やさしさと健康の新世紀を開く 医歯薬出版株式会社

「歯科技工学用語集」の発刊に寄せて
 近年,歯科技工分野では,CAD/CAM,インプラントや新規素材に伴う技術発展がめざましく,また,そのフィールドは口腔内にとどまらず関連分野や隣接器官にも及んでいます.
 このような背景を踏まえ,日本歯科技工学会では,今日の歯科技工技術に即し,将来的にも通用する歯科技工学専門の用語集の必要性を感じておりました.
 そこで,2009 年7 月に末瀬一彦副会長を長として「歯科技工学用語集編集委員会」を組織し,「作業部会委員」「執筆協力者」と医歯薬出版株式会社のご協力の下,用語の整理と定義・解説の編纂を進めてまいりました.
 一般社会生活でのコミュニケーションはもとより,論文執筆・発表活動や教育分野等での用語( 言語) の統一は共通認識をもつうえで不可欠であり,とりわけ学術分野での用語の整合性は必須で,それが整備・達成されてこそ専門性も確立されると考えます.その意味でも,本用語集で3,073 語にも及ぶ歯科技工関連用語をまとめ,定義・解説を付けて広く社会に公表できることは望外の喜びといたすところです.リーダーシップを発揮され見事にまとめられた末瀬一彦委員長をはじめ,多大な英知とエネルギーを注いで本用語集の編纂に携わっていただいた委員の先生方とご執筆いただいた方々に敬意を表するとともに心より感謝申し上げます.
 本用語集が時代の変化,技術の向上や新規技術の導入によりさらにバーションアップされていくことを願うとともに,末永く本学会員や皆様方の座右に置かれ,日々の学究や臨床の場でご活用いただいて,広く社会の公益たる1 冊となることを熱望する次第です.
 2011 年9 月
 日本歯科技工学会
 会長 齊木好太郎

序文
 歯科技工の目的は,顎顔面口腔の機能的・形態的回復を行うことにあり,さらに自然感のある審美性が伴われなければなりません.歯科技工学は従来,装置を製作する技術論から論じられ,いわゆる「匠の技」の要素が大きなウェートを占めてきました.しかし,本来は単なる製作方法や手技を解説するだけではなく,歯科医学あるいは工業界に関連する知識と技術をもとに,臨床応用を考究する学問として体系づけられる必要があります.近年,教育制度が充実し,教科内容も「○○技工学」という科目名に体系づけられてきたことにより,歯の解剖学,歯科理工学(材料学),顎口腔機能学などの専門基礎分野から歯冠修復技工学,有床義歯技工学,矯正歯科技工学,小児歯科技工学などの専門分野に至る一連の学問体系が構築され,これに伴って専門用語が重要視されるようになってきました.しかし,これまでの技能偏重から,仲間内あるいは業界内だけで通用する用語がいまなお活用されていることも事実です.歯科医学がグローバルな分野を包括し,他領域との関係が重要視され,科学的根拠に基づく治療が求められる昨今において,国際的にも共通の用語が当然必要であり,コンセンサスが得られなければなりません.
 歯科技工分野においては,故・奥野善彦先生らを中心として執筆責任者,項目執筆者合わせて350 名を超す先人たちの努力の結集である『歯科技工辞典』が1991年に医歯薬出版より発刊されました.収載された7,000 語余りの用語はいずれも精選されたものばかりで,これまで歯科技工士教育の礎ともなってきました.しかし,近年,急速な時代の流れとともに,歯科技工分野においても大きな変革の時代が訪れています.教育や臨床技工の現場においては常に新しい知識と技術が必要であり,比較的短かいサイクルでの改訂作業が求められますが,その意味では『歯科技工辞典』は小回りが利きにくいものです.医歯薬出版でも改訂作業を進めていたようですが,そのような折,日本歯科技工学会でも用語集編纂の話がもち上がり,医歯薬出版の協力のもと作成にとりかかることとなりました.したがって,本用語集ではできるだけ時代の変遷に追随する新しい内容・用語を収載しましたが,その基盤にあるのは,かつてから重宝されてきた『歯科技工辞典』にあります.『歯科技工辞典』の編纂に携ってこられた多くの方々にこの場を借りて謝意を表します.
 さて,本用語集においては,トレンディな用語として「審美修復」「インプラント技工」,「CAD/CAMシステム技工学」などに関わる項目も追記しました.「歯科技工学用語集編集委員会」のメンバーには,歯科技工学に携わる専任教員だけでなく,歯科技工学に最も近接する「歯科補綴学」および「歯科理工学」のオーソリティーにも加わっていただき,高所からご助言をいただきました.『歯科技工辞典』に収載されている用語については,すでに陳旧化したものや学問的に不適切な用語は除外し,最近の歯科技工学に必要と思われる新規用語をできるだけ採用しました.用語の選定作業には多大な労力を要し,選別作業を慎重に行い,最終的に3,073 語に絞り込みました.また用語の解説はできるだけ的を絞って簡潔にまとめることとし,歯科技工学と密接に関わる歯科補綴学ならびに歯科理工学の用語集との整合性をはかりました.
 こうしてできあがった本用語集は,現在の「歯科技工学」を遂行するにおいて大きく貢献できるものと確信します.教育現場におけるバイブルとして,臨床技工現場での知識の糧に,さらには学会発表などにおける用語の使い方に利用していただければ幸甚です.しかし,技術革新によって用語は次々と生まれ,時代の変遷とともに変化していくものですので,学会内において定期的に見直しや改訂作業が行われていくことを望みます.
 本用語集の発刊にあたっては,編集委員およびそれを支えていただいた作業部会委員の先生方の絶大なるご協力を賜りました.ここに感謝申し上げるとともに医歯薬出版の関係者に深甚なる謝意を申し上げます.
 2011 年9 月
 日本歯科技工学会
 用語集編集委員会
  委員長 末瀬 一彦
  委員 大池 洋治
  尾ア 順男
  小田 豊
  桑田 正博
  二川 浩樹
  早川 浩生
  松村 英雄
  (五十音順)