やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 「リハビリメイク」という言葉から,どのようなことをイメージされるでしょうか.
 「リハビリテーション:Rehabilitation」というと,医学的なリハビリテーション,すなわち機能回復や残存・潜在機能の増進のための身体的な訓練を思い浮かべる方も多いかと思います.もちろんそれは,患者さんにとってとても大切なプロセスですが,ご承知のとおりリハビリテーションという言葉は,機能訓練のみならずもっと広い意味をもった言葉です.特に,全人的な復権の一環として,一度失われたその人の生活や環境をもとの状態に戻すといった,社会的な意味でのリハビリテーションはたいへん重要で,これがなければ,いかに身体機能のみが回復しても患者さんの真の社会復帰は不可能といってもよいでしょう.
 では,その「リハビリ」に「メイク」がどのようにかかわるのでしょうか.
 実は私自身,幼少時から心臓の病気のために顔が赤くなる症状があり,それがいやで人前に出たくないといつも思い悩んでいました.そこで,なんとか顔の赤みを隠したい,でも隠していることを気づかれたくない,厚化粧と思われたくない,と一生懸命自分でメイクの工夫をするようになりました.そして私は,メイクをすることで元気になり,社会に出ていけるようになったのです.つまりメイクにリハビリテーションと同様の効用があったのです.この経験を通じて,私は「顔」と「心」はつながっているという想いを強くしました.
 考えてみれば,熱傷,あざ,頭頸部の癌や口唇裂口蓋裂の手術跡など,顔や外観に関する悩みについては,従来の「医療」の力が及ばない部分もあり,そのために社会に出ていけず苦しんでいる人が大勢います.私自身の「メイクによって元気になる」経験をそういった人たちの社会復帰のために役立てたい,「顔」にかかわることによって「心」も元気になっていただきたい,そんな想いから,顔の悩みをメイクでカバーしながら患者さんの社会復帰の手助けをする「リハビリメイク」が生まれました.現在,多くの医療機関と連携しながら,「リハビリメイク」で患者さんが笑顔の輝きを取り戻すためのサポート活動をしています.
 この本は,その「リハビリメイク」を解説したデンタル・メディカルスタッフのための入門書です.患者さんの疾患を医療行為で治すことと並行して,QOL向上の一手段として「リハビリメイク」で患者さんを元気にしてあげたい,といった考えをもってくださる方のために編集されました.本書を患者さんの「顔」と「心」の悩みを解決するための一助としていただければ幸いです.
 2004年10月
 編者代表 かづきれいこ
デンタル・メディカルスタッフのためのリハビリメイク入門 CONTENTS

はじめに(かづきれいこ)
第1章 リハビリメイクって何?
 ・リハビリメイクは自分の顔を受け入れ社会復帰するためのサポート(かづきれいこ)
  QOLを高めるメイク
  「隠す」メイクから「受け入れる」メイクへ
  メンタル面へも同時にアプローチ
  美のゴールを意識した医療の必要性
  外観に携わるなら心にもかかわらなくてはいけない
  歯科医療との関連性と今後の可能性
  おわりに
 ・対談:デンタル・メディカルスタッフにもぜひリハビリメイクを!(かづきれいこ・土屋和子)
  リハビリメイクは患者さんのQOLを上げる
  多様な「美」の価値観をもった患者さんに対応する
  傷を受け入れ,元気に社会復帰させることがリハビリメイクの目標
  周りの人をメイクで元気にすることもできる
  解剖学的にも理にかなった血流マッサージ
  医療にとって「美」は絶対よいこと
  医療とメイクの垣根を越えた活動を
第2章 やってみよう!リハビリメイク(メイクプロセス監修:かづきれいこ)
 <基礎編>
 ・リハビリメイクの基本
  リハビリメイクの考え方
  心も体も元気になるメイク
  個人個人にあわせたメイク
  「顔」のとらえ方・考え方
 ・血流マッサージの考え方
 ・血流マッサージの有効性を考える・1.マッサージの解剖学的基礎(田沼久美子)
 ・血流マッサージの有効性を考える・2.血流マッサージの解剖学的根拠(島田和幸)
 ・血流マッサージのステップ
 ・ファンデーションの考え方
  ファンデーションとは
 ・ファンデーションのステップ
  ファンデーションの下準備
  ファンデーションの方向性
  ファンデーションの仕上げ
 ・仕上げのメイクアップ―ファンデーション後のメイクアップでもっといきいきした顔に
  眉メイク
  アイメイク
  チーク
  口紅
  リハビリメイク完成後
 <実践編>
 ・リハビリメイクの実践
 ・口唇裂口蓋裂のリハビリメイク
  メイクのポイント
  患者さんに多い悩み
  リハビリメイクの流れ
  リハビリメイク完成後
 ・口腔癌術後のリハビリメイク
  リハビリメイク前後の比較写真
  メイクのポイント
  リハビリメイクの流れ
  口腔・顎・顔面領域の癌治療におけるリハビリメイクの可能性とは
 ・下顎前突を目立たなくするリハビリメイク
  リハビリメイク前後の比較写真
  メイクのポイント
  男性にも試してほしいメイクのポイント
  メイクの流れ
 ・審美的な歯科処置後に応用できるメイク―白くした歯をより美しく魅せるために
  審美に対応した歯科治療
  審美的な歯科処置後のメイクアップ(1)
  審美的な歯科処置後のメイクアップ(2)
第3章 臨床現場におけるリハビリメイクの実践
 ・歯科治療とリハビリメイク―患者さんの問題解決のために―(田上順次)

  歯科医療への期待
  歯科医療の実態
  患者さんの問題解決型の歯科医療を―リハビリメイクの効用―
 ・医療の一部となりうるリハビリメイク―口唇裂口蓋裂の患者さんの社会復帰の観点から―(寺田員人・花田晃治)
  口唇裂口蓋裂の治療と支援態勢
  リハビリメイクの位置づけ
  症例
  患者さんへのアンケートの結果
  まとめ
 ・口唇裂口蓋裂の患者さんが自信に満ちた顔を獲得することを支援するリハビリメイク(古郷幹彦)
  口唇裂口蓋裂とその治療
  口唇裂口蓋裂による障害・問題
  口唇裂口蓋裂に対する手術
  審美的な問題への対応
  形態に対する周囲の人の評価と患者さんの主観
  リハビリメイクの実際と評価
  口唇裂口蓋裂とリハビリメイク
 ・看護からみたリハビリメイク(西尾善子)
 ・口腔癌の患者さんとリハビリメイク(鈴木宗一)
  はじめに
  口腔癌とは
  口腔癌とリハビリメイク
  まとめ
 ・口腔癌の患者さんに対する術後ケアとしてのリハビリメイク(西脇恵子・菊谷 武)
  はじめに
  外見の変化は障害であるか
  リハビリメイクの実際
  おわりに
 ・醜形恐怖とリハビリメイク(加茂登志子)
  身体像(ボディイメージ)の基本的な理解
  ボディイメージ障害が問題となる精神医学的疾患
  醜形恐怖とリハビリメイク
 索引
 主な連絡先一覧