やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

はじめに
 医療の質が問われ,医療を受ける者の権利も確立しつつある今,医療を受ける側へどのような医療がなされるのか,その情報をわかりやすく提供するために,クリニカルパス(以下パス)が,考案され,臨床の場で,幅広く使用されています.
 このパスは,治療や看護の手順の標準化,診療の効率化や均質化,無駄を省く手法として,医療チームで使用され,また,入院あるいは外来診療が,どのように進められていくか,図式化された診療計画・指導計画として患者(家族を含む)さんへの説明に使用されています.
 経済情勢が緊縮化し,医療に使用される財源が大きく押さえ込まれている環境のなかで,患者さん中心の納得と理解が得られる医療の推進と経済効率を考えた医療へと,大きく政策転換が行われ,入院診療計画説明に対する診療報酬(減算)や包括評価導入による治療の標準化,インフォームド・コンセントの推進,医療安全対策としてのパスの推進が図られています.
 この流れのなかで,歯科領域をみてみると,一般的な外来歯科診療は,個々の歯科医師と患者の間で治療が完結してしまうことが多く,他職種を交えて1人の患者の治療を行うチーム(歯科)医療の機会が少ないため,パスの必要性が生じてこない状況です.
 しかし,病院歯科の機能から,歯科口腔領域についてみると,歯科口腔外科はじめ,パスが必要な事例は数多く存在しており,その対応が,一般医療の分野と比べるとかなり遅きに失している感も否めません.
 パスは,自己管理内容や必要事項などが項目ごとに時系列でまとめられているので,歯科診療においても治療の全体像や日々の目標がイメージしやすく関連性がわかりやすいこと,予測や再確認ができるため不安や緊張の緩和にもつながること,チェックシートとしても利用できるなど,歯科領域でもさまざまな使用ができるものと確信しています.
 本書では,ほぼすべての歯科口腔領域の患者用パスをはじめて体系化してみました.
 歯科大学の病院ばかりでなく,一般の病院歯科や歯科医院でも応用できるような内容にすべく,実際に運用している施設から事例を提供していただきました.
 歯科領域のパスは,まだ,開発の緒についたばかりですが,本書の刊行が契機となり,大きく飛躍していくことを,期待したいと思います.
 2004年9月
 編 者
歯科口腔領域のクリニカルパス 目次

PART 1.歯科口腔領域における看護
 chapter 1.入院治療と看護の特徴
  (1) 先天異常
  (2) 悪性腫瘍
  (3) 下顎前突症
  (4) 顎骨骨折
 chapter 2.外来治療と看護の特徴
  (1) ライフサイクルからみた口腔内状況と指導ポイント
  (2) 口腔保清
  (3) 保存治療と看護
  (4) 補綴治療と看護
  (5) 口腔外科治療と看護
  (6) 矯正歯科治療と看護
  (7) 小児の歯科治療と看護
  (8) 高齢者の歯科治療と看護
  (9) 基礎疾患を有する患者の歯科治療と看護
 chapter 3.歯科領域に疾患をもつ患者のQOLとセルフケア
  (1) 歯科領域の疾患とQOL
  (2) QOLの定義と評価
  (3) セルフケア
  (4) ヘルスプロモーション
 chapter 4.患者指導のプロセス
  (1) アセスメント
  (2) 計 画
  (3) 実 施
  (4) 評 価
PART 2.クリニカル(クリティカル)パス概説
 chapter 1.クリティカルパスの背景
  (1) はじめに
  (2) クリティカルパスの誕生・発展の背景
  (3) おわりに
 chapter 2.クリティカルパスとは何かそしてその開発導入に当たってのポイントは
  (1) はじめに
  (2) クリティカルパスの名称
  (3) クリティカルパスの定義
  (4) クリティカルパスの仕様
  (5) クリティカルパスの具体例
  (6) クリティカルパスの開発
  (7) ターゲットとなる疾患・処置
  (8) 開発導入,その後
 chapter 3.クリティカルパスに関連したわが国の事情と今後の課題
  (1) わが国の医療現状に照らして
  (2) クリティカルパス導入が与える可能性
  (3) クリティカルパスを導入することについての今後の課題
  (4) クリティカルパスそのものについての今後の課題
 chapter 4.クリティカルパスと電子化
  (1) はじめに,パスと電子化,アウトカム
  (2) NTT関東病院の電子カルテの上部構造
  (3) パスと診療録,観察,ケア項目の連動
  (4) アウトカムとバリアンスの関連
  (5) パスと看護記録の関連
  (6) 最後に,クリティカルパスと電子化がもたらすもの
PART 3.患者指導用クリニカルパスの実際
 chapter 1.入院手術時の患者指導用クリニカルパス
  (1)A 口唇口蓋裂(口蓋形成,口唇形成)疾患解説
  (1)B 口唇形成手術・口蓋形成術のクリニカルパス
  (2)A 顎裂閉鎖術疾患解説
  (2)B 顎裂閉鎖術のクリニカルパス
  (3)A 顎変形症疾患解説
  (4)A 下顎前突症疾患解説
  (3),(4)B 顎変形症・下顎前突症のクリニカルパス
  (5)A 顎骨骨折疾患解説
  (5)B 顎骨骨折のクリニカルパス
  (6)A 顎口腔領域の腫瘍疾患解説
  (6)B 舌部分切除術のクリニカルパス
  (7)A 顎口腔領域の嚢胞疾患解説
  (7)B 上顎嚢胞の手術のクリニカルパス
 chapter 2.歯科外来治療時の患者指導用クリニカルパス
  (1)A 軟組織の小手術(嚢胞,唾石摘出術)疾患解説
  (1)B 顎骨嚢胞摘出術のクリニカルパス
  (2)A 抜歯(埋伏歯,智歯)疾患解説
  (2)B 下顎埋伏智歯の抜歯のクリニカルパス
  (3)A 歯周外科手術疾患解説
  (3)B 歯周病手術(歯肉弁剥離掻爬手術)のクリニカルパス
  (4)A インプラント術疾患解説
  (4)B インプラント埋入術のクリニカルパス
  (5)A 矯正歯科治療(D.B.S.)疾患解説
  (5)B 矯正歯科治療(D.B.S.)のクリニカルパス
  (6)A 小児歯科の外傷疾患解説
  (6)B 小児歯科の外傷のクリニカルパス
  (7)A 埋伏過剰歯抜歯疾患解説
  (7)B 埋伏過剰歯抜歯のクリニカルパス
 chapter 3.他病棟におけるクリニカルパス
  (1) 糖尿病教育入院
  (2) 慢性硬膜下血腫
  (3) 造血器疾患領域における口腔ケア
  (4) 神経難病
  (5) 心臓カテーテル検査用クリティカルパス
  (6) 高齢者患者用のクリニカルパスの現状と課題
  (7) 訪問看護ステーションにおける口腔ケア
 chapter 4.各地の病院,歯科医院での取り組み
  (1) 伊東歯科医院のクリニカルパス
  (2) 神戸市立西市民病院のクリニカルパス〜多科領域疾患におけるパスへの歯科の介入〜
  (3) 公立学校共済組合近畿中央病院におけるクリティカルパス
  (4) 東京都老人医療センタ-歯科口腔外科における入院下歯科治療に関するクリニカルパス
  (5) 藤沢市民病院における患者指導用クリニカルパスへの取り組み
  (6) 松阪市民病院におけるクリニカルパス
  (7) 独立行政法人国立病院機構栃木病院歯科口腔外科外来におけるクリティカルパスへの取り組み―埋伏歯抜歯のクリティカルパスの作成と評価
PART 4.歯科口腔領域におけるセイフティマネジメントとクリニカルパス
 chapter 1.クリニカルパスで機能するセイフティマネジメントとチーム医療
  (1) はじめに
  (2) 医療安全管理体制とクリニカルパス
  (3) 術後全身管理とクリニカルパス
  (4) 当病棟の概要と当院のクリニカルパスへの取り組み
  (5) 口腔外科領域におけるインシデントレポートとクリニカルパス
  (6) 感染管理とクリニカルパス
  (7) インフォームドコンセントとクリニカルパス
  (8) 今後の課題
 chapter 2.口腔ケアとセイフティマネジメント
  (1) はじめに
  (2) 医療事故と損害賠償
  (3) 口腔ケアに示唆を与える事例
  (4) 口腔ケアのセイフティマネジメント
  (5) 予見される事故の具体例
  (6) クリニカルパスとセイフティマネジメント
  (7) おわりに
 付.クリニカルパスに関する文献・情報へのアプローチ
  (1) クリニカルパスに関する文献
  (2) クリニカルパスの効果に関する文献
  (3) 歯科口腔外科領域のクリニカルパスに関する文献
  (4) クリニカルパスに関する文献紹介
 索引