はじめに
現在の感染予防対策の基本的な考え方は,世界的なヒト免疫不全ウイルス(HIV)の蔓延に端を発した,ユニバーサルプレコーション(スタンダードプレコーション)という概念のもとに行われている.これらを日本語では標準予防策という.歯科医療機関のほとんどが院長である一人の歯科医師と複数のコデンタルスタッフで構成された個人開業歯科医院であり,患者およびコデンタルスタッフを感染から守る歯科医院内の感染予防対策の徹底は,院長のモラルと現場で働く歯科衛生士の判断に頼っている.
歯科医療行為の多くは外科的な治療と位置づけられ,例えば1日30人の患者の治療を行えば,30人の異なった患者の血液や血液を含んだ唾液に曝されることになり,歯科医療従事者の感染リスクは決して低くない.さらに,医療の高度化に伴う易感染性宿主(感染防御機能の低下した患者)の増加や,新興あるいは再興感染症の拡大等から,歯科医院においても十分な感染予防対策をとる必要に迫られている.同時に,患者やコデンタルスタッフの感染予防に対する意識の向上から,患者及びコデンタルスタッフの健康を積極的に守る能力があるかを問われている.一方で,針刺し事故等の対策は,歯科医院レベルだけでは十分にできないので,各地域の歯科医師会等が針刺し事故等の発生後の具体的な対処方法を総合的に立案する必要がある.
ICHG(Infection Control Hospital Group)研究会は院内感染予防対策を勉強する会として出発し,これまでに院内感染予防対策に関連する教本を出版してきた.しかし,歯科医療における感染予防対策をまとめたわかりやすい本がないこと,刻々と変化する感染予防対策の国際標準にそった本がないことから,ICHG研究会がこれまでに出版してきた感染予防対策マニュアルに,歯科医療に特徴的なものを加えて感染予防対策マニュアルの作成を計画した.個人開業の歯科医院で院内感染予防対策の実際の業務を担当しているのは,歯科衛生士である場合が多い.そこで本マニュアルの内容は歯科衛生士にとって基本的な考え方が理解しやすく,実際の業務を遂行するうえでもすぐに役立つ内容とするために,「感染予防対策の基本的な考え方」と「実際の業務」についてまとめている.ICHG研究会のポリシーは,
(1) 患者のためになっている
(2) 医療従事者が保護されている
(3) 環境に配慮されている
(4) 経済的である
ことである.
本マニュアルが歯科医療機関の感染予防対策の向上に少なからず役立ち,高い水準の院内感染予防対策が普及することを期待している.
編者一同
おわりに
近年,医療現場ではユニバーサルプレコーション(標準予防策)の考え方による感染予防対策が実施されているが,歯科領域におけるこの分野の文献,書物などがあまり見当たらず,現場のスタッフの疑問を耳にすることが多々ある.著者らは,歯科領域での滅菌,消毒,洗浄について整理する必要があると考えた.この領域の交差感染を予防するために必要な歯科領域での基本的なことは,広島大学大学院医歯薬学総合研究科先進医療開発科学分野教授 栗原英見先生の協力により,リスクを整理し,対策を考えた.
滅菌,消毒,洗浄が的確に行われるためには,設備の問題(ハード面),経済的問題(消耗品),マニュアルの整備(ソフト面)など多方面の整備が必要である.著者らは,ディスカッションにディスカッションを重ねてまとめたが,新しい知見,情報が入れば本書に追加していく所存である.この書が,多くの歯科医院で役立つことを願っている.
ICHG研究会一同
現在の感染予防対策の基本的な考え方は,世界的なヒト免疫不全ウイルス(HIV)の蔓延に端を発した,ユニバーサルプレコーション(スタンダードプレコーション)という概念のもとに行われている.これらを日本語では標準予防策という.歯科医療機関のほとんどが院長である一人の歯科医師と複数のコデンタルスタッフで構成された個人開業歯科医院であり,患者およびコデンタルスタッフを感染から守る歯科医院内の感染予防対策の徹底は,院長のモラルと現場で働く歯科衛生士の判断に頼っている.
歯科医療行為の多くは外科的な治療と位置づけられ,例えば1日30人の患者の治療を行えば,30人の異なった患者の血液や血液を含んだ唾液に曝されることになり,歯科医療従事者の感染リスクは決して低くない.さらに,医療の高度化に伴う易感染性宿主(感染防御機能の低下した患者)の増加や,新興あるいは再興感染症の拡大等から,歯科医院においても十分な感染予防対策をとる必要に迫られている.同時に,患者やコデンタルスタッフの感染予防に対する意識の向上から,患者及びコデンタルスタッフの健康を積極的に守る能力があるかを問われている.一方で,針刺し事故等の対策は,歯科医院レベルだけでは十分にできないので,各地域の歯科医師会等が針刺し事故等の発生後の具体的な対処方法を総合的に立案する必要がある.
ICHG(Infection Control Hospital Group)研究会は院内感染予防対策を勉強する会として出発し,これまでに院内感染予防対策に関連する教本を出版してきた.しかし,歯科医療における感染予防対策をまとめたわかりやすい本がないこと,刻々と変化する感染予防対策の国際標準にそった本がないことから,ICHG研究会がこれまでに出版してきた感染予防対策マニュアルに,歯科医療に特徴的なものを加えて感染予防対策マニュアルの作成を計画した.個人開業の歯科医院で院内感染予防対策の実際の業務を担当しているのは,歯科衛生士である場合が多い.そこで本マニュアルの内容は歯科衛生士にとって基本的な考え方が理解しやすく,実際の業務を遂行するうえでもすぐに役立つ内容とするために,「感染予防対策の基本的な考え方」と「実際の業務」についてまとめている.ICHG研究会のポリシーは,
(1) 患者のためになっている
(2) 医療従事者が保護されている
(3) 環境に配慮されている
(4) 経済的である
ことである.
本マニュアルが歯科医療機関の感染予防対策の向上に少なからず役立ち,高い水準の院内感染予防対策が普及することを期待している.
編者一同
おわりに
近年,医療現場ではユニバーサルプレコーション(標準予防策)の考え方による感染予防対策が実施されているが,歯科領域におけるこの分野の文献,書物などがあまり見当たらず,現場のスタッフの疑問を耳にすることが多々ある.著者らは,歯科領域での滅菌,消毒,洗浄について整理する必要があると考えた.この領域の交差感染を予防するために必要な歯科領域での基本的なことは,広島大学大学院医歯薬学総合研究科先進医療開発科学分野教授 栗原英見先生の協力により,リスクを整理し,対策を考えた.
滅菌,消毒,洗浄が的確に行われるためには,設備の問題(ハード面),経済的問題(消耗品),マニュアルの整備(ソフト面)など多方面の整備が必要である.著者らは,ディスカッションにディスカッションを重ねてまとめたが,新しい知見,情報が入れば本書に追加していく所存である.この書が,多くの歯科医院で役立つことを願っている.
ICHG研究会一同
1.患者主体の感染予防対策
1 患者への情報提供
2 患者の受け入れ
3 守秘義務
4 感染している歯科医療従事者
2.感染予防対策の基本
1 感染リスクと対策のレベル
2 感染のリンクと感染経路別予防対策
3 ユニバーサルプレコーション(標準予防策)
1.手洗い
1)手洗いの分類
2)手洗いの手順
3)具体的方法
4)手洗い時の注意
5)手洗いに用いる液体石けんと消毒剤
6)手荒れとその対策
2.手袋,マスク,ゴーグルの使用
1)手袋
2)マスク
3)ゴーグル
3.白衣,プラスチックエプロン,靴,頭髪
1)白衣
2)プラスチックエプロン
3)靴
4)頭髪とひげ
4 感染のハイリスク患者と歯科治療
1.糖尿病
2.血液透析
3.高血圧症
4.心内膜炎
5.血液疾患と化学療法
3.歯科診療における感染予防対策の実際
1 歯科診療における感染リスク
1.治療の内容
2.患者の口腔内の状況
3.患者の全身的な条件
2 歯科診療室における感染予防対策
1.実際の手順
1)日常的な口腔衛生管理の確立
2)消毒剤による洗口
3)口腔内および患歯の消毒
2.診療補助の役割分担
3.歯科診療室のハードウェア
1)一般的事項
2)手洗い設備
3)チェアーユニット等の大型機器
4)チェアーユニットの水質
5)洗浄・滅菌処理の設備
6)口腔外バキューム
7)医療廃棄物専用ゴミ箱
4.滅菌・消毒・洗浄の基本
1 歯科診療における感染リスク
1.滅菌・消毒・洗浄の定義
2.滅菌の基本的条件
3.滅菌工程のモニタリング
4.滅菌法
1)高圧蒸気滅菌法(オートクレーブ)
2)エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌法
3)低温プラズマ滅菌法
5.温湯・熱湯による消毒法
2 消毒剤使用時の基本と留意点
1.消毒剤の基本
1)消毒の三要素
2)消毒剤使用上の基本原則
3)消毒剤の抗微生物スペクトルと適用範囲
4)消毒剤の使用濃度
2.消毒剤による消毒法
1)アルコール類(消毒用エタノール)
2)次亜塩素酸ナトリウム
3)ポビドンヨード
4)四級アンモニウム塩
5)グルコン酸クロルヘキシジン
3 熱消毒について
4 洗浄の基本
1.使用部署での一次処理
1)消毒が先か洗浄が先か
2)一次処理と最終処理
2.血液・体液が付着した器具・器械の洗浄方法
5.器具・器械の滅菌・消毒・洗浄の実際
1 器具・器械の滅菌・消毒・洗浄の基本
2 器具類の滅菌・消毒処理の実際
各種器械・器具(カラー写真入)
3 印象体の消毒
6.口腔常在細菌叢と口腔ケア
1 常在細菌叢,歯周病原性細菌
1.口腔内の常在細菌叢
2.口腔の環境と細菌の存在様式
3.細菌叢の遷移
4.口腔感染症と原因菌
5.口腔内の日和見感染菌
6.歯科治療とウイルス
2 うがいと口腔内消毒
1.うがい
2.口腔内消毒
7.アメニティと環境整備
1 診療部門の清掃
2 診療環境と患者の安心
8.医療従事者の感染予防対策
1 血液・体液曝露事故対策
1.血液・体液曝露事故の定義
2.血液・体液曝露事故防止対策の基本
3.血液・体液曝露事故後の対応
4.針刺し事故防止対策
2 針刺し事故による健康被害
1.針刺し事故によって健康被害を生じる病原体
3 針刺し切創事故発生後の管理
1.事故直後の処置
2.記録の作成・報告
3.フォローアップ計画
4 歯科医療従事者の健康管理
1.「うつさない・うつされない」歯科医療従事者の院内感染予防対策
2.「感染の可能性がある」医療従事者の院内感染対策
3.危険を防止するための措置
9.廃棄物の処理
1 医療廃棄物の感染性と非感染性
2 感染性廃棄物の処理
参考:一般医療機関における疾患別感染予防対策と消毒
1)MRSA感染症
2)結核
3)クロイツフェルト・ヤコブ病
4)HBV感染症,HCV感染症,HIV感染症
コラム
感染症新法と歯科医療
空気感染と飛沫感染
目視できる血液の混入した唾液
ユニバーサルプレコーションにおける血液,体液,排泄物等取扱いのポイント
速乾性すり込み式手指消毒剤
手袋を外したあとに手を洗う理由
手袋とパソコン
マスクの選び方,つけ方
歯科と心内膜炎
唾液流量と薬剤
口腔内管理と肺炎
医療に供される水の種類
ウォッシャーディスインフェクター・食器洗い乾燥機
生物学的モニタリング
消毒剤の濃度表示について
ホルマリンガスは消毒には使用しない
グルタラール・過酢酸・フタラール
医薬iとは
在宅歯科医療
針刺し事故と組織的対応
おわりに/著者一覧/索引
本文イラスト/伊勢崎市民病院看護部 後藤 恵
1 患者への情報提供
2 患者の受け入れ
3 守秘義務
4 感染している歯科医療従事者
2.感染予防対策の基本
1 感染リスクと対策のレベル
2 感染のリンクと感染経路別予防対策
3 ユニバーサルプレコーション(標準予防策)
1.手洗い
1)手洗いの分類
2)手洗いの手順
3)具体的方法
4)手洗い時の注意
5)手洗いに用いる液体石けんと消毒剤
6)手荒れとその対策
2.手袋,マスク,ゴーグルの使用
1)手袋
2)マスク
3)ゴーグル
3.白衣,プラスチックエプロン,靴,頭髪
1)白衣
2)プラスチックエプロン
3)靴
4)頭髪とひげ
4 感染のハイリスク患者と歯科治療
1.糖尿病
2.血液透析
3.高血圧症
4.心内膜炎
5.血液疾患と化学療法
3.歯科診療における感染予防対策の実際
1 歯科診療における感染リスク
1.治療の内容
2.患者の口腔内の状況
3.患者の全身的な条件
2 歯科診療室における感染予防対策
1.実際の手順
1)日常的な口腔衛生管理の確立
2)消毒剤による洗口
3)口腔内および患歯の消毒
2.診療補助の役割分担
3.歯科診療室のハードウェア
1)一般的事項
2)手洗い設備
3)チェアーユニット等の大型機器
4)チェアーユニットの水質
5)洗浄・滅菌処理の設備
6)口腔外バキューム
7)医療廃棄物専用ゴミ箱
4.滅菌・消毒・洗浄の基本
1 歯科診療における感染リスク
1.滅菌・消毒・洗浄の定義
2.滅菌の基本的条件
3.滅菌工程のモニタリング
4.滅菌法
1)高圧蒸気滅菌法(オートクレーブ)
2)エチレンオキサイドガス(EOG)滅菌法
3)低温プラズマ滅菌法
5.温湯・熱湯による消毒法
2 消毒剤使用時の基本と留意点
1.消毒剤の基本
1)消毒の三要素
2)消毒剤使用上の基本原則
3)消毒剤の抗微生物スペクトルと適用範囲
4)消毒剤の使用濃度
2.消毒剤による消毒法
1)アルコール類(消毒用エタノール)
2)次亜塩素酸ナトリウム
3)ポビドンヨード
4)四級アンモニウム塩
5)グルコン酸クロルヘキシジン
3 熱消毒について
4 洗浄の基本
1.使用部署での一次処理
1)消毒が先か洗浄が先か
2)一次処理と最終処理
2.血液・体液が付着した器具・器械の洗浄方法
5.器具・器械の滅菌・消毒・洗浄の実際
1 器具・器械の滅菌・消毒・洗浄の基本
2 器具類の滅菌・消毒処理の実際
各種器械・器具(カラー写真入)
3 印象体の消毒
6.口腔常在細菌叢と口腔ケア
1 常在細菌叢,歯周病原性細菌
1.口腔内の常在細菌叢
2.口腔の環境と細菌の存在様式
3.細菌叢の遷移
4.口腔感染症と原因菌
5.口腔内の日和見感染菌
6.歯科治療とウイルス
2 うがいと口腔内消毒
1.うがい
2.口腔内消毒
7.アメニティと環境整備
1 診療部門の清掃
2 診療環境と患者の安心
8.医療従事者の感染予防対策
1 血液・体液曝露事故対策
1.血液・体液曝露事故の定義
2.血液・体液曝露事故防止対策の基本
3.血液・体液曝露事故後の対応
4.針刺し事故防止対策
2 針刺し事故による健康被害
1.針刺し事故によって健康被害を生じる病原体
3 針刺し切創事故発生後の管理
1.事故直後の処置
2.記録の作成・報告
3.フォローアップ計画
4 歯科医療従事者の健康管理
1.「うつさない・うつされない」歯科医療従事者の院内感染予防対策
2.「感染の可能性がある」医療従事者の院内感染対策
3.危険を防止するための措置
9.廃棄物の処理
1 医療廃棄物の感染性と非感染性
2 感染性廃棄物の処理
参考:一般医療機関における疾患別感染予防対策と消毒
1)MRSA感染症
2)結核
3)クロイツフェルト・ヤコブ病
4)HBV感染症,HCV感染症,HIV感染症
コラム
感染症新法と歯科医療
空気感染と飛沫感染
目視できる血液の混入した唾液
ユニバーサルプレコーションにおける血液,体液,排泄物等取扱いのポイント
速乾性すり込み式手指消毒剤
手袋を外したあとに手を洗う理由
手袋とパソコン
マスクの選び方,つけ方
歯科と心内膜炎
唾液流量と薬剤
口腔内管理と肺炎
医療に供される水の種類
ウォッシャーディスインフェクター・食器洗い乾燥機
生物学的モニタリング
消毒剤の濃度表示について
ホルマリンガスは消毒には使用しない
グルタラール・過酢酸・フタラール
医薬iとは
在宅歯科医療
針刺し事故と組織的対応
おわりに/著者一覧/索引
本文イラスト/伊勢崎市民病院看護部 後藤 恵