やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

序文

 近年のわが国は,少子高齢化の進展を背景として社会構造全体が大きく変化している.それと同時に,「グローバリゼーション」や「IT革命」に代表されるように,その社会構造を取り巻く環境に対しても新たな思考過程が必要な時代になってきている.
 学校歯科保健活動においても,かつては,子どもたちの膨大なう蝕疾患量を背景に,早期発見・早期治療を目途とした学校での健康診断や「むし歯半減運動」あるいは「むし歯予防推進指定校」といった疾病発見と治療による健康回復を主眼として活動を実践してきた.
 しかし,学校歯科保健のこのような諸活動を通じて,歯や口腔という題材が,子どもたちにとってきわめて理解しにくい「健康」という抽象的概念を具体的に理解する恰好の題材であることが明らかになってきた.ときに,時代は疾病指向から健康志向へと変化し,ここに,子どもたちが自分自身による自律的な健康つくりの態度や習慣を培うことを目途としての活動に変化してきたのである.
 歯や口腔を通じて子どもたちの健康理解が深まるということを見い出したのは,学校歯科保健活動を支えてきた学校歯科医をはじめとする学校歯科保健関係者の熱意ある活動の結果であり,慧眼であった.
 学校歯科保健活動に熱心な学校には,心身ともに健康な子どもたちが育っているという指摘を,われわれは大切にしなければならないし,その教育的価値を学問あるいは科学的体系化をもって整備する必要がある.
 このことが,今の時代に学校歯科保健にかかわっている関係者が後世に残すべき最大の課題なのではないかと推察する.
 本年は,日本の学校歯科医制度70周年,そして日本学校歯科医会法人設立30周年となる記念すべき年である.
 本書は,上記のような趣意をもって,21世紀の新しい幕開けに,学校歯科保健活動にかかわってきた専門家の英知を体系化しようと欲するものである.
 最後に,本書の発刊にご尽力いただいた医歯薬出版(株)の辻 寿氏にお礼を申しあげます.
 2001年10月吉日 安井利一・西連寺愛憲
基礎編
 Chapter 1 総説
  学校保健の概要
    学校保健の目的
    学校保健の法的根拠
    学校保健の方向性
    学校保健としての課題
    学校保健の領域構成
  学校歯科保健概説
    学校歯科前史
    学校歯科医誕生の時代
    学校保健法の成立
    文部省から『小学校 歯の保健指導の手引(改訂版)』
    歯・口の健康診断の改定
  学校教育の課題
    教育改革プログラム
    生きる力の育成
    新しい学習指導要領の主な改善事項と実施
    これからの課題
  児童生徒の健康課題
    児童生徒の体位
    児童生徒の健康状態
    児童生徒の健康課題
 Chapter 2 各論
  学校保健関係法規
    全般
    教育分野
    管理分野
    組織分野
  学校保健安全計画
    学校保健安全計画作成の意義
    「学校保健安全計画」と「学校保健計画」
    学校保健計画の内容
    学校保健の展開のための全体計画の流れ
    学校保健計画作成の手順
    学校保健計画作成上の留意点
    歯科保健活動の全体計画例(小学校・中学校)
  学校保健関係者
  学校保健組織
    教職員の保健組織
    児童生徒の保健組織
    学校保健委員会
    地域学校保健委員会
  学校保健教育
   保健教育の目的・手段,歯科保健のかかわり
    保健教育の目的・手段
    歯科保健のかかわり
   保健学習・保健指導と歯科保健活動
    歯科保健の目標と内容を確かめる
    歯の保健指導の全体計画を作成する
    学校歯科保健活動と歯科保健教育
    歯や口の課題や取り組みの特長や課題を捉える
    歯や歯肉の健康指導内容一覧表および系統表を作成する
    歯の健康の保健学習,保健指導の方法-観察と体験を軸に指導方法を工夫-
    指導の実際例
   総合的な学習の時間
    「総合的な学習の時間」のねらいと学習方法
    健康に視点を当てた「総合的な学習の時間」
    「総合的な学習の時間」における歯・口の健康つくり
  学校保健管理
   学校保健管理の目的と手段
    学校における保健管理の目的
    学校における保健管理の手段
   歯と口の健康診断
    現在の学校歯科健康診断の基本的な考え方
    CO・Cの診査
    歯垢,GO・Gの診査
    歯列・咬合・顎関節の診査
   事後措置
    学校保健管理における事後措置の意義
    歯・口腔の健康診断と事後措置
    歯科保健に関する情報収集・分析とフィードバック
  歯と口の健康課題 どのような取り組みがあるか
   う蝕
    疾病予防の視点から
    疾病罹患・有病状況の視点から
    8020の視点から
    課題解決の視点から
    『小学校 歯の保健指導の手引(改訂版)』 の視点から
   歯周病
    歯周病とは
    歯周病の実態
    歯肉炎と歯周炎の原因
    歯肉炎と歯周炎の違い
    歯周病と生活習慣病
    歯周病に対する具体的な方策
   摂食・咀嚼―よりよい口腔の育成を目指して
    幼稚園,小学校低学年(前歯交換と第一大臼歯萌出期)
    小学校中学年,高学年(臼歯交換期)
    中学校・高等学校(永久歯列完成期)
   歯列・咬合・顎関節
    学校歯科健診での歯列・咬合・顎関節診査の意義
    学校歯科健診での(日本学校歯科医会の指導による)歯列・咬合の判定基準
    歯列・咬合のスクリーニング診査の結果と事後措置について
    学校歯科保健における顎関節の異常とは
    学校の健康診断における顎関節の診査法について
    顎関節の診断基準について
    顎関節異常の事後措置について
    学校における具体的な歯列・咬合・顎関節の取り組みについて
    実際の取り組みにおいて留意すべきこと
  保健指導の考え方と実際
   小学校での学校歯科保健指導
    「生きる力」を育む保健指導の組み立て方
    指導の実際……152 評価
   中学校での学校歯科保健指導
    保健指導の組み立て方
    実践例
    評価

応用編
 Chapter 1 各種園・学校での学校歯科保健活動
  幼稚園,保育園での学校歯科保健活動
    活動カリキュラムの紹介
    園児の歯科保健行動の動向について
    活動に関する保護者のアンケートについて
    活動に参加した園教諭の感想について
  小学校での学校歯科保健活動
    歯科保健活動の意義
    歯科保健活動の実践
    歯科保健活動の環境整備
  中学校での学校歯科保健活動
    中学校における歯科保健活動の意義
    中学校における歯科保健活動の実践
    歯科保健の環境整備
  高等学校での学校歯科保健活動
    高等学校における歯科保健活動の意義
    高等学校における歯科保健活動の実践
    歯科保健活動の環境整備
  養護学校での学校歯科保健活動
    歯科保健活動の意義
    歯科保健活動の実践
    歯科保健活動の環境整備
 Chapter 2 学校安全と学校歯科
  学校安全における学校歯科のかかわり
    学校安全の概要
    学校安全と歯科

索引