疣贅性黄色腫
上顎疣贅性黄色腫 下顎疣贅性黄色腫
線維腫および義歯性線維腫
義歯性線維腫（下顎）
放射線性骨髄炎
放射線性骨髄炎
葉状乳頭肥大
葉状乳頭肥大（舌扁桃過形成）
結核
結核性潰瘍
梅毒
梅毒性口唇炎
妊娠性歯肉肥大
上顎歯肉妊娠性エプーリス
【唾液腺悪性腫瘍】
腺房細胞癌
頬粘膜腺房細胞癌
粘表皮癌
口蓋粘表皮癌
腺様嚢胞癌
頬粘膜腺様嚢胞癌 口底腺様嚢胞癌
乳頭状嚢腺癌
舌下部乳頭状嚢腺癌（嚢胞腺癌）
【唾液腺悪性腫瘍との鑑別を要する疾患】
壊死性唾液腺化生
口蓋壊死性唾液腺化生
【唾液腺良性腫瘍】
基底細胞腺腫
耳下腺基底細胞腺腫
【肉腫】
悪性線維性組織球腫
上顎悪性線維性組織球腫（MFH）
骨肉腫
下顎骨肉腫
軟骨肉腫
下顎軟骨肉腫
【肉腫との鑑別を要する疾患】
セメント質骨形成線維腫
下顎セメント質骨形成線維腫
【悪性黒色腫】
上顎悪性黒色腫 口蓋悪性黒色腫 上顎無色素性悪性黒色腫
【悪性黒色腫との鑑別を要する疾患】
色素性母斑
【転移性癌】
転移性口腔癌
索引
I．口腔悪性腫瘍・前癌病変の概説
1．口腔悪性腫瘍
1）総論
2）扁平上皮癌の臨床像と特徴
(1)部位別頻度 (2)性・年齢 (3)臨床分類 (4)症状
3）画像診断
(1)単純X線写真 (2)パノラマX線写真 (3)CT写真 (4)エコー像 (5)MRI (6)RI検査法 (7)PET
4）臨症診断の手順
(1)問診の要点 (2)現症のとり方
5）TNM悪性腫瘍の分類
(1)口唇および口腔に関する分類 (2)唾液腺に関する分類
6）扁平上皮癌の病理
(1)上皮内癌 (2)早期（浸潤）癌 (3)扁平上皮癌（進行癌）
2．前癌病変
1）前癌病変の定義
2）白板症
(1)定義 (2)性，年齢 (3)部位別頻度 (4)臨床像・臨床分類 (5)前癌病変の病理組織学的分類 (6)白板症における上皮性異形成 (7)白板症の悪性化
3）紅板症
(1)定義 (2)性，年齢 (3)部位別頻度 (4)症状 (5)臨床像 (6)病理組織学的所見 (7)治療法・悪性化 (8)病因
4）白板症・紅板症と鑑別を要する疾患
(1)扁平苔癬 (2)乳頭腫 (3)疣贅性黄色腫 (4)褥瘡性潰瘍 (5)口腔カンジダ症 (6)初期の扁平上皮癌
5）前癌状態
(1)梅毒性舌炎 (2)鉄欠乏性嚥下障害 (3)口腔粘膜下線維症
II．症例編
【扁平上皮癌】
定型例
下顎歯肉癌（下顎歯肉〜頬粘膜癌）・乳頭型 頬粘膜癌・乳頭型 下顎歯肉癌・肉芽型,28 舌癌・白板型 舌癌・潰瘍型 口底癌・潰瘍型 頬粘膜癌・潰瘍型 舌癌・膨隆型 下顎歯肉癌（圧迫型X線吸収像） 下顎歯肉癌（浸潤型X線吸収像）
非定型例
舌癌・肉芽型 上顎歯肉癌・肉芽型
口唇
口唇癌・潰瘍型
軟口蓋
口蓋癌・肉芽型,52
上顎洞
顎洞癌,56
上皮内癌
紅斑型〔上皮内癌〕,60 白斑型〔上皮内癌〕 混在型〔上皮内癌〕
早期浸潤癌
乳頭型〔口底早期浸潤癌〕 白斑型〔舌早期浸潤癌〕,68 白斑型〔舌口底早期浸潤癌〕 紅斑型〔舌早期浸潤癌〕 白斑紅斑混在型〔舌早期浸潤癌〕,74,75 白斑紅斑混在型〔上顎歯肉早期浸潤癌〕 顆粒型〔上顎歯肉早期浸潤癌〕 潰瘍型〔舌早期浸潤癌〕
疣贅性癌
舌疣贅性癌 頬粘膜上顎疣贅性癌 頬粘膜疣贅性癌
歯肉
上顎歯肉・扁平上皮癌（疣贅性癌から）
舌
舌扁平上皮癌（疣贅性癌から）
【前癌病変】
白板症
白斑型〔舌下面部白板症〕 紅斑混在型〔頬粘膜白板症〕 紅斑混在型〔舌白板症〕 丘型〔白板症〕 疣型〔頬粘膜白板症〕 白板症の悪性化
紅板症
頬粘膜上顎硬口蓋紅板症 舌紅板症
【歯原性腫瘍】
顎骨中心性癌 エナメル上皮腫（充実性） エナメル上皮腫（嚢胞性）
【癌および前癌病変との鑑別を要する疾患】
扁平苔癬
頬粘膜扁平苔癬 舌・頬粘膜扁平苔癬
乳頭腫
舌乳頭腫 下顎歯肉乳頭腫 口蓋乳頭腫
乳頭状過形成
乳頭状過形成（頬粘膜）
疣贅性過形成
疣贅性過形成（舌）
外傷性潰瘍
舌縁部外傷性潰瘍
褥瘡性潰瘍
褥瘡性潰瘍
疣贅性黄色腫
上顎疣贅性黄色腫 下顎疣贅性黄色腫
線維腫および義歯性線維腫
義歯性線維腫（下顎）
放射線性骨髄炎
放射線性骨髄炎
葉状乳頭肥大
葉状乳頭肥大（舌扁桃過形成）
結核
結核性潰瘍
梅毒
梅毒性口唇炎
妊娠性歯肉肥大
上顎歯肉妊娠性エプーリス
【唾液腺悪性腫瘍】
腺房細胞癌
頬粘膜腺房細胞癌
粘表皮癌
口蓋粘表皮癌
腺様嚢胞癌
頬粘膜腺様嚢胞癌 口底腺様嚢胞癌
乳頭状嚢腺癌
舌下部乳頭状嚢腺癌（嚢胞腺癌）
【唾液腺悪性腫瘍との鑑別を要する疾患】
壊死性唾液腺化生
口蓋壊死性唾液腺化生
【唾液腺良性腫瘍】
基底細胞腺腫
耳下腺基底細胞腺腫
【肉腫】
悪性線維性組織球腫
上顎悪性線維性組織球腫（MFH）
骨肉腫
下顎骨肉腫
軟骨肉腫
下顎軟骨肉腫
【肉腫との鑑別を要する疾患】
セメント質骨形成線維腫
下顎セメント質骨形成線維腫
【悪性黒色腫】
上顎悪性黒色腫 口蓋悪性黒色腫 上顎無色素性悪性黒色腫
【悪性黒色腫との鑑別を要する疾患】
色素性母斑
【転移性癌】
転移性口腔癌
索引
